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「岸田首相の“新しい資本主義”の柱にWeb3.0を」自民・平将明氏らがNFTセッションで提案~「FIN/SUM 2022」レポート
2022年4月6日 07:00
フィンテックカンファレンス「FIN/SUM 2022:Fintech Summit」が、2022年3月29日から31日にかけて、都内およびオンラインで開催された。FIN/SUMは、金融庁と日本経済新聞社が2016年から共催する、国内最大級のフィンテックカンファレンス。
この記事では、3月30日に行われたセッション「NFTのルール形成と市場成長 powered by EY Japan」の模様をレポートする。セッションは、自民党の平将明氏による講演と、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの荻生泰之氏をモデレーターとしたパネルディスカッションの2部構成となった。
自民党に提出したNFTホワイトペーパー案の内容を紹介
平将明氏(衆議院議員 自由民主党 NFT政策検討PT座長)は、ちょうどこの日の朝に自民党に提出したというNFTホワイトペーパー案の内容を中心に、NFTやWeb3.0(Web3)について語った。
講演の中で平氏は「“新しい資本主義”にWeb3.0を柱として入れるべきだ」と述べた。ホワイトペーパー案の内容は、平氏の公式サイトに、概要版と全文がPDFで掲載されている。なお平氏は、ホワイトペーパー案について、まだ自民党の意見そのものではなく、PT(プロジェクトチーム)から案を提出した段階であると補足した。
平氏は冒頭で、デジタル社会推進本部でNFTの特別担当になって、NFTのさまざまな課題をフォローするようになったと語った。このとき最初に、NFTはピラミッドの頂点のほうであり、NFTだけを見ていても解決策は出ず、暗号資産、ブロックチェーン、DeFi、DAO、メタバースなどを含んだ生態系を俯瞰して見ることで解決策を作っていくという方針を立てたことを明かした。
氏は、地方創成やクールジャパンに携わる中で、「日本のコンテンツが安すぎる」「地方での体験は安すぎる」と思っていたとして、これをいかに世界レベルにもっていくか考えていたと語った。それに対して、NFTでは、たとえばアニメの原画がNFTによって世界のファンに提供できたら、価値の最大化ができることを面白いと思ったという。
また、暗号資産やブロックチェーンについて、米国では大統領令が出されるなど国家が積極的に関与していることを紹介。米国ではWeb2.0でGAFAが生まれさらにWeb3.0が乗るのに対し、日本ではGAFAが生まれずこのままではWeb3.0も乗らないのではないかと危機感を示した。
さらに、ブロックチェーン関連の税制が整備されていないため日本ではブロックチェーンの起業ができないことも課題として挙げた。
そのような背景から作られたホワイトペーパー案では、「国家戦略の策定・推進体制の構築」「NFTビジネスの発展に必要な施策」「コンテンツホルダーの権利保護に必要な施策」「利用者保護に必要な施策」「NFTビジネスを支えるBCエコシステムの健全な育成に必要な施策」「社会法益の保護に必要な施策」の6つのテーマごとに課題と提言が整理された。
「国家戦略の策定・推進体制の構築」においては、平氏は岸田首相の言う“新しい資本主義”にWeb3.0を柱としていれるべきだと主張。そして、関連する省庁が多岐にわたるため、Web3.0担当大臣をすえ、役所にも省庁横断の相談窓口を置くことを、最初の提案としたと語った。
「NFTビジネスの発展に必要な施策」の中からは、講演では、NFTにおける賭博罪該当性の問題をピックアップ。通常は問題ないが、明確化してグレーゾーンを解消すべきと語った。
平氏は6つのテーマの中でも「NFTビジネスを支えるBC(ビットコイン)エコシステムの健全な育成に必要な施策」が特に重要で、ここを解決しないといけないと強調した。
その中の問題としては、自社が発行して自社が保有するトークンの期末評価の問題、トークンの審査にかかる時間の問題、LPS(投資事業有限責任組合)による投資の問題、監査事務所が監査してくれない問題、個人の暗号資産の税率の問題を取り上げた。
また、DAOをしっかりルールを作って使いやすくする必要性や、DAO特区の可能性、ブロックチェーンの人材を世界から呼び込むためのビザなどの提案も語った。
さらに、マネーロンダリングやテロ資金に使われないようにすることも「外せない」と語った。
平氏は最後に「われわれのこれからの課題は、Web3.0を、Web2.0を理解していない自民党の人たちにいかに理解してもらうか」だとして講演を締め括った。
NFTとは何か、どんな課題があるかを整理
パネルディスカッションは、椎名茂氏(EYストラテジー・アンド・コンサルティング テクノロジーコンサルティング 顧問)、森川夢佑斗氏(Ginco 代表取締役)、斎藤創氏(創・佐藤法律事務所 弁護士)の3人で行われた。モデレーターは、荻生泰之氏(EYストラテジー・アンド・コンサルティング ストラテジックインパクト パートナー/フィンテックリーダー/ブロックチェーン・コンサルティング・ビジネスリーダー)。
まずは、椎名氏と森川氏の発表から。
椎名氏は改めて、NFTとは何か、どのように利用されているか、どんな課題があるかについて説明した。
NFTはNon-Fungible Tokenの略で、代替ができないトークンだ。椎名氏は比喩として、白いTシャツはどこにでもあるが、そこにサインを書くと1点物になり、NFTはそのサインのようなものだと説明した。
NFTで売られているものとしては、アート作品がある。椎名氏は、データ自体は誰でもダウンロード可能であり、NFTはコピープロテクトではなく、鑑定書付きのデジタルデータだと念を押した。
利用例としては、ジャック・ドーシー氏による最初のツイートや、自動生成された猿の何万種類も画像のBAYC(Bored Ape Yacht Club)、20年後にボトリングされるウィスキーと交換可能なウィスキーNFT、フェラーリが半永久的に利用可能なNFT会員権、レストランのNFT会員権などを紹介した。
変わったところでは、坂本龍一氏が「Merry Christmas Mr. Lawrence(戦場のメリークリスマス)」の1音ずつをNFTとして販売した例もある。ここで注意点として、知的財産権は坂本龍一氏と幻冬舎が持っているままであり、商用利用も認められていないことを椎名氏は挙げ、「このへんがNFTを発行する人たちの感覚値かなと思っている」とコメントした。
NFTに潜む代表的なリスクとしては、価格が暴落すること、マネーロンダリングに悪用されること、法律が未整備で金融規制の対象外なこと、プライベートチェーンの場合は運用者が消失することで作品が消失する可能性があることを挙げた。
最後に椎名氏は、NFTを出せば売れる時代は終わり、マーケティングが重要になっていると語った。また課題として、マーケットプレイス登録時の確認がないため、偽物や他人の物でも登録できること、デジタルデータの所有権とは何か、NFTと暗号資産(仮想通貨)との連携などを挙げた。
森川氏は、Gincoの業務内容を紹介した。
Gincoは、ブロックチェーン活用のインフラや環境構築をしており、フルマネージドですぐに使えるものを開発している。NFTサービスのほか、モバイルウォレットアプリや、暗号事業者向けサービス、ブロックチェーンサービス活用プラットフォームなども手がけている。
森氏はGincoでのNFTサービスの特徴として、NFT特有の課題をオールインワンでサポートしていると説明した。企画から運用まで、またスマートコントラクトを利用する専門スキルなど、さまざまな課題を解決するものをオールインワンパッケージで提供しているという。
導入事例としては、ミクシィとDAZNによる、スポーツ選手のスーパープレーやメモリアルシーンの映像をNFTコンテンツとして販売するマーケットプレイス「DAZN MOMENTS」の例を紹介。また、音楽分野でオリジナル音源や未公開曲などをNFT化し数量限定でオークション販売する「Studio ENTRE」も紹介した。
偽物登録や賭博性、2次流通などを議論
発表をふまえて、パネルディスカッションが行われた。
まず荻生氏は、椎名氏が挙げた、偽物や他人の物などをNFTでマーケットプレイスに登録できる問題について、対策状況を尋ねた。
椎名氏は対策方法として、登録するときにマーケットプレイスがキュレーションしてから載せるか、登録できるアーティストをキュレーションするかの2つの方法が考えられると答えた。
次に荻生氏は、平氏の講演で言及された賭博にあたるNFTについて、弁護士の斎藤氏に尋ねた。
斎藤氏は海外の例として、いくつかの品を合わせて中身が分からないパック販売や、買った時点では何が入っているか分からないで2~3週間後に分かるリビールの手法を紹介し、これらが賭博にあたるのではないかという声があることを紹介した。
また、法律的には適用範囲が広くなっていて実際にはなかなか逮捕されないという、麻雀賭博のような運用でカバーする形態になる可能性を指摘。日本では逮捕されると起業家生命が終わってしまうので、怖くて手を出せないことにつながるため、基準が必要だと述べた。
また、NFTでの販売の価格が上がったときに、もとのクリエーターに還元されるかどうかという問題も取り上げられた。
椎名氏は、アートの場合には二次流通を追いかけにくくその収入がクリエーターに入らないが、NFTではその仕組みが組み込まれているケースが多いのではないかと答えた。
斎藤氏はまずNFT購入で得られる権利について論じた。日本の所有権は有体物のみを対象にしており、デジタル所有権は民法上認められた権利ではないと説明。また所有権が移るかというと、「戦場のメリークリスマス」の例のように多くのNFTではそうではないことや、作品は誰でも見られるため独占的に見られるものではないことを説明。「何の権利があるかは正直よく分からないが、自分がデジタル所有しているということの、所有権ではないが、鑑定書付きでデジタル所有しているということの権利があるんだろうなと思う」と答えた。
また、日本の著作権にはないがヨーロッパでは追求権があり、オークションハウスで売るときには使われることがあるが、一般人どうしの販売では追求できないという話があると紹介。NFTであれば追求権を入れるのは比較的容易だろうと述べた。
続いてマーケットプレイスの話だ。荻生氏は、世界最大手のOpenSeaがあり、日本でもマーケットプレイスが増えていると紹介した。
森川氏は、OpenSeaは世界で一番使われているが、出品の99%は買われていないと紹介し、「出せば売れるという時代は終わった」と述べた。
それより小さいところではセレクトショップのようなマーケットプレイスも出てきており、音楽特化やアニメ特化のように、日本ならではの切り口のマーケットプレイスが出てくる可能性もあると語った。
さらに、プライベートチェーンで日本だけで流通していると評価も日本に閉じてしまうため、しっかりパブリックチェーンで公開することと、そのための流通の仕組みが必要だと主張した。
最後に、今後の展望や期待について。
椎名氏は、平氏の講演のように、政府も含めてNFTに関する議論が活発になっていることを取り上げ、「私もシンガポールで会社を作った組だが、日本でビジネスが発展しやすい環境を用意していただきたい」と語った。また「日本で独自ルールを作っても意味がない」とも主張した。
森川氏も、NFTはグローバルがキーワードだとして、日本の規制で、IP(知的財産)が日本に留まるとになるとマイナスになるので、グローバルに流通させるビジネス環境を求めた。そして、そのときには決済に暗号資産が使われ、NFTと暗号資産は切ってもきれないと思うと語った。