清水理史の「イニシャルB」

バッファローの10GbEスイッチ「LXW-10G5」を試して驚いた、“普通に使ってもファンが回らない”高い放熱性能

バッファローの新型10Gbps対応スイッチ「LXW-10G5」

 バッファローから、全ポート10Gbpsに対応したスイッチングハブ「LXW-10G5」が発売された。最大の魅力は、10G対応製品で悩みのタネとなりがちな、熱対策と騒音対策がなされている点だ。

 5ポートモデルで実売3万5000円前後と、以前に紹介した海外メーカーの製品と比べれば割高だが、かなり工夫された製品となっている。実際に10Gbpsで負荷をかけて、発熱や騒音をチェックしてみた。

ユーザーの声に真正面から応えた製品

 「静かな10Gbps対応スイッチ出してくださいよ」。

 ここのところ、ネットワーク機器ベンダーに取材に行くたびに、必ずこう言っていたのだが、まさかこんなに早く製品が登場するとは……。

 もちろん、発表会などでバッファローを訪問したときも同じことを言っていたのだが、それから間もなく登場したのが、今回の新型10Gbps対応スイッチ「LXW-10G5」だ。

 バッファローは、現場の情報というか、ユーザーが何を求めているのかを調査して製品づくりに反映するのが巧みなメーカーだが、現状の小規模環境向け10Gbps対応スイッチの課題も、とっくに把握済みで、すでに製品づくりに着手していたに違いない。

 おそらく、筆者が先の発言をしたときには、すでに開発中だったのだろう。「なぜ静かな製品が必要なのか」と、あんなに力説した自分が恥ずかしい……。

 それはさておき、現状、家庭や小規模なオフィスでの利用を想定した10Gbps対応スイッチには、「価格」「騒音」「発熱」という3つの大きな課題がある。

現状の小規模オフィス向けの10Gbps対応スイッチの課題

 中でも、「騒音」と「発熱」は、騒音対策でファンレスにすれば「熱い」と言われ、ファンを搭載すれば「うるさい」と言われてしまう、困った課題となっていた。

 筆者が所有している海外メーカー製の安い10Gbps対応スイッチ(8ポート)も、電源を入れた直後から「ふぉぉ~」という感じの低い音が常に響くのがイヤで、10Gbpsのテストをするとき以外は使っていない状況だった。

 その一方で、ファンレスの製品については、Amazon.co.jpなどのユーザー評価が若干過剰と思えるほど厳しい状況となっている。本製品もそうだが(後述するように、ファンを搭載してはいるが基本的には筐体から放熱を行うようになっている)、筐体で放熱するタイプの製品であれば、設計上、ある程度の発熱は織り込み済みとなっている。しかし、それを超えていると判断されるケースもあるようだ。

 そんな中、登場したのが、今回の「LXW-10G5」だ。

 最大の特徴は、放熱性に優れる金属筐体の採用に加え、環境温度や負荷に合わせて回転数を制御する「スマート冷却ファン」が搭載されている点だ。

側面にファンを搭載。通常時は無回転で、環境温度などに応じて回転数を制御する

 本製品登場時、筆者も不覚にも「ファンありかぁ」と一瞬、残念に思ってしまったが、前述した海外製スイッチのような常時回転するファンではない。通常時は無回転で、環境温度などに応じて回転数を制御し、冷却と静音性を両立させることができる機構となっている。

 本製品も高い負荷を長時間かければ、筐体はかなり熱くなる。しかし、家庭での利用であれば、不安になるほど熱くなることはないし、ほぼファンの音を聞く機会はないのではないかと思われる。しかし、安定性に影響が出るような温度になればファンによる冷却を併用でき、安定性が確保されるのが、本製品の特徴となる。

ファン搭載でも同サイズ? なぜ大きくならない!?

 じゃあ、実際に動作音はどうなの? と気になる人も多いかと思うが、まずは、サイズのことから語らせてほしい。

 本製品は、10Gbps対応のスイッチとしては小さい。最初、箱から取り出して、間違ったモデルが届いたのかと思ったほどコンパクトだ。

 仕様では180×34×145mmとなっており、同社製の「LXW-10G2/2G4」(10Gps×2+2.5Gbps×4の6ポート、ファンレス)が180×33×151mmであるのとと比べても、幅は一緒、奥行きが10mm小さい。競合となるファンレス製品と比べても、サイズがひと回り小さくなっているわけだ。

正面
側面
背面
コンパクトなサイズ

 側面を見ると、しっかりファンが付いている。なのに幅は従来モデルと一緒? これって地味にスゴくないか? と驚いた。要するに「ファンを付けるから、ファンの分だけサイズが大きくなるのは仕方がない」という話になっていないわけだ。こういうコダワリは、実に同社らしいなあと思う。

 ポートの配置も工夫されており、片側(背面側)にポートと電源がまとめられているおかげで、LANケーブルや電源ケーブルをまとめやすいようになっている。

 また、ポートの状態を示すLEDが、ポートの上ではなく、前面パネル側に分けて配置されているのも特徴的だ。

 実際に設置する状況を考えると、ポートにケーブルをつなぎやすくするために、背面側を前に、前面側(LED側)を後ろに配置することになる。リンクの状態が見にくいと感じる人もいそうだが、家庭で利用する際は、この配置は悪くない。

 というのも、LEDが壁側になるため、夜間などに気になりにくくなるためだ。従来モデル(LXW-10G2/2G4)にあった「LED ON/OFF」ボタンが省かれているのが、本製品では最も残念なポイントだが、その代わりなのか、LEDが目立たないように工夫されている点は評価したい。

利用時は、こちらが正面になり、LEDがある方は壁際などの後ろになるため、LEDが目立たない

 このほか、地味な点だが、本製品の同梱品には、結構強力なマグネットが4つ含まれている。従来モデルもそうだったが、このサイズの製品では、スチールラックやデスクの側面に貼り付けて利用するというケースも想定されており、それに対応するためのマグネットとなる。製品がどこに設置されるか、しっかりと調査されていることにも感心させられた。

付属のマグネットは結構強力。側面などに貼り付けて利用することもできそう

室温30℃、本体温度45℃でもファンは回転せず

 され、本題となるファンの話に入ろう。結論から言えば、本誌品は熱対策や静音性対策がかなり充実している。

 まず、低負荷時の状態だが、10Gbpsや2.5Gbpsで複数台のPCを接続し、ウェブ閲覧や動画再生などの一般的な利用をしたケースでは、本体温度は39℃前後(気温28℃)だった。室温などにも左右され、涼しいと37~38℃くらいのケースもあるが、通常時はほんのり温かい程度で、もちろんファンも回転してない状態となっている。

低負荷時はほんのりあたたかい程度。ファンも無回転。左下の計測機器が騒音計で、右下が温度計。温度計は本体上部、ヒートシンクの上あたりの温度を計測している

 次に、同じ環境で2台のPCでiPerf3による10Gbps通信(上りと下りをそれぞれ同時通信)を発生させ、さらに2.5Gbpsで接続したPCと10Gbpsで接続したルーター間で動画配信を視聴するという状況を用意し、1時間ほど連続して負荷をかけながら、騒音と温度を計測してみた。

 動作環境としてはそれほど過酷ではない状況だが、結果は次の通りになった。騒音は37.2dBA(目安として、40dBAが図書館程度の騒音レベルとされる)、本体上部の温度は43.9℃となった。

 本体からの音はほぼなく(部屋の生活音のみ)で、ファンを確認したところ、回転していなかった。基本的に筐体から熱を逃がすことを優先し、ファンはもっと過酷な状況にならないと回転しないようだ。

LXW-10G5のテストの様子。温度は40℃を超えたが、負荷や室温が閾値に達していないからかファンは無回転のままだった

 ちなみに、同程度の室温で同じテストを海外製の格安スイッチで実施した際の結果は以下の通りだ。こちらは、ファンが常時回転しているおかげで本体温度は30℃前後で安定するが、騒音は51.4dBAと大きい。

海外製の低価格10Gbpsスイッチでの検証結果。温度は低いが騒音がかなり高い

 バッファローのウェブサイトに公開されている方法によると、環境温度と負荷に応じて回転数を制御するようになっているようで、ファン最大回転時の騒音レベルは環境温度が30℃の場合で10.2dBA、40℃の場合で37.9dBAとなっている。

製品情報ページに掲載されているスマート冷却ファンの動作状況

 今回は、本体の温度は40℃越えとなったが、環境温度としては27〜28℃だったので、まだファンが回転する必要のある温度に達していないと判断されているのだと考えられる。

現実的ではない過酷な環境で、ファンを回すテスト

 ファンの動作状況を確認したかったので、もう少し過酷な状況を再現してみた。

 撮影用のライトを複数台照らして、もう少し過酷な環境でテストしたのが下図の状況だ。室温は30℃になり、さらに1時間(合計2時間)かけて負荷をかけた結果、本体温度が48.3℃まで上昇することを確認できた。

 ここまで熱くなると、場所によっては、長時間触れられないほど本体が熱くなるが、やっぱり、ファンは回転しなかった。

 熱いか熱くないかと言われれば、熱いが、それは筐体から放熱できている証拠であり(個人的には、熱くならない方が放熱に問題ありそうなので逆に不安になる)、システムの安定性に影響するほどでないという判断になる。バッファローによると「設計上の閾値を超えない限り、ファンは回転しない」ので、これくらいの温度であれば動作に影響はないと考えてよさそうだ。

さらに負荷をかけた状況でもファンは回転しなかった

 どうしてもファンが回転する状況を確認したかったので、無理やり過酷な状況を用意して検証してみた。こちらは、あまり真似してほしくない状況なので、騒音計と温度計の写真のみ掲載する。

本体温度67.8℃の状況で、ファンが高速回転することを確認。騒音は60dBA前後。フル回転よりも少し遅い

 温度が上がるまで時間がかかったため、気づいたときにはファンが回転していたのだが、さすがに本体表面(上部)が67.8℃まで上昇すると冷却が必要になるようだ。おそらく、チップの温度が80℃前後になるとファンが回転するのではないかと予想される。

 もちろん、本体はかなり熱く、素手で持つのは危険なほどになる。しかしながら、この状況でも、動作が不安定になるようなことはなかった。

 バッファローに問い合わせたところ、閾値は明らかにしてもらえなかったが、「ファンが回転するような温度域であっても、チップも、製品も問題なく動作するように設計している」ということだ。

 素人視点では、「さわれないほど熱くなる」ことで、安定性や製品寿命に不安を覚えるが、製品としての安定性や同社が想定する製品寿命への影響は、さほど心配しなくていいと言えそうだ。

 ちなみに、ファンがフル回転したときの音は、電源オン時に体験できる。電源ケーブルを接続すると、初期化の際に、「ふぃぃぃ」という感じで、一定時間ファンがフル回転する。小型かつ高回転に対応できるファンなので、音は高く、かなり大きい。計測してみると、70dBAを超えるので、正直、うるさい。

 そもそも通気性がよく、温度も上がりにくい場所に設置することをおすすめするが、一般的な使い方であればファンの音を耳にするは1回のみだろう。仮に過酷な環境でファンが回転したとしても、フル回転するわけではないし、強力なファンのおかげであっというまに温度が下がるので、常時ファンの音に悩まされることはない。

電源オン時の測定結果。フル回転すると、かなり大きな音になるが起動時のみ

「価格」は納得も……

 というわけで、バッファローの新型10Gbps対応5ポートスイッチ「LXW-10G5」を実際に試してみたが、現代10Gbpsスイッチの抱える3つの課題のうち、「騒音」と「発熱」という2つを解決する製品となっている。

 もちろん過酷な環境で高負荷をかければ高熱になるが、それは放熱できている証だし、設計上の想定内に収まる範囲内となる。一般的な家庭なら、高くなったとしても表面温度が50℃前後となるので、設置場所にさえ配慮すれば実質的に心配ないだろう。しかも、本製品には、最終手段としてのファンも用意されているので、仮に過酷な環境で温度が上がったとしても安定性を確保できる。

 というわけで、個人的には、現状の10Gbps対応スイッチとしては、性能や品質的に文句のない製品で、おすすめを聞かれたときの第一候補として挙げることができる製品だ。小型の10Gbpsスイッチとしては、この製品が今後のベンチマークになるだろう。

 ただし、「価格」に関しては、5ポートということを考えると、実売で3万5000円前後と決して安くはない。いや、競合と比べても妥当な価格設定で、「騒音」と「発熱」の問題をクリアしている付加価値を考えれば、十分にお買い得だと思うが、絶対的な金額として3万円を超えると、まだまだ誰もが気軽に購入できるとまでは言い難い価格だ。

 次は、各メーカーに取材した際に、「静か」で「もう少し安い」製品を出してほしいとお願いして回ることにしよう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中