私的違法ダウンロード刑罰化を含む著作権改正法、参議院で審議


参考人質疑で意見を述べる津田大介氏(参議院審議中継より)

 参議院文教科学委員会で18日、私的違法ダウンロードの刑罰化を含む著作権改正法案の審議が行われた。

 今回の著作権改正法案に対しては、15日に行われた衆議院の文部科学委員会で、法案の採決直前に自民・公明両党から「私的違法ダウンロード刑罰化」を追加する修正案が提出され、修正案に対する質疑はほとんど行われないまま政府案とともに可決。午後に行われた衆議院本会議でも賛成多数で可決した。

 修正案は、2010年1月施行の著作権法改正により規定されたいわゆる「ダウンロード違法化」について刑事罰を課すもので、具体的には、1)私的使用の目的をもって、2)有償著作物等の著作権または著作隣接権を侵害する、自動公衆送信を利用して行うデジタル方式の録音または録画を、3)自らその事実を知りながら行って著作権または著作隣接権を侵害した者は、4)2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すること――としている。

 衆院での可決を受けて行われた参議院の文教科学委員会では、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏、日本弁護士連合会事務次長で弁護士の市毛由美子氏、日比谷パーク法律事務所代表弁護士の久保利英明氏、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事の津田大介氏の4人を参考人として招いた参考人質疑が行われた。

 岸氏は、著作権者には正当な報酬が支払われるべきで、コンテンツ流通を活性化させるためには市場を公正なものにする必要があると説明。音楽CDの売上は1998年をピークに大幅に減少する一方、音楽ファイルの違法ダウンロードは正規音楽配信の推定10倍に上るとするデータを紹介し、業界の縮小は違法ダウンロードだけが原因ではないが、一因となっているのは間違いないと主張。ネットにおける違法ダウンロードは、リアルにおける万引きに相当する行為であり、刑罰化することが必要だと訴えた。

 市毛氏は、日弁連が2011年12月に発表した意見書に基づき、私的領域における行為に刑事罰を規定することには極めて慎重でなければならず、恣意的な捜査が行われることへの懸念もあると説明。刑事罰の導入よりも先にユーザーへの周知徹底などの施策を講じるべきであり、2010年に導入したダウンロード違法化にどのような効果があったのかも検討されていないとして、少なくとも現時点では刑事罰の導入には反対だとした。

 久保利氏は、長年コンテンツビジネスに携わってきた立場から、違法ダウンロードが横行する現状に「このままでは日本のコンテンツビジネスはもたない」という危機感を持ったとして、刑事罰導入の必要性を強調。かつては株主総会に総会屋が横行していたが、そうした行為を違法化・刑罰化することで一掃できたとして、違法ダウンロードも刑罰化することで国民に対して「やってはいけないこと」だという意識を持たせることが可能になると主張した。

 津田氏は、国会には利害が対立する様々な立場の意見を調整する役割が求められているとして、文化審議会の著作権分科会でダウンロード違法化を導入する際の議論では、法曹関係者のほとんどが刑罰化には反対していたことを紹介。音楽業界の一部の意見だけを取り入れるのではなく、様々な意見を踏まえた上で慎重な議論を行なってほしいと訴えた。

 質疑では、「スリーストライク法」を導入したフランスでは違法ダウンロードは減少したようだが、音楽業界の収益は回復していないというデータもあるという指摘に対し、岸氏は「違法ダウンロード以外にも景気変動など様々な変数がある」として、厳密な効果の検証は困難だと答えた。

 また、違法ダウンロードを刑罰化することで生じる影響について、市毛氏は「軽微な嫌疑をかけられただけで、PCを覗かれるのではないかという懸念がある」と説明。一方、久保利氏は「紙を1枚盗んでも窃盗であることに変わりはないが、ペナルティを課すだけの重要性があるかどうかについては検察官が起訴するかどうかのチェックをかけている。この種の案件だけチェックがかからないということはない」とした。

 インターネット産業に与える影響について、津田氏は「米国のDMCA(デジタルミレニアム著作権法)には、権利者の保護とともにユーザーや事業者を保護する規定も設けられている」として、こうした免責事項やフェアユースの規定が無い日本ではユーザー投稿型のサービスなどは非常にリスクが高く、新しいサービスが登場しにくいと説明。一方、岸氏は「ネットビジネスに有利な規定を作ることが必要だとは思わない。日本からもニコニコ動画が登場している」として、市場を公正にすることこそが必要だと訴えた。


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(三柳 英樹)

2012/6/19 21:11