イベントレポート

THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022

テクノロジーとインスピレーションが交差する、NFTアートの現状と未来

 デジタルガレージとDG Labは6月14日、「web3 Summer Gathering〜未来からのテクノロジーの波をサーフしろ〜」をテーマに掲げたカンファレンス「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022」を都内で開催した。この記事では、イベントで実施されたセッションの一部を紹介していく。

左からモデレーターを務めるSean Bonner氏(web3アドバイザー)、スプツニ子!氏、Kawaii SKULL氏

 Session 2では、「NFTの真の価値と未来のアーティスト」をテーマにパネルディスカッションが行われた。最初のパネルディスカッションは、アーティストのスプツニ子!氏、Kawaii SKULL氏の2名と、モデレーターとしてweb3アドバイザーのSean Bonner氏が登壇し、NFTアートの現状や可能性について話し合われた。ここでは、両氏のNFT作品を中心に紹介する。

 スプツニ子!氏は、映像やインスタレーションなどの作品を通じ、テクノロジーの未来やジェンダーについて問題提起してきたアーティスト。昨年日本で初めて開催されたNFTマーケットプレイス「SBINFT Market(発表時の名称はnanakusa)」で発表した作品「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」は予想価格を上回る839万円で落札された。また今年は「生理マシーン、タカシの場合」が52ETH(当時の価格で約1570万円)で購入され話題を呼んだ。

 1点物が多いスプツニ子!氏の作品だが、7月にロンドンで発表予定の新作NFTは、コンピュータによって100個が自動生成されるコレクション。最初生まれた時は花のつぼみのような形状で、40週間かけて少しずつ成長し色も変化する、生命のような作品になるという。

「私が昨年出産を経験したことがインスピレーションになりました。NFTを育てる感覚を持ってほしくて、現在制作中です」

スプツニ子!氏(アーティスト/東京藝術大学デザイン科准教授)
花のつぼみのように少しずつ成長するNFTアート

 Kawaii SKULL氏は、GIFアニメーションの作品を作ってきたアーティスト。コロナ禍をきっかけに、NFTなどの新しい表現に関心を寄せ、これまで販売が難しかったGIFアニメのNFT作品の制作を開始した。昨年の7月から4カ月間かけて、1万点にも及ぶコレクション「Kawaii SKULL」(アーティスト名と同じタイトル)が完成。今年の2月に1万点全てが完売した。「Kawaii SKULL」の保有者は現在約4150名で、日本のコレクションとしては、村上隆氏の「Murakami.Flowers」に次ぐ大きなコミュニティになっている。

 点数の多いNFTコレクションはコンピュータで自動的に生成するものが多いが、「Kawaii SKULL」は、全てハンドメイドなのが特徴だ。

「1人のアーティストが4カ月間かけて作ったというストーリー性も評価していただいたと思っています」

Kawaii SKULL氏
1万点のNFTコレクション「Kawaii SKULL」

メタバースやコラボレーションで拡張するNFT

左から草野 絵美氏、VERBAL氏、モデレーターを務めたJaeson Ma氏(OP3N 共同創業者)

 2回目のパネルディスカッションは、m-floなどのメンバーとしても知られるアーティスト・DJ・音楽プロデューサーのVERBAL氏と、株式会社Fictionera代表/新生ギャルバース共同創業者兼クリエイティブディレクターの草野 絵美氏を迎えて行われた。

 VERBAL氏が展開するファッションブランド 「AMBUSH®」は、2008年にジュエリーブランドとしてスタートした。

「最初からビジネスにしようと思っていたわけではありません。僕はラッパーですので、ラッパーが最初に印税が入った時に買う物といえばジュエリーなので、自分で作ってみたいと思ったのがきっかけです」

 そのデザインがはじめは周囲から評価され、次第にコミュニティができていく。そして、カニエ・ウエストやファレル・ウィリアムスといった海外セレブも着用するブランドへと成長した。ブランドとして初めてNFTアイテムを発表したのは2022年2月。

 「NFTのリリースでは、このコミュニティビルディングが1つのキーでした」とVERBAL氏が語るように、「POW!®」はコミュニティと密接に関連しながら段階的にリリースされている。

 最初に99個作られた「POW!®ENERGON」は、家族やファッション界、音楽界の友人たちに対してエアドロップ(無料配布)された。続く「POW!®REBOOT」は一般販売向けに2022個がミント(鋳造)され、リリースからわずか2~4分で完売した。

 今年の3月にリリースされた「POW!®GLOW IN THE DARK」は、自社のメタバース「AMBUSH® SILVER FCTRY」でゲームをクリアした人のみがアクセスできるポータルでリリース。これも99個が10分ほどで完売した。

VERBAL氏と2008年に立ち上げたファッションブランド 「AMBUSH®」
NFTコレクション「POW!®」
メタバース「AMBUSH® SILVER FCTRY」

 昨年、8歳の小学生が作ったNFTアートとして話題になった「Zombie Zoo」。草野 絵美氏は、その作者であるZombie Zoo Keeper氏の母親だ。

「当時8歳の長男が夏休みの自由研究でNFTを作りたいと言いだし、1枚1枚ミントしてきました」

 「Zombie Zoo」を一躍有名にしたのは、有名ミュージシャンのスティーヴ・アオキ氏が購入したこと。Discordのコミュニティでも話題となり、草野氏はTwitterのDMで、「あなたの息子の作品がアートコレクターの間で盛り上がってるよ」と知らされて初めて評判になっていることを知ったという。

「最初は2000円ぐらいの価格で売っていたのですが、最大で4ETHでトレードされるようになりました。息子は税金の話や、何が経費で落ちるかにも興味を持つようになり、非常に我が家の金融教育も非常に進みました(笑)。彼はまだ9歳でいろいろな可能性があるので、ビジネスのマインドセットを身につけながら、世界観を広げることに注力しています」

 そう語るように、「Zombie Zoo」は、日本初のNFTアニメ化、ピコ太郎氏とのコラボMV、web3ゲームの「Sandbox」との協業など、次々に実現している。

 草野氏の活躍は「Zombie Zoo」だけにとどまらない。2022年には、友人の大平彩華氏とタッグを組み、NFTプロジェクト「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」を開始。リリースした8888体は6時間で完売し、世界最大のNFTマーケットプレイス「OpenSea」の24時間売上ランキングで世界1位を記録した。

「ずっと彼女(大平彩華氏)とは、かっこいい女性が主役のSFアニメを作りたいと話していました。おかげで十分な資金が集まったので、日本のアニメスタジオさんに掛け合って、これから作品を作っていこうと考えてます」

草野 絵美氏
草野氏の長男が8歳の時に始めたNFTコレクション「Zombie Zoo」