10代のネット利用を追う

子ども向けポータルサイト3社の考える「子どもとインターネットの未来」

 「Yahoo!きっず」「キッズgoo」「キッズ@nifty」によるイベント「『子どもとインターネットの未来』ミートアップ2016」が11月に都内で開催された。国内の子ども向けポータルサイト3社が一堂に会した貴重な機会となった当日の模様をレポートしたい。

「Yahoo!きっず」は子どもがコミュニケーションする場も提供

 まず、総務省総合通信基盤局消費者行政第二課の湯本博信氏のあいさつからスタート。湯本氏は、「一方では子どものネット利用を制限せよ、もう一方では情報教育を進めろと言われる。教える側も高齢化している」と、教育現場の問題に言及。「実際にどう教えればいいのか、どのような悩みを持っているのかを共有するこのような機会は貴重」とした。

総務省総合通信基盤局消費者行政第二課の湯本博信氏

 次に、「『子ども向けポータルサイト』が考える、子どもとネットの未来」と題して、3社によるパネルディスカッションが行われた。パネリストは、ヤフー株式会社コーポレート統括本部公共サービス事業本部(Yahoo!きっずサービスマネージャー)の磯野奈緒美氏、NTTレゾナント株式会社WEBプロデューサースペシャリスト(キッズgoo)の高橋紀久子氏、ニフティ株式会社ブランドデザイン部(キッズ@nifty)の杉村晴美氏。モデレーターは、ニフティ株式会社ブランドデザイン部部長の瀬津勇人氏が務めた。

 最初に発表したのは、Yahoo!きっずの磯野氏。「Yahoo!きっずは、“アップデートJAPAN”を掲げている」という。Yahoo!きっずは、Yahoo! JAPANが誕生した翌年の1997年11月に始まった古いサービスだ。「子どもがインターネットを使うときの窓口になりたい」と考えてスタートした。当時から変わるものと変わらないものがある。変わらない点は、子ども向けの検索として子どもにとって有益な情報のみが出る点。変わった点は、スマートフォンやタブレットでも使いやすくなった点などが挙げられる。

 Yahoo!きっずのビジョンは“アップデート子ども”。最近は、「Yahoo!きっずボイス」などの、子どもが考えや作品を発表する場を作っている。これは、Yahoo!きっず内で子どもたち同士がコミュニケーションできる場だ。投稿時に情報モラルに関する抜き打ちテストが表示され、合格しないと投稿できない仕組みになっている。違反すると投稿は非公開となった上、どこが、なぜいけなかったのかという説明を受けることができる。

 ヤフーの執行役員の子どもが毎日パソコンでYahoo!きっずボイスを見ていた。ところが、奥さんがそれを見て「Yahoo!が怪しい掲示板をやっている」と勘違いし、執行役員が叱られ、その結果、担当者が叱られる事態となってしまったというエピソードを紹介。「いいものを作っても、大人が使わせたいと思わなければ使わせてもらえないことがある。大人に届けることも大事」とまとめた。

ヤフー株式会社コーポレート統括本部公共サービス事業本部の磯野奈緒美氏

先生にも使われる「キッズgoo」、子ども同士が相談できる「キッズ@nifty」

 続いて、キッズgoo、キッズ@niftyの発表。キッズgooの高橋氏によると、「キッズgooはフィルタリング機能搭載検索エンジンであり、役立つサイトをリスト化して提供している」という。gooが生まれて20年、キッズgooが生まれてからは15年になる。

NTTレゾナント株式会社WEBプロデューサースペシャリストの高橋紀久子氏
ニフティ株式会社ブランドデザイン部の杉村晴美氏

 学習ゲームが人気コンテンツであり、学校でも使ってもらえるようなゲームを提供している。夏休みの学習などに活用できるように図鑑コンテンツも充実。学校で教材の1つとして使ってもっているという。インターネットのルールとマナーを絵本にしているほか、先生のためのコーナーが充実しており、先生のためのリンク集やプリントを作成するためのツール・素材も用意されている。

 キッズ@niftyの杉村氏によると、キッズ@niftyは提供開始から15年目。子ども同士で相談・回答できるコーナー「キッズなんでも相談コーナー」には、74万件の相談と170万件の回答が寄せられている。投稿内容は24時間365日チェックしている。

 「震災時に相談に載ってくれて感動した」という声が寄せられたこともあるし、「ドッヂボールはいじめの温床だからなくすべき」というニュースに対して反対・賛成で盛り上がったこともある。ブラジャーや生理など親に相談できない悩みを相談する例も多いため、ワコールなどに協賛してもらったことがある。

 「投稿のありなしを判断するのは難しいが、なるべく子どもの声を載せたいと考えている。ただし、個人情報を出すのはなしだし、あまりに相手を傷つける投稿などは出さなかったり修正したりしている。」

「使っている」という声が一番うれしい

 この後は質問タイムに突入。瀬津氏の「サービスをやっていてうれしいときは?」という質問に対して、Yahoo!きっずの磯野氏は「実際に使っている声を聞いたときにやっていてよかったと思う。大好きとか言われると本当にうれしい」と回答。ヤフーは子ども向けのイベントに出展したり、子ども向けワークショップをしているため、そのようなときに聞くそうだ。

ニフティ株式会社ブランドデザイン部部長の瀬津勇人氏

 キッズ@niftyの杉村氏も「好きと言われるとうれしい」と回答。「イベントで小学生に使ってもらったときなどに、『実際に使っている』と聞いてうれしかった」。続いて、「キッズgooを活用して環境問題や昆虫の生態などをまとめて発表するコンテストをしたことがある」と、キッズgooの高橋氏。「キッズgooだけでなく、図書館や役所に行ったりもして、うまく使っているなと思った。調べた内容だけでなく、内容が付加されていた」と、使いこなしている子どもの例を紹介した。

 Yahoo!きっずの磯野氏は、ユーザーに叱られた体験を紹介。「“今日の占い”だけでなく、明日と昨日の占いをやっていたがやめたことがある。お問い合わせフォームから『ラッキーカラーを見て服の色を決めていたのに、なんでやめるの』という声が寄せられたので、うれしかった」と、使ってくれていることが喜びにつながるとした。

保護者に知ってもらうことも大切

 今後拡充したい内容としては、キッズgooの高橋氏は「タブレットでの学習ゲームを拡充したい」と即答。アプリなど、子どもが自由に持ち運びながらできるコンテンツを充実させたいという考えだ。

 一方、キッズ@niftyの杉村氏は「“なんでも相談”を充実させた上で、子どもの悩みを大人は知らないので、大人に知ってもらう機会を考えていきたい」とした。例えば、自分の子どもが反抗期のときに、なんでも相談で「本当は思ってないのに親に悪く言っちゃう」という悩みが同年代の子どもから投稿されているのを見て、「我が子もそうなのかな」と思った経験があるという。

 Yahoo!きっずの磯野氏は、「リアルの体験に勝るものはない」と考える。「ワークショップを開催すると、その場で体験することが一番いいと感じる。ただし、それでは少人数になってしまうため、Yahoo!きっずとリアルをどうつなげるかが課題」とした。

 その後、スポンサーでもあるワコールが、成長期の女の子向けのサービス「ガールズばでなび」を紹介。同社では、下着教室「ツボミスクール」も行っており、関東・関西地方を中心に10万人以上が参加。会場に来られない遠方の地域にはDVDを渡している。さらに、全体にバストの成長が早くなり、10歳くらいが着け始める必要がある時期となっているというデータを紹介。「子どもの成長が早くなっているので、気付かない親も多い。保護者に理解してもらい、女の子たちに自己肯定感を持ってほしい」とした。

リアルの場で記憶に残したい

 次に、「TED×Kids@chiyoda」でキュレーターを務める青木竜太氏が「TED×Kidsの考える『子どもとインターネット』」というテーマで登壇した。「TED」のライセンスを借りて、ボランティアでキュレーターを務めるという青木氏。TED×Kids@chiyodaのスピーカーは子どもが半分、大人が半分だ。

青木竜太氏

 もともとソフトエンジニアをしていて多忙だった青木氏。「土日もなく毎日終電帰りで、気付いたら朝という毎日がドラッグみたいに楽しかった」。そんなとき身体に変化があり、病院に行って精密検査を受けたところ、医師から「末期のがんの可能性がある。家に戻って2週間ゆっくりして」と告げられてしまう。30歳のときだった。青木氏には2人の子どもがいる。子どもと久しぶりに朝から晩まで遊び、戦いごっこをして夜に寝るとき、「パパといる時間が幸せだ」と子どもから言われた。そのとき青木氏は、「自分は今まで何をやっていたんだろう」と感じたという。がんは、手術と放射線治療で完治した。

 青木氏は、それまでボランティアをやったことがなかった。「何が世界を変えるだ」と、懐疑的だった。でも実際にやってみたところ、みんな本気で世界を変えようとしていた。「TEDには成功者が多いが、自分は違和感を感じた」という青木氏。「子どもにいろいろなことを伝えたい」と感じ、TEDに交渉して子どもを対象としたTEDやをらせてもらえることになった。「やってみて、自分に大きな気付きを与えてくれた」と青木氏。「巻き込んでいって、新しい経験を得て、人に感動させる喜びを覚える。この3つが大切」。

 代表的な例として、遺伝子研究をしている高校生を紹介。彼は、通常なら大学院くらいにならないと研究できない遺伝子研究がどうしてもしたくて、30校くらいの大学に個人で当たったが断られたという経験を持つ。TED×Kids@chiyodaに登壇したところ、使っていいというところが現れて遺伝子研究ができるようになり、その後は大学に行かずに研究に没頭。彼は現在、「MITメディアラボの伊藤穰一さんに呼ばれてリサーチャーとしてMITメディアラボにいる」。登壇によって不可能を可能に変え、夢を叶えた貴重な例だ。

 青木氏は、「ネット時代に小さな規模感でイベントをしているのはなぜか」と言われたことがある。青木氏が考える理由は、簡単に言えば“ネットで流れてくる情報は記憶にとどまらない”からだ。「人の記憶に残すにはストーリーの起伏が大切であり、自分の感情が動くことが必要。リアルな場でストーリーテリングし、リアルに体験したほうが記憶に残りやすいし、大人になっても残り続け、伝えていける」とまとめた。

楽しさを忘れず自分の子ども心を感じてほしい

 最後に、うるまでるびのうるま氏が登場した。うるまでるびは、「ウゴウゴルーガ」のCGアニメーションを担当したり、「おしりかじり虫」などのヒット作を生み出したことで知られる、うるま氏とでるび氏からなるアートユニットだ。

うるまでるびのうるま氏

 YouTubeに「うるまでるびチャンネル」を開設しており、解析結果を公開。それによると、47.1%がスマートフォンから、23%がタブレットからの視聴であり、テレビで見ている割合も13.5%あった。この1年で、テレビでYouTubeを見る人が増えているという。

 うるま氏は自称“おえかきエバンジェリスト”だ。「絵の出来には興味がなく、あくまで試行錯誤が面白い。このことをよく知っているのは子ども」と断言する。ところが、大人になる途中で絵には結果があることに気付いて描くことをやめてしまう子が多い。しかし、「過程が楽しいと分かったら、やめてしまう人も描くかもしれない」と信じて活動を続けている。

 うるま氏は、1977年にコンピューターを初めて知った。家に来たときにうるま氏が感じたことは、「新しい画材が来た」というもの。油絵の具など旧来の画材は人間のほうが慣れなければならないものだが、ソフトウェアのほうから人間に近づいてくれているというわけだ。そこで、お絵かきの過程を楽しめるアプリ「EleFunTo」を作ったり、小学校などで落書きワークショップを行ったりもしている。

 「子どもには良いものを見てほしい。ネット上に世界中の子どもが見られるものを出さなきゃと思っている」とうるま氏は言う。「大人は、子どもが大人のふりをしているだけの生き物。自分の子ども心に耳を傾けてほしい」。

 最後に、Yahoo!きっずの磯野氏、キッズgooの高橋氏、キッズ@niftyの杉村氏たちも舞台へ戻ってきた。キッズgooの高橋氏は「子ども心を忘れずにはキーワード」と述べ、Yahoo!きっずの磯野氏は「会社は競合しているが、担当者同士は仲良しなので、何か一緒にサービスで連携できたら」とまとめた。

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/