ミラーリングとかの基礎知識(スマホ動画をテレビで見る方法)
第8回
無線ミラーリングも簡単にできる「ワイヤレスHDMI」って知ってる? なぜ今、ニーズが拡大?
2025年9月3日 06:00
PCなどの映像出力を、ディスプレイのHDMI入力に無線通信で伝送できる「ワイヤレスHDMI」。そうしたワイヤレスHDMIの送受信機/アダプターは、実はINTERNET Watchで紹介すると記事が意外によく読まれる製品ジャンルの1つとなっている。今回は、株式会社マトリックスコミュニケーションズとエレコム株式会社に、それぞれが販売するワイヤレスHDMI製品の特徴や、購入にあたって注意すべきポイントなどを取材した。
以下で説明するように主に業務・ビジネス用途が想定された機器ということらしいので、本連載でこれまで紹介してきた、スマホの動画などを大画面テレビに映し出して楽しむような用途での「ミラーリング」とはかなり毛色は異なるかもしれないが、端末の画面を別の画面にそのまま表示する方法の1つということで取り上げたい。
「プレゼン時のプロジェクター投影」でニーズ
営業などのプレゼンテーションで、プロジェクターや大型モニターを使うことがあるだろう。現在は「HDMI」規格のケーブルで接続するのが一般的だと思うが、自分の席まで距離があってケーブルが届かないようなこともある。そこで有効なのがワイヤレスHDMIで、有線と比べてそうした制約が少なくなる。例えば通常のプレゼンテーションは前に出て行うのが一般的だが、自分の席でプレゼンテーションを行ったり、会議を進めながら議事録を書いて投影するという使い方も考えられる。
また、ワイヤレスHDMIは、既設のLANを介さないで送信機と受信機が直接通信する。プレゼンテーションは外部の人が参加することが想定され、外部から持ち込まれたPCなどの端末を自社のLANに接続するためには設定が必要だったり、セキュリティ上、それが好ましくなかったりする。そのため、送信機と受信機が1対1でつながることは大きなメリットだ。
さらに、これまでは主にビジネスの場で使われていたワイヤレスHDMIだが、「GIGAスクール構想」に伴い、教育現場でも採用が広がっているようだ。
今回紹介する2社のワイヤレスHDMI製品が想定している利用シーンは、会議やイベントにて端末の画面を大型モニターやプロジェクターなどに表示することだ。そのため、機能的には似通ったところも多い。
まず、端末の画面と同じものをそのまま複製表示するミラーリングと、端末の画面とは異なる拡張領域を表示する拡張モード(マルチディスプレイ)に対応する点が挙げられる。伝送できる映像はフルHD(1920×1080)/60Hzまで。また、無線通信に5GHz帯を使用しており、利用は屋内に限られる。
USB Type-C接続タイプの送信機は、PCやタブレットなどの端末から電源を供給することで動作する。一方、受信機はHDMI接続のため、別途、電源が必要だ(推奨されるのは5V・1Aのため、例えば大型テレビに接続する場合などは、そのテレビに搭載されているUSBポートから共有することで足りる可能性もある)。
1台の受信機に8台の送信機がペアリングできるマトリックスコミュニケーションズ「Compact Mate 2」
マトリックスコミュニケーションズは、通信技術に関わるソフトウェアの企画・開発・販売を行っている企業だ。現在は「GIGAスクール構想」関連の製品に力を入れており、ワイヤレスHDMIはその製品の1つだという。
同社は現在、送信機がUSB Type-C接続、受信機がHDMI接続の「Compact Mate 2 C1+R1 JP(MCCMT250)」のほか、送信機・受信機がともにHDMI接続の「Compact Mate 2 H1+R1 JP(MCCMT150)」を販売している。いずれの製品も送信機と受信機がセットで販売されており、ペアリング済みのため、購入するとすぐに使える。
両製品とも通信距離は約20mで、接続できる機器としてPC、Blu-rayプレーヤー、DVDプレーヤー、デジタルカメラ、監視カメラなどが挙げられている。
また、以前は送信機と受信機は1対1のペアリングで固定されていたため、複数人がプレゼンテーションを行う際、送信機を受け渡す必要があった。しかし、現在販売されているモデルは、1台の受信機に対して、8台まで送信機がペアリングできる。同時に利用できるのは送信機1台だが、送信機をあらかじめぞれぞれのPCやタブレット端末などに接続して動作確認ができるため、プレゼンテーターが交代する際の送信機の切り替えがスムーズに行える。
USB Type-C接続タイプの送信機が対応するOS・端末は、Windows 11/10、iMac、MacBook、iPad、iPhone 15/16シリーズ、Chromebook、USB Type-Cによる映像出力に対応したAndroid端末だ。
最大30m接続できるエレコム「DH-CW4K110BK」
エレコムは「DH-CW4K110BK」を販売している。送信機と受信機がセットになっていて、ペアリング済み。送信機はPCやタブレット端末などにUSB Type-Cで接続し、受信機は大型モニターやプロジェクターなどにHDMIで接続する。
送信機の対応OSはWindows 11/10、macOS Sequoia 15、iOS 18、iPadOS 18、Android 15。また、USB Type-CポートがDisplayPort Alt Modeに対応している必要がある。送受信機がつながるのは、障害物がない場合は約30mで、伝送遅延は最大200msだ。
「GIGAスクール構想」でワイヤレスHDMI導入事例も
マトリックスコミュニケーションズは、Compact Mate 2の導入事例として、瀬戸内海に面する地域のある学校を紹介している。
学校のネットワークは、教師などの指導者が利用する校務用ネットワークと、授業に使う授業用ネットワークが分離されていて、接続できる端末は異なる。そのため教師は、デスクワークなどで使う校務用ネットワークに接続する端末と、授業中に授業用ネットワークに接続する2台のPCを保有する必要があった。
このような状態の中、教師から授業中に校務用ネットワークから補助教材や動画、図表などを大型モニターに映したいという要望があったという。
さらにGIGAスクールの次の段階では、教師が持つ端末を1台にまとめることが求められている。
この2点を実現させるためにCompact Mate 2が活用できるという。教師は、授業中でも端末を校務用ネットワークに接続して補助教材や動画などをダウンロード。Compact Mate 2によって大型モニターに投影する。
このほかにも、生徒・児童が自分の端末を教室の前に設置されている大型モニターに投影して発表する、テスト中に教師が端末を持ちながら教室を回り進捗を確認するなどいったことにも使われている。
Compact Mate 2は2025年1月現在、約50の大学・高校・中学校・小学校、保育園やこども園に出荷しているという。
また、学校以外では、危険防止のためケーブルを減らしたい建設業、客先のLANに接続しなくてもプレゼンテーションができる商社のほか、病院や旅館・ホテルでは案内モニターなどとして利用されている。
個人での利用例としては、動画配信サービスを大きな画面で楽しむことを挙げている。HDCP1.4に対応しているため、著作権保護コンテンツをスマートフォンなどから大画面テレビや自家用車のモニターに映し出すといった使い方もあるという。
また、マトリックスコミュニケーションズは、Compact Mate 2の通信距離は20m程度であるため、体育館や図書館、保護者との懇談会場での利用も期待できるとしている。
一方、エレコムでは、大学や研究機関、商社での利用を挙げている。いずれも、研究者や営業など外部からの訪問者が既設のLANに接続することなく、大型モニターにPCの画面を投影できるというメリットがあるという。
購入する際の注意点
ワイヤレスHDMI機器を購入するにあたっては注意することがある。
- 端末のUSB Type-Cポートが映像出力に対応しているのか
- 他のワイヤレスHDMIとの互換性
- 到達距離
USB Type-Cポートは、全てが映像出力に対応しているわけではない。USB Type-C接続タイプの送信機を利用するには、端末のUSB Type-CポートがDisplayPort Alt ModeまたはThunderbolt 3/4に対応している必要がある。PCやタブレットのUSB Type-Cポートの仕様について、メーカーのウェブサイトなどでしっかり確認することが必要だ。
送受信機の互換性も考慮する必要がある。ワイヤレスHDMIは、5GHz帯または60GHz帯の無線LANをベースにした技術だ。しかし、映像を伝送する技術は製品により異なるため、同じメーカーの製品でも接続できない可能性がある。買い足す場合は、同じ製品を買うのが確実だ。
送受信機の距離は、用途により異なるだろう。今回紹介したマトリックスコミュニケーションズのCompact Mate 2は20m、エレコムのDH-CW4K110BKは30mだ。また、無線による接続は障害物やノイズにより接続できる距離が短くなる可能性があることにも留意する必要がある。