清水理史の「イニシャルB」

マニアックさを少し削った廉価版 1734Mbps対応の無線LANルーターASUS「RT-AC85U」

 ASUSから最大1734Mbpsに対応した無線LANルーター「RT-AC85U」が発売された。4ストリームMIMOに対応しながらアンテナ内蔵のコンパクトなサイズを実現し、実売で2万円以下とリーズナブルな価格も実現した製品だ。その実力を検証してみた。

ASUSというブランドをどうとらえるか

 「ASUS製品の魅力は?」と問われたとしたら、果たして、あなたは何と答えるだろうか?

 マザーボードやスマートフォンなど、イメージする製品によって異なると思われるが、通信機器を主戦場とする筆者の場合は、やはり「マニアックさ」と答えるに違いない。

 最新の無線LAN規格にいち早く対応する姿勢もそうだが、デュアルWANやトレンドマイクロと提携した悪質サイトブロック機能など、使いきれないほどの機能が搭載されており、ことあるごとに設定画面を開いて「あーだ、こーだ」といじくりまわしたい人にとっては、”今のところ”こんなに魅力的な製品はない。

 しかしながら、今回、ASUSから登場した新型の無線LANルーター「RT-AC85U」は、そんな今までのイメージとは少し違う製品に仕上がっている。

 対応する無線LANの規格は最大1734MbpsのIEEE 802.11ac。同社製品のラインナップには、1024QAM対応で最大2167Mbpsに対応する製品もあるが、MU-MIMOにも対応するwave2世代の4ストリーム対応機ということを考えれば、グループとしてはハイエンド製品に含まれてもいいほどのもの。

 でありながら、価格は1300Mbpsの3ストリームMIMO対応モデルとほとんど差のない2万円ほどに抑えられており、サイズも11n対応モデルかな?と思わせるほどコンパクト、おまけにアンテナまで内蔵されている。

ASUSのRT-AC85U。最大1734Mbpsの4ストリームMIMO対応機でありながらコンパクトで低価格なモデルとなっている

 見た目のおとなしさから形容すれば、「羊の皮をかぶった……」という使い古された言い回しもできなくもないが、そこはやはり値段なり。実は「狼」というほど中身は尖っておらず、ハードウェアスペックが抑えられ、詳しくは後述するが「マニアック」な機能もいくつか削られている。

 もちろん単なる廉価版ではなく、しっかり狼の牙くらいは持ち合わせているあたりはさすがだが、今までのASUSのブランドイメージとは、少し異質な製品であることは確かだろう。

 察するに、これまでに築き上げてきたイメージを武器に、もう少し広いユーザー層を刈り取ろうといったところだろうか。

「68以上87未満」、とも言い切れない

 実際、スペックを見てみると、この製品の方向性が見えてくる。以下は、最大1300Mbpsに対応したRT-AC68Uと、最大1734Mbpsに対応したRT-AC87Uとスペックを比べた表だ。

RT-AC85URT-AC68URT-AC87U
実売価格1万9260円1万9880円2万1300円(販売終了)
最大速度(5GHz)1734Mbps1300Mbps1734Mbps
最大速度(2.4GHz)800Mbps600Mbps600Mbps
アンテナ内蔵×4外付け×3外付け×4
MU-MIMO×
CPUMT7621A 2コア 880MHzCortex-A9 2コア 800MHzCortex-A9 2コア 1GHz
メモリ128MB256MB256MB
デュアルWAN×
WAN Bridge×
LAG××
LAN1000Mbps×41000Mbps×41000Mbps×4
USB3.0×12.0×1、3.0×12.0×1、3.0×1
AiProtection×
QoS×
VPNPPTP/OpenVPNPPTP/OpenVPNPPTP/OpenVPN
ペアレンタルコントロール
トラフィックアナライザー×
  • ※実売価格は2016年11月15日時点のヨドバシドットコム価格。ただし、RT-AC87Uは同店にて販売終了時の価格を掲載

 実質的な後継モデル(RT-AC88U)が登場しているRT-AC87Uは、一部販売店ですでに販売が終了しているが、今回は無線LANの最大速度が同じであることから、比較対象としてリストアップしてみた。

 表を見比べると、今回のRT-AC85Uは、無線LANの性能はRT-AC87Uとほぼ同等。256QAM対応で2.4GHzが800Mbpsにまで向上している分、やや上と言っても差し支えない。

 一方、価格は先にも少し触れた通りRT-AC68Uとほぼ同等、CPUは今やすっかりARMに押されてしまったMIPSコアながら、コア数と動作周波数は同等となっている。

 ただし、メモリ容量が128MBと半減し、それ(とMIPSの)影響か、ASUSならではのマニアックさの証でもある各種機能が削られている。

 デュアルWANで回線断に備えたり、IPv6を使い分けたりといった使い方もできなければ、トレンドマイクロのデータベースを使ったセキュリティ機能も使えず、アプリや通信によってQoSを自動的に設定したり、といったこともできないわけだ。

 逆に考えれば、そんな機能は使わないと割り切ればお買い得な製品であり、親類やあまり詳しくない知人に勧めるなら、むしろ機能がシンプルなこちらを推したいが、自分で使うとなると、やはり少しさみしい印象だ。

 IoT関連など、PCやスマートフォン以外の機器がたくさんネットワークにつながるようになってくれば、AiProtectionとして提供されている悪質サイトブロック機能や感染デバイス検出/ブロック機能は、機器側でセキュリティ対策ができない組込機器をルーターの段階である程度保護できるため、個人的にはこの機能が使えなくなるのがなかなかイタい(無料で使えるペアレンタルコントロール併用のWebフィルタも)。

 と言うわけで、ラインナップで比べても、単純にRT-AC68U以上、RT-AC87U未満というものでもない。そう考えると、RT-AC85Uの「85」という数字は、実にうまく考えられてつけられているように思える。

RT-AC68U(左)とRT-AC85U(右)。無線スペックは85が上だが、付加機能は68が上

外付けアンテナなくてもいいじゃん

 外観はというと、RT-AC68Uからアンテナを取り去り、さらに全体的に一回り小さくした印象だ。

 これまでの海外製無線LANルーターにありがちだった、ごつい筐体と、派手なデザイン、物々しいアンテナは見当たらない。サイズも十分にコンパクトなうえ、デザインもシンプルで控えめ、ついにアンテナも内蔵となった。

正面
側面
背面

 最大1734Mbpsの4ストリームMIMO対応のため、本来であれば4本のアンテナが飛び出していてもいいのだが、きっちり内蔵されている。そびえ立つアンテナは、リビングなどにあって実に異質な存在と言えるが、余計な主張をしなくなったのは実にありがたい。

 アンテナが内蔵されたことで、気になるのはパフォーマンスだが、どうやらその心配もなさそうだ。

 以下のグラフは、木造3階建ての筆者宅にて、1階にRT-AC68UとRT-AC85Uを設置し、1~3階の各部屋にてiPerfによる速度を計測したものだ。普段は、3階はドア付近で計測しているのだが、今回はアンテナ内蔵の効果を図るために、3階の窓際、アクセスポイントからもっとも遠くなる位置でも速度を計測した。

1F2F3F3F端
RT-AC68UEA-AC87(1300Mbps)634423363216
MacBook Air(866Mbps)47014192.718.9
RT-AC85UEA-AC87(1734Mbps)692516435277
MacBook Air(866Mbps)64718612128.1

 結果を見ると、世代の違いもあってか、アンテナ内蔵ながらRT-AC85Uの方が、若干、パフォーマンスは良好だ。最大866MbpsのMacBook Airでも結果は良好だが、1734Mbpsで接続可能なEA-AC87を利用した場合は、しっかり4ストリームの恩恵を受けられる印象だ。3階の端でも270Mbps以上の速度で通信できるので、なかなか優秀な製品と言って差し支えないだろう。

 このサイズで、ここまで速度が出るなら、ほかのモデルも、邪魔にならないうえ、面倒な角度調整もいらないアンテナレスで統一した方がいいのではないかと思えるほどだ。

VPNやファイル共有を利用可能

 機能面では、先に触れたようにAiProtectionやAdaptive QoS、トラフィックアナライザー、ペアレンタルコントロールのWebフィルタリングなどが削られているが、VPNや簡易ファイル共有機能などは利用可能となっている。

RT-AC85Uの設定画面。いくつかの機能が削られている

 VPNは、同社が提供するDDNS機能も使えるようになっているうえ(○○○.asuscomm.com)、スイッチをクリックするだけで機能を有効化できたり、最大16ユーザーまで許可するユーザーを登録して管理できるなど、使い勝手はいい。

 同社Webページのスペック表では、VPNサーバー機能はPPTPしか表記されていないが、現状のファームウェアではOpenVPNサーバーも利用可能だ。OpenVPNならではの証明書の設定なども標準では自動構成になっており、設定ファイルをエクスポートしてクライアントに読み込ませるだけで利用できるので、非常に使いやすい。個人的には、こちらを利用することをお勧めする。

VPNでは、PPTPとOpen VPNを利用可能。Open VPNの設定も標準で設定済みのため機能を簡単に有効化できる

 簡易ファイル共有機能も、通常のWindowsファイル共有に加えて、DLNAによるファイル共有、インターネット経由でのアクセスと、複数方式に対応しており、使い勝手はいい。

 外出先からWeb経由で家庭内のネットワークに接続されているほかの機器(NASなど)にアクセスできる「Smart Access」が使えるのも、ASUSの無線LANルーターならでは。NASまではいらないという人なら、十分に実用的と言えるだろう。

ローカルでのファイル共有や外部からのアクセスなども可能
AiCloud 2.0として外出先からのアクセス機能が豊富に搭載される

ASUSらしさを求めるかどうか

 以上、ASUSから新たに登場したRT-AC85Uを実際に使ってみたが、無線LANルーターとしての完成度はなかなか高い。無線LANの性能は高いうえ、機能も削減されているとは言え、それでも十分に豊富だ。これなら国産のコンパクトな製品群と比較しても十分以上に勝負になるだろう。

 なお、RT-AC68Uユーザーとして個人的にうらやましいのは、5GHz帯のチャネルが増えたことだ。RT-AC68Uでは、W52(36/40/44/48)しか使えなかったが、W53(52/56/60/64)、W56(100/104/108/112/116/120/124/128/132/136/140)もきちんと使えるようになった。やはり、RT-AC68Uと比べると、無線LAN部分はだいぶ進化している。

 しかしながら、ASUSらしいか? と言われると、個人的にはちょっと尖り具合が足りない気がする。

 もちろん、通信機器に尖り具合など求める方がナンセンスなので、こんな意見は気にせず、購入してもらって損はないのだが、個人的にはRT-AC68Uからの買い替えに今一歩踏み切れないところだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。