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管理職が罰ゲームと化している――負担ばかりで新しい仕事もなかなかできない

そうなってしまった背景とは? 管理職を苦しめている構造を変える4つのアプローチとは?

パーソル総合研究所・上席主任研究員の小林祐児氏

 管理職への昇進は歓迎されることではなかったのか……。「罰ゲーム化する管理職」と題した報道関係者向けのオンライン勉強会をパーソルホールディングス株式会社が2月28日に開催し、パーソル総合研究所・上席主任研究員の小林祐児氏が登壇。管理職の就業負担について調査した結果などを紹介しながら、管理職が罰ゲーム化してしまった背景や管理職を苦しめる職場の構造を指摘し、罰ゲーム化を防ぐための4つのアプローチについて解説した。

管理職は忙しくて新たな仕事ができない

 小林氏は、「管理職の抱える課題」として、パーソル総合研究所が2019年に発表した「中間管理職の就業負担に関する定量調査」の結果を示した。ここでは、第1階層の管理職(ファーストラインマネージャー)のうち、「管理職本人の業務量の増加」について「当てはまる」と回答した人が52.5%(「非常に当てはまる」と「当てはまる」の合計、以下同)、「部下育成が不十分」については37.5%、「後任者の不在」については56.2%となっている。

管理職の抱える課題

 また、負担感の高い層における「管理職負担と抱えている課題」としては、「学びの時間を確保できていない」が63.0%、「時間不足から付加価値を生む業務に着手できない」が64.7%、「スキル・知識不足から付加価値を生む業務に着手できない」が53.3%などとなっている。

高負担層の課題意識

 この結果について小林氏は、「目の前の仕事は回せても、それ以上の新しい仕事はなかなかできない」と指摘。このような管理職負担感の要因として、「部下マネジメントの困難」「新しい組織課題への対応増」「コスト削減要請」「業務量の増加」を挙げている。

管理職の負担感の要因分析

 このうち、部下のマネジメントが困難になっている理由として「部下のメンタルヘルス問題が非常に増えている」ことを挙げた。そのほかには、部下との世代間ギャップによる意思疎通の困難、部下の離職の増加、部下の育成が十分にできないことがある。

平社員と管理職の給与の差が縮まる

 管理職と非役職者との賃金の差が縮小していることも、管理職にはマイナスとなっていることを挙げている。1980年代の数字と比較して、「部長は非役職者の2.2倍ぐらいもらっていたのが、今では1.9倍ぐらいしかもらっていない」という。

管理職と非役職者との賃金差(賃金構造基本統計を基に小林氏が作成。2015年以降は集計・推計方法の変更により参考値)

 賃金の差が縮小している理由として、労使交渉でのベースアップと新卒者の賃金が上がっていることを挙げている。

 今年に入ってから労使交渉で多くの企業がベースアップされたと報道されているが、これは非管理職の従業員に反映されるため、必ずしも管理職の賃上げにつながっていないとしている。「新卒の賃金を上げるという会社も最近は非常に多い」として、「組織全体の賃金のフラット化」に進んでいるという。

日本は就職してから15年間程度は平社員

 日本では、同年代の同期との長い競争により昇進することが多い。また、職務を横断する異動が多く、ゆっくりとした自然選抜だ。この中で、がんばればどんな職務であっても幹部を目指せるかたちだという。

 一方、諸外国は「欧米の伝統的な組織構造、いわゆる官僚制と呼ばれるような組織構造」だ。幹部層まで昇進できるのは、MBAホルダーや青田買いされたエリートのみ。そのほかの従業員は、職種ごとに昇進の天井があり、職務を横断した異動は少ない。

日本と諸外国のキャリア形成の違い

 また、日本は「15年間から17年間ぐらい当たり前のように平社員で過ごす」というのも、諸外国と異なる点だという。昇進年齢を比較した場合、中国は課長に昇進するのが平均28.5歳で、インドは29.2歳、タイは30.0歳、米国は34.6歳、日本は38.6歳だ。部長については、中国とインドは29.8歳、タイは32.0歳、米国は37.2歳、日本は44.0歳。

課長・部長への昇進年齢(左:リクルートワークス研究所「5ヶ国マネージャー調査」を基に経済産業省が作成)

 組織構造も日本と欧米とは異なる。欧米の伝統的組織構造では、仕事は個別分業化されおり、管理職は「個人間をつなぐ連結ピン」だ。しかし、日本では仕事はチーム(部署)で受けることが多いため、管理職はチームの代表者という位置付けとなる。

欧米の伝統的組織構造と日本の伝統的組織構造(植村省三「組織の理論と日本的経営」を参照に小林氏が作成)

罰ゲーム化を止める4つのアプローチ

 小林氏は、管理職の罰ゲームを止めるためには「ワーク・シェアリング アプローチ」「ネットワーク・アプローチ」「フォロワーシップアプローチ」「キャリア・アプローチ」の4つが必要だとしている。

 「ワーク・シェアリング アプローチ」は、管理職の仕事を分散または削減すること。「現場の中間管理職が何をやっているか正しく把握できている人事・経営は少ない」ということもあるため、管理職の現状を把握することから始める。そのうえで、無駄な稟議書や書類作成、承認プロセスを洗い出し、修正する。また、管理職が担ってきた役割をシェアする方法もある。

「ワークシェアリング・アプローチ」

 「ネットワーク・アプローチ」は、「企業内外の社会関係資本づくり」とする改善策。これまでは、他社はもとより、自社の部署内での連携が弱かった。例えば、他社とのつながりは1対1というケースもある。

 これを解消するため、社内ではマネージャー合宿や社内兼務制度、社外とはNPOサポート支援・研修、大学院での学びサポート、社外副業解禁、他社との相互出向などを行うことで、部署または会社との接点を増やす。

「ネットワーク・アプローチ」

 「フォロワーシップ・アプローチ」では、「コミュニケーション課題」の解決を挙げている。

 現在、コミュニケーションの課題とされている対話・傾聴の重要性、目標管理・評価の方法、ハラスメント予防、ダイバーシティ・コミュニケーション、キャリア自律などがある。これらの課題は、上司向け研修などで情報を共有しているが、部下やメンバーは研修などを行っていないため、現場でかみ合わないことがある。「コミュニケーションという相互行為を『上司だけ』に解決させようとしている状態」だ。

 そのため、「『管理職が大変そう』なイメージが広がる」「管理職自身が『自分で解決しなければ』と孤立する」という状態に陥る。

 ここでは、「情報の共有性」(同じ情報の伝達)として、管理職研修の内容を簡素化して伝える、eラーニング化する、ハンドブック化する、メンバー層に求めることを伝達する――ということが必要だ。加えて、「情報の共通性」(共有していると思う信念)として、「『管理職に伝えていること』と『部下に伝えていること』を双方に伝える」ことが挙げられる。

「フォロワーシップ・アプローチ」

 「キャリア・アプローチ」は、幹部候補と専門性を持つ従業員をはっきりと分けることだ。

 現在、経営幹部候補は「職種幅が広く人数が多すぎる」という状態だ。「いつまで経っても広範囲の異動対象」「いつまで経っても専門領域が決まらない」「いつまで経っても『組織のフォロー役』」となり、「『結果としての〇〇畑』しか生まれない」という状態に陥る。このような人事であっても、出世できるのは一部の人だ。

 そのため、30歳前後で幹部候補を選抜し、そのほかの従業員は異動範囲を一定領域に狭めて専門領域ごとの育成機会を拡充することが重要だとしている。

「キャリア・アプローチ」