清水理史の「イニシャルB」

「過剰なまでの品質」と「無料でUTM並みのセキュリティ」! ネットワーク部門トップが語るASUSルーターの真の価値とは

今春発売予定のクアッドバンドWi-Fi 7ルーターをひと足先にチェック

来日したASUSのネットワーク部門の開発トップ Tenlong Deng氏に話を聞いた

 読者の皆さんはASUSのWi-Fiルーターにどのようなイメージを持っているだろうか?

 高性能、多機能といった点がすぐに思い浮かぶが、その一方で、価格面や使い勝手を指摘する声も聞こえてくる。しかしながら、あらためて製品と向き合うと、「え、そこまでやるの?」「無料でそんなことも?」という事実が見えてくる。

 製品内部に込められた開発者としてのこだわりをネットワーク部門の開発トップとなるASUSTek COMPUTER Corporate Vice President Net&WL Devices BU Tenlong Deng氏に話を聞いた。

ユーザーが求める機能を提供する

 Wi-Fiルーターにどのような機能が必要か?

 この視点は、おそらくユーザー層によって異なる。とにかく簡単につなぎたいというエントリーユーザーもいれば、より広いエリアで快適にWi-Fiを使いたいというミドルレンジのユーザーもいるし、USBファイル共有やVPN、セキュリティ対策とネットワークをとことん活用したいハイエンドユーザーもいる。

 ASUSがターゲットにしているのは、ミドルからハイ、それも「この機能を絶対に使いたい」と指名してくるようなコダワリを持ったユーザー層だ。

 Deng氏によると、「ASUSでは、ユーザーアンケートの結果をWi-Fiルーターの開発方針に積極的に活用しています。グローバルでの結果では、Wi-Fiルーターに求める機能として、『AiMesh』『USBファイル共有』『VPN』などが人気となっています。弊社は、こうした結果を重視し、Wi-Fiルーターにさまざまな機能を搭載してきました」という。

 日本の動向と少し異なる点もあるが、国内でも数年前からメッシュの需要は高まっており、複数台のアクセスポイントや中継機を活用したWi-Fiエリアの拡大が当たり前になりつつある。

 AiMeshのメリットについてDeng氏は次のように語った。「ASUSのWi-Fiルーターは、Wi-Fi 5の時代も含めて、ほぼすべてのモデルがAiMeshに対応しています。他社の場合、メッシュに対応しているかどうかがモデルによって違うため、対応を確認する必要がありますが、ASUS製品なら、ファームウェアのアップデートが必要な場合もありますが、この10年ほどで発売された製品であれば、ほぼAiMeshでつながります」。

 日本市場では、メッシュ対応モデルは、どちらかというとセットで販売されるケースが多く、初期導入のハードルが高いことが課題となっていた。この2~3年で、単体のWi-Fiルーターもメッシュに対応することが増えてきたが、同社は、もう10年もこうした取り組みを進めていることになる。

 ほぼすべてのモデルがAiMesh対応ということは、ASUSブランドのWi-Fiルーターなら、最初にどれを買ってもいいし、Wi-Fi拡張用にどのモデルを選んでもいいし、これから買うモデルが将来的に古くなったとしてもメッシュの子機として流用できることになる(アップデートは必要)。

 つまり、「ASUSならメッシュで全部つながる、ずっとつながる(Deng氏)」ということが、すでに長い実績によって証明されていることになる。

ASUSTek COMPUTER Corporate Vice President Net&WL Devices BU Tenlong Deng氏

あえてEasyMeshを選ばないこだわり

 メッシュの相互互換性ということなら、「EasyMesh」を思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし、Deng氏によると、「EasyMeshではなく、独自のAiMeshを進める理由は、『きちんとつながる』ことを弊社として保障するためです」という。

 Deng氏によると、同社ではAiMeshの相互接続をすべてのモデルで実際にテストしているという。前述したように、同社が発売したAiMeshのモデルは、Wi-Fi 5時代も含めて、相当数が存在するが、そのすべてで実際につながることが確認されているわけだ。

 しかし、「EasyMesh対応にするなら、当然、自社だけでなく他社との接続も保障しなければならなくなります。これはあまりにも複雑で、とても現実的ではありません」とDeng氏は言う。

 実際、筆者も何度か試しているが、EasyMeshのメーカー間の相互接続性は好ましくない。であれば、メーカーとしてテスト可能な独自技術を採用し、「必ずつながる、ずっとつながる」ことを保障する方が現実的というわけだ。

 ASUSのWi-Fiルーターには、いろいろな機能が搭載されているが、単に新機能や新技術だから搭載されているわけではなく、ユーザーのメリットを考慮したフィルタをメーカーの責任として設け、冒頭でも触れたように実際にメリットがあるものだけを厳選していることになる。

 後述するハードウェア設計の話と対照的だが、同社は、ユーザーのためにブレーキを踏むシーンと、アクセル踏む(それも躊躇なく全開!)シーンをきちんと考えている印象だ。

ハードウェアもソフトウェアも得意とするメーカー

 Wi-Fiルーターのメーカーは、一般的に、どちらかというとハードウェアの設計が得意なメーカー、どちらかというとソフトウェアの設計が得意なメーカーというのが分かれる。

 ASUSはというと、ハードウェアとソフトウェアのどちらも、しかも、とびきりに強いメーカーと言える。

 同社のマザーボードやビデオカードを使った経験がある読者も少なくないと思われるが、ハードウェアに関しては、とにかく使われているひとつひとつのパーツが高品質で、ある意味、「やりすぎ」と言ってもいいほどに高い品質を持っている。こうした思想がWi-Fiルーターにも引き継がれている。

 今春発売予定(※編集部追記:4月26日発売が決定)のWi-Fi 7ルーターの実機を見せてもらったが、同社の技術が惜しみなく投入された「超ハイエンド」クラスの製品に仕上がっていた。

 しかも、この製品を前にして、同社の副社長のDeng氏が、「クアッドバンド対応でココ(四隅を指して)にモジュールが搭載されているんだ!」とか「この設計に苦労したんだが、アンテナは1本に見えて実は内部が2本で実質的に16本構成なんだ!」とか、「(有線が)10Gbps×2で、2.5Gbpsも4ポートあるぞ!!」とか、「USBにiPhoneをつないでテザリングでもつながるんだ!」などと、長く、そして熱っぽく語る(英語だったので語尾は筆者の想像だが雰囲気はそんなイメージ)。

 実際の現場の開発担当者が語るなら分かるが、副社長が、いち製品について、こうも熱く語るのだから、ASUSという企業がどのような風土の中で、どういう意図で製品を開発しているのかがよく分かる。

自ら箱を開け、組み立てながら熱心に説明するDeng氏

 正直、このルーターは、日本の一般的なユーザーには、スペック的にも価格的にも過剰だ。しかし、この製品を市場に投入することを躊躇しないのが実にASUSらしい。

 11529Mbps(6GHz)+5764Mbps(5GHz-1)+5764Mbps(5GHz-2)+1376Mbps(2.4GHz)で、それぞれの帯域で4ストリーム分の4本のアンテナが独立で用意され、有線も10Gbps×2+2.5Gbps×4+1Gbps×1があり、WAN/LANの構成は設定画面から変更可能で、しかも1ポートはゲーミングポートとしてQoS設定済み、これらを処理するための最新の2.6GHzのクアッドコアCPUまでもが採用されている。

この春に投入予定のクアッドバンドWi-Fi 7ゲーミングルーター「ROG Rapture GT-BE98」をひと足先に見せていただいた
10Gbps×2に加え2.5Gbpsのポートを4つ、1Gbpsのポートを1つ持ち、WAN用としては10/2.5Gbpsのいずれかのポートを利用できる
インジケーター部。Wi-Fiは5GHz帯を2つ持つクアッドバンドだ
USBポートも2つ。ここにiPhoneなどを繋げばテザリングで使うこともできる

 中でも、Deng氏が力を入れて説明してくれたのは熱設計についてだ。「排熱のために、内部の基盤はアルミをナノカーボンコーティングしたヒートシンクで上下に挟み、上部から見える赤いヒートシンクで外部に放熱しています。また、底面に台座を設けて床との間に隙間を設け、そこからエアーを取り入れて上部に抜くような構造となっています」という。

 この製品の上部には、透明なアクリルで内部が見える部分があるのだが、これがカーボンナノコーティングされた巨大なヒートシンクで、デザイン的な意味だけで存在するわけではないことが分かる。また、この製品は持つとズシリと重いが、内部構造を知ると重量が2kgもあることにも納得がいく。

天面から除く赤い部分がヒートシンクになっているほか、アクリル板の中にある部分もカーボンナノコーティングされた巨大なヒートシンクになっている

 海外で公開されている同社のウェブサイトに内部の構成図が掲載されているので興味がある人は参考にしてほしい。

 Deng氏によると、「熱対策は製品を安定して使ってもらうために欠かせません。広いエリアをカバーしたり、たくさんの機器をつないだり、長時間稼働させたり、将来的に長期間使っても安定して使えるような十分な設計を施しています」という。

 他メーカーなら、実売価格を抑えるために、何かしらスペックを妥協する。いや、妥協するしかない。しかし、何も妥協しないところが実にASUSらしい。余計なお世話かもしれないが、安く売りたいマーケティング部門とか営業部門などと内部的な衝突がなかったのか? と、個人的に心配になってしまった。

もはやUTMと言ってもいい充実かつ無料のセキュリティ機能

 一方、ソフトウェア面でのポイントとなるのは「AiProtection」と呼ばれるセキュリティ対策機能だ。

 Deng氏は、同社のWi-Fiルーターに搭載されているセキュリティ機能について、「セキュリティ対策機能は、『デバイス』『ルーター』『ネットワーク』の3つのレベルで保護します。DNSについても3つの方法を併用して悪意のあるサイトに誘導されることを防いだり、外部のスマートフォンから自宅にVPNで接続することで通信を保護したりすることなどもできます」という。

 AiProtectionはトレンドマイクロの技術を利用した非常に多機能なサービスとなっており、悪意のあるウェブサイトをブロックしたり、双方向IPS(侵入防止システム)によって脆弱性を狙ったDDoS攻撃やランサムウェアを防いだり、マルウェアに感染したデバイスの検出とブロックによって内部からの情報漏洩を防いだりすることができる。

 最近では、国内メーカー製のWi-Fiルーターでもセキュリティ対策機能を搭載するモデルが増えてきたが、多くの場合、基本機能のみ無料で、フィルタリングやIPS機能などは有料のサブスクリプション契約が必要になる。

 これに対して、同社のAiProtectionは、「無料で使用期間を気にせず利用できます(Deng氏)」という。

 機能的には、法人向けに提供されているUTMに近いものとなっており(サンドボックスやHTTPS保護などがないだけ)、これらが無料で利用できることは驚異的だ。家庭向けのWi-Fiルーターでも年間3000~5000円、法人向けのUTMに至っては年間数万~十数万円のライセンス料が必要になるが、ASUSなら無料だ。このコストがかからないメリットは大きい。

日本市場に向けた工夫も

 同社は、昨年、日本市場も視野に入れたアンテナ内蔵のRT-AX59Uを発売するなど、グローバルメーカーながら地域ごとのニーズにも対応しつつある。

 Deng氏によると、「北ヨーロッパと日本はアンテナ内蔵の機器が好まれる傾向があるので、今後の開発も検討していきます。また、法人向けの展開も検討しています」という。

 このほか、接続方式が多く複雑なIPv6 IPoE対応も、今後、さらに充実させていくことも検討されている。

 また、日本市場では使いやすさも重視される傾向にあるが、スマートフォン向けのアプリで簡単に設定できるようにしたり、用途ごとのSSIDを用意したりして使いやすくする工夫もしている。

 「例えば、『Kids WiFi』というSSIDを有効にすることで、プリセットされたスケジュールやフィルタリング設定などを接続する端末にまとめて設定することができるようになっています。一般的なペアレンタルコントロール機能では、端末のMACアドレスなどを判断してデバイスと使う人を結びつける作業が必要でしたが、接続先を分けるだけで子供の端末の制御ができます(Deng氏)」という。

 この仕組みはVLANがベースになっているそうで、一部の既存モデルでもファームウェアのアップデートによって利用できるそうだが、同様にVPN接続用やIoT機器用のSSIDなどを活用して、接続先ごとにさまざまな制御ができるように工夫されている。

 高性能で多機能なASUSのルーターに「難しそう」というイメージを持っている人もいるかもしれないが、使いやすさ(操作の簡単さ)という点でも着実に進歩しているのだ。

 ASUSのWi-Fiルーターは、登場した当時の多機能でマニアックという印象が強すぎて、ユーザーに誤解されやすい印象がある。

 しかし、Deng氏の話を聞いていると、過剰なまでに多機能であることや高性能であることこそが、ASUSらしさにつながっている印象だ。そこに共感できれば、ASUSのWi-Fiルーターはユーザーに品質と性能という価値を提供してくるはずだ。今一度、ASUSのWi-Fiルーターの価値を見直してみてはいかがだろうか。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。