インタビュー

ベンチャーを支援して超スマート社会の礎に! 「JEITAベンチャー賞」とは?

3月14日に行われた「第3回 JEITAベンチャー賞」表彰式
ベンチャー賞とも連携するCEATEC JAPANでは「超スマート社会」の実現がテーマになっている(CEATEC JAPAN 2018開催概要説明会より)

 超スマート社会の発展などに貢献しうるスタートアップやベンチャーを表彰するという、一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)による賞「JEITAベンチャー賞」の表彰式が14日に開催、受賞6社が発表された。

 JEITAベンチャー賞の表彰は、今年2018年で3回目。この賞は、国策である超スマート社会「Society 5.0」や、それをも包括して変わりゆく「CEATEC」の動きも関係しており、今回を含めた各回の受賞社も「単に技術が優れている」だけでなく、スマート社会を実現するための技術、あるいはその基礎技術になっているものが選定されている。

 そこで今回、このJEITAベンチャー賞がどのような背景で創設され、何を目指し、そして受賞社やJEITA、社会にとってどんなメリットがあるのかを、JEITAの担当理事にお伺いした。

 お話をお伺いしたのは常務理事の川上景一氏だ。

超スマート社会「Society 5.0」を実現するために、ベンチャーやスタートアップを支援

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)常務理事の川上景一氏。JEITAベンチャー賞は、氏が尽力して創設されたもの。
2017年のCEATEC JAPAN。「Society 5.0」をテーマにして以来、出展者、来場者とも増加、新たな展示会としての手ごたえも感じているという

 JEITAベンチャー賞は、電子情報技術産業の総合的な発展や、経済発展に貢献しうるであろう、創業15年以内のベンチャー企業を表彰するというもので、2016年に創設された。

 JEITAとして、“Society 5.0”(内閣府が「第5期科学技術基本計画」の中で示している科学技術政策の指針)を目指し実現していこうという大きな課題がある中で、異業種との連携、そしてベンチャー企業やスタートアップとの連携は欠かせない要素と考えているという。

 そこで、「表彰を契機に(さまざまな企業が)お知り合いになっていただいて、交流を深めていただくところからビジネスは始まりますので、まずは、そこをJEITAが実現しようということで創設しました」と川上氏が説明するように、ベンチャー企業と交流や連携を深めることを目的に川上氏が特に尽力して創設されたもの。

 川上氏は、2015年6月にJEITAの常務理事に就任したのだが「10月に見た“CEATEC JAPAN”が非常に停滞していて、正直がっかりした」(川上氏)という。その後、CEATEC JAPANのテーマが2015年以前の“家電見本市”から、2016年以降の“CPS/IoT展”へと一新。これに合わせて「異業種、ベンチャー、海外からの参加が少ないという問題を改善しないことには、CEATEC JAPANは実りある展示会にならないし、JEITA自身の活動も良くならない」と考え、各方面とのパイプを強めるために考え出されたのがJEITAベンチャー賞だったという。

 表彰の選定基準は、今後の成長性が見込まれる「成長性・先導性」、世の中へ大きな影響を与えると考えられる「波及性」、そして世の中の社会課題に貢献しうる「社会性」が3つの柱。

 審査を行うのは、大学の先生や学識経験者で組織される審査委員会で、そのノミネートは大学や研究機関、ベンチャーキャピタルなど多方面からの推薦による他薦となる。第1回の2016年には8社、第2回の2017年には7社が受賞しており、今年2018年の受賞6社を加えると全21社が受賞したことになる。

 ノミネート企業については、特に業種や分野に制限はないという。直接ITを業務にしていなくても、それが電子情報技術産業の発展に貢献するものであればどういった企業でも構わないとのこと。

 実際、受賞企業にはディープラーニング技術に取り組んでいる「Preferred Networks」や、農業の生産性向上を目的とした技術を開発する「ルートレック・ネットワークス」、ピッキング動作を自動生成し実行する知能ロボット制御技術を開発する「MUJIN」など、非常に多岐に渡っている。川上氏は「IoTを使って世に役立つものであれば何でもいい」と表現したが、賞の裾野は非常に広いと言っていいだろう。

【JEITAベンチャー賞 受賞企業】
【第1回】
株式会社アロマジョイン:、「香り制御装置」という新たなウェアラブルデバイスを提案、エンターテイメント産業などに事業展開。
株式会社イーディーピー:気相成長による高純度ダイヤモンドの製造技術などを通じ、大型で高純度の単結晶ダイヤモンドの供給を可能。パワー系デバイスなどに期待。
株式会社QDレーザ:産学連携で開発した量子ドットレーザー技術をもとに、LAN/FTTH、材料加工、計測、ライフサイエンスなど、幅広い分野で事業展開。
つくばテクノロジー株式会社:レーザ励起超音波を利用する非接触レーザ超音波可視化法による非破壊検査技術を提供。
株式会社トリマティス:高速光デバイス技術と高速制御回路技術を融合、ナノ秒オーダーの光高速制御・統合を実現。ライダーでの実用も。
株式会社Preferred Networks:ディープラーニング技術による交通高度化(自動運転)や産業ロボットへのAI適用などを事業展開。
株式会社ミライセンス:「さわりごごち」を疑似体験できる「3D触力覚型」インタフェースを開発。エンタテイメントや産業機器の遠隔操作などにフォーカス。
株式会社ルートレック・ネットワークス:IoT とクラウドを活用した次世代型の点滴灌漑システムを開発。かん水・施肥の「経験と勘」をセンサー情報と栽培アルゴリズムで代替し、省力化、20~30%の収量増も実現。
【第2回】
アプライド・ビジョン・システムズ:3次元視覚技術をベースとした高精度な3次元計測や物体認識のソリューションを開発。
エアロセンス株式会社:ドローンによるセンシングとクラウドによるデータを組み合わせた産業用ソリューションを開発。
株式会社エクスビジョン:画像処理技術をロボットやFA、映像メディア、自動車、ドローン、医療分野などに適用している東大発のベンチャー。
株式会社Kyulux:熱活性遅延蛍光現象(TADF)と蛍光材料を組み合わせることで、高効率発光、低コスト、高純度な発光色を実現する有機EL素子を開発
株式会社フェニックスソリューション:金属対象物でも読み取り可能なRFIDタグの開発に初めて成功。センサーなどのIoT化を加速。
株式会社FLOSFIA:ミストCVD成膜技術により簡便、安価、安全な金属酸化物の薄膜形成を可能とする、京都大学発のベンチャー。
株式会社MUJIN:産業用知能ロボットの企業。画像認識によって事前のプログラムを必要とせずに自らピッキング動作を実行する。
【第3回】
株式会社アスター:独自の積層技術を用いた「アスターコイル」を実用化し、モーターコイルの大幅な高密度化を実現。
株式会社ABEJA:AIを活用したビッグデータ解析実行を特徴とし、カメラ画像分析や地理情報なども加味した店舗の業務改善サービスを提案。
Hmcomm株式会社:音声認識に特化したAIプラットフォームによるソリューションサービスを提供。
株式会社ZenmuTech:暗号化技術と分散技術を組み合わせた秘密分散処理により、情報の漏えい防止を可能にするソリューションやデバイスを提供。
PGV株式会社:微小信号処理技術とフレキシブルエレクトロニクス技術をベースに、パッチ式脳波センサーの製造、および脳情報ビッグデータを活用した脳波ビジネスを提供。
株式会社フォルテ:骨伝導ヘッドセットによる、騒音環境下での音声ソリューション、および位置情報ソリューションを提供するIoT端末を提供。

「ベンチャー企業飛躍への一助に」CEATECへの出展招待やJEITA会員企業との連携も

Society 5.0が目指す「超スマート社会」

 このJEITAベンチャー賞の意義について、川上氏は「数多くのベンチャーの方々が世の中にいらっしゃって、我々のレーダースコープに入ってこない方々もたくさんいらっしゃるので、そういった方々から素晴らしい業績を上げているベンチャーを発掘していく、という点が最も大きな意義だと考えています」と語る。

 実際、JEITAベンチャー賞創設以降、「ベンチャーとの連携を深め、ビジネスに繋げていこう」という姿勢がJEITA会員企業間でも年々高まっているそうで、いわゆる“オープンイノベーション”の流れが拡がる中で、トレンドを作ることにJEITAベンチャー賞が貢献できたのではないかと考えているという。

 また、過去にベンチャー賞を受賞しているベンチャー企業の中には、実際に大手企業とコラボレーションし、ビジネスを始めている企業も存在しているという。

 この点について川上氏は「我々の賞があったからということではなくて、各企業のたゆまぬ努力のたまものだとは思いますが、JEITA会員企業との接点ができることやCEATEC JAPANに出展していただけることは、我々としてもうれしく思っています」と、受賞企業のその後の活躍を喜ぶとともに、JEITAベンチャー賞の成果に手応えを示した。

 そして、受賞企業からは、総じて「受賞して良かった」と、率直に言ってもらっているという。

 「ベンチャー企業から見ても、知名度はあったほうが良くて、そういったときに会社の技術やビジネスとあわせて、『JEITAベンチャー賞を受賞した実績があります』ということを実績として使ってもらえれば、ビジネスの発展という点に少しはお役になっているのかな、と思っています」(川上氏)。実際に、受賞をきっかけに周知が広がり、新しい顧客を見つけられた、という声も聞いているという。

 このほか、初夏に開催される「JEITAオープンイノベーションデー」や、秋に開催されるCEATEC JAPANへの出展招待もメリットといえるだろう。特に、15万人を超える来場者が詰めかけるCEATEC JAPANにブースが構えられるということで、新たな出会いやビジネスチャンスが生まれることにもなる。

 さらに、受賞企業は「ベンチャー優遇特例制度」により、JEITA正会員に入会を希望した場合でも2年間協会会費が免除となる。JEITA正会員になると、JEITA管轄の400を超える部会や委員会へも参加でき、これもネットワークを大きく広げるチャンスに繋がることになるだろう。

 もちろん、JEITAベンチャー賞自体がJEITAお墨付きの賞であり、これも受賞企業にとって、自社をアピールする上で非常に大きなメリットになっている。

超スマート社会に向けて、変革していくJEITA「ベンチャー賞」が果たす役割とは?

CEATEC JAPAN 2018の出展申し込みは4月27日まで

 そんなJEITAベンチャー賞だが、今後の課題は「まずは国内での知名度を高めること」(川上氏)という。

 ノミネート数は、今のところ毎年15~20社ほどで推移しているそうだが、この数はもっと増えていいと考えているそう。そのためには、「さらに賞の知名度を高めて発展させていきたい」(川上氏)。

 「JEITAというと、IT、エレクトロニクス企業の業界団体という認識が広く、他業種からは大きな接点がなかったりする部分もありました。しかし、これからは“異業種の方々も含めた、Society 5.0を推進する団体”としていきたい。そのためには、我々自身が敷居を低くしていく必要があると思っています」と川上氏。

 実際、JEITA会員の業種制限も2017年に撤廃しており、より幅の広い業種との連携を進めているという。そして、そうした変革のためにも、JEITAベンチャー賞の知名度向上が欠かせないとする。「知名度」については、(今は課題となっている)海外での知名度向上も考えているそう。

 「JEITA自らも変革していっていますし、JEITAベンチャー賞の受賞社さんがJEITAに加わることで変わっていく、という側面もあると思っています。そしてそのためにも、JEITAベンチャー賞を発展させていきたいし、その結果としてJEITAの活動がもっと価値あるものになってほしい。そして、それがSociety 5.0が目指す超スマート社会の実現に繋がると考えています」と川上氏。

 超スマート社会「Society 5.0」の実現に向け、「JEITAベンチャー賞」の役割はますます増していきそうだ。

(協力:一般社団法人電子情報技術産業協会)