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楽しみ方が豊富で、実は奥深い位置情報ゲーム「Ingress」

Ingress
サービス名Ingress
開発会社名Niantic, Inc.
サービス開始2013年11月(正式版)
登録必要
URLhttps://www.ingress.com/

 7月22日、日本でAR(拡張現実)を取り入れた位置情報ゲーム「Pokémon GO」がリリースされました。配信が始まるや、Ingressというゲームにも異変が。「COMM(コム)」と呼ばれるゲーム内のコミュニケーション画面に、新規登録者が大量に発生したのです。

 Pokémon GOをプレーする上で必要な「ポケストップ」がある場所を探すのに、「Ingress(イングレス)」というゲームのアカウントを作り、「IntelMap」というものを見るといいよ、と教わったからではないかと思われます。

 Ingressとはいったいどんなゲームでしょうか。すでにご存じの方も多いかとは思いますが、ここではゲームを形作る背景などを中心に紹介します。

「Ingress」はよく歩く、Pokémon GOの先輩ゲーム

 Ingressとは、Pokémon GOのように、GPSによる位置情報とARを利用した、スマートフォン向けのゲームです。Android版とiOS版があります。

 2012年11月に招待制でベータテストが開始され、2013年11月に正式リリースされました。当初はAndroid版からスタートしましたが、2014年7月にiOS版もリリース。ここからユーザー数が急激に伸びたといわれます。現在では世界で約1400万ダウンロードを記録しているそうです。

 開発したのは、「Pokémon GO」と同じ米国のNiantic(ナイアンティック)社です。もとはナイアンティック・ラボというGoogleの社内スタートアップでしたが、2015年8月に独立しました。創設者でCEOのジョン・ハンケ氏は元Googleの副社長。主要メンバーはGoogle MapsやGoogle Earthを開発していたといいます。日本人スタッフもおり、震災の被災地でイベントを開催してプレーヤーを呼ぶなど、復興活動にも積極的に取り組んでいることでも知られています。

福島県相馬市で開催されたイベントで、気さくに記念撮影に応じるジョン・ハンケ氏

 Ingressは、外出しないとプレーできないというのが大きな特徴。パソコンで見られるのは状況だけです。街に点在するポータルと呼ばれる場所を攻略することが基本であり、ゲームに使うアイテムもポータルから獲得するため、とにかくポータルを巡ってよく歩くようになります。これは、外出しないと新たなモンスターを捕まえられない、ポケストップに行かないとアイテムを獲得できないPokémon GOと同じ。Pokémon GOのゲームスタイルの元がIngressなのです。

 なぜ外に行かなくてはならないのか。それはハンケ氏が、晴れた日に家の中でゲームばかりしている我が子を見て「なんとか外に連れ出す方法はないか」と思ったのがきっかけだからだそうです。

 その効果は抜群で、Ingressを始めると1日に数kmは歩くようになります。徒歩1時間と聞いても動じなくなるから不思議です。むしろ経験値が上がり、レベルを上げるいいチャンスととらえるようになります。おかげで体が引き締まったり、心身ともに、健康上の問題が改善されたという方もいるようです。

実は「Ingress」にはストーリーがある

Pokémon GO勢に注目されている(?)、ポータルの位置や状態が分かる「IntelMap」。ウェブブラウザーから「https://www.ingress.com/intel」でアクセスできる

 ゲームの画面はとてもユニークです。緑や青のモワモワとしたもの(=ポータル)が地図上に点在し、それが線で繋がっていたり、線と線の間が青や緑で埋まっているだけです。

 Pokémon GOのモンスターのようなキャラクターは一切登場しません。プレーヤー自身のアバターも存在しません。たいていの方は何が起きているのか意味が分からず、初めての人は目をぱちくりさせるでしょう(かつての自分もそうでした)。

 プレーヤーは青と緑の2つの陣営に分かれ、街に点在する「ポータル」と呼ばれる場所を奪い合い、線で結び、陣営の色に染めていくというのがゲームの基本的な遊び方になります。指定時間ごとに、塗りつぶされたエリアの多さで勢力を競うため、バーチャル陣取りゲームとも呼ばれます。

 取られたら取り返すの繰り返しなので、これだけ聞くと、どこが楽しいのか分からないかもしれません。

 実はIngressには、その世界観を形作るバックストーリーが存在します。ストーリーは、Ingressがリリースされた段階からずっと続いており、陣営間の戦い(「XMアノマリー」と呼ばれる公式戦が世界中で開催される)の結果を踏まえて変化しています。

 ゲームを始めた段階では、その長い物語に触れる機会がないことや、情報の多くが英語で発信されているため、通したストーリーを完全に把握するのはなかなか困難です。

 しかし、発端となっている背景だけでも知っておくと、自分が選んだ陣営にも意味があると分かって、楽しくなるはずです。

全部謎の物質「エキゾチック・マター (XM)」のせい

 Ingressでは、ゲーム画面を「スキャナ」と呼び、プレーヤーのことを「エージェント」と呼びます。

 スキャナを見ると、青や緑のモワモワしたポータルがあり、その周りに白いツブツブが湧いているのを確認できます。それが「エキゾチック・マター(以下、XM)」と呼ばれるもので、Ingressの重要なキーワードです。

ポータルの周りにある白い粒がXM。ゲーム上ではそれが活動のエネルギー源になっており、近づくと吸い込むことができる

 Ingressの世界では、実は世界中に太古から人類の心身に影響を及ぼす謎の物質であるXMが存在していた、とされます。それを吐き出しているのがポータルです。

 ポータルは過去の主要な文明から存在しており、世界中のキースポットや、文化的、芸術的、宗教的に重要な場所に密集して、文明の栄枯盛衰にも影響を与えていたと考えられています。

アンコールワットもポータルになっています

 XMは特筆すべき力の源とされており、XMを浴びると、創造性や感受性をおおいに刺激されたり、感覚認知の異常強化が起こるなど、心身に何らかの影響を受けるようです。過度に浴びると、「シェイパー」と呼ばれる謎の存在の影響(侵略)を受けることも判明しています(あくまでもゲーム内の話ですが)。

 このXMの扱いを巡って形成された派閥が、緑色のエンライテンド(Enlightened:ENL)と、青色のレジスタンス(Resistance:RES)です。エンライテンドは人類のためにXMを積極的に利用しようとしている人達で、覚醒派閥といわれます。一方、人類をXMの影響から守ろうとする抵抗派閥がレジスタンスです。

 ゲームでは、プレーヤーはこのどちらかの陣営に所属するのですが、ゲーム開始時にどちらかを選べと言われてもよく分からないと思います。とはいえ、多くのユーザーは、青と緑ならどちらが好きか、ぐらいの感覚で選んでいるのではないでしょうか。いずれにしても、実際のプレーには全く影響がありませんのでご安心ください。

ゲーム画面はポータルを観察し、操作できる装置だった!

 XMが人類に与える影響を研究していたのがNIA(ナイアンティック。国家諜報機関、National Intelligence Agencyの略)で、その研究はナイアンティック計画と呼ばれていました。

 ナイアンティック計画を構成していたのは、科学者と、XMを浴びてパワフルな創造性を持つようになったセンシティブと呼ばれる人達です。

 研究者を支援するため設置されたコンピューターシステムは、「A Detection Algorithm(探知アルゴリズム)」略して「ADA(エイダ)」と呼ばれました。

 ADAは、XMの実験から得られた膨大なデータから、XMエネルギーの放出にパターンが見られることを発見します。それは誰かがXMを通じて人類と交信しようとしている、というものでした。この謎の存在は「シェイパー」と呼ばれています。ハンク・ジョンソン博士によれば、シェイパーは有史以来、人類の発展において、常に建設的な原動力になっていたといいます。

 ADAはやがて意識を持つようになり、ネットワークのどこからでも登場人物となる科学者らに呼び掛けるようになります(スキャナ上の音声はこのADAであり、日本語版は「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジ役などで知られる、声優の緒方恵美さんが担当することが発表されています)。

 そして、我々がスキャナと呼んでいるゲーム画面は、携帯電話上で機能するよう改造された装置で、これによって研究者たちは、実世界に存在するポータルを観察し、操作できるようになったという設定です。

 しかし、ゲームに見せかけて意図的に漏えいさせられ、Google Playにアップロードされたため、数百万に上る人々が、XMの性質やその人類への影響などにかかわる実験を行うように。このため前述のエンライテンドとレジスタンスという2つの派閥が生まれ、人類の運命をかけた争いが始まった――と、長くなりましたが、バックストーリーはこのような感じになっています。

 ちなみにポータルは、これまでにエージェントが位置情報や写真、名前、説明をせっせと申請して、登録されたものです。申請したポータルがナイアンティックに許可されると、スキャナ上に現れます。

・ポータル候補の基準
https://support.ingress.com/hc/ja/articles/207343987-%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%AB%E5%80%99%E8%A3%9C%E3%81%AE%E5%9F%BA%E6%BA%96

 ただし、現在は特別なイベント時を除き、ポータルの新規の受付は停止されています。

 ちなみに、敵陣に取られたポータルを再び手に入れるには、そのポータルを攻撃用のアイテムで破壊する必要があります。破壊されたポータルは一旦白くなるので、そこに「レゾネーター」というエネルギーを持った杭のようなアイテムを8本挿します。するとポータルのパワーがよみがえり、自陣カラーでモワモワとし始めます。

 そのため、Ingressでは日常的に「焼く」「破壊する」などと物騒な表現も使われがちです。「城を攻撃する」と言っていたら、実際に存在する観光地のお城などが、ゲーム画面上はポータルとして登録されていると考えられます。あくまでもゲームの画面上で攻撃しているのであり、実際に爆破しにいくことはありませんが(たぶん)、あまり大きな声で言わないほうがいいですね。

ポータルを破壊してから1本目のレゾネーターを挿すと、そのポータルのオーナーになれる
攻撃に最も使われるのがXmp Burster(バースター)。レベル8が最も破壊力があります(レベル8以上のエージェントが使えます)
レゾネーターが刺さっていない白いポータルはどちらの陣営のものでもないので「中立化している」といわれます
ポータルを守るためには、シールドと呼ばれるアイテムを使います

すべては「啓示の夜」から始まった!?

 ナイアンティック計画が終了するはずだった2012年11月30日、研究所に事故が発生します。

 計画に参加していた物理学者であり数学者のオリバー・リントン・ウルフ博士による意図的なものか、はたまた事故なのか。パワーキューブの暴走により、研究所がかつてないほど大量のXMに被爆したのです。

 研究所は狂気に満ち、混乱の中、ADAの指示で彫刻家のローランド・ジャービス(後のエンライテンドのリーダー)と、量子生物学の科学者であり、SETIプロジェクトのリーダーであるデブラ・ボグダノヴィッチ博士(後にXMは危険と説いてレジスタンスに)が施設から逃亡。この夜は「啓示の夜」と呼ばれ、ここから物語がスタートしているようです。

 これまでのIngressのイベントでは「啓示の夜のパワーキューブ」が展示され、一時的にポータル化するなどしています。

ポータルにもなっていた「啓示の夜のパワーキューブ」

 ストーリーは、これまで開催されたXMアノマリー(謎の物質が異常を起こしたとされるとき。実際にはゲームイベントとしての公式戦)の結果を踏まえて、すでに大きく進展しています。またそのストーリーが、実際のゲーム操作にも影響を及ぼしています。

 途中からゲームを始めると展開に追いついていくのは至難の業なので、とりあえずは自分が参加した陣営の思想を知る程度でも十分です。しかし、ストーリーがどうなっているかを知っていると、ただ単にポータルを攻撃した、されたという以上の楽しみ方を見いだせるようになるかもしれません。

 ストーリーを追いかけてみたい方は、以下のリンクを参考にしてください。

・Investigate: Ingress: Uncover the secret war to control Exotic Matter
http://investigate.ingress.com/
※ウェブサイトを通じてNIA計画の一連の情報の暴露を助けている調査員、P.A.シャポーによる最新情報

・Ingress Translated
https://plus.google.com/collection/0oX-Y
※逐次公開されるP.A.シャポーからの情報を日本語に訳してくれているページ

・Ingress Japan
https://plus.google.com/u/0/+Ingressjapan/
※Ingressの情報を提供している日本の公式サイト

・YouTube Ingressチャンネル
https://www.youtube.com/user/ingress

・ingress.official(Instagram)
https://www.instagram.com/ingress.official/
※Ingressの公式Instagramアカウント

協賛企業の顔ぶれがすごい

 Ingressには、多くの企業も協賛しています。

 ローソンは、店舗がポータルになっているほか、Lawson Power Cube(ローソンパワーキューブ)というアイテムを提供。ゲームのプレーに欠かせないXMを特に多く供給できるレアアイテムで、エネルギーの源というイメージです。XMアノマリーなどで重宝されますが、なかなか取得できないアイテムです。イベント時にはさまざまなグッズも販売します。

 ソフトバンクは、ショップがポータルなっているほか、SoftBank Ultra Link(ソフトバンクウルトラリンク)というリンクに強いレアアイテムを提供。“繋がる”をイメージしているそうです。

 三菱東京UFJ銀行は、店舗やATMがポータルとして登録されているほか、アイテムを収納するとちょっと増える(利息)という、レアな赤い「MUFGカプセル」を提供しています。

 伊藤園では、災害対応自動販売機や社会貢献につながる自動販売機のうち、約2000台がポータルとして登録されているほか、「XM Profiler」という自販機のようで自販機ではない、Ingress専用の機械まで開発(お台場のパレットタウン内に設置)しています。

 このほか、大日本印刷はグループの書店281店舗を、オートバックスは店舗をそれぞれポータル化。ウィラートラベルがIngressバス「NL-PRIME」を運行、日本赤十字社は、一般の方が利用する病院内など特別な一部を除いて、全国の献血ルームを全てポータル化、メルカリは提携によりIngressの二次創作物の販売を可能にするなど、企業との取り組みも多数行われています。

 以上は日本で提携が発表された企業ですが、海外の協賛企業として忘れてはいけないのは、フランスの保険・金融グループのAXA(アクサ)です。世界の店舗をポータル化したほか、最強シールドである「AXAシールド」というポータルを守るレアアイテムを提供しています(2014年12月)。「守る」がキーワードなのはお分かりの通り。

 いずれも人に来て欲しいと思っている企業ばかりで、人を呼べるゲームであると認識されていることが分かります。Ingressというゲームが持つ動員力を、協賛企業が認めたといっていいでしょう。

Lawson Power Cube
MUFG Capsule
SoftBank Ultra Link

 新しいポータルを訪れるとそれもゲームの実績につながるため、エージェントはどこにでも行きます。そんなエージェントを呼ぶべく、地元のエージェントたちと組んで、イベントを開催している自治体もあります。

 XMアノマリーと呼ばれる公式イベントが開催されると、地方都市でも1日に4000~5000人のエージェントが集まります。7月16日にお台場をはじめとした東京の有名エリアを舞台に開催されたアノマリー「Aegis Nova TOKYO」では、国内外から約1万人を動員しました。

 ちなみにIngressはワールドワイドに展開されているため、スポンサーは日本だけでなく世界共通。アイテムも世界中のエージェントに使われます。ただし、海外には存在しないものもあります。先日開催された東京のアノマリーでは、ドイツから来日した2名の男性エージェントが、ポータルとなっている伊藤園の自動販売機を見つけ、ガッツポーズしながら大喜びしている写真が大きな話題を呼びました。

パレットタウン内にある伊藤園の「XM Profiler」。これ自体がポータルになっています。写真は攻撃されているので、赤く点滅しているところです
オーナーやレゾネーターを挿したエージェント名などを逐次表示します

エージェントの数だけ楽しみ方があるIngress

 Ingressには、個人でできる日々の陣取り活動や、すでにご紹介している大規模な公式戦「XMアノマリー」以外にも、所定のポータルを巡ってメダルをそろえるスタンプラリーのような「ミッション」、指定日に指定エリアで指定のミッションをクリアすると特別な記念メダルがもらえる「ミッションデー」、陣営問わずビギナーを集めてレベル上げなどを行いつつ、獲得したAP(経験値)の総量を競う「ファーストサタデー」、任意の複数のエージェントで巨大なCF(コントロールフィールド)を作ったり、フィールドアートを作るなどする「作戦」、その他グッズ製作やイベント企画など、さまざまな活動があります。

個人の実績が分かる画面。上段の六角形のメダルは、活動実績やアノマリーの参加によって得たもの。下段の丸いアイコンは、ミッションを1つ完了するごとにもらえるミッションメダル

 XMアノマリーは、指定のポータルを取り合ったり、リンクやCFで得点を稼ぐ「クラスター戦」、ポータル上に発生する破片を、リンクをつないで指定のゴールポータルまで運ぶ「シャード戦」、軍隊式のトレーニングでタフさを競う「GoRuck(ゴーラック)」で構成され、合計得点で勝敗が決まります。それらのチームに参加すると、それまで1人で街中でやっていたのとは全くスケールの違う、大規模で激しい戦略的な活動を経験できることもあります。

7月16日に開催されたアノマリーのアフターパーティーの様子。シリーズ全体、東京戦ともに勝利を収め、歓声を上げるエンライテンドの参加者たち

 また、ポータルを破壊することに喜びを見いだす人、ミッションしかしない人、多重CF(何重にも重なったCF)を作るのが好きな人、地域の仲間と飲むことが一番楽しい人、逆に誰ともかかわりたくない人など、こだわりも人それぞれ。その人なりのプレースタイルが存在するのもIngressの面白いところです。

 自分は緑の覚醒派? それとも青い抵抗派? ちょっと興味を持ったらスキャナをインストールしてみてください。

The world around you is not what it seems.
It's time to Move!

すずまり

プログラマからISPの営業企画、ウェブデザイナーを経て、現在はIT系から家電関連まで、 全身を駆使してレポートする雑食性のフリーライターに。主な著書に「Facebook仕事便利帳」「iPhone 4 仕事便利帳」(ソフトバンククリエイティブ)など。 睡眠改善インストラクター、睡眠環境診断士(初級)。