ニュース

東工大とNTT、オールCMOSの300GHz帯フェーズドアレイ送信機を世界で初めて開発、100Gbps超を達成

 国立大学法人東京工業大学工学院電気電子系の岡田健一教授らと日本電信電話株式会社(NTT)は2月17日、安価で量産性に優れたCMOS集積回路(CMOS-IC)で300GHz帯フェーズドアレイ送信機を開発し、100Gbps超のデータ速度を達成したと発表した。

 300GHz帯は、サブテラヘルツ帯とも呼ばれる周波数帯で、広い周波数帯域が確保可能なことから、6Gにおいての活用が見込まれている。しかし、300GHz帯は空間を伝搬する際の電波損失が大きく、空間伝搬損失を補うだけの十分高い送信電力を有する送信機が必要となる。

 そこで、複数のアンテナの出力を合成・制御することでアンテナ利得を高めるビームステアリング(アンテナの指向性パターンを制御する技術。通常、フェーズドアレイを用いて電気的に制御する)を可能にする2次元フェーズドアレイ技術の研究が進められており、東工大の岡田教授らとNTTでは、2023年6月に、高集積なCMOS集積回路による300GHz帯のビームフォーミング(電波の指向性を絞って通信する技術)と50cmで最大30Gbpsの通信に成功していた。

 今回の開発は、アンテナや電力増幅器も含めて通信に必要なCMOS集積回路を開発したもの。300GHz帯増幅器、アンテナ、ビームフォーマをオールCMOSの同一チップ上に集積したことは世界初であるという。

 フェーズドアレイは多くの送信回路を必要とするため、安価で量産性・集積製に優れるCMOSプロセルの活用が非常に有効だが、シリコンCMOSプロセスによるトランジスタの動作周波数の制限から、300GHz帯で高性能の電力増幅器を実現することは一般的に困難だった。

 今回は、300GHz帯で動作する電力増幅器を設計するために、トランジスタのレイアウトを新たに最適化した。65nmのシリコンCMOSプロセスを用いて設計した結果、寄生抵抗・容量の低減に成功し、300GHz帯での利得が向上。この最適化されたトランジスタを使用して設計された電力増幅器は、237-267GHzで20dB以上の利得を有し、251GHzで-3.4dBmの飽和出力電力を達成した。

 送信機ICには、このトランジスタを用いた電力増幅器でオンチップのアンテナを直接駆動する増幅器ラストの構成(最終出力段が電力増幅器となっている送信機の構成)を採用した。また、サブハーモニックミキサ、移相器、4逓倍器付きのLO回路の構成を工夫し、従来の5分の1の面積に小型化することに成功。4系統の送信回路を3.8mm×2.6mmの1チップに集積した。

従来のCOMSトランジスタとレイアウト最適化後のトランジスタの利得の比較

 次に、イオン照射によりチップアンテナ部の基板を高抵抗化した65nmシリコンCMOSプロセスを用いて300GHz帯送信機ICチップを作製。4系統の送信回路を有するCMOS ICチップをプリント基板上に4つ並べて実装することで、16アレイのフェーズドアレイ送信機を構成した。

 さらに、この基板を4枚重ねて張り合わせることで、16×4の2次元フェーズトアレイ送信機を実現した。ICチップは50μmに薄化して基板共振の影響を最小化すると同時に、基板からアンテナ部を0.4mm飛び出すかたちで実装することで、オンチップアンテナの放射信号の反射の影響を低減している。

作成した300GHz帯送信機ICのチップ写真
フェーズドアレイ送信機の基板構成

 開発された送信機の性能評価では、オンチップアンテナを除いた1系統の送信回路が高周波プローブにより測定され、16QAM変調時には108Gbps、32QAM変調時には95Gbpsの送信レートが達成された。この結果により、100Gbpsを超える高速な送信レートが確認された。さらに、50cmの距離での4系統の送信回路によるアンテナビームパターンは、120°の角度掃引において設計値と非常によく一致し、フェーズドアレイ動作が可能であることが確認できた。

フェーズドアレイ送信機の写真(チップ実装部)

 以上により、安価で量産性に優れたCMOSプロセスで300GHz帯の送信機を世界で初めて実現できたことで、同周波数帯を用いた6G高速無線機の実現に大きく貢献することが期待できるという。今後は本研究をさらに進め、より多くの送信回路を集積化したより大規模なフェーズドアレイ送信機の開発を目指すとしている。

 この研究成果は、2月18日(現地時間)に米サンディエゴで開催されたISSCC 2024(国際固体素子回路会議)で発表された。