イベントレポート

渋谷をつなげる30人レポート

渋谷発のキャリア教育で、子供たちに「未来に立ち向かう力」を

 テクノロジー企業が続々と集結し、新しい文化だけでなく新しいビジネス、新しい行政サービスの発信源ともなっている渋谷区

 そんな日本、東京の最先端をゆく街の課題を発見し、チームで解決していくプロジェクト「渋谷をつなげる30人」(主催:Slow Innovation株式会社)は2020年3月5日、最終報告会が行なわれ、4期目の締めくくりを迎えた。

 2019年11月にレポートした「実装」段階からブラッシュアップを図って臨んだ最終報告会は、昨今の情勢を鑑みて規模を縮小し、関係者のみが参加する形式となった。

 一部メンバーはオンライン会議システムで参加するなど、イベントとしてはコンパクトではあったものの、この1年弱の間にアイデアを急速に形にし、トライアルを重ねてきた各チームの取り組みは、渋谷という街を大きく盛り上げる可能性を秘めたものとなったようだ。

 30名、5つのチームはそれぞれ、渋谷に関係する所属企業から参加、そしてイベント自体は渋谷区も協賛している。彼らがこれからどんな活動を広げていくことになるのか。最終報告会のプレゼンの内容と、それに対する渋谷区副区長 澤田伸氏のコメントを5回の集中連載でレポートしたい。

 第2回となる今回は、教育編だ。

「未来に立ち向かう力」の授業実施で企業側にもメリット?

 「教育をテーマに、大人と子供をつなげる」というコンセプトで、NTTドコモやみずほ銀行などに勤めるメンバーからなるチームが提案するのは、「GIFT100」というプロジェクト。

子供と大人が相互に学び合う「GIFT100」プロジェクトのチーム

 現代の学校教師は多忙を極め、通常のカリキュラムを消化するだけでも精一杯な状況にある。そのため、子供たちが社会に出て行ったときに本当に必要とされる「未来に立ち向かう力」をつけるための授業を新たに行なうのは難しい。

 そこでGIFT100が主体となり、企業から派遣した講師による授業を学校教育に組み込むことで、子供たちにいわゆる「キャリア教育」を施すことを考えている。

すでに多忙な教師が新たな授業を担当する余裕はない
子供にキャリア教育を施し、そこから企業側も気付きを得るGIFT100プロジェクト

 企業側としても、子供たちに教えることで新たな視点や気付きという学びが得られ、ビジネスのヒントにもなりうるのではないか。

 実際にそのような仮説通りの効果が得られるのか検証するため、同チームは2020年1月に社会実験として渋谷区立代々木中学校で授業を実施し、そこでプロジェクト化に向けた手応えをつかんだようだ。

代々木中学校で実際に授業を行なったときの様子

 しかしながら、講師と学校をつなげるための手段と、マネタイズをどうするかという課題がある。

 これについては、東京都が設立した東京学校支援機構(TEPRO)を講師と学校のマッチングプラットフォームとして活用することや、企業からの寄付、SIB(ソーシャルインパクトボンド)と呼ばれる民間資金を活用した成果連動型委託契約による資金捻出を検討しているとした。

プロジェクトにおける企業・個人の分担
持続可能な取り組みにするための仕組みづくりにはマネタイズ方法などの課題がある
講師と学校のマッチングはTEPROの活用を検討

「教育は本来税金を使ってやるもの、より持続可能な取り組みを」

 教育分野に対するSIBのスキームにおいては、「成果をどう評価するか」が難しいことをチーム自体も認識しているとしながらも、「行政が抱えている教育コストや、今後発生しうる教育に関するコストがどれだけ削減できたか」を評価する形で設計することを検討中。

 今後は講師の研修や資格認定の制度、中高生向けの有料スクールの開設を目指していくとした。

活動資金はSIBのスキームを用いることを検討
教育分野でのSIBの活用も少ないながら実例がある
今後のステップ。有料スクールの開設を目指すとしている

 澤田副区長は、このプロジェクトについて「すごくいい活動」としつつも、「なぜSIBを使う必要があるのか。SIBはKPIの設定が難しく、教育には向いていない」と指摘。

 「教育は本来、公共サイドが税金を使ってやるべきもの。行政に提案してはどうか。キャリア教育は文部科学省も研究しているはずだから、認定を受けて税でまかなったほうがみなさんの活動にいきると思う」と述べ、より持続可能な取り組みを目指すよう促した。

正々堂々と行政に提案してはどうか、と語った澤田副区長