ワーケーション百景
第4回:栃木県が推進する“地方サテライトオフィス”のトークイベントより
Work+Vacationだけではない「日本型ワーケーション」とは?
2021年4月30日 11:50
栃木県は、サテライトオフィスに関するオンラインのトークイベント「with/afterコロナの新たな働き方“地方サテライトオフィス”【第2回】地方での新たな働き方実践者×推進者が語る組織への効果とは」を2月中旬に開催した。
登壇者は、一般社団法人日本テレワーク協会専務理事の田宮一夫氏、三菱地所株式会社の三澤圭乃氏(ビル営業部グローバル営業室兼営業企画部統括)、Bizer株式会社代表取締役の畠山友一氏。テレワークの業界団体、テレワークを支援する事業者、テレワークを実践している企業という3者が、サテライトオフィス、ワーケーション、テレワークに関する現状や課題を語った。
栃木県は、地方にサテライトオフィスの設置を検討する東京圏の企業などをターゲットにしたプロジェクト「とちぎお試しサテライトオフィス設置推進事業」を展開しており、委託事業者としてパーソルプロセス&テクノロジー株式会社が参加している。
テレワーク率は東京の大企業が高いが、地方の中小企業は低い
田宮氏は全国的な傾向として、「2020年4月にテレワーク率が27.9%まで立ち上がっているが、そのあと若干、あと戻りしている」という調査結果を報告した。
2回目の緊急事態宣言でも、中小企業はテレワークの導入が遅れたとしている。具体的には、従業員数が100人未満は13.1%、100~1000人未満は22.5%、1000~10000人未満は34.2%、1万人以上は45.0%がテレワークを導入しているという状態だ。
また、従業員規範にテレワークを認めているか地域別で見ると、上位から、東京都が45.8%、神奈川県が34.9%、千葉県が26.2%、大阪府が24.4%、埼玉県が24.0%の順になっている。首都圏と大阪府という、人口の密集地が上位だ。
それに対して低いのは、和歌山県の3.5%、佐賀県の4.3%、香川県の4.4%、鳥取県の5.4%、島根県・秋田県の6.6%だ。
このように首都圏の大企業がテレワークを導入している傾向が見られるが、これが地方にも広がると、「労働人口の減少、高齢化、障害者の雇用、地方での雇用につながり、東京一極集中が分散できる」という効果も期待できるとしている。
ワーケーションについては、「多様で柔軟的な働き方」としているが、コストを負担する企業にとって「バケーションはマイナスとして捉えられている」のが実情という。
ワーケーションは、「Work(働く)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語だ。しかし、例えば「Work」に「Invasion」「Collaboration」「Communication」などの言葉を組み合わせてもワーケーションと呼べる。
このように、あくまでも「Work」を主体として「ation」を足すことで、「日本型ワーケーションは企業などにとって『働く』からスタートすることが好ましいのではないか」とした。
オフィスの役割は「働く場」から「組織のコア/ハブ」に変わる
三澤氏は、三菱地所も日本テレワーク協会と同様に「WORK×ation」を掲げているとしている。
これまでの日本においては、Beforeコロナの働き方は「働くのはオフィスが当たり前」だったが、With/Afterコロナの働き方においては「同じ時間と場所を共有するには無理がある」としている。
このWith/Afterコロナの働き方におけるオフィスの役割は、「従業員のウェルビーイング(幸福度)向上」「多彩な人材が活躍できる素地」「優秀な人材の確保」としている。そうなると、オフィスは働くための場所ではなくなるため、組織のコアやハブという意味として「センターオフィス」と捉えられるとしている。
ワーケーションは4つに分類されるという。「休暇活用型」は、休暇の中に仕事を織り込むかたちで、例えば3泊5日の海外旅行のうち、2日目と4日目の半日程度、仕事をすることだ。「日常埋込型」は、例えば2泊3日を温泉地で過ごすが、フルタイムで働くようなかたち。
「ブリージャー型」は、例えば出張を木曜日と金曜日に設定して、その後、土曜日と日曜日は観光を楽しむというかたち。また、「オフサイトミーティング」は、業務として会議やグループで研修を行う形態だ。
このようなワーケーションだが、「WORK+VACATION」に限定しない、「WORK×『…』ATION」を提案している。具体的には、「Location(場所)」「Motivation(動機付け)」「Communication(深い対話)」「Innovation(新しい息吹)」を挙げている。
「WORK×『…』ATION」を実現するために、三菱地所では、南紀白浜、軽井沢の施設をプロデュースしている。
南紀白浜の施設は、羽田空港から約1時間15分で移動できるという立地に建てられている。周囲には世界遺産の高野山、熊野古道などの観光地がある。また、海岸や宿泊エリアは災害時でも途切れない対災害ネットワークが構築されているなど、仕事にも向いた環境でもある。
キャンピングカーが自宅でオフィス
畠山氏は、キャンピングカーで全国を移動しながら生活と仕事もしているというワーケーションを行っている。この生活は、新型コロナウイルス感染症が拡大する前から行っていることだ。今回のトークイベントは、宮崎県日向市にいるキャンピングカーから参加した。
畠山氏は、2013年10月にBizerを設立。2019年1月にパーソルプロセス&テクノロジーに株式を譲渡し、パーソルグループの一員となった。Bizerでは、法人向けタスク管理ツール「Bizer team」の開発と運営を行っており、従業員は10名だ。
同社がテレワークを導入したきっかけの1つは、人材の採用で有利になるため。「無名な会社にはなかなか来てくれない」として、テレワークという選択肢も加えたという。また、採用する人材も特定の層に絞っている。それは、35歳以上で子育てをしている人だ。この層こそ、テレワークという働き方を必要としている。
会社も大きく変化をしており、コロナ禍のテレワーク推奨でオフィスには勤務できなくなった。そのため、「コロナでオフィスを解約した」という究極のテレワークに踏み切った。
従業員の働き方も自由で「従業員の半分くらいは副業がある」としており、「優秀な人は会社に帰属する必要がない」と考えているほどだ。これらの施策により「4年間、やめた人はいない」という。
ワーケーションは遊びと思われるが……
パネルディスカッションでは、企業がワーケーションを行う際の課題についても話が及んだ。
畠山氏は、「ワーケーションは遊び要素と思う人が多い」としている。特に自らが、キャンピングカーで全国を回りながら仕事をしているため、実感しているという。
三澤氏は、ワーケーションにかけたコストに見合った効果が出ているか測定できないことを課題に挙げた。
田宮氏は、「ワーケーションはまだ始まったばかりで効果測定はできていない」と、三澤氏と同様の意見を述べた。
また、田宮氏は、新規採用では「テレワークやワーケーションがある会社を上位にしている」というケースもあるという。さらに、畠山氏も「ワーケーションができるから転職するという人が出てきている」としている。
各省庁がワーケーション事業に予算を申請
田宮氏は、令和3年度(2021年度)の国の予算で「いろいろな省庁がテレワークとワーケーションに予算申請をしている」という。
ワーケーションは通信と働き方に関わるということで、通信は総務省、働き方は厚生労働省が進めてきたことだ。さらに、国立・国定公園にサテライトオフィスを作ると環境省、地方創生として内閣府、観光地やリフレッシュできる場所が関係するため観光庁と、さまざまな省庁が関わり始めている。国として、テレワークとワーケーションに目を向けているようだ。