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若者にとってネットは“スマホ+アプリ”、モラル教育追い付かず炎上の構造

 若者などが不適切な行為を撮影した写真をSNSに投稿し、“炎上”する事件が相次いでいることに関して、フィルタリングソフトを開発・提供しているデジタルアーツ株式会社が10日に開催した記者説明会の中で、その背景や構造、同社が取り組んでいる対策の方向性について説明した。

 デジタルアーツの工藤陽介氏(経営企画部コンシューマ課)によると、こうした問題投稿による炎上事件は今に始まったものではなく、2011年ごろからすでに見られたという。デジタルアーツが把握している炎上事件87件の推移を示したグラフを見ると、2011年の夏ごろから2012年の冬ごろにかけても多く発生しており、2011年7月には1カ月で11件にも上った。その後、インターネットユーザーが“学習”したのか、2012年夏以降はやや落ち着いていたが、ご存じのように最近になって再び増加し、2013年8月には17件を記録するに至った。

 ただし、その投稿内容には大きな違いあるという。2011年ごろは未成年者の飲酒や喫煙、カンニングといった行為の告白をテキストで投稿する形態がメインだったのが、今年の夏は、アルバイト先などの職場、あるいは店舗や遊園地などでの不適切な行為を撮影し、それを仲間内に伝えるために写真で投稿するパターンだ。スマートフォンの普及およびSNSアプリ/カメラアプリの利用により、撮影してその場で簡単に投稿できるようになったことが、炎上事件増加の背景にあると工藤氏は説明した。

問題投稿による炎上事件の推移

 しかしそれだけではなく、さらに2つの要因が考えられるという。その1つが、オープンな空間であるはずのSNSの中で“内輪感覚”で投稿してしまっていることだ。

 工藤氏によると、クローズドな空間であるLINEなどにおいては問題投稿をしても内輪ネタで済むかもしれないのに対して、一部の若者にとってはTwitterなどもクローズドな空間として認識されているのではないかと指摘する。すなわち、Twitterがオープンであることを知ってはいるものの、自分の投稿をわざわざ世界中から見に来ることはないと思っているという。しかし、オープンである以上は仲間内だけにとどまらず、“特定班”によって問題投稿が発見・拡散され、炎上につながることになる。なお、こうした構造を面白いと思った若者が、あえて拡散されることを狙ってネタ画像を投稿する場合もあるとしている。

 そしてもう1つの要因が、問題を起こす若者にとっての“インターネット”と、保護者・教育者にとっての“インターネット”に違いがあることだという。保護者・教育者の世代にとっては、PC+ブラウザーで利用するのがメインであるのに対し、若者にとってインターネットとは、スマートフォン+アプリで利用するものだという認識が、全員ではないが一定の割合であると、工藤氏は説明する。その結果、スマートフォン+アプリでのインターネット利用に対応したモラル教育が追い付いていないのだという。

炎上事件の構造とデジタルアーツの役割

 工藤氏は、こうした状況への対策としては、2つの取り組みがあると説明する。まず1つめが、スマートフォン+アプリでのインターネット利用に対し、適切なアプリの利用環境を提供することだ。デジタルアーツでは、フィルタリングアプリ「i-フィルター for Android」において、ウェブだけでなく、アプリの利用をカテゴリーによって制限する新機能などを7月より提供しているとした。

 2つめは、現在もPC+ブラウザーがメインである保護者・教育者に対して、情報モラル教育の支援を行うことだ。これについてもデジタルアーツでは、スマートフォンでのトラブルを疑似体験できるアプリを8月より無料で公開し、具体的に動き出したばかりだ。「スマホにひそむ危険 疑似体験アプリ」では、SNSの問題投稿に起因する炎上および個人情報の拡散からその後の人生への影響に至るまで再現したシナリオはじめ、4つのシナリオを疑似体験可能だ。

 工藤氏は、保護者・教育者からも炎上問題について質問を受けるというが、正しい理解が進んでいないために指導ができていないのが現状だという。まだスマートフォン+アプリによるインターネットの世界を理解できていない保護者・教育者にも疑似体験アプリによって理解を深めてもらいたいとしており、全国の啓発団体などと連携した情報モラル教育における同アプリの活用なども重要な活動だとしている。

デジタルアーツ株式会社経営企画部コンシューマ課の工藤陽介氏
ネット教育アナリストの尾花紀子氏

 記者説明会では、ネット教育アナリストの尾花紀子氏も登壇。問題投稿による炎上を起こしてしまうような若者に関しては、クローズドなLINEとオープンなTwitterの違いが分かっていないのではないかと指摘する向きがあることに対して、むしろ分からない人はLINEもTwitterも使っておらず、分かっているにもかかわらず、ついつい内輪で使っているからと思ってやってしまうのではないかと指摘する。

 デジカメで撮影し、PCにコピー、さらにレタッチソフトで編集した後にブログにアップロードするという手順を踏む必要のあった時代には、その過程の途中でこれはまずいのではないかと気付く時間があったのに対し、スマートフォン+アプリによる投稿では一瞬でも立ち止まって考える時間がないと指摘。投稿操作に表示する確認メッセージにおいて「次から表示しない」といったオプションによって表示を省いてワンタップで投稿できるようにするのではなく、投稿の度に毎回メッセージを表示するようにし、一瞬でもユーザーに考える機会を与えるような方法もあるのではないかとし、分かっているのにやってしまうのに歯止めをかけるには、こうした確認のメッセージを機械的に表示する方法ぐらいしかないのではないかとした。

(永沢 茂)