モルモット精神、脱皮、YMO……“爆速”宮坂社長が描くヤフーの成長戦略


 東京国際フォーラムで開催された「ad:tech Tokyo 2012(アドテック東京)」で10月31日、クロージングキーノートにヤフー株式会社代表取締役社長の宮坂学氏が、同社の成長戦略とデジタルマーケティング領域における役割について講演を行った。

ヤフー代表取締役社長の宮坂学氏

スマホを制したものが業界を制す

 宮坂氏は明確に、「スマートフォンファーストでやっていきたい」と語った。Yahoo! JAPANのページビューにおいてスマートフォンがガラケーを抜いた2012年3月、同社は経営陣を入れ替え会社の方針を転換。さらにサービス開発の現場も、「スマートフォン1st・パソコン2nd」に方針を切り替えた。

 まず、スマートフォン向けに作る、余裕があればPC向けにも作るというように。もちろん急には変われないという。「サイトのデザインを持ってこい」と言ったら、PC向けのデザインが上がってくることもあると漏らす。これから先、どうなるかは分からないが、スマートフォンを制したものが、業界を制することは分かっている、さらに数年以内にスマートフォンはPCからのページビューも超えるだろうと宮坂氏は予測する。そのような背景から、スマートフォンファーストに切り替えていきたいと強く語った。

 また改めて、自分たちはインターネットを使ってくれるひとがあってこその存在。“User First”、そして“課題解決エンジン”というミッションも新しく掲げる。

爆速的成長をもたらす3つの戦略

おなじみのスローガン“爆速”

 宮坂氏はヤフーのスローガンに“爆速”を掲げている。その理由について「スマートフォンはPCとは違って、これからの状況がまだわからない。よって意思決定ができない。だからまず自分で歩いてみて、状況把握、意思決定、実行、この3つのサイクルを組織として速いスピードでやる必要がある」と語った。

 そのために、社内の承認ステップを8つから2つに減らした。また、週に1回の定例会議で承認を得られるまで待っていると1週間かかってしまうので、失敗してもいいからまずはやってみろという文化が浸透しつつあるという。

 同社の当面の目標は、201X年前までに営業利益を2倍にすること。そのための成長戦略を3つ掲げた。

 1つ目は、「ポータルサイト」。同社が創業当社からやってきた事業であるポータルサイトは開始当初、すべてのリンクから外部サイトに飛ばしていた。当時は、株価や天気、野球の結果など必要とされる情報を見られるサイトがないものもあった。そこで同社は「ポータルサイト2.0」として、100以上のサービスを自ら提供するように。しかし、世の中的には個人や他の企業が作った有力なサイトがまだまだたくさんある。そこで、「Yahoo! JAPANはいつまでもYahoo!サービスのポータルでいいのか?」と自らに問いかけ、「ポータルサイト3.0」として生まれ変わるという。直近では、クックパッドや食べログとの提携がそれにあたる。

 翻って、自社開発のサービスについては、営業利益や顧客からの声に基づき、優先順位を付け選択と集中を行う。具体的には、全トラフィック・売り上げの8割を占めるサービスに集中し、それ以外はすでに良いサービスを作っているところと組む、もしくはやめるという選択を取るという。

サービス開発における選択と集中のための5段階の仕組み

 2つ目は「異業種最強タッグ」。宮坂氏はシュンペーターの言葉を引き合いに出し、すでにあるもの同士を組み合わせて新しい価値を生むイノベーションを起こしたいとした。同社が提携を発表したカルチュアル・コンビニエンス・クラブ(CCC)はオフラインのポイント流通を強みとし、アスクルはBtoBビジネスを強みとする。また、スマートフォンを強みとするキャリアのソフトバンクとは、スマートフォンを活用したO2O事業で協業を発表している。

ソフトバンクとはスマートフォンを活用したO2O事業で協業

 3つ目は「未踏領域への挑戦」。米国などの日本よりも東から、アジアなどの西へと新しいサービスを輸出する「DEJIMA戦略」がこれにあたる。このほかにも、インターネットサービスの黒字化・継続・拡大を通じて、被災地域の復旧を目指す事業もそうだ。

DEJIMA戦略

まずはヤフーが日本で一番巨大なモルモットに

 続いて宮坂氏は、媒体社、広告主、マーケティングソリューション提供社というヤフーの3つの立場で、デジタルマーケティング領域における役割を語った。

 まずは、媒体社として。同氏は、Yahoo! JAPANはPC時代にはオンリーワンのサービスになれたと自負するが、すでに同社が配信しているスマートフォン向けアプリも累計で4000万ダウンロードを突破し、スマートフォン所有者の78%が同社のサービスを利用しているというデータを示し、PC同様、スマートフォンでもそうなりたいとした。宮坂氏は「スマートフォンという大陸において、本当の旅はこれからだ」と話す。

 次に、広告主として。同社は、年間数百億円規模の広告を投下する日本トップクラスの広告主でもある。バナー、リスティング、アフィリエイトはもちろん、Yahoo! JAPANの外、つまりテレビ番組のスポンサーやヤフードームのネーミングライセンス、オリンピックのスポンサーなども行っている。

 宮坂氏は、ほかの広告主に先駆けて「まずは我々自身がワイルドな広告をやる。日本で一番巨大なモルモットになる。やってみて、こういう結果が出ました、こういうお叱りを受けました、御社もどうですか? というモルモット精神で挑戦する」という。

 さまざまデジタルマーケティングの実験を自ら実施し、そこで得られたノウハウを発信して、クライアントに還元する。このサイクルを爆速で回していくという。また、このサイクルを回していく部署として、「ヤフーマーケティングイノベーション室(YMO:Yahoo! Marketing innovation Office)」を新設、室長に友澤大輔氏が就任した。

脱皮しない蛇は死ぬ

 最後に、マーケティングソリューション提供社として。まず、ユーザーの行動をベースとしたプロモーション広告については、興味関心連動型広告「インタレストマッチ」の機能を大幅に拡張。「Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(YDN)」として、ヤフーが持つデータとリーチ力を生かしながら、ターゲティングとマッチングの量と質を高めていく。YDNは、今から100日以内、2013年1月末までにスタートする予定だという。

 また、インプレッション保証型の商品群「プレミアム広告」については、記憶に残る広告にするため、「パフォーマンス」「メジャーメント」「クリエイティビティ」をパートナーと組んで改善に挑戦するとした。パフォーマンスについては、仏Criteoと提携し、初の第三者配信広告を開始する。メジャーメントについては、提携の調印をしたばかりの米BrightTagとウェブサイトのタグマネジメントを改善、クリエイティビティについてはディスプレイ広告やビデオ広告で米MediaMindと提携し、来年早々にサービスをスタートするとした。

 講演ではMediaMindのCEOを務めるNeil Nguyen氏が駆けつけ、「Yahoo! JAPANと提携できることをうれしく思う。コンシューマーの変化に追随するイノベーティブな広告を展開する」とコメントした。

MediaMindのCEOを務めるNeil Nguyen氏(中央)

 宮坂氏は講演の最後に「脱皮しない蛇は死ぬ。脱皮は痛い。でも楽しいからやる。我々はデジタルマーケティングの世界の課題を解決したい。解決するには時間がかかる。そのために集中して爆速でやっていく」と締めくくった。


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(岡 徳之(tadashiku))

2012/11/2 06:00