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NTT、フィールド環境下のマルチコア光ファイバーで世界初の1.6Tb/秒の伝送に成功

NTT研究所内のファイバー敷設環境、および、地下設備とマルチコアファイバーの断面図

 日本電信電話株式会社(NTT)は10月6日、1本の光ファイバーで毎秒1.6Tb(テラビット)を超える強度変調直接検波(IM-DD:Intensity Modulation-Direct Detection)方式による光信号の空間多重光伝送実験に成功したと発表した。同社によれば、フィールド環境(商用試験装置が配置されている局舎設備や光ファイバケーブル設備を使用した環境)において、1ファイバーあたり毎秒1.6Tbの10km伝送実験に成功したのは世界初。

 データセンターネットワークにおいては、イーサネットのIEEE802.3規格として毎秒400Gbまでの容量を持つ規格は標準化されており、毎秒1.6Tbは、従来の商用レベルの4倍以上であるとしている。

 本実験は、4コアの光ファイバーの各コアを1レーンとして光信号を通す空間分割多重(SDM:Spatial Division Multiplexing)方式により、1レーンあたり毎秒400Gbへ高速化させ、全体で毎秒1.6Gbの容量を実現することを目指したもの。既存の規格における伝送距離を維持しつつ、1本の光ファイバーかつ少ないレーン数での伝送を実現することで、将来の大規模データセンターネットワークで求められる大容量を、経済的に実現することを目的とする。

イーサネット規格の標準化動向

 1レーンあたり毎秒400Gbを実現するため、毎秒400Gbを超えるIM-DD方式の光信号を、イーサネット標準の波長帯域(O帯)において実証し、世界で初めて、フィールド環境において1ファイバーあたり毎秒1.6Tbの10km伝送実験に成功した。

 本成果は、NTT独自の超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールと、超高精度なデジタル信号処理技術、およびマルチコアファイバを用いた空間多重伝送技術の高度な融合により達成されたとしている。

 実験設備の概要は、次のようなものだ。送信側では、これまでNTTで研究開発を進めてきたInP系ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(InP HBT)技術による110GHzまでの周波数に対応する超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールを、光送信回路内の光変調器駆動用ドライバアンプとして適用。従来のPAM4方式よりシンボル速度を3/4倍に低減できるPAM8方式を新たに適用することで、1レーンあたり毎秒400Gbの超高速IM-DD信号(155Gbaud PAM8)の安定な光信号生成を可能とした。

 受信側では、NTT独自のデジタル信号処理技術により、非線形最尤系列推定(光送受信機や光ファイバ伝送路で生じる非線形歪みを、最尤系列推定における候補信号系列に反映して、信号判定精度を高める技術)を用いたデジタル信号処理で、光送受信機内および伝送路で歪んだ信号を高精度に模擬。この模擬信号と受信信号とを比較することにより、受信信号のビット誤り率を大幅に低減でき、高速伝送を可能にした。

送信側、受信側の技術の概要
今回の実験結果。

 本実験結果の論文は、10月5日に光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第49回欧州光通信国際会議「ECOC 2023」でトップスコア論文として採択された。なお、研究成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究「高度通信・放送研究開発委託研究(採択番号20301)」により得られたものだとしている。