清水理史の「イニシャルB」

10Gbps対応のSFP+ to RJ45トランシーバー、“アチアチ”を避ける方法はある? 10Gtekの3モデルで実験
2025年6月23日 06:00
「アチアチ」で有名な10Gbps対応のSFP+ to RJ45トランシーバーだが、製品によっては発熱を抑えられる場合がある。10Gtekから販売されている3つのモデルを用意し、どれくらい温度が変わるのかを検証してみた。
動画へのコメントに感謝
本稿は、以前、YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で公開した動画「分かりそうで分からない10GbEの疑問をズバッと解決!! ~ケーブル編~」のフォローアップとして執筆した記事となる。
上記の動画で、トランシーバー搭載チップのプロセスルールについてコメントをいただき、いつか検証しなくてはと思っていたのだが、なかなか手が回らず、ようやく今回の掲載となった。
要点を簡単に説明すると、10Gbps対応のSFP+ to RJ45トランシーバー(以下、単に「トランシーバー」と表記)は、発熱量が高いことで有名だが、プロセスルールが新しいモデルを選べば、ある程度、発熱を抑えられるというものだ。
まずは、検証のきっかけになったアドバイスに感謝したい。
「SFP+とは?」を再確認
それでは、SFP+のおさらいから始めよう。
10Gbpsに対応したスイッチや、PC、ネットワークカード、Wi-Fiルーターなどの中には、SFP+というコネクタを搭載している機器が存在する。これは、光ファイバーを使って接続するための規格となっており、普段、われわれが使っているLANケーブル(RJ45コネクタ採用の銅線)をそのまま接続することはできない。
今回、紹介するトランシーバーという製品は、このSFP+とRJ45を変換するための装置となる。以下のように、トランシーバーをSFP+ポートに装着することで、家庭用のLANケーブルを接続できるようになるわけだ。
トランシーバーはAmazon.co.jpなどで、7000~1万円前後で購入できる。決して安くはないが、SFP+の機器にRJ45のLANケーブルをつなぎたい場合は購入しておく必要がある。
ただし、このトランシーバーは、実際に使ってみると分かるが、かなり熱を持つ。小さなパーツに必要なモジュールが詰め込まれているので仕方がないのだが、10Gbpsで通信すると、かなり熱く、触れるのが危険なほどになってしまう。
具体的にどれくらい熱くなるのかというと、以下のように60℃を超える。
中にはヒートシンクを付けたり、外付けのファンで冷却したりして使っている人も見かけるが、確かに危険を感じる温度ではある。
もちろん、トランシーバーも、それを装着するスイッチなどの機器も、ある程度の発熱を見越して設計されており、熱をうまく筐体に伝えて、全体で放熱するなどの工夫がされているケースが多いが、利用時にはなるべく通気性のいい場所に設置して、稼働中は触れないようにした方が無難だ。
製品により生じた温度の差は10℃以上
さて、ようやく本題に入りたいと思う。
トランシーバーの温度を実際に測ってみようというのが、今回のテーマになる。用意したのは、以下の3製品だ。いずれも10Gtekという新興メーカーの製品で、それぞれ搭載されているチップに違いがある。
型番 | ASF-10G-T | ASF-10G2-T | ASF-10G-T80 |
実売価格 | 7599円 | 8231円 | 1万579円 |
チップ | Marvell 88X3310 | Marvell AQR113C | BCM84891L |
対応速度 | 10G | 1/ 2.5/5/10G | 10G |
インターフェース | RJ-45 | RJ-45 | RJ-45 |
対応ケーブル | CAT.6a | CAT.6a | CAT.6a |
通信距離 | 30 m | 30 m | 80 m |
動作温度 | 0~60 | 0~70 | 0~70 |
消費電力 | 3.3W | 3.6W | 2W |
10Gtekのサイトには、「ASF-10G-T+」という製品(チップはBCM84891L)など、上記のリスト以外の製品も掲載されているが、今回は入手できなかったので、上記3製品での検証となる。
検証方法は、一般的な用途を想定し、YouTubeの動画再生を実行しながら15分後と30分後の温度を計測した。温度は、スイッチ(SKS8300-8X)のステータスに表示される内部温度と、トランシーバーに温度計を装着した外部温度を計測した。
なお、3つのトランシーバーを一緒に装着すると、温度の高い製品の影響があるため、1つずつ個別に検証している(インターバル10分で、その間はUSBファンで冷却)。実際の利用シーンでは、温度が高い製品が混在すると、その影響でほかの製品の温度も上昇する点に注意が必要だ。
内部温度 | 外部温度 | |||||
型番 | 開始時 | 15分後 | 30分後 | 開始時 | 15分後 | 30分後 |
ASF-10G-T | 41℃ | 65℃ | 70℃ | 38.9℃ | 57.6℃ | 61.7℃ |
ASF-10G2-T | 42℃ | 67℃ | 73℃ | 38.7℃ | 53.8℃ | 57.1℃ |
ASF-10G-T80 | 34℃ | 55℃ | 58℃ | 33.2℃ | 50℃ | 53℃ |
※スイッチ(SKS8300-8Xのモニタリング値を利用)
※動画再生ではYoutubeのライブ配信を再生
結果を見ると、Broadcom製の「BCM84891L」を搭載したASF-10G-T80の結果が優秀だ。15分後で内部温度が55℃、30分後でも58℃となっており、ほかの製品にくらべて内部温度で10℃以上、外部温度で4~8℃、低い状態を保てるようになっている。
10Gtekのオンラインストアのスペックを見ると、消費電力が2W(ASF-10G-Tは3.3W、ASF-10G2-Tは3.6W)と低くなっているので、この影響が大きいと言えそうだ。
ただし、低いと言っても外部温度で50℃を超えるため、長時間触れることは難しい状況と言える。通気性のいい場所に設置することをおすすめする。
一方で、ほかの2製品は、さほど大きな違いはない。いずれも消費電力が3W越えなので、この2つの違いは誤差の範囲という印象だ。15分後でも早々に内部温度は60℃を超え、最終的に70℃近くまでに達する。このときの外部温度は60℃近くになるので、とてもではないが触れない。利用時は注意が必要となる。
価格とのバランスを考えて選びたい
というわけで、10Gbps対応のSFP+ to RJ45トランシーバーを購入するのであれば、BCM84891Lを搭載した製品、10Gtekであれば「ASF-10G-T80」がおすすめとなる。
ただし、注意点としては、ASF-10G-T80は価格が高い。ASF-10G-Tの実売価格が7000円前後なのに対して、ASF-10G-T80は1万円前後となる。上記の検証結果を見れば、この価格差は十分納得できるが、「どっちにしろ外付けのファンで冷やす予定」というのであれば、安い製品を選択するという手もある。このあたりは予算と使い方次第と言えるだろう。