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「Microsoft Viva」発表、“従業員満足度”を向上させるための「EXP」総合サービス

「Microsoft 365」のオプションとしてTeams、Outlook、Wordなどから利用可能に

米Microsoftのサティヤ・ナデラCEO(出典:Microsoft)

 米Microsoftは4日、同社が「EXP(Employee Experience Platform:従業員体験プラットフォーム)」と呼ぶ新しいSaaS「Microsoft Viva(マイクロソフトヴィーヴァ)」を発表した。

 Microsoft Vivaは、「Viva Connections」(HRと社内SNS)、「Viva Insights」(自己分析)、「Viva Learning」(デジタル研修)、「Viva Topics」(知見共有)という4つのサービスが用意されており、「Microsoft 365」のオプションサービスとして提供される。従業員は、TeamsやOutlook、Wordなど、現在利用しているクライアントアプリケーションを利用してVivaのサービスにアクセスできる。

 Microsoftによれば、こうした従業員の働き方や福祉向上を支援するEXPの市場は年間で約3000億ドル(日本円で約31兆5000億円)の市場規模があると考えられており、すでに多くのサービスプロバイダーがそれぞれ別個のサービスとして提供している。しかし、今回のMicrosoft Vivaのような従業員満足度を向上させる総合的なサービスは例が無く、すでに大企業などで利用が進んでいるMicrosoft 365の追加サービスとして導入することが可能であるため、導入が容易になるのが特徴だ。

「リモートワーク時代の生産性向上には従業員満足度を上げるべき」、そのための「EXP(Employee Experience Platform)」

 発表に先立って行なわれたオンライン会見の中で、Microsoft最高経営責任者(CEO)のサティヤ・ナデラ氏は、「昨年は我々の社会や経済が大きな変化を迎えた年だった。多くの企業などで大規模なWFH(Work From Home:リモートワークのこと)が行なわれており、それをデジタルテクノロジーが支えている。その中で多くの組織が、従業員の体験や福利厚生などを向上させる仕組みを必要としている」と述べ、昨年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、全世界的にリモートワークが大きな進展を見せたとして、それをコラボレーションツールや生産性向上ツールがそれらのリモートワークを支えていると説明。その上でリモートワークに従事する企業の従業員の満足度を上げるための取り組みが必要だと指摘した。

 ナデラ氏は「従業員の満足度を上げるにはコラボレーション、学習、福祉の3つが大事だ。従業員同士が簡単に交流したり、新しい仕事に就いたときに、MRを利用してより簡単に学習したり、そしてリモートワークをしながら精神的にも身体的にもより健康になる必要がある。そのためにEXPが必要だ」と述べ、同社が「EXP(Employee Experience Platform:従業員体験プラットフォーム)」と呼ぶ、新しいSaaSベースのサービスとなる「Microsoft Viva」を発表した。

TeamsからMicrosoft Vivaのサービス(Viva Connections)を利用しているところ(出典:Microsoft)

 ナデラ氏によれば、EXPは、IT企業が提供してきたCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理。例えばSalesforceなど)の従業員向けという位置付けとなる。CRMとは、顧客との関係をデジタルに置き換えることで、顧客のユーザー体験をよくすることで顧客満足度を上げて企業の売上を上昇させるためのツールとして活用されてきた。

 それに対してEXPでは、従業員(Employee)の満足度を上げることを目的としており、従業員が他の従業員との交流を簡単にできたり、新しい仕事に就いたときにその新しい仕事に関する学習を全てデジタルで済ませたり、あるいは、いわゆる福利厚生といった従来はアナログで提供してきたサービスもデジタルで提供していく、そうした従業員のためのサービスを1つにまとめたものと言える。従来はHR(Human Resources)と呼ばれてきたものを、さらに発展させたものだと言える。

 こうしたHR向けのサービスはすでに他のベンダーからも提供されているし、Microsoft自身のサービスもある。実際、Microsoftも報道発表の中でこうした製品の市場規模が年間で3000億ドルと説明しており、規模が大きな市場と言える。

 それなのにMicrosoftがこうした製品をEXPとして提供する理由について、ナデラ氏は「こうしたサービスは細分化されて提供されており、せっかく導入されていても有効活用されていない現状がある。そこで1つの統合されたプラットフォームとして提供していく」と述べ、これまで異なるベンダーから異なるツールとして提供されていたHRのサービスなどを全て包含する統合サービスとして、Microsoft Vivaを提供していくのだと強調した。

「Connections」「Insights」「Learning」「Topics」4つのサービスで構成されている「Microsoft Viva」

 Microsoft Vivaは、SaaSとして提供され、Microsoft 365のアドオンサービスとして提供される。Microsoftは、Microsoft 365のアドオンサービスとしてPowerBIやDynamic 365などを提供している(プランによっては標準)が、それと同じような扱いだと考えることができる。企業や教育機関などの組織がMicrosoft 365のサービスとしてVivaの利用契約をすると、従業員はTeamsやOutlookなどのクライアントアプリケーションからそのサービスを利用することができる仕組みだ。

Microsoftのジャレッド・スパタロ氏(Microsoft 365担当コーポレートバイスプレジデント)(出典:Microsoft)

 Microsoftのジャレッド・スパタロ氏(Microsoft 365担当コーポレートバイスプレジデント)によれば、Microsoft Vivaには、「Viva Connections」「Viva Insights」「Viva Learning」「Viva Topics」という4つのサービスが提供されるという。

1. Viva Connections(HRと社内SNS)

Viva Connections(出典:Microsoft)

 従来、HRアプリとして提供されてきた機能と、社内SNSの機能などを統合した機能が、Viva Connectionsだ。従業員はTeams(デスクトップ/モバイル)などの対応クライアントアプリケーションを利用してアクセスすることが可能で、人事ポリシーや福利厚生、社内ニュースなど組織が提供する従業員向けの情報にアクセスしたり、従業員同士が情報交換を行なうコミュニティに参加したりすることができ、かつ、従業員が自分向けにカスタマイズして利用することが可能。

2. Viva Insights(自己分析)

Viva Insights(出典:Microsoft)

 従業員、管理職、経営者など、それぞれの職位にパーソナライズされた自己分析ツールで、Teamsのクライアントアプリケーションからアクセスできるようになる。従業員であれば、働き方の洞察や分析がデータとして可視化され、本人だけが閲覧可能。それにより、どのタイミングで休憩を入れるのがベストか、働き方をこう変えてみたらどうかとった提案などを見ることができる。管理職は自分のチーム全体の傾向を、経営者は全社の傾向をそれぞれ可視化されて見ることができる(従業員のプライバシーに配慮するため、個人のデータは標準で匿名化されてから集約される)。

 従来、Microsoftはこうした機能を「MyAnalytics」というサービスとして提供してきたが、Viva Insightsはその機能を包含し、さらに機能が強化されたかたちになる。

GlintのデータをViva Insightsのダッシュボードから確認できる(出典:Microsoft)

 サードパーティのサービスのサポート機能も追加されており、LinkedInのGlint、Zoom、Workday、SAP SuccessFactorsのデータを取り込んでViva Insightsの分析に活用することが可能。

3. Viva Learning(デジタル研修)

Viva Learning(出典:Microsoft)

 従来のHRアプリにおける、従業員研修の機能を取り込んだサービス。研修をオンライン化し、その研修のためのコンテンツや学習の機会を従業員が容易に発見できるようにする。こちらも、Microsoftは従来、「Microsoft Learn」を提供してきたが、それを発展させてVivaに統合させたサービスとなる。

 LinkedIn Learning、Microsoft LearnといったこれまでのMicrosoftのHRサービスのコンテンツだけでなく、Skillsoft、Coursera、Pluralsight、edXなどのサードパーティのコンテンツを取り込むことも可能になっており、そこに組織独自のコンテンツを追加して従業員研修を効率よく行なうことができるようになる。また、Cornerstone OnDemand、Saba、SAP SuccessFactorsなどの研修管理システムを統合的に利用する機能も提供する計画。

TeamsからViva Learningのコンテンツにアクセスしているところ(出典:Microsoft)

4. Viva Topics(知見共有)

Viva Topics(出典:Microsoft)

 組織にとってリモートワークになって一番困ることは、仕事のノウハウや知見などが上の世代から下の世代へと継承されていかないことだろう。リモートワーク以前であれば、そういうことは指導というかたちになるのか、あるいは休憩部屋での雑談というかたちになるのかはそれぞれだろうが、さまざまなかたちでノウハウや知見が継承されていく。しかし、人と人が実際に会わないリモートワークではそうしたことが難しくなっているのは多くの組織で起こっているだろう。

 Viva Topicsはそうしたノウハウや知見の継承をデジタル化する仕組みで、AIを利用して従業員に必要とするTeamsのスレッドや組織のドキュメントなどを自動的に「トピックカード」として表示する。そのトピックカードをクリックすると、スレッド、文章、ビデオやそれに関係する他の従業員などが表示される仕組みになっている。また、ServiceNowやSalesforceなどのサードパーティのサービスとの接続も可能になっており、そうしたCRMツール内の情報をViva Topicsに取り込んで利用することが可能だ。

TeamsからViva Topicsにアクセスしているところ(出典:Microsoft)

細分化されていた“HR系”サービスを垂直統合して分かりやすく提供、「Microsoft 365」のアドオンとしてシンプルな導入が可能

 このように、Microsoft Vivaはそれぞれのサービスが画期的に新しいというよりは、これまでそれぞれ別々に提供されてきたHR系のサービスが「Microsoft Viva」という名称の元に統一されて提供されるようになる、ということに大きな意味がある。ナデラ氏が「細分化(英語ではSilo)」と表現してきたように、こうしたクラウドサービスはそれこそ星の数ほど用意されており、企業にとってはどのサービスを導入したらいいかも分からないし、そもそもその管理が大変でIT部門の生産性が下がるという本末転倒な事態まで生じかねない状況だ。

 その意味で、企業にとっては従業員の福利厚生の充実や満足度向上のためのツールとして、シンプルにMicrosoft 365にアドオンすればよく、ユーザーが使い慣れているTeamsのようなクライアントアプリケーションから利用できるMicrosoft Vivaは分かりやすく、IT部門にとってメリットがあるソリューションと言える。Microsoftによれば、VivaのサービスはTeamsだけでなく、OutlookやWordといった他のMicrosoft 365のクライアントアプリケーションからも利用可能にする計画だという。

 Viva Connectionsは2021年の前半にTeamsのデスクトップアプリでパブリックプレビューの利用が可能になり、Teamsのモバイルアプリへの対応は2021年の後半に開始される予定。

 Viva InsightsはTeamsのデスクトップアプリとして、そしてウェブ上のダッシュボード機能は同じようにパブリックプレビューとして2月4日より利用可能になる。

 また、Viva Learningも同日よりプライベートプレビューが始まるが、Cornerstone OnDemand、Saba、SAP SuccessFactorsなどの研修管理システムとの統合は2021年に開始される予定だ。プレビュー中は無償で利用できるが、正式提供後は有償になる(価格は現時点では未公表、サービスインまでに発表される予定)。

 なお、Viva Topicsは正式提供が同日より開始されており、法人向けのMicrosoft 365のアドオンとして利用することができる。ただし、自動的に使えるようになるのではなく、IT管理者が管理サイトで30日間のトライアルを申し込む必要がある。トライアル終了後は1ユーザーあたり月額5ドル(税別)の料金がかかる。

【お詫びと訂正 2021年2月5日 11:15】
 記事初出時、Viva ConnectionsとViva Learningの提供スケジュールについて誤りがありました。お詫びして訂正いたします。