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平井卓也大臣も“デジタル敗戦”覆すべく意気込む~「日本の経理をもっと自由に」サミット開催
経理部門のテレワークや電子インボイス「Peppol」の国内導入で議論
2021年6月25日 07:15
経理関連ソフトやサービスを手掛ける企業など約150社が協賛する「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトが6月22日、「日本の経理をもっと自由に」サミットを開催した。2023年10月の国内導入が予定されているインボイス制度を切り口に、コロナ禍における経理業務のテレワーク対応、電子インボイスの国際規格「Peppol(ペポル)」を巡る国内動向について、関係者が意見を交わした。また、内閣デジタル改革担当大臣の平井卓也氏が動画講演を行ったほか、経理関連で先進的な取り組みを行った企業に対する表彰式に、俳優の小泉孝太郎さんが列席した。
経理部門のテレワーク、コロナ禍を経ても浸透せず
「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトは、法人向けの請求業務サポートツール「請求管理ロボ」を手掛ける株式会社ROBOT PAYMENTが発起人となり、2020年7月に立ち上げられた。紙の請求書の取り扱いが不可避な経理部門は、コロナ禍にあってもテレワーク体制への移行が難しい。しかし現場の経理担当者からはテレワークを望む声が多かったことから、経理業務体制の見直しを広く世間一般にアピールするため、賛同企業を募って活動している。
プロジェクトの責任者である藤田豪人氏(株式会社ROBOT PAYMENT 執行役員 フィナンシャルクラウド事業部長)によれば、当初50社だった賛同企業は約1年の活動を経て約150社にまで増加。経済産業省への嘆願書の提出、カンファレンス開催といった活動に加え、2020年9月の新内閣発足に前後するかたちで「脱ハンコ」「脱FAX」の議論が大きな注目を集めた影響もあり、請求書の電子化に向けた気運形成に一定の寄与ができたのではないかと振り返った。
ただ、約1年の活動を通じて、課題も見えてきた。2021年5月、経理担当者1000人を対象とするインターネット調査を改めて実施したところ、新型コロナ問題で働き方が大きく変わる中でも経理の働き方が「変化していない」と回答した人の割合は合計83.4%に上った。また、電子化ツールの導入が検討されていない企業は59.8%に達しており、実際の動きが鈍いことを伺わせた。
現実の企業は、電子化ツールの導入にあたってコスト負担を考えなければならないし、そして取引先との間でも、それまで紙だった請求書を電子化する以上、受け入れ体制の確認などの調整が欠かせない。「紙文化からの脱却」「システム投資の必要性」だけを単純に訴えるだけではなく、“請求書を取り巻く構造”を変えることが重要ではないかと藤田氏は指摘する。
「インボイス制度」開始まであと2年、日本でも電子インボイス規格「Peppol」の普及目指す
この“請求書を取り巻く構造”を考えていく上で、鍵となりそうなのが「電子インボイス」と「Peppol」だ。
そもそも「インボイス(Invoice)」とは、英語で「送り状」「請求書」などを意味し、販売した商品の数量や価格、金額などが記載された書類のことを指す。約2年後の2023年10月に日本国内で運用が始まる「インボイス制度」(正式名称は「適格請求書等保存方式」)は、企業や個人事業主の経理、特に請求業務に大きな影響が与えるとみられ、経理ソフト開発会社は対応を急いでいる。
電子インボイス推進協議会(EIPA)は、インボイス制度の円滑導入を目指して設立された団体で、弥生株式会社が代表幹事法人を努めている。今回のサミットには、同社の代表取締役社長である岡本浩一郎氏が登壇した。
インボイス制度の導入によって、企業関係者が日々発行している請求書は、様式がある意味“厳格化”される。消費税の計算を正確に行うため、事業者の登録番号を記載する必要があったり、また、消費税の仕入れ税額控除を適用するために請求書そのものの保存が求められる。
経理実務を考慮すれば、インボイスは紙でなく電子で扱うのが理想的だ。そこでEIPAでは、電子インボイスの仕様などに関する技術的課題などを検証しており、結果的に海外で導入が先行する「Peppol」規格をベースに、日本市場への最適化を図る方向で活動を進めている。
Peppolは2018年にシンガポールで、2019年にはオーストラリアおよびニュージーランドが採用を表明した。岡本氏によれば、Peppolベースのインボイスのやり取りは、電子メール送受信の感覚に近く、取り扱いは比較的簡単という。
EIPAでは、電子インボイス導入の先に、業務全体の大幅な効率化を見据えている。見積書や発注書は、表計算ソフトなどで作成されるなど、部分的には電子化されているわけだが、しかし企業間のやり取りとなると、郵送頼りになってしまっている。「売り手と買い手、それぞれの中では電子化されているが、その間のやり取りがアナログ。この非効率な部分を変えていかなければ」(岡本氏)。
インボイスを含め、さまざまな書類を紙に印刷することなく、データで直接やり取りできれば効率は一気に上がる。こうした手法は大企業で普及しているものの、中小企業にはまだ浸透していない。この問題を、インボイス制度とも結び付けながら、解消したいという。
EIPAでは、インボイス制度導入の1年前にあたる2022年秋には、電子インボイスの運用開始を目指している。
平井卓也デジタル改革担当大臣も「電子インボイス」に積極的
国としてもデジタル改革に向けた動きは加速している。その方針について、デジタル改革担当大臣の平井卓也氏による講演映像(事前収録)が公開された。平井氏は、菅内閣の目玉政策である「デジタル庁」の設立に深く携わっている。日本のIT事情・IT戦略が総じて“デジタル敗戦”とも評される中、9月のデジタル庁設立後はこれを一気に覆すべく、活動していきたいと意気込む。
また、これに先駆けるかたちで6月18日には、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定した。この計画の中では、電子インボイスの普及に向けた取り組みを「(デジタル庁の)フラッグシッププロジェクト」と位置付け、官民一体で推進する計画だ。
「EIPAからは電子インボイス、Peppolの導入に向けた提言を(2020年12月に)いただいた。私も大いに賛同するところであり、バックオフィスのDXにもつながることからフラッグシッププロジェクトとさせていただいた。」(平井氏)
Peppolの導入にあたっては、ユーザーの負担が最小限となるよう、さまざまな仕様のソフトがあること、その互換性が確保されることを重視したいと平井氏は説明。また、Peppolは欧州を祖とする規格ではあるが、日本を含むアジア・オセアニア圏にも広がりを見せているだけに、その国際標準化などには日本としてもリーダーシップを発揮していきたいという。
「これまでの延長線上で単純に日常を取り戻しての経済回復はできない、社会をバージョンアップさせ、新しい日常を作ることで、未来を拓きたい――そうお考えの人は多いはずだ。私も全くその通りだと思う。ぜひ皆さんと一緒に、これまでのマインドセットを変えながら進んでいきたい。」(平井氏)
識者4人がトークセッション、会計ソフト会社でも経理のテレワークに苦心?!
サミット後半のトークセッションには、岡本氏のほか、内閣官房の加藤博之氏(情報通信技術(IT)総合戦略室 参事官補佐)、株式会社マネーフォワードの瀧俊雄氏(執行役員 サステナビリティ担当 CoPA(Chief of Public Affairs)Fintech研究所長)が参加した。なお、モデレーターは藤田氏が努めた。
瀧氏はコロナ禍の1年を振り返って、社内経理業務のテレワーク対応にはかなりの苦心があったと明かす。「ちょうど1年前は、(上場企業としての義務である)四半期決算の時期。経理部長が一度も出社せずになんとか決算を発表することはできたのだが、今思うとかなりギリギリの対応だった。クラウド会計ソフトを提供する企業として、なんとかプライドを保てた格好だが、一般的なお客様となれば、そのご苦労は相当なものだったろう」(瀧氏)。
岡本氏も、普段は会計ソフトメーカーの社長であり、自社のバックオフィス業務を間近に見ていた。ただ、その中でも経理のテレワーク化は難易度が高かったという。「紙の請求書があるのも理由の1つだが、それ以上に経理担当者の“真面目さ”が印象に残った。『這ってでも出社する』と言うくらい、想いが強いというか……。いくら私が『リモートしていいよ』といっても、それでも出社するくらいの人もいた」(岡本氏)。
岡本氏が明かしたエピソードは、経理職の使命感の高さゆえ、だろう。ただ、抜本的な業務改革にあたっては、個人個人のマインドセットをいかに変えるかが大きな課題であることを伺わせた。瀧氏も“経理部長が出社せずに決算発表”を行った背景として、社内でコロナ陽性者が確認され、オフィスの閉鎖、消毒にまで至るという重大事態があったからこそ成し得たのかもしれないとの感想を漏らしていた。
加藤氏は、コロナ禍以前はテレワークに関する知識も浅かったというが、この1年でツールの重要性に気付かされたという。テレワークは精神論だけで実現できるような働き方ではなく、しっかりと専用のツールに投資し、準備することが欠かせないとした。
「電子インボイス」普及の鍵は?
将来的に電子インボイスを普及させるには、どんな点がポイントとなるのだろうか。瀧氏は「強い立場の企業からマナー/エチケットとして進める」という方向性を示した。お金のやり取り上、売り手は買い手より立場が弱く、ましてや中小企業では交渉力が下がる。だからこそ強い側が、弱い側に無理強いさせることなく、配慮しながら導入を図っていくべきという。
加藤氏は、会計ソフト側での機能実装などを工夫することで、電子インボイスの存在を知らなくても自然とインボイス対応が済んでいるというような方向性もあるのではないか、と述べた。
岡本氏も、加藤氏の意見に同調。「インボイスは商取引においては(最後のほうの)下流だが、ここでしっかりと実績を積めば、より上流の受発注などもデジタル化を進めようという流れが生まれるかもしれない。そうすれば、作業が減り、より本質的な業務に集中できる。そこを目指すべきではないか」(岡本氏)。
その上で加藤氏は、変革の意思こそが最も重要だと語る。「以前、DX関連のセミナーで講師を務めたとき、参加者の中に『もう面倒くさいから全部紙でやる』とおっしゃった方がいた。その場は凍りついたが、よくよく考えれば、その参加者はDXではないけれどX、変革には取り組もうとしている。そうやって一歩踏み出すことで気付きが生まれ、いずれデジタルに繋がっていくかもしれない」(加藤氏)。