期待のネット新技術

スマートシティでのWi-Fi HaLow、ある程度見通しがいい環境で2ブロック程度が実用範囲か

Wi-Fi HaLowの現在地(4)

 今回も、WBA(Wireless Broadband Alliance)が公開した「Wi-Fi HaLow for IoT Field Trials Report」の内容を紹介する。前回は7つのフィールドテストのうち「3.Smart Farm」に加え、「4.Smart City」についてもちょっと触れた。今月はそのSmart Cityの続きからである。

建物の影響が大きくなる都市部、実用的な距離は2ブロック程度か?

 先月は信号機の高さのアクセスポイントから、最大で1km程度の到達距離を確認したところまで説明したかと思うが、これはアメリカでの電波規制の範囲内での話であり、欧州やインドなどではもっと厳しい電波出力規制が入る。そこで次にクライアントをM2B7111-EVBに交換(チャネル幅は1MHz)。それに3dBiの(おそらく)ダイポールアンテナを組み合わせて、やはりpingを行いながらカバレージの確認を行った。

 欧州規制(CE規制)およびインドでは、EIRP(Equivalent Isotropic Radiation Power:実効輻射電力)は最大25mW、ないし約14dBmとされている。日本でも920.5~928.1MHz帯は免許不要なのは20mW出力までだから、この欧州より若干厳しい感じと思えばよい。

 さて結果は? というのが図1だ。

図1:今度はAPを、前回とはIrvine Center Driveを挟んで反対側の駐車場に置いた模様。近隣はMCS(Modulation and Coding Scheme) 7(3.34Mbps)が可能だが、Irvine Center DriveとSand Canyon Aveの交差点のあたりだともうMCS 0(150Kbps)までスループットが落ちる

 これを、試しにGoogle Mapと重ね合わせたのが図2だ。

図2:あんまり見やすくならなかったことはご容赦いただきたい

 Irvine Center Drive沿い方向に400m、それと直角方向に200mほどがカバーレンジになっているという結果となった。White Paperでは「広大な駐車場や小売店、ビジネスパークを越え、アクセスポイントから650ft(200m)離れた距離でも維持できることが分かりました」としているが、確かに嘘ではない。

 ただ、MCS 7を維持できるのは200mもなく、Irvine Center Drive沿い方向で140m前後(駐車場の中なのでほぼ見通しできる環境)、Irvine Center Driveと直角方向では80mとかなり狭くなっていることが確認できたともいえる。そもそもどの程度のデータレートを要求するのかという話にも絡んでくるが、1Mbps以上を望むのであれば、せいぜい100m程度の範囲がカバーレンジと考えた方が確実な気がする。

 同じくSmart Cityではあるが、場所をちょっと北東に500mほど移動したところにNewracomのオフィスが存在する。オフィス+駐車場の敷地面積は、長辺が400m・短辺120mといったところ(説明ではそれぞれ1300ft、400ftとなっている)。

 Newracomのオフィス周辺を拡大したGoogle Mapを見ていただくと分かるが、Newracomの入っているビルは3階建て、その隣のビルは4階建てとなっており、間に緑地が挟まっているものの、いろいろ障害物というか背の低い建物があったりする。この背の低い建物のそばにアクセスポイントを配置し、クライアントはスタッフが背負って(図3)、オフィスの敷地を歩き回った。

図3:アンテナ位置は地上高2.5mほどだろうか? これを、例えば1m下げて地上高1.5mだったら、また違う結果になったかもしれない

 この際のHeat Mapが、次の(図4)である。

図4:中央の"N"がアクセスポイントの設置場所。丁度Newracomの入るビルの入り口の脇にベンチと、その上に雨除けが設置されているが、この雨除けの柱にでも設置したのかもしれない

 こちらの結果はSNR(Signal-to-Noise Ratio)であり、一番強いところで35dB、一番低いところでも14dB程度を確保できている。この結果についてWhite Paperでは「これはWi-Fi HaLowが、デッドスポットを気にすることなく、位置追跡や重要なセンサーの監視、スプリンクラーシステムなどの用途に利用できることを示している」とまとめている。

 さらに、そのNewracomのオフィスの周囲2ブロックを車でゆっくり走り回り(図5、6)、同様にHeat Mapを作成したのが、図7~10となる。

図5:後部座席の窓を開けて、そこからクライアントとアンテナを上に突き出している模様。一応風圧で飛ばないようにクライアントは固定しているらしい。説明には地上高2mとあるが、そこまでの高さがあるのだろうか(背の高いSUVでやってるならそんなものかもしれないが)
図6:アクセスポイントは地上2.4mに固定したそうだ
図7:RSSI(Received Signal Strength Indicator) Map。Newracomの敷地内の右上とかも-80dBmの箇所があるのはちょっと意外である。移動すると厳しいということだろうか?
図8:SNR Map。概ねRSSI Mapと同一傾向。

 アクセスポイント・クライアント共にNRC7394Rを利用し、915.5MHzで1MHz幅とし、UDP/TCPのUplink/Downlinkともに6~12秒程度の時間測定を行ったそうだ。この「ゆっくり走り回り」というのがどの位の速度かがちょっと気になるところではあるのだが、まずはHeat Mapを見ていこう。図7がRSSI、図8がSNRとなる。

 RSSIの目安は前回の図8が1つの目安になるかと思うが、-60dBmあれば、一応1Mbps以上での通信には問題ないレベルである。

 ただ、それが確保できるのはアクセスポイントの周囲だけで、隣接ブロックは-70dBm、2ブロック離れると-80dBm程度まで下がる。とはいえ、-80dBmでも通信そのものは維持できている感じだ。図で右下、-80dBmとなっている端はアクセスポイントからおよそ800mほどである。ゆっくりとはいえ、動いている車相手でもちゃんと接続できるというのは優秀かと思う。またSNRの方は、-80dBmのあたりだとSNRが1とか2程度まで落ちてかなり通信は厳しいように見えるが、もう少し近づくとだいぶ改善する。建物の影とかを別にすれば、400m以内だとSNRが10以上は確保できているというあたりか。

図9:UDP Downlink。RSSIが-70dBm台のところは1Mbps未満。-80dBm近いところは0.0Mbpsで、Linkが繋がっているとは言え、通信出来ているとは言えない
図10:UDP Uplink。概ねUplinkと変わらない感じである。厳密に言えば、例えばAspen Medical Productsの入っているビルの角、Downlinkは2MbpsなのにUplinkは0.7Mbpsとかアンマッチなところもあるが、低速とは言え移動中だから、ビルとの関係でDownlinkは影になってなかったのがUplinkでは影になった、という可能性もある。あまり厳密なものではないと考えた方が良い

 図9はUDPのDownlink、図10はUDPのUplinkである(TCPでのデータは示されていない)。やはりと言うべきか、RSSIが-70dBmを下回るとまともに通信できていない感じで、現実問題として通信できるのは400m以内、アクセスポイントを中心に隣接1ブロック以内といった感じである。まぁこれは予想できる範疇である。

 White PaperではSmart Cityの総括として、次の項目を挙げている。

  • 都市環境において、1kmを超えるWi-Fi HaLowの到達距離を実証した
  • 街区、オフィス街、繁華街、道路の一部など、広範囲にわたり、優れた接続ソリューションを実現可能
  • 重要なインフラの監視、機器の位置の追跡、各種スマートシティサービスの提供などに利用可能
  • 複数の低消費電力デバイスを接続し、必要なセル接続数を減らすことで毎月のコストを削減する、セルラー通信の接続アグリゲーターとしても機能できる
  • 複数のAPを使用すれば、複数の街区を広範囲にカバーすることも可能

 以上はいずれもごもっとも、ではあるのだが、現実問題として考えれる通信可能なエリアは2ブロック(アクセスポイントがあるブロックと、その隣接ブロック)が限界という感じで、2ブロックごとにアクセスポイントを置かないとカバレッジに漏れがでそうである。

 また、今回のテストを行った地域を俯瞰するとこんな感じで、そもそも背の高い建物がほとんどないし、建物と建物の間も(日本の感覚的には)かなり距離がある。同じテストを、アメリカならニューヨーク(それもQueens Plaza Stationそばとか)、日本なら渋谷のセンター街とかで行ったら、全然違う結果になりそうな気がする。

2500㎡ほどのフロアに1台のAPで、ほとんどのエリアをカバー可能

 次はSmart Buildingである。今度はカリフォルニア州Irvineにある賃貸ビルがテストに使われた(図11)。

 ビルは3階建てで、構造用鋼鉄の柱と梁で構成され、床は金属製のデッキ上にコンクリートを流し込んで作られている。建物の床面積は約240ft×115ft(73×35m=2555㎡)、各フロアは約12ftの天井高である。各階の構造は後で出てくるが、中央通路の周囲に部屋がある構造で、エレベーターとトイレ、階段は中央コアの近くに配置されている。

 建物の一部のエリアでは、音響効果のある天井タイルが使用されているが、そのほかのエリアでは、天井は上の金属デッキに開放されており、HVACの空気ダクトや空気処理コントローラーがむき出しである(図11)。建物の外装は反射ガラスパネルで構成されており、このガラスパネルは金属ベースの熱遮蔽フィルムが利用されている可能性がある。

図11:最近のアメリカではちょくちょく見る構造のオフィス。天井が4mもあるのか? と一瞬疑問に思うが、この場合の天井高は、空調類の配管のさらに上までを計測している

 この建物には複数のテナントが入居する。テストでは、個々のテナントが自社の賃貸スペースに必要とするサービス、およびビルオーナーが空調、アクセス制御、エネルギーおよび水管理などの管理サービスを模倣する内容で構成されたとする(図12)。

図12:1Fのオフィスで機材のセットアップ中のスナップと思われる

 テストにあたっては、次の3種類の構成が用意された。

  • アクセスポイント:Morse Micro MM6108-EKH01を8MHz Channelで設定/クライアント:同MM6108-EKH01とMM6108-01-CAM(複数台)
  • アクセスポイントとクライアント:どちらもNRCM kit NRCMEVB
  • アクセスポイント:Methods2Business M2B7211-EVK Access Point Evaluation Kit/クライアント:Methods2Business M2B7111-EVK Station Evaluation Kit

 さて、まずはSingle Access Pointでのテストである。1Fのロビー中央にアクセスポイントを設置し、クライアント(図13)を移動させて確認したところ、1~3Fの共用部、および建物外周でのHeat Mapは、図14のようになった。

図13:クライアントはこんな感じで台車に搭載され、移動しながら測定を行った。ちなみにアクセスポイントの高さは不明
図14:UDP uplinkでの比較。1階に関してはほぼ10~20Mbps出ているが、2Fは2~4Mbps、3Fは1Mbpsも厳しい感じ。またコンクリート壁は流石に抜けないようで、建物外周部はドア付近を除くと1Mbps前後でしかない。

 ここではアクセスポイント・クライアント共にMN6108-EKH01を使っている。ちなみに図14のグレーの部分は、ほかのテナントが利用中ということで立ち入りできなかったそうだ。まあ予想通りではあるが、おそらくは階段を経由して、3Fまで何とか電波が届いているのは流石である。

 また、ガラスに配された熱遮蔽フィルムはしっかり電波遮蔽も行っているようで、外部への漏れは非常に少ない。ただこのHeat Mapを見る限り、各フロアに1台ずつアクセスポイントを配すれば全館に対して十分なカバレッジを提供できる可能性がある、としている。これについては、後でマルチアクセスポイントテストで検証を行っている。

 図15は、欧州およびインド向けのテストである。今度はアクセスポイントとクライアントをMethods2Business M2B7211-EVKに切り替え、902.5MHzでチャネル幅1MHz、送信出力は10dBmに抑えている。

 アクセスポイントが配された室内はほとんどがMCS 7(3.34Mbps)を維持しており、廊下がMCS 5(2.67Mbps)、エレベーターホールがMCS 3(1.33Mbps)ということで、何をつなぐか次第ではあるが、とりあえず1Mbpsの帯域は確実に維持できることが分かるる。

 あと、室内がほぼどこでもMCS 7を維持しているのは、コンクリートの壁と熱遮蔽フィルムによって電波が反射されるため、この反射で室内くまなくカバレッジできている、という可能性がある

 といったところで、続きは次回に。

図15:欧州およびインド向けのテストの様子。中央やや右側にアクセスポイント(AP)が配置されており、ほとんどのエリアがMCS 7を維持している
大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/