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「年末調整のデジタル化」によって年末の業務は無くなる――弥生・岡本社長が「将来像」語る

弥生株式会社代表取締役社長の岡本浩一郎氏

 弥生株式会社がイベント「弥生PAPカンファレンス2021」を、6月11日よりオンラインおよびリアル会場で開催している。「弥生PAP(Professional Advisor Program)」は、同社による会計事務所や税理士事務所向けのパートナープログラムだ。基調講演に登壇した同社代表取締役社長の岡本浩一郎氏は、2021年5月の時点で弥生PAP会員数が1万1000事務所を超えたことを紹介しつつ「単純に多ければいいというものではなく、それ以上に同じ方向を向いていることが重要だ。そのためにPAPカンファレンスがある」と語った。

 岡本氏は基調講演で、まず前年の弥生PAPカンファレンスで挙げた「法令改正対応」と「業務のデジタル化」の両輪で進める方針を取り上げた。そのうえで、具体的な内容として、2023年のインボイス制度導入に合わせたデジタル化や、年末調整のデジタル化などを論じた。

「法令改正対応」と「業務のデジタル化」の両輪

「インボイス制度」を契機に、請求から支払いまでをデジタルで一気通貫

 岡本氏は、業務のデジタル化に向けて2019年12月に「社会的システム・デジタル研究会(BD研究会)」を立ち上げたことを紹介した。参加したのはSAPジャパン、オービックビジネスコンサルタント(OBC)、ピー・シー・エー(PCA)、ミロク情報サービス(MJS)と、弥生を含めた5社。「業務のデジタル化は、業務のあり方を変えることであり、弥生1社ではできない」と岡本氏は背景を語った。

 BD研究会では、2020年6月に「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」を発表した。そこでは「紙の電子化(Digitaization)から、今後は業務のあり方を見直すデジタル化(Digitalization)を目指すべき」というのを基本姿勢として、「短期的には、標準化された電子インボイスの仕組みの確立に取り組むべき」「中長期的には、各種制度等についても、業務プロセスを根底から見直すデジタル化を進めるべき」といったことが含まれるという。

「社会的システム・デジタル研究会(BD研究会)」と提言

 これを受けて2020年7月には「電子インボイス推進協議会」を立ち上げ、100社以上が参加しているという。目指すのは、「インボイス制度に対応する」ことと、それだけに終わらず「圧倒的な業務効率化を実現する」ことだ。

「電子インボイス推進協議会」

 電子インボイス推進協議会の狙いでは、まずはインボイス制度を契機に、商取引のうち請求から支払いまでの部分を一気通貫で電子化する。さらに圧倒的な業務効率化の実現として、見積の段階から、発注、納品、請求、支払いまで、一気通貫で電子化する。

電子インボイスを契機に電子化する部分

 これを実現するための仕組みとして、電子インボイス推進協議会の結論は、電子インボイスの規格である「Peppol(ペポル)」だ。Peppolはヨーロッパで生まれて採用され、最近はシンガポールやオーストラリア/ニュージーランドでもPeppolの採用を発表している。「日本で2023年には使えなくてはいけないため、完成度が高いPepolを日本でも採用しようという結論に達した」と岡本氏は説明した。

日本でも「Pepol」を採用しようという結論に達した

「年末調整のデジタル化」は、確定した時点での処理を

 続いて岡本氏は、BD研究会のもう1つの取り組みとして「年末調整のデジタル化」を取り上げた。「年末調整制度は昭和前半の仕組みで、それが令和になっても変わっていない。単に紙を電子にするのではなく、仕組みを変える」と氏は言う。

もう1つの取り組み「年末調整のデジタル化」

 前述の「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」に盛り込まれた、年末調整業務のデジタル化にあたっての基本的な考え方には、「発生源でのデジタル化」「原始データのリアルタイムでの収集」「一貫したデジタルデータとしての取扱い」「社会的コストの最小化の観点での、必要に応じた処理の見直し」「確定した事実を基とする」がある。

年末調整業務のデジタル化にあたっての基本的な考え方

 特に最後の項目では、これまで年末にまとめて処理するため事業者に重い負担がかかり、さらに確定する前に作業する必要があってやり直しも発生することを指摘している。これをデジタル化した将来像では、給与支払ごとに処理されるため、年末に業務が発生しないという。

将来像:確定ごとに報告

自動化により、「自計化」と「記帳代行」がどちらも有効に

 そのほか岡本氏は、社会はすぐに全てデジタルに変わるわけではなく、徐々にデジタルになっていくと語り、特に会計事務所がその中でどう対応するかについて論じた。

 まず、記帳の「自計化」と「記帳代行」のジレンマを取り上げた。これまで、自計化は正確な情報をタイムリーに得ることができるが、知識や労力から対応できる顧客(顧問先)は限られた。反対に記帳代行は、正確な情報をタイムリーに得ることが難しい代わりに、顧客の窓口が広まり、ただし会計事務所は労働集約方の業務負荷が大きい。

 これが自動化することにより、自計化しても顧客の労力が大きくならず、記帳代行しても正確な情報をタイムリーに得られ、どちらも有効になると岡本氏は主張。さらに会計事務所は付加価値の高い業務に専念できる、と述べた。

記帳の「自計化」と「記帳代行」のジレンマ

 自動化に唯一残る問題が、紙だ。そこで弥生では2020年秋に、入力代行を含む記帳代行業務の効率化を支援する「記帳代行支援サービス」を立ち上げたと岡本氏は紹介した。紙からの入力を弥生が代行し、会計事務所で弥生会計に取り込んで処理する。

弥生の「記帳代行支援サービス」

 最後に岡本氏は、最初に掲げた昨年の「法令改正対応」と「業務のデジタル化」という両輪を再掲し、「業務効率化はすでに現実解なので左(法令改正対応の側)に入れて、業務のデジタル化は未来に向けて進める」と述べた。そして、「そのためのお手伝いを全力で進める」と語った。

業務効率化はすでに現実解、デジタル化は未来に