清水理史の「イニシャルB」

10Gbps対応のSFP+ to RJ45トランシーバー、“アチアチ”を避ける方法はある? 10Gtekの3モデルで実験

搭載チップの異なる3つのトランシーバーの発熱をチェック

 「アチアチ」で有名な10Gbps対応のSFP+ to RJ45トランシーバーだが、製品によっては発熱を抑えられる場合がある。10Gtekから販売されている3つのモデルを用意し、どれくらい温度が変わるのかを検証してみた。

動画へのコメントに感謝

 本稿は、以前、YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で公開した動画「分かりそうで分からない10GbEの疑問をズバッと解決!! ~ケーブル編~」のフォローアップとして執筆した記事となる。

 上記の動画で、トランシーバー搭載チップのプロセスルールについてコメントをいただき、いつか検証しなくてはと思っていたのだが、なかなか手が回らず、ようやく今回の掲載となった。

 要点を簡単に説明すると、10Gbps対応のSFP+ to RJ45トランシーバー(以下、単に「トランシーバー」と表記)は、発熱量が高いことで有名だが、プロセスルールが新しいモデルを選べば、ある程度、発熱を抑えられるというものだ。

 まずは、検証のきっかけになったアドバイスに感謝したい。

「SFP+とは?」を再確認

 それでは、SFP+のおさらいから始めよう。

 10Gbpsに対応したスイッチや、PC、ネットワークカード、Wi-Fiルーターなどの中には、SFP+というコネクタを搭載している機器が存在する。これは、光ファイバーを使って接続するための規格となっており、普段、われわれが使っているLANケーブル(RJ45コネクタ採用の銅線)をそのまま接続することはできない。

右側2つがSFP+ポート
通常は光ファイバーケーブルをつなぐ

 今回、紹介するトランシーバーという製品は、このSFP+とRJ45を変換するための装置となる。以下のように、トランシーバーをSFP+ポートに装着することで、家庭用のLANケーブルを接続できるようになるわけだ。

SFP+ポートにRJ45のトランシーバーを装着することで、一般的なLANケーブルを接続できる

 トランシーバーはAmazon.co.jpなどで、7000~1万円前後で購入できる。決して安くはないが、SFP+の機器にRJ45のLANケーブルをつなぎたい場合は購入しておく必要がある。

 ただし、このトランシーバーは、実際に使ってみると分かるが、かなり熱を持つ。小さなパーツに必要なモジュールが詰め込まれているので仕方がないのだが、10Gbpsで通信すると、かなり熱く、触れるのが危険なほどになってしまう。

 具体的にどれくらい熱くなるのかというと、以下のように60℃を超える。

外部温度で60℃を超えることがある

 中にはヒートシンクを付けたり、外付けのファンで冷却したりして使っている人も見かけるが、確かに危険を感じる温度ではある。

 もちろん、トランシーバーも、それを装着するスイッチなどの機器も、ある程度の発熱を見越して設計されており、熱をうまく筐体に伝えて、全体で放熱するなどの工夫がされているケースが多いが、利用時にはなるべく通気性のいい場所に設置して、稼働中は触れないようにした方が無難だ。

製品により生じた温度の差は10℃以上

 さて、ようやく本題に入りたいと思う。

 トランシーバーの温度を実際に測ってみようというのが、今回のテーマになる。用意したのは、以下の3製品だ。いずれも10Gtekという新興メーカーの製品で、それぞれ搭載されているチップに違いがある。

トランシーバー3製品のスペック
型番ASF-10G-TASF-10G2-TASF-10G-T80
実売価格7599円8231円1万579円
チップMarvell 88X3310Marvell AQR113CBCM84891L
対応速度10G1/ 2.5/5/10G10G
インターフェースRJ-45RJ-45RJ-45
対応ケーブルCAT.6aCAT.6aCAT.6a
通信距離30 m30 m80 m
動作温度0~600~700~70
消費電力3.3W3.6W2W

 10Gtekのサイトには、「ASF-10G-T+」という製品(チップはBCM84891L)など、上記のリスト以外の製品も掲載されているが、今回は入手できなかったので、上記3製品での検証となる。

 検証方法は、一般的な用途を想定し、YouTubeの動画再生を実行しながら15分後と30分後の温度を計測した。温度は、スイッチ(SKS8300-8X)のステータスに表示される内部温度と、トランシーバーに温度計を装着した外部温度を計測した。

 なお、3つのトランシーバーを一緒に装着すると、温度の高い製品の影響があるため、1つずつ個別に検証している(インターバル10分で、その間はUSBファンで冷却)。実際の利用シーンでは、温度が高い製品が混在すると、その影響でほかの製品の温度も上昇する点に注意が必要だ。

内部温度外部温度
型番開始時15分後30分後開始時15分後30分後
ASF-10G-T41℃65℃70℃38.9℃57.6℃61.7℃
ASF-10G2-T42℃67℃73℃38.7℃53.8℃57.1℃
ASF-10G-T8034℃55℃58℃33.2℃50℃53℃

※スイッチ(SKS8300-8Xのモニタリング値を利用)
※動画再生ではYoutubeのライブ配信を再生

ベンチ結果

 結果を見ると、Broadcom製の「BCM84891L」を搭載したASF-10G-T80の結果が優秀だ。15分後で内部温度が55℃、30分後でも58℃となっており、ほかの製品にくらべて内部温度で10℃以上、外部温度で4~8℃、低い状態を保てるようになっている。

 10Gtekのオンラインストアのスペックを見ると、消費電力が2W(ASF-10G-Tは3.3W、ASF-10G2-Tは3.6W)と低くなっているので、この影響が大きいと言えそうだ。

 ただし、低いと言っても外部温度で50℃を超えるため、長時間触れることは難しい状況と言える。通気性のいい場所に設置することをおすすめする。

ASF-10G-T80の結果。外部温度は53℃前後となった
ASF-10G-T80の内部温度

 一方で、ほかの2製品は、さほど大きな違いはない。いずれも消費電力が3W越えなので、この2つの違いは誤差の範囲という印象だ。15分後でも早々に内部温度は60℃を超え、最終的に70℃近くまでに達する。このときの外部温度は60℃近くになるので、とてもではないが触れない。利用時は注意が必要となる。

ASF-10G-Tの外部温度
ASF-10G-Tの内部温度
ASF-10G2-Tの外部温度
ASF-10G2-Tの内部温度

価格とのバランスを考えて選びたい

 というわけで、10Gbps対応のSFP+ to RJ45トランシーバーを購入するのであれば、BCM84891Lを搭載した製品、10Gtekであれば「ASF-10G-T80」がおすすめとなる。

 ただし、注意点としては、ASF-10G-T80は価格が高い。ASF-10G-Tの実売価格が7000円前後なのに対して、ASF-10G-T80は1万円前後となる。上記の検証結果を見れば、この価格差は十分納得できるが、「どっちにしろ外付けのファンで冷やす予定」というのであれば、安い製品を選択するという手もある。このあたりは予算と使い方次第と言えるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中