期待のネット新技術
2500㎡ほどのフロアをWi-Fi HaLow AP1台でカバー、階ごとに1APでビル全体をカバー可能か?
Wi-Fi HaLowの現在地(5)
2025年2月4日 06:00
引き続き、WBA(Wireless Broadband Alliance)が公開した「Wi-Fi HaLow for IoT Field Trials Report」の内容を紹介する。7つのフィールドテストのうち、前回は「5.Smart Office Building」の途中まで紹介した。
2500㎡ほどのフロア全体を問題なくカバー、複数Networkの運用も可能
そして、前回の最後ではMCSの値が示されたが、では実際のThroughputは? というのが、次の図1〜図3となる。利用している機材はMCS Mapと同様にMethods2Business M2B7211-EVKで、帯域は1MHzのままである。
とはいえ分かりにくいので、重ね合わせたのがこちらの図4で、このオフィス内に関して言えば、1~4Mbpsのいずれでも問題ないカバレッジが確保できていることが示されている。
ここであり得るシナリオは、このSmart Office Buildingのテナントの所有者と、そのテナントを借りている入居者が、それぞれ独自にWi-Fi HaLowベースのNetworkを構築するというケースである。1MHz Channelであれば米国なら最大26、オーストラリア/ニュージーランドなら13、欧州で7、日本は5つのWi-Fi HaLow Networkを同時に利用できる計算になるので、干渉を避けてそれぞれ独自に運用することは難しくない、としている。
一部速度が出ない場所もあるが、Multi APで建物全体のカバーが可能に
次がMulti APのテストだ。AP1はそのままに、AP2・AP3を2階と3階に設置し、その際のUDP uplinkのThroughputを示したのが図5〜図7だ。
本当なら2、3階のオフィス内のThroughputも測定できれば完璧だったのだろうが、既にほかの利用者が入居中で叶わなかったのは残念である。さておき、それぞれの図から結果を見ていこう。
図5は前回の図14と同じなので説明は割愛するとして、2階に設置したケース(図6)では、1階と3階にもそれなりに届いている(ただしエレベータホールのそばのみ)ことが分かる。ただ面白いのは同じ2階でも、おそらくService Facility(トイレとか給湯室、その他)を挟んだ、図で言えば一番下の部分は2.3MbpsとかなりThroughputが下がっている。どの程度のThroughputが必要かによって、この数字の評価が変わってくる。White Paperでは、以下の説明の仕方をしている。
- セキュリティカメラや制御用:8MHz Channel
- 静止カメラや重要なインフラの監視用:4MHz Channel
- アクセス制御、HVAC監視、資産追跡、またはそのほかの低データアプリケーション用:1ないし2MHz Channel
2.3Mbpsというのは、おおむね1MHz Channelの帯域に相当するわけで、カメラ接続には(それが動画/静止画を問わず)不向きという見方もできる。
ただ余談だが、筆者宅で外猫シェルター用に運用しているATOM tech Inc.のATOM Cam 2だと、おおむね100kbps程度のスループットでこの程度の映像は取得できる(下の図8)ことを考えると、案外この2.3Mbpsは監視カメラ程度なら必要十分な帯域かもしれない。
話を戻して、図7が3階に設置したケースだが、今度は内廊下の突き当りに設置している。2階と3階ではフロアプランが異なるようで、3階の内廊下全体で20Mbps以上を記録しているほか、2階のAccess Pointの真下でも高いThroughputを記録しているのは、床を貫通しているとしか考えられないのだが、だったら図6で1階のThroughputがもっと高くてもいいような気がする。
あるいは1階の天井と2階の天井では仕上げ方法が異なっているのかもしれないが、残念ながらそれを確認する術はない。ただ重要なのは、こういう具合に3カ所にAccess Pointを設けることで、今回テストした範囲では最低でも2カ所のAccess Pointに接続できることが確認されており、要するにMulti Access Point構成にすることで建物全体のカバレッジが確保できるという話である。
White PaperではSmart Office Building Use Caseについて「ビル内で利用するHVACや電力管理、スマート照明、水道メーターなどに対して優れた接続性を提供できる。また入室センサーやドアロックを利用してのアクセス制御ソリューションに対しても、低コストのインフラとして利用できる。対象の建物は、建物の中心にあるコンクリート製のエレベーターシャフトなどの構造物や、金属およびコンクリート製の床による信号減衰の影響を受けていた。外壁のガラス窓には反射金属膜が使用されており、テスト中に一部の信号は減衰した。このような障害にもかかわらず、1階から3階までのWi-Fi HaLow信号の妥当な浸透が測定され、3つのAPのオーバーレイによって建物全体がカバーされた」と結論付けている。また、建物のそばにある外部設備もWi-Fi Halowで十分カバーできる(図9)としている。
ただ、オフィスビルとして今回の規模はそれほど大きいとは言い難い。前回も書いたが床面積は240ft×115ft、メートル法なら2555㎡ほどである。例えばこの記事を提供しているインプレスが入居している神保町三井ビルディングの場合、敷地面積が8093.26㎡、基準階事務室面積が2352.63㎡である。
要するに、神保町三井ビルディングが提供する1フロアのオフィススペースの面積と、このテストを行った賃貸ビルの床面積がほぼ同じというわけで、日本だとこれは中小のオフィスビル相当である。より大規模オフィスビルでどうか? というのはまた未知数というか、結構厳しい感じがするのは筆者だけだろうか?
敷地面積約2万㎡、干渉源が多い中学校での実用性は?
続いて「6. Smart School Campus」のフィールドテスト。舞台は、カリフォルニア州のTastinという街にあるRed Hill Lutheran church & Schoolという中学校である(図10)。
敷地総面積は350×600ft(100×180m)、約2万230㎡とそれなりに大きい。元々の建物は1961年に建設されたが、最近鉄筋コンクリートの外壁を持つ建物が追加されている。学校は教会棟、CLC(Community Learning Center)棟、中学校棟の3つからなる。
各建物の構造やキャンパスのレイアウトに加え、複数の建物で利用するオーディオ機器が、無線へのかなりの干渉源となっているとのこと。また過去5年間に2回、Security Cameraをアップグレードしており、さらに各教室を適切にカバーするために2.4GHz/5GHzのアクセスポイントが追加されている。また屋内外での職員間の連絡用に、無線トランシーバー(これは独自規格のもの)が利用されているとの話である。
この状況でWi-Fi Halowを利用してHAVC制御を含むビルオートメーション、およびTabletやSmart Boardに代表される新しい教育機器向けの接続が可能か、の検証が行われた。
機器としてはまずAccess PointとしてNewracom NRC7292-EVKが屋外用と教会棟/CLC棟/中学校棟用にそれぞれ1台ずつ設置されたほか、Morse Micro MM6108-EKH01がCLC棟のIndoor Head Map/Outdoor Head Map用にそれぞれ1台用意された。ClientはNewracom NRC7292-EVKとMorse Micro MM6108-EKH01、Methods2Business M2B7111 evaluation kitが混載している(最後に出てくるカメラはMorse Micro MM6108-EKH01で接続されている)。
まずは屋外のHeat Mapの測定(図11)である。結果は図12の通りで、クライアントは敷地内のどの場所でも接続が可能だった。場所によってはMCS 10(150Kbps)まで転送速度が落ちる場合もあったが、接続は維持されたとのことである。ちなみにMCS 7だと3Mbpsの転送なので、落差がちょっと凄い。やはりAccess Pointから中学校棟を挟んだ先にある通路(というか、中学校棟の真裏)は、中学校棟が鉄筋コンクリートということもあって電波が通りにくいのは致し方ない。
次はその中学校棟内部のHeat Mapである。図13がUDPのUpload、図14がUDPのDownloadにおけるThroughputを示したものだ。ちなみに下の横長部分は平屋、そこから┏(横向き、あるいは上下反転したL)字型に伸びている部分は2階建てである。
外部から見る限りでは、平屋の部分は鉄筋コンクリートだが、┏字型の部分は木造に見える。Access Pointは1階に置いた台車の上に設置されているそうだが、Upload/Downloadともにそれなりの性能が出ているのが確認できる。鉄筋コンクリートの建物の中は、(Smart Office Buildingのときがそうだったように)うまく内部で電波が反射することで、建物の端であっても比較的うまく電波が伝播するのかもしれない。
同様に、教会棟内部のHeat Mapが図15・図16だ。教会棟は中央に大きな洗礼堂があるが、それ以外に複数のオフィスと地下室が存在する。また、教会棟内に設置されたWireless AudioがSub GHz帯を利用している関係で、ISM Bandとの干渉があった。ただこれについては最終的に干渉しない周波数帯を見つけることができたとしている。全体的にThroughputは中学校棟よりもやや高めに推移している感じだ。
今回はここまで。次回はSmart School Campusの続きを見ていき、最後のユースケース(Smart Industrial Complex)まで紹介する予定だ。