レビュー
値下げした高スペックルーターの実力を再確認、ASUS「RT-AC86U」
ゲーミングルーターの快適なWi-Fiと豊富な機能は普通のユーザーにも魅力的
2020年2月27日 06:00
ASUSのゲーミングルーター「RT-AC86U」が、実売1万7000円程度に値下がりしている。IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)対応で、2167+750Mbpsの高性能ルーターとしては、かなり安価になってきた。
ASUSと言えば、マザーボードやビデオカードなどのPCパーツメーカーとして有名で、これらのジャンルでも早くからゲーミング向けの製品を手掛けている。もちろん、ネットワーク機器でもゲーミング向けの製品を開発していて、最新規格であるIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)対応製品も、他社に先駆けて発売したほどだ。
11ax対応の製品がある今、11ac対応の「RT-AC86U」をハイエンド製品とは言えないが、その分価格は大幅に下がっている。Wi-Fi 6は子機側がまだまだ普及していない状況でもあり、11ac対応のWi-Fi子機を快適に使う分には、今だからこそお買い得と言える面もある。
後述するように、ISPなどからレンタルされるホームゲートウェイのWi-Fiルーター機能を使っているなら、電波の入りも大幅に改善するはずだ。そこで今回は実際の製品を見ながら、どんな人にお勧めできるのかを検証していきたい。
高性能である前にシンプルであることが大切「ゲームの環境」を設定したいのであり「ルーターを設定したい」んじゃない!
まず、11acに対応するゲーミングルーター「RT-AC86U」について見ていこう。長年ゲーミングデバイスを手掛けるASUSが、わざわざ『ゲーミング』と銘打っているからには、普通のルーターとは違う部分があるはずだ。
筆者は長年のオンラインゲームファンであり、ルーターもさまざまなものを購入してきた。その経験からして、本機はさぞや多機能で高性能なのだろうとイメージして触り始めた。
そしていきなり驚かされたのが、本機を起動してPCと接続し、ウェブブラウザーから設定画面を開いたとき。ものすごく大きな文字と、シンプル過ぎるデザイン。クリックできるのは、「新しいネットワークを作成」と「詳細設定」のたった2つしかない。
あまりにシンプル過ぎて「多機能で高性能はどこ行った?」と面食らうかもしれない。しかし、これはゲーマー目線で見ると、とても素晴らしい。ゲーマーはゲームを遊びたいのであって、ルーターの小難しい設定を学びたいわけではない。
適当に設定するだけで、快適なネットワーク環境ができ上がって欲しいのだ。ゲーマー向けだからこそ、設定はより簡単であるべし、ということがよく分かっている。
実際の設定は、接続された回線に応じて自動的に進められる。筆者宅は、ルーター機能を内蔵したNURO光のホームゲートウェイ(HGW)があるので、ここからLANケーブルをつないでみた。
まず最初にSSIDとパスワードを入力し、続いてルーターにログインする際のユーザー名とパスワードを入力。すると最新のファームウェアを自動でチェックし、インストールを促された。
その後、ルーターが自動で再起動し、設定したSSIDで再接続。管理画面を開くと、もう接続設定が完了していた。
実はこのとき、1つ気になっていたことがあった。筆者が使っているプライベートネットワークは「192.168.1.xxx」を指定しているのだが、本機のLAN側IPアドレス(管理画面を呼び出すIPアドレス)は「192.168.1.1」がデフォルトで設定されている。本機から見れば、LAN側とWAN側のIPアドレスネットワークが同じになってしまう。
そこをあえて意識せずに設定を進めたらどうなるか……と思っていたのだが、接続設定が完了した時点で、LAN側IPアドレスが「192.168.2.1」に変わっていた。こんな部分まで自動で変更してくれて、何も考えなくとも繋がってくれるというのは、とてもありがたい。
ゲームに不向きな「二重ルーター」の解消も簡単豊富な接続モードを用意
ネットワークに詳しい方ならお気付きだと思うが、先述の設定だとHGWのルーターと、本機の両方でNATをかける、二重ルーター状態になっている。一応繋がってはいるが、筆者の環境で使うなら、できれば本機をブリッジモードで動かしたい。
そこで設定画面の上部を見ると、「動作モード」と書かれた部分がある。この時点では「無線LANルーター」となっているが、ここをクリックすると動作モードを切り替える設定画面に切り替わる。
ブリッジモードに相当するのは「アクセスポイント(AP)モード」となっており、LAN側IPアドレス(管理画面を呼び出すIPアドレスになる)の入力と、SSIDとパスワードの入力(変更しなくてもいい)だけで、動作モードが切り替わる。
二重ルーター状態になってもウェブブラウジングなどには支障がないので、問題なく接続できているように見えるが、一部のオンラインゲームでは不具合の原因になり得る。できればそうならないようにしたいが、一般的なルーターではブリッジモードの設定は複雑なことが多い。その点、本機は動作モードの切り替えだけで対応できるので、とても簡単だ。
ほかに中継機として使う「リピーターモード」、本製品を2台使ってLANの一部を無線化する「メディアブリッジモード」、同社のルーターを組み合わせてメッシュネットワークを構築する「AiMesh」が用意されている。今あるルーターの置き換えにも、Wi-Fiの電波範囲を広げるための追加にも対応できる。
11axは必要か?11acで十分な人は多い!
冒頭でWi-Fi 6こと11axについて少し触れたが、最新規格であるWi-Fi 6ことIEEE 802.11axの必要性を確認しておこう。
そのメリットは、11acに比べて高速に通信できるほか、複数端末で同時通信したときに速度が落ちにくいこと。11axでは、5GHz帯だけでなく2.4GHz帯も使え、状況に応じた使い分けも可能だ。
プレイステーション4やNintendo Switchなどのゲーム機はIEEE 802.11axに対応していないし、PCやスマートフォンなどのWi-Fi子機はまだ少なく、比較的高価でもある。インターネット接続回線も主流は最大1Gbpsで、1Gbpsを超える通信も容易な11axでは、宝の持ち腐れだ。
そう考えると、ゲーム向けとして11ac対応の高機能ルーターを選ぶ利点が見えてくる。 過去の規格であるIEEE 802.11nに比べてかなり高速化されているし、ほとんどのPCやスマートフォンが対応していて導入しやすいのも利点だ。
「スマホゲームはWi-Fiで」のためにはWi-Fiの飛距離も重要動画配信も5GHz帯で安定通信
次にWi-Fiの通信速度を測定した。11acは5GHz帯を使用するため、2.4GHz帯に比べて電子レンジなどの影響を受けにくい反面、電波の飛距離が短くなりやすいという欠点もある。
「無線はゲームには使わない」という人もいるだろうが、ほかの無線機器や電子レンジなどの電波干渉を受けにくい5GHz帯は、電波が安定して届く近距離での利用ならば何ら問題ないと筆者は思っている。
それに最近はスマートフォンでのオンラインゲームも活況を呈しているだけに、無線環境での安定した通信はゲーマーにとっても重要性が高い。5GHz帯を使う11acのメリットはかなり大きいはずだ。
さて、テストにはiPerf3を使用。サーバーとして1000BASE-Tで有線接続したPCを用意し、クライアントには同社のUSB接続子機「USB-AC68」(最大1300Mbps)を使用したPCと、Android 9搭載のスマートフォン(最大866Mbps)を用意した。
Wi-Fiルーターの比較対象としては、NURO光のHGWである「HG8045Q」を使用した。こちらも11ac対応のルーター機能を有しており、筆者宅では2年半ほど使用している。
筆者宅は3LDKの鉄筋コンクリート造りマンション。測定はルーターと同じ部屋と、浴室や押し入れを隔てた遠方の部屋で行った。
使用機器 | 通信方向 | 同室内 | 遠方 |
USB-AC68+RT-AC86U | 上り | 831.3 | 170.2 |
下り | 863.8 | 176.7 | |
USB-AC68+HG8045Q | 上り | 680.7 | 73.4 |
下り | 512.9 | 108.3 | |
Android 9+RT-AC86U | 上り | 229.2 | 45.6 |
下り | 325.2 | 90.0 | |
Android 9+HG8045Q | 上り | 462.4 | - |
下り | 196.1 | - |
※単位はMbps。iPerf3はパラメーター「-i1 -t10 -P10」で10回実施し、平均値を掲載
同室内での測定については、どちらのルーターでも安定して高い速度が出ている。「HG8045Q」の方が速度が遅いのは、おそらく2ストリームで通信していると思われ(Windows上からは1.3Gbpsで接続していると表示されていたが)、実質的な速度差はほぼない。Android端末に関しては、測定のたびに10倍近い幅で速度がブレるため、参考値として見ていただきたい。
注目したいのは遠方の部屋での計測値だ。PCとの接続では、「RT-AC86U」では安定して170Mbps程度の速度が出ていたのに対し、「HG8045Q」では最速で120Mbps程度ながら、ときおり通信が止まったり、接続が切れたりすることもあった。また、Android端末は、「HG8045Q」ではそもそも接続ができず測定に至らなかった。
同じ11acのルーターでも、「HG8045Q」の方が数年古い製品となるためか、あるいは「RT-AC86U」の巨大なアンテナの効果か、電波の飛距離はかなり違うことが分かる。
ゲーマー向けの独自機能「Adaptive QoS」、PS4でも使える「WTFast GPN」、CPU・メモリ使用率や通信量もリアルタイムに確認
続いては、本機に搭載されたゲーマー向けの機能を見ていきたい。
1つ目は「Adaptive QoS」というもので、特定の機能の通信を優先的に確保する機能だ。例えば、オンラインゲームをプレイしているときに、家族が大容量のファイルをダウンロードしたり、動画を再生したりしても、ゲームの通信が邪魔されないよう確保するというもの。
使用するには、設定画面でQoS機能を有効にし、QoSタイプでAdaptive QoSを選択した上で、その下にあるアイコンをクリックするだけ。優先する通信はゲームだけでなく、ストリーミングやブラウジングなども指定できる。ほかに、特定の端末の通信速度を絞る帯域リミッター機能もある。
2つ目は「WTFast GPN」。オンラインゲームの通信を最適な経路で繋ぐことで、安定かつ低遅延の環境を作るというもの。こちらは元々有料のサービスで、PC向けにソフトウェアとして提供されているが、これをルーターの1機能として内蔵したかたちだ。それにより、PCゲームだけでなく、プレイステーション4やXbox Oneなどのコンソールゲームにも対応している。
日本国内にサーバーがあるゲームなら通信の問題は起きにくいが、海外にサーバーがある場合、通信経路によっては遅延が大きくなる可能性がある。それを少しでも短縮して、ゲームプレーを快適にするというものだ。
使用できるのは対応ゲームに限られるが、メジャーな海外タイトルはおおむね押さえられているので、洋ゲーファンには重宝するだろう。
また、ゲーマー向けというわけではないが、ルーターのCPUやメモリの使用率や通信量をリアルタイムに確認する機能もある。過負荷が原因で通信に問題が出ることもあるが、これをチェックすれば状態が一目で分かり、不具合の原因の切り分けに繋がる。
独自のスマホアプリ「ASUS Router」での設定も可能「AiCloud」「AiProtection」などの一般向け機能も充実
ゲーマー向けに限らなければ、さらに多機能だ。本体背面のUSBポートに接続したストレージへインターネット越しに外出先からアクセスしたり、LAN内のPCに接続したりできる「AiCloud」、トレンドマイクロの技術を採用したセキュリティ機能「AiProtection」、インターネット回線のフェイルオーバーと負荷分散が可能になる「デュアルWAN」、有害サイトの閲覧やP2Pの利用などを特定の端末に限って制限できる「Web&アプリケーションフィルター」、などなど。
一般的な用途のルーターとしても、かなり多機能なのは確かだ。もちろん、ポートフォワードやDMZといった一般的なルーターに搭載されている機能もある。表向きはシンプルでも、設定を掘っていくと次々に機能が出てくる。
またASUS製ルーター専用のスマートフォン向けの「ASUS Router」アプリも用意されている。PCからはブラウザーの管理画面から行える設定や負荷の確認など、大半の機能がこのアプリからでも利用できるし、、ルーターに有線LAN接続した端末をWake on LANでスリープから復帰させることもできる。
1点だけ注意したいのは、「アクセスポイント(AP)モード」で使用した際には、QoSを含むゲーム向けの機能や、AiProtectionなど、一部の機能は使えなくなることだ。
このため、本製品の機能をフルに使いたいなら、WAN側がグローバルIPアドレスを受けられる状態となる「無線LANルーターモード」にして使用するのがベストだ。
外見は3本の巨大なアンテナが仰々しいルーターだが、使ってみれば驚くほどシンプル。簡単に使えるゲーム向けの独自機能も搭載し、広範囲に安定した無線通信も提供できる。さらに設定を詰めていけば、ゲーム以外のマニアックな用途にも幅広く対応できる懐の広さも持ち合わせている。
ルーターはハードウェアの性能に目が行きがちだが、本機はターゲットとなるユーザー層をよく考えて作られたソフトウェア部分にこそ高い価値がある。高品質なルーターをお探しの方には、ぜひ本機の設定画面に触れていただきたい(なかなか機会はないと思うが……)。
ソフト・ハードの両面で、本機に不足を感じる人はほとんどいないだろう。11acが成熟した今こそ、買いどきと言える製品だ。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)