清水理史の「イニシャルB」
Wi-Fi 6なら4ストリームで1万円ちょっとのバッファロー「WSR-3200AX4S」がお買い得、Wi-Fi 6への移行も全然つまずかない!
2020年12月7日 06:00
バッファローから、最大2402Mbpsに対応したWi-Fi 6対応ルーター「WSR-3200AX4S」が登場した。本製品は、同社のラインアップの中ではミドルレンジに位置付けれるモデルだが、価格的にも性能的にも売れ筋になる可能性が高いだけに、いろいろな意味で隙のない製品に仕上がっている。
率直な第一印象は「全然、つまずかない」だ。入れ替えも、設定も、セキュリティも、速度も、そして実売1万円強のお手頃な価格も、どの視点で見ても完成度の高い実質「アッパーミドル」の製品となっている。
人に勧めるなら心くばりの効いた製品を選びたい
手元のスマホも、自宅のノートPCも、話題の新型ゲーム機も。
そろそろ、現在身の回りで使っている機器が、普通に「Wi-Fi 6」になってきた時期ではないだろうか?
国内初のWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応ルーターが販売され始めてから2年近くが経過し、5万円近くと高価だったWi-Fi 6対応ルーターは、現在ではハイエンドモデルでも3万円台、今回取り上げるバッファローの「WSR-3200AX4S」のようなスタンダードモデルなら、何と1万円台前半で手に入るようになった。
当時からチップやアンテナ技術の面で改良が重ねられ、速度や安定性も向上したほか、この2年の間には電波法まで改正され、国内メーカーのモデルなら当たり前のように144chの追加チャネルが使えるようになった。その上、新方式のセキュリティ「WPA3」も標準的に使えるようになっている。
要するに、この2年で「つながる機器が増え」、「安くなり」、「規格としてこなれた」ことになる。
しかも、2020年春以降は、テレワークやリモート授業などで家庭のWi-Fi環境の利用頻度が格段に増えているはずだ。そこで、通信範囲が広く、しかも複数のWi-Fi子機をつないでも高速なWi-Fi環境が求められるようになった。
よく「Wi-Fi 6対応の買いどきは?」と問われることがあるが、時期としては今はちょうどいいタイミングで、いわゆる「今買え!時期がいい」という状況が、ようやく訪れた印象だ。
中でも、先日バッファローから登場した「WSR-3200AX4S」は、これからWi-Fi 6の導入を検討している人や、既存のWi-Fi 5ルーターの置き換えを検討している人に向けて候補の1台としたいモデルで、使う人の立場に立った工夫が隅々まで施され、どの視点からも「なるほど、こりゃあ“つまずかない”な」という印象を強く受けた製品だ。
「つまずかない」その1:設置に困らない
それでは、実際の製品を見ていこう。
本製品は、アンテナを内蔵した比較的コンパクトな設計で、サイズも幅37.5×高さ160×奥行き160mmと、邪魔にならない大きさとなっている。
Wi-Fi 6対応ルーターというと、派手な外付けアンテナや、宇宙船のようなデザインを思い浮かべる人もいるかもしれないが、本製品はどこに置いても馴染むデザインで好印象だ。
付属の台座は本体背面へ取り付けることも可能で、壁掛けでも利用可能だ。今回はブラックモデルを試したが、壁掛けで使うならホワイトモデルの方が違和感が少ないかもしれない。
インターフェースは、背面にいずれもギガビット対応のLAN×4、WAN×1が搭載されるほか、本体上部にはモード切り替え用のスイッチが搭載されている。
このスイッチは、上部の「AUTO/MANUAL」と下部の「ROUTER/AP/WB」の組み合わせで動作モードを設定するが、上部が「AUTO(出荷時設定)」なら、下部はどの状態でもいい(!)という親切設計だ。
実際、筆者が使用した製品では、下側のスイッチが「AP」に設定されていて、「あれ? 出荷時設定APモードになったのかな?」と心配になったが、上が「AUTO」なのでモードは自動的に判断してくれるようになっていた。
こういう配慮は、実に助かる。
好奇心旺盛な初心者の要求に応え、オススメのWi-Fiルーターを渡してみても、無闇にスイッチや設定をいじられた挙句、電話でのサポートに苦心するといったことがよくある。
しかし、本製品なら不用意にスイッチを触って、よく分からなくなっても、とにかく上だけ「AUTO」にしておけばいいのだから、使う本人にもサポートする周囲の人間にも、優しい仕様だ。
さらに言えば付属のACアダプタも、コンセントに対して横向きに差し込めるようになっていて、電源タップにつないだときに隣接する接続口に干渉しないようになっている。
こういう工夫は、実に日本製らしいなぁ、と感心してしまう。
「つまずかない」その2:設定に困らない
バッファロー製のWi-Fiルーターは、製品を設置した後、設定のファーストステップが、実に分かりやすい。
付属の「セットアップガイド」の先頭に記載された項目は「今までの無線LAN親機と交換する場合」の手順で、新規にルーターを設置する場合は2番目になる。
筆者は、過去にもこの点を賞賛したことがあるが、改めて褒めておきたい。これは、製品を手に取った人が「どういう状態で使い始めるか」「何に困るのか?」を、メーカーがしっかりと把握している証拠だ。
しかも、この既存のWi-Fiルーターからの移行は、「無線引っ越し機能」によってほぼ自動で行えるようになっており、AOSSやWPS接続に使う機器のボタンを、移行元機器と本機で交互に押すだけで完了する。
Wi-Fiルーターの性能を上げたいが、設置や設定が面倒と考える人は多い。特に、既存のルーターを交換するとSSIDや暗号化キーが変わってしまうため、スマートフォンやPC、ゲーム機、プリンター、スマートスピーカーなど、家中のありとあらゆるWi-Fi子機をつなぎ直さなければならない。
しかし、本製品であれば、上記の「無線引っ越し機能」によって、自動的に従来の親機のSSIDと暗号化キーを引き継ぐことができる。
これにより、家庭内ですでに使っている機器をWi-Fiにつなぎ直す手間が、一切発生しないことになる。今の環境は基本的にそのまま。Wi-Fi 6対応のスマホとPC、ゲーム機のみをつなぎ直せばいいのだから、実に楽だ。
もちろん、通常の設定も簡単で、スマートフォン向けのアプリ(QRsetupやStationRadar)を使って、接続設定やルーターの設定変更も可能だ。
「つまずかない」その3:Wi-Fi速度に困らない
本製品は、最大2402Mbpsの速度に対応しているが、これは4ストリーム通信時の速度だ。
Wi-Fi 6では、MIMOによる空間多重化のストリーム数と通信に利用する電波の帯域幅の組み合わせで速度が決まるようになっている。
以下が本製品の仕様となるが、2402Mbpsという速度は、2ストリーム×160MHz幅の場合と、4ストリーム×80MHz幅の場合の2種類が存在する。本製品が対応するのは後者、4ストリーム時のものだ。
WSR-3200AX4S | |
実売価格 | 1万1880円 |
CPU | - |
メモリ | - |
Wi-Fiチップ(5GHz) | - |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b/ |
バンド数 | 2 |
最大速度(2.4GHz) | 800Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 2402Mbps |
最大速度(5GHz-2) | - |
チャネル(2.4GHz) | 1~13 |
チャネル(5GH-1) | W52/W53/W56 |
チャネル(5GH-2) | - |
新電波法(144ch) | ○ |
ストリーム数 | 4 |
アンテナ | 内蔵 |
WPA3 | ○ |
IPoE IPv6 | ○ |
DS-Lite | ○ |
MAP-E | ○ |
セキュリティ | ネット脅威ブロッカーベーシック(後日ファームウェアアップデートで提供) |
WAN | 1000Mbps×1 |
LAN | 1000Mbps×4 |
USB | - |
動作モード | Auto/Manual(RT/AP/WB) |
ファームウェア自動更新 | ○ |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 37.5×160×160mm |
PCの場合は2ストリーム×160MHz幅の2402Mbpsに対応する機器もあるが、本製品はこの組み合わせには対応しない。こうしたPCの場合も、2ストリーム×80MHz幅の1201Mbps接続が上限となる。
このため、160MHz幅対応のゲーミングPCなどを2402Mbpsで接続することはできないが、実はこの「4ストリーム」であることが、家庭やオフィスなどの実際の利用シーンでは「効いて」くる。
ストリーム数は、言わば車線の多さだ。実際、本製品は最大4台の機器の同時通信に対応しているが、このように利用できるストリーム数(空間で多重化できる経路)が多いほど、同時通信が快適になる。
冒頭でも触れたように、テレワークが一般化した現在では、家庭内で誰かがビデオ会議(ビデオ授業)をしつつ、他の人がクラウドストレージを利用したり、別の部屋でゲームをダウンロードするという、通信が同時に発生する機会は増えている。
Wi-Fi 6は、もともとOFDMAやMU-MIMOといった技術によって、こうした同時通信が快適にできるように工夫されている規格だが、本製品は、いわば4つの車線を用意することで、普及価格帯の製品ながら、こうした同時通信により強い特性を持っている。
そして、もう1つ。4ストリームであることには大きなメリットがある。それは、広い通信エリアを確保できる点だ。その秘密は、ビームフォーミングにある。
ビームフォーミングは、MIMOの技術を応用することで、電波を特定方向に強めることができる技術だ。複数のアンテナの組み合わせで電波の方向を調整するため、利用できるアンテナ(=ストリーム数)が多い方が、この調整を細かく的確に行える。
つまり、同じ2402Mbps対応のアクセスポイントであっても、160MHz幅×2ストリームより、80MHz幅×4ストリームとなる本機の方が、こうした調整能力に優れているわけだ。単体でのピーク性能よりも、多大接続時の平均速度向上や長距離での性能向上を狙った仕様と言えるだろう。
近距離は有線LAN並み、遠い場所でも200Mbps
実際、設置環境での実効速度も優秀だ。
以下のグラフは、木造3階建ての筆者宅の1階に本機を設置した状態で、各階でiPerf3を計測した結果、次のように近距離で有線LAN並の800Mbpsオーバー、3階の最も遠い場所でも160~200Mbpsの速度で通信できた。
4ストリーム対応によるビームフォーミングの効果が現れた影響だろうか、アンテナ内蔵の普及モデルでありながら、パフォーマンスはかなり優秀な印象だ。これくらいの帯域が確保できていれば、家庭内の複数の場所でビデオ会議を同時に実行しても余裕があるだろう。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
PC(Intel AX200) | 上り | 824 | 489 | 236 | 168 |
下り | 874 | 405 | 235 | 202 | |
iPhone 11 | 上り | 622 | 246 | 130 | 86 |
下り | 751 | 434 | 321 | 161 |
※サーバー:Synology DS1517+、5GHz帯ch100固定で計測
なお、本製品は「バンドステアリングLite」という機能も搭載されており、2.4GHz帯と5GHz帯に同じSSIDを設定した場合、利用場所の電波状況に応じて、より高速で通信できる帯域を自動的に選択して接続できるようになっている。
本機は5GHz帯がWi-Fi 6で、2.4GHz帯が11n(こちらも4ストリーム対応!)なので、個人的には、5GHz帯にiPhoneやPS5などのWi-Fi 6対応機、2.4GHz帯は古いPCや家電などと明示的に使い分けることをお勧めしたいが、より広い家庭やマンションなど5GHz帯に不利な建物の環境では、バンドステアリングLiteによる2.4GHz帯の活用で、速度の低下を抑えられる可能性がある。
「つまずかない」その4:インターネット接続で困らない
もちろん、Wi-Fiだけでなく、ルーターとしての機能にも困らない。
テレワークの普及による混雑の影響で、高速なIPoE IPv6を利用したインターネット接続サービスに加入する人が増えているが、本製品は国内の主要なIPv6インターネット接続サービス(詳しくはこちらを参照)に対応している。
しかも、回線の設定は自動判定となっており、設置時にWANポートへ回線側のケーブルをつなぐだけで、自動的に設定が完了する。試しに、筆者宅で利用しているtransix(DS-Lite方式)の回線に接続してみたが、何の問題もなくインターネット接続を構成してくれた。
なお、実際にtransix環境での通信速度は次の通りだ。
本製品は、他社製品と異なり、ことさらにIPv6の高速化機能などを訴求することがない控えめな製品だ。
というのも、他社がIPv6の高速化に取り組み始める前から、バッファロー製品はとっくに同様の技術を搭載済みとなっており、同社にとってはIPv6が高速なのは「当たり前」の仕様であったためだ。
もちろん、他社に追従して、これからIPv6の速度を訴求点とする新たなネーミングをパッケージに大きく掲載することもできるだろう。しかし、それを「あえてやらない」奥ゆかしさも、個人的には高く評価したい。
「つまずかない」その5:セキュリティ対策で困らない
最新のWi-Fi 6対応ルーターを購入することは、セキュリティ対策としても有効だ。
というのも、最新のWi-Fi 6ルーターは、WPA3と呼ばれる最新の無線通信の暗号化規格に対応しており、従来のWPA2に比べて、より安全にWi-Fiを利用できるようになっている。
しかも、本製品では標準でWPA2接続用のSSIDと、WPA3接続用の2種類のSSIDが登録済みとなっており、古いスマートフォンやIoT機器などのWPA2対応の機器は前者のSSID、Windows 10やAndroid、iOSなどのWPA3対応済みの機器は後者のSSIDと、接続先を使い分けることができるようになっている。
ただ単にWPA3に対応するだけでなく、実際につなぐときのこと、未対応の機器が家庭に存在することが、きちんと想定されているのはさすがだ。
さらに、ファームウェアの自動更新機能も搭載されており、重要な更新に関しては、毎日4:00~4:59の間に自動的にダウンロードして適用されるようになっている。
脆弱性を抱えた古いルーターが乗っ取られ、大規模なDDoS攻撃に悪用されるケースも起きているが、ルーターのファームウェアについては、アップデートが見逃されがちだ。狙われそうな脆弱性を自動的に修復できる本製品は、ユーザーの手を煩わせることなく最低限のセキュリティを確保できるため、安心して利用できるだろう。
このほか、本稿執筆時点では未対応だったが、後日ファームウェアのアップデートによって、Kasperskyが提供するセキュリティ脅威情報を用いた「ネット脅威ブロッカーベーシック」というセキュリティ機能に対応予定となっている。
製品には、フィッシングサイトへのアクセスをブロックしたり、情報漏えいなども防ぐことができる機能が1年間利用できるライセンスが付属する。
もちろん、従来から提供されている「i-フィルター」や「キッズタイマー」などの機能も利用可能だが、こうしたプラスのセキュリティ機能が使える点は大きな魅力だ。
1万円ちょいで買える実質「アッパーミドル」機
以上、バッファローから新たに登場した「WSR-3200AX4S」をチェックしてみた。本製品は、無線LANの黎明期から国内市場を見続けてきたバッファローらしく、細かな配慮が行き届いた製品と言える。
対応子機が増え、価格面でもこなれてきたWi-Fi 6対応ルーターの中でも、特に「性能」と「使いやすさ」にこだわった製品で、誰にでもお勧めできる製品と言える。
特にミドルレンジ製品ながら4ストリーム対応というのがポイントで、現在、長距離での通信速度低下に悩んでいる場合に打ってつけの製品と言える。
現在、Wi-Fi 5のハイエンドモデル(1733Mbps対応の4ストリームモデル)を使っている場合でも、同じ4ストリーム対応機に移行できるので、ミドルレンジと言えどもスペック的にランクダウンしない点も嬉しい。
自宅の既存のWi-Fiルーターの置き換えはもちろんだが、実家や友人宅のWi-Fiルーターの移行を相談されたときの選択肢としても有力だ。設置や設定に困らないので、ややこしい問い合わせに悩まされる心配もないだろう。
(協力:株式会社バッファロー)