第379回:USB機器をLAN上で手軽に共有
アイ・オー・データ機器「ETG-DS/US」


 「ETG-DS/US」は、アイ・オー・データ機器が発売したUSB機器をLANで手軽に共有できるUSBデバイスサーバーだ。今回は、HDDやBlu-rayドライブはもちろんのこと、地上デジタル放送チューナーやワンセグチューナー、USBメモリーなど、さまざまな機器を実際につないで試してみた。

隠れたヒット商品


アイ・オー・データ機器のUSBデバイスサーバー「ETG-DS/US」。USB機器をLAN経由で共有利用できる

 アイ・オー・データ機器から発売された「ETG-DS/US」の売れ行きが好調なようだ。「ETG-DS/US」は、USB機器をLAN上で共有できる製品だ。

 2009年12月に発売された製品だが、対応する機器の豊富さと手頃な価格設定から評価を得ているようで、2010年2月現在でも店頭などでは品切れの状態となっているようだ。アイ・オーのWebサイトによれば、受注再開のめどは3月中旬となっているので、入手できるようになるまでには、もうしばらく時間がかかりそうな印象だ。

 ネットワーク機器は、製品の性格上、入手が困難になるケースはあまりないのだが、本製品は久しぶりに登場した隠れたヒット商品と言ったところだろう。

豊富な機器を接続可能


本体正面

 「ETG-DS/US」が支持を集めている要因は、なんといっても対応する機器の豊富さだろう。USB機器をLAN共有できる製品は、以前から発売されていたが、これまでの製品で対応しているのはプリンターやストレージ程度だった。

 これに対して本製品では、プリンターやHDD、USBメモリー、光学ドライブはもちろんのこと、ICカードリーダーやWebカメラ、グラフィックボード、テレビキャプチャー、iPod/iPhone、Bluetooth対応製品など、実にさまざまな機器の共有に対応している。

 本製品ではUSB機器自体に対してLAN経由で接続できるため、本製品に接続したUSB機器を、ローカル環境で接続しているのとまったく同じ感覚で利用することが可能になっている。言うなれば、仮想USBのような存在と考えるとわかりやすいだろう。

 これにより、これまでのUSBデバイスサーバーでは利用できなかった外付けグラフィックボードやテレビキャプチャー製品までも利用できるというわけだ。もちろん、あらゆる機器を接続できるわけではないが、アイ・オー社製の製品であれば多数の製品が対応している(動作確認済みページはこちら)。


右側面左側面

帯域を考慮した使い方が必要

 使用法は非常に簡単だ。基本的に本体設定は不要で、本体側面のLANポートにLANケーブルを接続。反対側に備えたUSBポートに共有したいUSB機器を接続する。

 そして、USB機器を利用したいPCにインストールした製品付属のアプリケーション「net.USBクライアント」を起動すると、「ETG-DS/US」に接続したUSB機器が一覧表示される。ここからつなぎたい機器を選べば、ローカルのUSBポートに接続した場合と同様にOS上で機器が認識される。その上で、必要に応じてドライバーやアプリケーションをインストールすれば、USB機器をLAN経由で利用できるというわけだ。


「ETG-DS/US」をLAN接続し、USBポートに機器を接続する。設定などは特に必要ない機器を利用したいPCに「net.USBクライアント」をインストール。一覧から機器を選んで接続すると、ローカルに接続されたときと同じように認識される

 まずはストレージを接続して、パフォーマンスを検証してみた。以下のグラフは、同じくアイ・オー・データ機器製のUSB接続型HDDをPCに直接接続した場合(ローカル)と、「ETG-DS/US」に接続した場合の速度を比較したものだ。


グラフ1
テスト環境、HDD:アイ・オー・データ機器「HDCR-U500」、PC:富士通「LOOX R/A70(Core2Duo SL7100/RAM4GB/OCZ Vertex 120GB/Windows 7 Ultimate 32bit)」、1000BASE-T接続、単位:MB/s

 「ETG-DS/US」のLANポートは、ギガビットイーサネットに対応しているため、ネットワーク的には高速な転送が可能だが、さすがにローカル接続と比較するとパフォーマンスは落ちる。このため、大きなファイルをコピーするとさすがに時間がかかる。ストレージに関しては、NASの方が機能的にも豊富であり、パフォーマンスや安定性の点でも有利なので、一時的なファイルコピーなどの用途などに限られそうだ。

 続いて、同じくHDDを接続した状態で有線LANと無線LANでのパフォーマンスを比較した。有線LANは1000BASE-T、無線LANはIEEE 802.11n(5GHz/300Mbps)を利用して、アクセスポイントから3m前後の近距離で計測している。


グラフ2
テスト環境、HDD:アイ・オー・データ機器「HDCR-U500」、PC:富士通「LOOX R/A70(Core2Duo SL7100/RAM4GB/OCZ Vertex 120GB/Windows 7 Ultimate 32bit)」、単位:MB/s

 この結果からもわかるとおり、無線LANで利用した場合のパフォーマンスはかなり落ちる。前述のように、ストレージを共有するにはあまり向いていないが、この結果から高い帯域を要求するUSB機器の利用も無線LANでは難しいことがよくわかる。

 プロトコルなどの違いがあるため、単純な計算だけでは判断できないが、シーケンシャルリードの2.677MB/sをビットレートに換算すると21Mbps前後となる。詳しくは後述するが、地上デジタル放送などの映像伝送となるとかなり厳しい印象だ。

 無線LAN環境で利用すれば、USB機器のワイヤレス化ができるわけだが、上記のような使い方をする場合は、利用する機器の帯域、そして無線LANの実効速度をじゅうぶんに考慮する必要があるだろう。

 また、パフォーマンスという点では同時利用時のボトルネックも考慮する必要がありそうだ。「ETG-DS/US」に、ワンセグチューナー「GV-SC400」とUSB接続型HDD「HDCR-U500」を接続し、1000BASE-Tで接続した2台のPCのうち、1台でワンセグを視聴しながら、もう1台で速度を計測してみた。


グラフ3
テスト環境、HDD:アイ・オー・データ機器「HDCR-U500」、PC:富士通「LOOX R/A70(Core2Duo SL7100/RAM4GB/OCZ Vertex 120GB/Windows 7 Ultimate 32bit)」、単位:MB/s

 結果はご覧のとおりで、読み込み速度も低下するが、書き込み速度がかなり低下する傾向が見られた。もちろん、ワンセグ側もベンチの影響を受け、ブロックノイズがたびたび発生したり、音声が途切れるなどして視聴が困難な状況になった。

 「ETG-DS/US」は、最大で15インターフェイスの機器を利用することが可能となっている。実際に試してみたところ、USBハブを利用することで5台の機器も問題なく接続することができたが、接続した機器を同時に使うとなると、これもきちんと帯域を考慮しないと厳しそうだ。

実際の機器を利用する際の注意点


プリンターやストレージだけでなく、さまざまな機器を接続して利用できる

 このように「ETG-DS/US」を実際に利用する場合は、接続する機器とネットワークの特性をじゅうぶん考慮する必要がある。そこで、いろいろな機器を接続して、実際にどのような環境で、どれくらい使えるのかを実際に試してみた。以下、個別に紹介する。

・デジタル放送チューナー「GV-MC7/VZ」

 Windows 7のMedia Centerに対応した3波チューナー搭載のテレビキャプチャーユニットだ。「ETG-DS/US」で利用する場合、最新のファームウェアとクライアントが必要だが、Media Centerから問題なく認識でき、テレビ放送を視聴できた。

 ただし、「ETG-DS/US」側の仕様により、テレビチューナーを利用するときは単独で接続する必要があるほか(他のUSB機器は外す)、ネットワーク接続も有線LANが推奨されている。Windows 7のMedia Centerの場合、映像をHDDに保存しながら再生するため、無線LAN環境(300Mbps)でも意外にスムーズな再生ができたが、距離が遠くなったり、遮蔽物がある環境では、ブロックノイズの発生や途切れが目立つようになる。無線LANでの利用も不可能ではないが、やはり有線での利用が無難だろう。

・ワンセグチューナー「GV-SC400」

 ドライバーやソフトウェアを別途インストールする必要なく利用できるワンセグチューナー。前述したとおり、他の機器との併用も可能で、有線LAN接続であれば映像もスムーズに再生することができる。

 映像の帯域を考えると無線LANでも問題なく利用できそうだが、IEEE 802.11n環境で試してみたところ、音の途切れなどが若干発生した。正直、ワンセグに関しては、機器も小さいのでローカルに接続した方が効率的な印象だ。


ETG-DS/US経由でチューナーを利用。Windows 7のMedia Centerからも問題なく利用できる。無線LANでの利用も不可能ではないが、おすすめは有線LAN無線LAN経由でUSB-RGB/D2を接続。デュアルモニターでも利用可能

・Blu-rayドライブ「BRP-US6」

 データの書き込みはもちろんのこと、付属のBlu-ray再生ソフトを利用して、Blu-rayも再生できる。DVDビデオに関しては有線/無線LANを問わず、問題なく再生することができた。

 一方、Blu-rayに関しては有線LANでは問題ないものの、無線LANでは再生時間が経過するごとに途切れが目立つようになるため、有線LANでの利用が推奨される。ただし、Blu-rayはPCの性能が低いと、LANの種類の前にローカルでも再生が厳しいので、そもそも環境を選ぶだろう。

・USB接続グラフィックアダプター「USB-RGB/D2」

 USB接続の外付けグラフィックアダプター。LAN経由で使うとなると、プレゼンや店舗などのディスプレイ利用などと用途が限られるが、これも問題なく「ETG-DS/US」経由で利用が可能だった。ただし、無線LAN経由の場合、操作と画面上の表示のタイムラグが発生するため、実用的とは言い難い。


デュアルモニター時の操作の様子。タイムラグが発生する

 このほか、USBメモリーやUSB接続型HDDなども特に問題なく利用できたほか、iPod touchもLAN経由で接続できた。また、PDA製品は「ETG-DS/US」経由の利用が便利かもしれない。普段はUSB経由で常に充電できるし、同期したい場合にだけ、「net.USBクライアント」を使って接続すればいい。今後もスマートフォン製品が多数登場してくることを考えると、ローカルでの接続より便利かもしれないという印象を受けた。

ドック的な利用やサーバー管理にも使えそう

 以上、「ETG-DS/US」を実際に使ってみたが、確かに品切れになるだけのことある非常に便利な製品だ。つながる機器が豊富なことで、その用途もいろいろ考えられる。例えば、ノートPCのドック的に、キーボードやマウス、ディスプレイなどの機器をLAN経由でつないで利用するのも便利だろう。また、サーバーの管理や仮想環境での利用も面白い。

 試しに、Windows Home Serverに「net.USBクライアント」をインストールしてみたが、これによってサーバーをクローゼットなど離れた場所に設置している場合でも、リモートデスクトップ経由で、手元の「ETG-DS/US」で、USBメモリーを差し替えながらファイルをコピーしたり、光学ドライブに何枚ものメディアを入れ替えながらデータを読み込むなどの作業ができた。リモートデスクトップでもドライブをリソースとして利用可能だが、ETG-DS/USなら他のUSB機器への活用可能だ。


Windows Home Serverにインストール。リモートデスクトップで使えば、サーバーで手元のUSB機器を利用できるHyper-Vによる仮想環境でも利用可能。サーバー上の仮想デスクトップ環境でも手元にETG-DS/USがあればUSB機器を利用できる

 また、「Hyper-V」による仮想環境での動作も確認できた。Hyper-V上のWindows 7に「net.USBクライアント」をインストールしておけば、「ETG-DS/US」を仮想デスクトップの物理USBポートとして利用できる。これもなかなか使い道が広がりそうな用途と言えそうだ。

 「ETG-DS/US」は、単にUSB機器をLAN上で共有するだけではなく、そこから広がる用途がいくつも考えられる非常に面白い製品だ。価格も7000円前後と手頃なので、1台持っておくと、いろいろ遊べるだろう。


関連情報



2010/2/16 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。