清水理史の「イニシャルB」
4ストリームMIMO対応で1733Mbps+800Mbpsを実現 もちろんアンテナ内蔵の「Aterm WG2600HP」
(2015/6/22 06:00)
NECプラットフォームズから、4ストリームMIMOに対応したIEEE 802.11ac準拠の無線LANルーター「Aterm WG2600HP」が発売された。4ストリームであっても、Atermシリーズならではのアンテナ内蔵にこだわった製品だが、UIの変更など、さまざまな点が変更された新世代のAtermとなっている。その実力を検証してみた。
最新技術によって支えられた適切なサイズ
いくら速くても、このサイズはちょっと……。
そんな思いで、今まで4ストリームMIMO対応のIEEE 802.11ac無線LANルーターの購入を見送ってきた人にとって、今回のNECプラットフォームズの「Aterm WG2600HP」の登場は、まさに待ってましたと言ったところだろう。
さすがに、3ストリーム対応の従来モデルと並べると、少々、ふくよかな印象はあるものの、他社製の4ストリーム対応機の半分ほどとなるサイズは、十分にコンパクトで設置場所にまったく困らない。
これ以上、無線LANルーターが大きくなることは、さすがに海外メーカーも望まないだろうが、リビングや書斎など、家庭内に設置することを考えると、やはり、今回のAterm WG2600HPくらいのサイズはありがたいところだ。
サイズだけでなく、この筐体は実用性も高い。本体の台座の部分が取り外し可能となっており、前面側の「足」を上部に付け替えることで、横置きにも対応する。
そのままでは、上部に取り付ける場所がないが、よく見るとスライド式のカバーになっており、これを取り外して足を取り付け、カバーはそのまま下部の足を取り外したスペースに取り付けられるようになっている。
正直、通信機器にここまでこだわる必要はないのだが、どうせやるならというあたりが実にAtermシリーズらしい。
コダワリは、もちろんアンテナにもある。前述したように、本製品は最大1733Mbpsの通信が可能な4ストリームMIMO対応製品だ。4系統の通信を空間中で多重化する必要があるため、アンテナが4本必要になる。
先行して発売されているASUSのRT-AC87U、ネットギアのR7500、発売日としては後になるがバッファローのWXR-2533DHPなど、他社製の4ストリームMIMO対応機は、いずれも巨大なアンテナが本体から4本突き出ているが、このAterm WG2600HPにはそれがない。
もちろん、アンテナが存在しないわけではなく、本体内に内蔵されているのだ。Atermシリーズでは、従来モデルからμSRアンテナと呼ばれる小型のアンテナを採用してきたが、今回のモデルでも同様にμSRアンテナを、本体上部側に1本、側面側に2本搭載している。
これだけでは、3本で1本足りないが、上部と側面の間の角の部分に90度角度を変えた状態で、ピン・ダイポールアンテナを立てることで、さまざまな面をカバーする4本のアンテナを実装した。
また、各アンテナの中間に、アイソレーションアンテナを設置することで、アンテナ間の干渉も抑制する設計となっており、同社いわく実効スループットで約20%アップも見込める利得の向上を実現しているという。
以前、本コラムでバッファローのWXR-2533DHPの開発者インタビューを掲載したが、他社はパフォーマンスを優先する目的でアンテナを外出しすることを選ぶ中、あくまでも内蔵にコダワリながら、製品を進化させてきたことになる。もはや、NECプラットフォームズとしての意地といったところだろう。
MU-MIMOに対応
スペックに関しても、フラッグシップモデルらしく欠点が少ない。無線LANの速度は、前述した通り、5GHz帯が1733Mbpsとなっているが、2.4GHz帯も最大800Mbpsとこちらも4ストリーム対応となっている。
とは言え、2.4GHz帯に関しては、もはや混雑で使い物にならないケースもあるので、この引き上げは、実用上はさほどメリットはなさそうだ。
無線LANの機能としては、このほか、特定の端末対して電波を調整して速度を向上させるビームフォーミングに対応しているうえ、複数台のIEEE 802.11ac対応端末で同時通信が可能なMU-MIMOにも対応する。非MU-MIMOではどれか一台が通信中は他の端末が待機する必要があるが、MU-MIMOであれば複数台の端末が、他の端末の通信終了を待つことなく同時に通信できる。
MU-MIMOの利用には、対応クライアントが必須(混在可能だが遅くなる)で、現状はシャープの最新のスマートフォンAQUOSシリーズなど一部しか存在しないが、今後、MU-MIMO対応機器が増えてくれば、この恩恵が受けられることは非常に大きい。
なお、本製品は4ストリームMIMO対応だが、MU-MIMOでの通信には制御用に1ストリーム分の通信を利用するため、同時通信可能な機器は433Mbps対応機で3台、もしくは433Mbps×1+867Mbps×1という組み合わせまでとなる。
ちなみに、余談だが、MU-MIMOのロゴとして、「MU」という文字が丸で囲まれたロゴが使われているが、これはQalcommのMU-MIMO対応製品ブランドに使われているロゴだ。Aterm WG2600HPの製品情報ページにも「Qalcomm MU」についての記載があることからも分かる通り、本製品で採用されているのはQualcomm Atheros製のチップとなる(型番非公開)。
ユーザーインターフェイスも一新
Atermシリーズの新世代モデルとなるAterm WG2600では、設定画面のユーザーインターフェイスも刷新されている。
トップページにインターネット接続などの現在の状況と基本設定などの最低限の設定項目のみが表示され、洗練されたイメージのデザインとなっている。PCだけでなく、スマートフォンからの設定も考慮さたレスポンシブデザインとなっており、PC上でブラウザの横幅を縮めれば、自動的に画面上の要素が再配置される。各項目の文字やアイコン(スイッチ)も大きく、操作しやすい。
比較的、よくできたデザインと言えるが、個人的には画面遷移が多くなる点が気になった。例えば、無線LANのSSIDを標準から変更しようとした場合、2.4GHz側を設定後、ホーム画面に戻り、今度は5GHz側の設定画面を開くといったように、ホーム画面に戻るという操作が多くなりがちだ。
もちろん通常は、設定画面で頻繁に設定を変更する機会は多くないのだが、目的の設定項目が見つからない場合などは、ページの行き来が多くなって、少々、ストレスを感じてしまう。
同様に、手軽さを重視するあまり、詳細な設定が隠されている点も気になった。もちろん、めったに変更することはない項目は、隠されていた方がわかりやすいのだが、USB設定などは、毎回ホーム画面の「詳細な項目を表示」をクリックしなければならない。同様の「詳細な項目を表示」というアイコンは、あらゆる部分にあり、何の設定があるのかを確認するためだけでもクリックしなければならないのが意外に面倒だ。
個人的に、改善を望みたいのは、設定画面の認証が不要になった点だ。ルーターの管理者パスワードの重要性が問われる中、これまでかたくなに初期設定でオリジナルパスワードを強制設定させてきたNECプラットフォームズが、まさか、時代を逆行する形で、認証なしも可能にするとは思わなかった。
もちろんウィザード形式で設定すれば、従来通り、パスワードの設定画面が表示されるのだが、これはスキップ可能となっており、多くの人が認証なしで使ってしまう可能性がある。見た目のいいUIではあるが、個人的には、これらの理由から、あまり好きになれない。
パフォーマンスも不満なし
恐らく、多くの利用者がAtermシリーズに求めるものが、「安定性」や「使いやすさ」、そしてアンテナ内蔵の「デザイン」であることを考えると、パフォーマンスに関しては、一定レベルが実現されていれば、飛び抜けて高くなくてもいいとは言える。
そういった意味では、パフォーマンスに関しては不満のないレベルにあると言っていいだろう。
以下は、木造3階建ての筆者宅の1階に親機側のAterm WG2600HPを設置し、各階でのiPerfの速度を測定した結果だ。以前に本コラムで計測したRT-AC87U(4x4/1733Mbps)とRT-AC68U(3x3/1300Mbps)の結果も掲載するが、これらは計測日や環境が若干異なるため、あくまでも参考として考えてほしい。
1F | 2F | 3F | ||
Aterm WG2600HP | Aterm WG2600HP | 873 | 567 | 352 |
MacBook Air | 630 | 305 | 172 | |
Galaxy S5 | 381 | 287 | 168 | |
RT-AC87U | EA-AC87 | 917 | 721 | 494 |
RT-AC68U | EA-AC87 | 529 | 351 | 296 |
MacBook Air | 345 | 181 | 85.1 | |
GALAXY S5 | 364 | 247 | 192 |
- ※サーバー:Intel NUC DC3217IYE
- ※クライアント:Apple Mac Book Air 11 2013
- ※サーバー側:iperf -s、クライアント側:iperf -c [IP] -t10 -i1 -P3
まずは、子機にもAterm WG2600HPを利用した場合の1733Mbpsの結果だが、同一フロア(1階)で873Mbpsとなっている。LAN側の有線が1000Mbpsとなるため、ほぼこの上限に達していると考えていいだろう。長距離に関しても、2階で567Mbps、3階で352Mbpsとなった。さすがに4ストリームMIMO同士の通信は速い。
ただし、同じ1733MbpsのASUS RT-AC87U+EA-AC87に比べると、若干、値が低い。3ストリームMIMOの1300Mbps機(ASUS RT-AC68U)よりは速いが、ライバル製品と比べると、若干、物足りない印象がある。
ライバル製品に比べてパフォーマンスが若干低い、というよりは、他社製品が必要以上にパフォーマンス重視の方向性で製品を開発しているという印象ではあるが、比べてしまうと、少々、残念だ。
とは言え、MacBook AirやGalaxy S5(どちらも867Mbps)の結果を見ると、3ストリームMIMOのRT-AC68Uに比べて、おおむね高くなっており、3ストリーム機に比べて明らかなアドバンテージは確保できている。
IEEE 802.11n環境からの移行はもちろんだが、3ストリームや2ストリーム対応機など、廉価版のIEEE 802.11ac機からの移行もメリットはあると言えそうだ。
なお、ビームフォーミングの関係か、起動直後などに半分程度の速度しか出ない場合があったが、しばらく測定を繰り返すと安定してくるので、今回は、安定したタイミングでの速度を示している。
USBストレージ共有も可能
最近では、LAN内でのファイル共有にルーターを利用するユーザーも少なくない。確かに、大量のデータを保存したり、高速にアクセスできる必要がなければ、高価なNASよりも、ルーターを利用する方が効率的だ。
Aterm WG2600HPも、本体にUSB 3.0ポートが搭載されており、ここにUSBメモリやUSBハードディスクを接続することで手軽にファイルを共有できる。
設定は特に必要なく、USBポートにストレージを接続すれば、PCから「\\192.168.1.1」でファイル共有ができるうえ、メディアサーバー機能も標準でオンになっているため、USBストレージに写真などが保存されている場合は、DLNA対応テレビなどからも参照することができる。
パフォーマンスも良好だ。以下は、ネットワーク上のPC(有線LAN接続)から、USB3.0で接続したSSD(Crucial MX100 512GB)に対して、Crystal Disk Mark 4.0.3を実行した結果だ。比較対象として、同じSSDをPCにUSB 2.0、およびUSB 3.0で直接接続した際の値も掲載する。
最近では2ベイクラスのNASでもシーケンシャルで100MB/sを超えるため、そこまでの実力はないものの、リードの性能はUSB 2.0でPCに直結した場合とほぼ同等かそれ以上で、書き込みとランダムアクセスが若干、遅い程度となる。複数機器で使える外付けハードディスクと考えれば、十分な性能と言えるだろう。
また、WebベースのUIも利用可能となっており、「http://192.168.1.1:15789」とポート15789を利用してアクセスすることで、ブラウザ経由でUSBストレージ内のデータにアクセスすることができる。残念ながら、ダウンロードとアップロードのみで、ファイルを直接開くことはできないが、スマートフォンなどでもデータをダウンロードできるようになる。
このあたりは、まだまだ改善の余地はありそうだが、スピードと最低限のファイル共有に関しては、それなりに実用的になったと言えそうだ。
なお、通常の消費電力はワットチェッカーで8W前後。バスパワーのSSD装着時で9W前後、同じくバスパワーのHDD接続時で13W前後となった。
1733Mbps対応のスタンダード機
以上、NECプラットフォームズの「Aterm WG2600HP」を実際に使ってみたが、ハードウェア、ソフトウェアともにしっかりと作り込まれた製品と言えそうだ。
性能や機能には、他社を圧倒するような飛び抜けた部分はないが、4ストリームMIMO機としてはコンパクトな筐体に必要な性能と機能が詰め込まれており、非常に実用性が高い製品となっている。
もちろん、NECプラットフォームズ製品ならではの使いやすさとして、NFCやQRコードによる設定などもサポートされている。
個人的には、前述したように、新UIで画面の遷移が多い点、管理者パスワードがスキップできる点、さらにはコンバーターモードとして利用することはできるものの中継機機能が搭載されない点が残念だが、マニアックな製品になりがちな4ストリームMIMO対応機を誰もが使えるレベルに仕上げたという点では、高く評価できる製品だ。派手さはないが、誰にでもオススメできるモデルと言えるだろう。