レビュー
宅内LANをDIYで10GbEにしてみた。マイホームの配線丸ごと交換は意外と簡単!?
2021年5月21日 06:00
ふと、自宅のギガビットLANを10GbEにしたいと思った。なぜか。そりゃもう、「速ければ速いほどうれしいじゃん」という素朴な欲求である。
あとは仕事柄、そろそろ10GbE環境にしないと試しにくい機材もぼちぼち増え始めている、というのもあったりする。5年前に新築したわが家だが、当時「1GbEであと10年は戦えるだろ!」と思っていたのが、5年でこれである。
高速化するWi-Fi、2.5GbEなどマルチギガビット化する有線LANにLANの10GbE化は不可欠!?
Wi-Fiがどんどん高速化しているし、「有線LANなんていずれ廃れるのでは?」と考えていたりもしたのだが、コロナ禍の在宅勤務でオンライン会議、オンライン取材が当たり前になり、「通信が途切れたらアウト」なシチュエーションが毎日のように続くと、「Wi-Fiの怖さ」がじわじわと胸を締め付けてくる。相手が一番大事な話をしているときに通信が不安定になって音声が乱れでもしようものなら、どうすればいいのか。どうしようもない。
ただ、Wi-FiはWi-Fiで、自宅のどこにいても気軽に快適にスマートフォンを使うには必要だ。でも仕事用のPCはできるだけ有線LANに接続しておくべきだろう。
最近は2.5GbEなどのマルチギガビットに対応したNASが続々登場してきているし、10GbEのネットワーク機器も個人で導入できるレベルの価格帯まで下りてきている。Wi-Fiにしたって、高速なWi-Fi 6ルーターにアップグレードすれば、1GbEのLANではポテンシャルをフルに発揮できない可能性すらあるのだ。
こうした最新機材をいつでもわが家に迎え入れられるように、あるいは仕事で効率良くテストできるように、宅内LANの10GbE化は不可欠ではないか。不可欠なはずだ。そうじゃなくても高速化はしておきたい。単純にうれしいから。
そういうわけで、筆者宅の壁の中を通っているLANケーブルを、1GbEから10GbE対応のものへ置き換えることにしたのである。そのためには何が必要で、どんな手順で進めていくのがいいのか。筆者自身、試行錯誤しながら10GbE化していった様子をご覧いただきたい。
10Gbps対応ケーブルを「作る」のに必要なものを準備する
代表的な1Gbps対応のLANケーブルは「CAT5e」や「CAT6」という規格のもの。対して10Gbps対応のLANケーブルは「CAT6A」(または「CAT6e」)以降のものとなる。筆者宅の壁の中にはCAT5eのケーブルが敷設されており、単純に言えば、これをCAT6Aに置き換えることができれば、10GbE化はあっさり完了するはずだ。
ただし、市販のコネクタ付きLANケーブルが壁からぴろんと生えている、というわけではない。壁面埋込型のコンセントパネルにモジュラージャックが設けられていて、その先にLANケーブルがつながっている。
こうすることでネットワーク機器の接続・取り外しが容易になり、かつ見た目としてもすっきりさせられるわけで、CAT6Aに置き換えてもこのスタイルは維持したいところだ。
そのためには、ケーブルを「作る」必要がある。モジュラージャック付きのケーブルは売っていないし、最初からモジュラージャックが付いていると壁の中を通せないからだ。先にコネクタの付いていない「生」のケーブルだけを通し、後で出入口部分にモジュラージャックを装着するのである。
筆者宅を新築した5年前当時、CAT6A対応のモジュラージャック(の少なくとも家庭向け製品)を目にした記憶はない。なので仕方なくCAT5eにしたという事情もあるのだが、近ごろはCAT6Aのモジュラージャックも手に入れやすくなっていて、例えばAmazon.co.jpでは、1つ1800円程度と安価だ。
CAT5eはその半分くらいの値段なので、CAT6Aのモジュラージャックも高価といえば高価だ。でも今や簡単に入手は可能なのだ。通常は対向で必要となるから、2つ1セットで考えると3600円。設置箇所が増えるほどコストが上積みされるので、意外と費用がかかる(ちなみに住設大手であるパナソニック製のCAT6A対応モジュラージャックは1つ3200円なので、これにこだわれば、さらにコストはアップする)。
もちろんCAT6A対応のケーブルも必要だ。どれくらい壁の中を引き回すことになるのか不明な時点では、できるだけ長いケーブルが欲しいところだが、例えばサンワサプライが100m長の生CAT6Aケーブルを普通に販売しているので、これもすぐに手に入る。
1万3000円もするので高く感じるけれども、1mあたりではたったの130円である。LANコネクタ(モジュラープラグ)と、後述する「成端」用の工具を用意すれば、今後LANケーブルを買う必要がなくなるし、しかもその場所に合った適切な長さのケーブルが作り放題になることも考えると、100mあっても決して無駄にはならない、はず。
不満があるとすれば、ケーブルの色や太さが今のところ限られることだろうか。市販されている好みのデザインのCAT6Aケーブルを購入して、コネクタ部分を切断して使うという手もあるが、(線材が細すぎて)手作業での成端にはおそらく向かないので、あまりおすすめはできない。
配線するときに必須、もしくはあると便利な工具類
でもって、モジュラージャックとケーブルを接続するための専用工具も必要だ。最低限あった方がいいのは「成端工具」(約800円)と呼ばれるもの。モジュラージャックを押し込んで接続するようなイメージなので、もしかすると力技で何とかできるかもしれないが、成端工具があれば失敗が少ない。そもそも1000円もしない安価なものなので、サクッと買っておこう。
モジュラージャックと接続するだけなら以上でOKだが、通常のLANケーブルも作りたいのであれば、ほかにも材料や工具をいくつか用意しなければならない。確実に必要なのは「LANコネクタ」(1パック50個入り約4500円)と「モジュラーカバー」(1パック10個入り約300円)、そして「モジュラープラグ圧着工具」(約2500円)。圧着工具はケーブルを真っ直ぐ切断したり、LANコネクタと圧着するときに使う。
また、成端するときの作業効率と成功率を上げたいなら、目打ちのような「スパイキ」(約700円)があった方がいいし、正しくケーブルを作れたかどうか確認するための「LANテスター」(約1500円)も、あれば間違いなく効率アップになる。いずれもそれほど高価なものではないので、最初に買いそろえておくのがおすすめだ。
最後に、ケーブルを壁の中に通す際に便利なアイテムが「通線ワイヤー」(約5000円)と「内視鏡カメラ」(約7000円)の2つ。通線ワイヤーは、ケーブルを引っ張ったり、押し込んだりする際に役に立ってくれる。これがないと途中で詰まり、にっちもさっちもいかなくなることが多いので、ちょっと高いが手に入れておきたい。
内視鏡カメラは完全にオプショナルではあるけれど、壁の中の状況を見ながらケーブルを通す必要があるシーンでは、絶大な威力を発揮してくれる。何より使っていて楽しいので、これも必携である。
まとめると、以下の部材・工具類が必要になる。今回、筆者宅では壁の中を通したいケーブルが4本あるので、モジュラージャックは8個必要だ。今後のことも考えて通常のLANケーブルも作れるように準備したこともあり、工具類も含めるとトータルコストは5万円近くになってしまった。やはりモジュラージャックの値段が高く、宅内の何カ所にLANケーブルを配線するかによって、コストが大きく変わってくることに注意すべきだろう。
部材 | CAT6A対応モジュラージャック | 8個 | 約1万4400円 |
CAT6A対応LANケーブル | 100m | 約1万3000円 | |
CAT6A対応LANコネクタ | 50個 | 約4500円 | |
モジュラーカバー | 10個 | 約300円 | |
工具類 | 成端工具 | 1個 | 約800円 |
モジュラープラグ圧着工具 | 1個 | 約2500円 | |
スパイキ | 1個 | 約700円 | |
LANテスター | 1個 | 約1500円 | |
通線ワイヤー | 30m | 約5000円 | |
内視鏡カメラ(スマホ対応) | 1個 | 約7000円 | |
計 | 約4万9700円 |
LANケーブルを通せそうなルートを設計図で検討
通常、電気の通る宅内設備を追加・変更するような場合には電気工事士の資格が必要になる。が、今回のようにモジュラージャックに接続できるよう施工したり、LANケーブルを壁の中を通したりするのには、そうした資格は不要だ。
もちろん、壁面の電源コンセント付近で作業する可能性は高いので、その際にはブレーカーをあらかじめオフにし、コンセント周辺に触れないよう十分に注意しながら作業しなければならない。また、壁に穴を開けたりする場合、誤って家の柱を大きく破損すると家自体の強度にも影響してしまう。建築当時の設計図や実際の状況を確認しつつ、難しそうな場合は、素直に建築したときの設計士や工務店などに相談した方がいいだろう。
CD管を通っているLANケーブルを交換
そんなわけで、筆者も設計図を穴が開くほど読み返しながら、ケーブルをどうやって通していくかをじっくり検討していったのだが、ありがたいことに(というか、筆者が建築当時に設計士にそうするよう依頼していたのだが)、既存の壁の中に敷設されている1GbEのLANケーブルは、CD管という配管を通じて各所につながっていた。
この場合、ケーブルの交換は非常に楽ちんだ。何しろ、今あるCAT5eケーブルを引っこ抜いて、同じところへCAT6Aケーブルを通せばいいだけなのだから。
筆者宅のLAN配線の状況を図示すると、以下のような感じとなる。2階のほぼ中央付近(天井近く)へ光回線が引き込まれており、ここにある壁面パネルを起点に、真下のカウンターの足元、リビング、そして1F中央あたりのルーター(サテライト)置き場にLANケーブルがつながっている。これら3本のLANは全て個別のCD管を通っているわけだ。
ただ、CD管はそれほど太くない上に、壁の中のあちこちで曲がっているらしい。LANケーブルをそのまま挿入してもスムーズに通らず、途中で詰まる。なので、ここで通線ワイヤーを使い、ケーブルと接続して引っ張ったり押し込んだりすることとなった。最も楽なパターンのはずだが、まあまあ汗だくになりながらの作業である。
既存のケーブルがない仕事部屋にもLANを引きたい!
あらかじめ壁の中に敷設してあるCD管にLANケーブルを通すだけなら、以上のように実に簡単だ。しかし、筆者としては是が非でも、もう1本LANケーブルを通したいところがあった。それは1階の仕事部屋である。安定した通信環境でつつがなくオンライン会議をするには有線LANが必須。10GbE対応のネットワーク機器をテストするときにも、仕事部屋に10GbEの口があれば、はかどること間違いないのだ。
しかし、冒頭で書いたように、建築当時は「有線LANなんていずれ廃れるのでは?」と考えていた節があり、わざわざ全ての部屋にLANケーブルを通すほどではないだろうと判断して、必要最小限のところにしか配線していなかった。仕事部屋どころか、1Fは中央のルーター置き場以外、どの部屋にもLANの口がなく、当然ながらCD管なども敷設されていない。
そのため、2Fから1Fの仕事部屋まで、幾重にも立ちはだかる仕切りや柱をなんとかして乗り越える方法を考えなければならない。太さ5~6mm程度のLANケーブルとはいえ、これはかなり困難な作業だ。場合によっては壁をいったん剥がさなければならないかもしれないし、そうなると、もはや大工事である。ケーブルモールで壁に沿うように配線していく方法もあるが、見た目が美しくないので却下だ。
とりあえず、設計図をチェックして柱や間柱の位置を特定した上で、壁のコンセントパネルや天井に埋め込まれた照明器具を一時的に脇へ避けつつ、既存のケーブル類が通っている箇所などをチェックして、LANケーブルを通す「隙」がないかを探っていった。
ここで大活躍したのが「内視鏡カメラ」である。壁や天井の小さな穴から内部を目視できる範囲は限られているが、細い内視鏡カメラなら、目も届かず手を伸ばしても分からない壁の中の状況を、スマートフォンの画面で簡単に確認できる。
週末の時間が作れたタイミングで壁の中の状況を少しずつ把握すること3週間余り。何とか見つけた1本の通り道が、以下の図にある緑色のルートだ。もちろん梁などが障害物として存在しているのだが、既存のテレビアンテナケーブルなどを通している穴があり、そこに多少の余裕があった。
それでも、ゴール直前の梁に空けられていた穴が狭く、穴を広げる加工ができるような箇所でもなかったので、最終的には既存のテレビアンテナケーブルを引き抜いて、代わりにLANケーブルを通すことになった。
テレビを見られなくなるのは残念だが、そもそもテレビを仕事部屋に設置する予定もなかったので、よしとする。もしテレビを見たくなったら、それこそ壁や天井を剥がして改めてケーブルを引き直せばいいのだ(やりたくないけど)。
今後のシステムの10GbE化に向け準備万端、可能なら今すぐアップグレードしよう
こうして無事、わが家のLAN回線の10GbE化が実現した。と言いつつも、いまだにPCやネットワーク機器の10GbE化には至っていないのだが、とりあえず2.5GbEと、以前の1GbEとでインターネットの通信速度、およびNASのファイル転送速度(1Gbps×2のリンクアグリゲーション設定時)を比較してみたのが以下のグラフ。インターネット回線はau光の5Gbps契約だ。
1Gbps→2.5Gbpsにしたことで2.5倍速に! ……というわけには行かなかったが、インターネットは受信1Gbpsを超えた。NASについても、1万ファイルのコピーで一定のパフォーマンスアップが図られている。1ファイル10.5GBの転送速度については、どうやら1GbEの時点でほぼHDD NASのパフォーマンス上限に達しているようだ。
2.5GbE以上のLAN環境で高速にバックアップしたいなら、マルチギガビットに最適化されたNASか、SSD NASにアップグレードすることを検討した方がいいのかもしれない。
というわけで、自宅のネットワーク環境を無事10GbE化できたわけだけれど、壁の中のLAN配線を置き換えるときの難易度は、CD管のようなものが壁の中に敷設されているかどうかで大きく変わってくる。
CD管がないときの作業にかかる手間を考えると、やっぱり工務店などに依頼した方が楽だし、結果的に安く付くかもしれない。いずれにしても、これからの時代、きっと1GbEでは物足りなくなってくる。LAN配線を置き換えられる環境にあるなら、試しに10GbE化のDIYにチャレンジしてみても損はないはずだ。