特別企画

確定申告って何を申告するの? ~個人事業主の税金の計算方法を理解しよう~

独立志向のサラリーマンと個人事業主のための確定申告短期連載・第2回

 前回はサラリーマンの所得税の算出方法について説明した。今回は確定申告の主役と言える個人事業主の税金について説明しよう。今年の確定申告の提出期限は3月16日。ジワジワとタイムリミットが近づき焦っている方もいるだろう。

 税金の基本的な知識も気になるが「一刻も早く確定申告書の作成がしたい」と思っている方は、青色申告ソフト(サービス)の具体的な操作方法を紹介した記事を一足先にに掲載しているのでそちらを参考にしていただきたい。

初年度無料、話題のクラウドサービス「やよいの青色申告オンライン」を使ってみる
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/review/20141226_681659.html
クラウドと連動した最強の申告ソフト? 「やよいの青色申告15」レビュー
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/review/20150219_688544.html
個人事業主の確定申告、「MFクラウド確定申告」でどこまで楽できる?
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/review/20150223_687515.html

そもそも確定申告とは

 「確定申告とは」と聞かれると、何となく分かっていても説明に困る方もいるだろう。日本のサラリーマンは年末調整があるので、確定申告をするのは住宅ローン控除を受ける人や医療費控除を受ける人など限定的だ。毎年確定申告をしているサラリーマンはそれほど多くないと思われる。

 ところが独立して個人事業主になると状況は一変。毎年この時期は、確定申告の重圧を感じることになる。避けては通れない一大行事だ。まずは簡単に確定申告について説明しよう。

 法人は決算期を任意に設定でき、3月決算の会社であれば4月から翌年の3月が決算の対象期間となる。これに対し個人の所得や税金は1月1日から12月31日が対象期間で、サラリーマンも個人事業主もパート、アルバイトも同じだ。1月から12月の1年間の所得を「確定」し税金を「申告」するのが確定申告ということだ。確定申告の期間は年が明けて2月15日から3月15日。2015年は曜日の関係で2月16日から3月16日となっている。

 サラリーマンで確定申告をしなければならないのは、

・給与収入が2000万円を超える人
・給与所得や退職所得以外の各種所得が20万円を超える人
・2カ所以上から給与を受け取っていて、年末調整を受けていない所得が20万円を超える人

などだ。サラリーマンをしつつ、原稿料を受け取っていたり、アフィリエイトで稼いでいたり、アパート経営したり、といった副収入がある人で、所得が20万円を超える人は確定申告が必要となる。

 逆にサラリーマンで確定申告をした方がよい人は、医療費控除や住宅ローン控除を受けられる人。確定申告(還付申告)をすることで、払いすぎた税金を取り戻すことができる。年の途中で退職し年末調整を受けていない人も同様に、確定申告で払いすぎた税金を取り戻すことができる。最近話題の「ふるさと納税」をした人も、寄付金控除を受けるため確定申告をする必要がある。

実質2000円で国産PCが手に入る!? 長野県飯山市に「ふるさと納税」してみた
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20150124_685255.html

 サラリーマンは毎月の給与から所得税を天引きされているが、個人事業主は1年間の売り上げ、経費、控除から所得税を算出し、納税(後払い)しなければならない。原稿料など源泉徴収(先払い)された額が所得税額を上回ると還付申告となるが、いずれにせよ確定申告を避けて通ることはできない。

 ライター、カメラマン、デザイナー、イラストレーター、スポーツ選手、弁護士、医師、理美容師、建築士、飲食店経営者、販売店経営者……など、法人化せず個人事業主をしているすべての人が税金と向き合う“一大イベント”が確定申告だ。まずは個人事業主の税金の算出方法から説明していこう。

個人事業主の税金の主役「所得税」を計算しよう

 個人事業主が納める税金には所得税、住民税、個人事業税、消費税などがある。この中で主役となるのは所得税だ。住民税はサラリーマンと算出方法は同じで所得税の内容(所得や控除)が決まれば計算ができる。個人事業税も同様に所得税の内容から計算が可能だ(個人事業税は業種により課税されたりされなかったりするので、対象外の人もいる)。消費税は一般的に開業から2年は対象外だ。まずは所得税の計算方法を理解することを最優先としよう。

 では、個人事業主の所得税の計算式から確認しよう。前回のサラリーマンの所得税の計算式と個人事業主の所得税の計算式を比べてみると、かなり似ていることが分かる。最初の所得を計算する式は異なるが、2番目の課税所得の計算式はほとんど同じ。最後の課税所得から納税額を計算する式は完全に同じだ。

個人事業主とサラリーマンの所得税計算式の違い
個人事業主サラリーマン
所得の計算式売り上げ-経費=所得給与の収入金額-給与所得控除=給与所得
課税所得の計算式所得-各種控除=課税所得給与所得-各種控除=課税所得
所得税の計算式課税所得×税率=所得税課税所得×税率=所得税
個人事業主の所得税算出の概念図

売り上げは発生主義

 計算式を順番に説明していこう。売り上げは仕事に対する報酬で、ライターなら原稿料、物販なら受け取った代金だ。売り上げの注意点は発生主義という考え方だ。聞き慣れない言葉だと思うので現金主義、発生主義の説明をしよう。現金主義は現金を受け取ったときに売り上げを上げる方式、発生主義は事象が発生したときに売り上げを上げる方式だ。

 法人と取引をする場合、例えば「1月の中旬に仕事を納品し」「1月末に請求書を出し」「2月末に銀行振り込みがされる」といった流れが一般的だ。現金主義であれば入金のあった2月の売り上げとなり、発生主義であれば請求書を出した1月の売り上げとなる。白色申告であれ、青色申告であれ、発生主義で売り上げを上げるのが基本となっている。

 12月から1月の期をまたぐときは特に注意しよう。発生主義では12月に納品して、1月に入金された売り上げは12月の売り上げとなる。年が明けてからの売り上げではなく、前年分の売り上げということだ。発生主義で帳簿を付ける際は、預金通帳の入金の履歴を見て売り上げを記帳するのは間違い。請求書をベースに売り上げを管理しよう。

経費と按分

 次は経費だ。事業を営むために発生した費用は経費となる。経費は事務所の地代家賃、電車やタクシー、高速代といった交通費、電話やインターネット、切手といった通信費、事務所の水道光熱費、得意先との飲食などの接待交際費、宅配便などの荷造り運賃、これ以外にも消耗品費、広告宣伝費、修繕費、支払手数料など多岐にわたる。業種によって経費と認められるものと認められないものがあるので「事業を営むために必要か否か」で判断したい。

損益計算書の経費には水道光熱費、通信費、地代家賃などが並んでいる

 個人事業主の会計には「按分」という考え方がある。個人事業主の経費は事業で使用する分と個人(家事)で使用する分が混在することが珍しくない。自宅で仕事をすると、仕事で使う電気と個人使用する電気が混在することになる。電気代のうち経費として計上できるのは事業用に使用した分だけなので、支払った電気代を任意の比率で分割し事業使用分を算出しなければならない。このように経費から事業分を算出することを按分という。

 電気代以外に電話代なども按分が必要となることが多い。車に関する経費は、仕事中に使用した高速代やコインパーキングなどは100%事業使用だが、車両の購入費、月極駐車場、ガソリン代、車検代、税金、保険代などは按分の対象となる。

 サラリーマンの必要経費とも言われる給与所得控除は、一定式でその額が決まったので、1円の出費もなく収入から差し引くことができたが、個人事業主の経費は実際に支払いした金額なので、経費が増えることは「利益が減る」「納税額が減る」という2つの結果を生むこととなる。もうかっていないときは「利益が減る」、もうかっているときは「納税額が減る」という見方もできる。

固定資産と減価償却

 経費の科目に消耗品費というものがある。消耗品と聞くと、消しゴムやプリンターのインクのように減っていくものを想像しがちだが、ここで言う消耗品とは「10万円未満または使用可能期間が1年未満の少額減価償却資産」のことで、PCやデジカメ、タブレット、事務用品、家電品など仕事に必要な備品全般で、10万円未満のものが対象となる。消耗品費の対象であれば購入した年に全額を経費とすることが可能だ。

 「20万円で買ったMacBook Proはどうなるんだ」と思った方もいるだろう。個人事業主でもデジタル一眼レフカメラや業務用のNAS、3Dプリンターなど10万円以上するものを購入することがあると思う。車などは確実に10万円以上の買い物となるはずだ。これら10万円以上する器具、備品、車両などは固定資産という扱いになる。

筆者が昨年購入した固定資産はEOS 7D Mark IIとVESEL

 「固定資産は長期的に使用するもの」という考えで、カメラは5年、PCは4年、車は6年と物品ごとに耐用年数が定められている。購入価格を耐用年数で割って数年に分けて経費とすることを減価償却という。

 例えば18万円のカメラを購入し定額法で減価償却する場合、カメラは5年償却なので5年=60ヶ月に分割すると3000円/月となる。10月に購入すると10月~12月の3ヶ月分、9000円がその年の経費となる。翌年は1年分なので3万6000円、翌々年以降も同様に償却され5年に分割されて経費となる。

 償却方法は定額法のほか、定率法(事前に届け出が必要)や10万円以上20万円未満の資産を3年で均等に割って償却する一括償却、さらに青色申告を行っていれば10万円以上30万円未満の資産を「少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措置法28の2)」により、その年に全額経費として処理することが可能だ。このあたりは次回の青色申告の特典で説明しよう。

 ちなみに10万円未満、10万円以上の判定は税込価格で判定する。一般的に起業から2年は消費税の免税事業者となるので、購入した物品の記帳は税込価格となるためだ。

各種所得控除はサラリーマンとほぼ同じ

 所得税の計算式を再確認しよう。経費は増えすぎると利益を減らすが、もうかったときは意図的に経費を増やすと納税額を減らすことができる。これに対し各種所得控除は増えれば増えるほど納税額が減るので、控除をどれだけ積み上げるかが節税への近道となる。

売り上げ-経費=所得
所得-各種所得控除=課税所得
課税所得×税率=所得税

 前回のサラリーマンの所得税に関する記事で、基礎控除、配偶者控除・配偶者特別控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除について説明した。個人事業主の控除も基本的な部分はサラリーマンと同じと考えてよい。

主な所得控除
控除名金額概要
基礎控除38万円全員が一律に受けられる控除
配偶者控除38万円所得が38万円(年収103万円)以下の奥さん(配偶者)がいると受けられる控除
配偶者特別控除3~38万円所得が38万円を越え76万円未満(年収103~141万円)の奥さんがいる場合の控除
扶養控除(一般)38万円16歳以上の子どもや親を養っていると受けられる控除
扶養控除(特定)63万円所得が38万円以下で19歳から22歳の子どもがいると受けられる控除
扶養控除(同居老親)58万円公的年金が158万円以下で直系、同居、70歳以上の親を養っていると受けられる控除
扶養控除(同居老親以外)48万円公的年金が158万円以下で70歳以上で別居している親を養っていると受けられる控除
寡婦控除27万円+α夫と死別または離婚した女性のための控除。条件により増額
寡夫控除27万円妻と死別または離婚し子を扶養、所得500万円以下の男性のための控除
社会保険料控除その年の支払額年金や健康保険などを納めた分の控除
生命保険料控除(一般生命保険)旧:~5万円、新:~4万円一般の生命保険の支払いがあると受けられる控除
生命保険料控除(介護医療保険)新:~4万円新制度の介護・医療保険の支払いがあると受けられる控除
生命保険料控除(個人年金保険)旧:~5万円、新:~4万円個人年金保険の支払いがあると受けられる控除
地震保険料控除~5万円地震保険の支払いがあると受けられる控除
医療費控除その年の支払額-10万円年間の医療費の10万円又は所得金額の5%を超えた分に対する控除

 国民年金、国民健康保険(サラリーマン退職後2年間は任意継続も可能)など社会保険料の引き落としは、毎月毎月記帳しなくてもよい。1年間に支払った金額の証明書が送られてくるので、それを見て確定申告書Bの「控除欄」に記入するだけだ。生命保険料の引き落としも同様だ。サラリーマン時代の年末調整の要領で1年間に支払った金額の証明書を見て、確定申告書Bに記入しよう。

国民年金と国民健康保険の控除証明書

小規模企業共済

 個人事業主ならではの控除もある。いずれも節税効果が高いので、よく理解して利用すれば長期的に大きな利を生むだろう。1つ目は小規模企業共済。小規模企業共済は経営者の退職金制度と呼ばれるもので、その年に納めた掛け金の全額が小規模企業共済等掛金控除として控除される。

 掛け金は月額1000円から500円刻みで7万円までなので、年額にすると1万2000円から84万円を納めることになる。満額の84万円を掛ければ所得税の税率が20%の人は所得税(20%)と住民税(10%)を合わせると25万2000円も節税となる。所得税の税率が5%の人でも所得税(5%)と住民税(10%)で12万6000円の節税だ。

 小規模企業共済はザックリ言うと個人事業主の積立預金のようなもので、掛け金は将来年金として受け取ることも、まとめて受け取ることもできる。経費と異なり、1円の支出もなく、普通預金から移動するだけで大きな節税ができるので見逃す手はない。

小規模企業共済の掛け金は変更が可能

 小規模企業共済のもう1つの魅力は、払い込み方法が月払い、半年払い、年払いから選択できることだ。ガッツリもうかった年は年末に12月分から翌年11月分を年払いすれば、掛け金の全額がその年の控除額となるので、年末の節税対策に役立つ。さらに掛け金をいつでも増減できるので、業績が落ちたときは最低額の1000円に変更するなど、浮き沈みの激しい個人事業主の節税対策には最適だと思われる。小規模企業共済は年齢制限がないので、60歳、70歳と働き続ける場合も有効な節税策となる。

小規模企業共済
http://www.smrj.go.jp/skyosai/

確定拠出年金

 2つ目は確定拠出年金だ。確定拠出年金はサラリーマンでも掛けることができるので、厳密には個人事業主ならではと言えないが、サラリーマンより個人事業主の方が利用者は多いと思われる。確定拠出年金もその年の掛け金の全額が小規模企業共済等掛金控除として控除される。掛け金は毎月5000円から1000円刻みで6万8000円まで。年額で最大81万6000円となる。小規模企業共済と同様、経費支出することなく大きく控除額を積み上げることが可能だ。

 小規模企業共済と異なり、月払いのみ、掛け金の増減が年に1回だけとなっているので、業績に対し柔軟に対応させることは難しい。また加入資格が60歳未満となっているので比較的若い人向けとも言えよう。

 かなりもうかっている人なら確定拠出年金を毎月6万8000円、さらに業績が絶好調なら、年末に小規模企業共済を年払いで84万円掛ければ165万6000円の控除を得ることができる。所得税の税率が20%の人なら所得税(20%)と住民税(10%)を合わせると49万6800円も節税することが可能だ。

確定拠出年金
http://www.npfa.or.jp/401K/

 個人事業主ならではの控除で忘れてならないのは、青色申告特別控除だ。青色申告は控除以外の特典もありメリットは多分にある反面、複式簿記による記帳や提出期限の厳守などハードルも高い。これについては次回詳しく説明しよう。

所得税の税率はサラリーマンも個人事業主も同じ

 売り上げ、経費(減価償却を含む)、各種所得控除の金額が集計できれば、課税所得に税率を掛けると納税額を算出することができる。所得税の税率はサラリーマンも個人事業主も同じだ。

 前回も説明したが、一見すると195万円までは税率が5%でそれを超えると10%、さらに330万円を超えると20%と倍々で上がっていくように思える。しかし、課税所得全体にその税率が掛かるわけではなく、195万円以下の部分は5%、195万円を超え330万円以下の部分に10%を掛け、それらを合計した額が税額となる。

所得税の税率
課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超 330万円以下10%9万7500円
330万円超 695万円以下20%42万7500円
695万円超 900万円以下23%63万6000円
900万円超 1800万円以下33%153万6000円
1800万円超40%279万6000円

 では実際に納税額の計算をしてみよう。1つ目の例は40歳独身、売り上げ480万円、経費150万円、社会保険料59万円(国民年金+国民健康保険)、旧生命保険料10万円(控除額5万円)の場合だ。

売り上げ-経費=所得
480万円-150万円=330万円

各種所得控除は基礎控除38万円、社会保険料控除59万円、生命保険料控除5万円の合計102万円。

所得-各種所得控除=課税所得
330万円-102万円=228万円

課税所得×税率=所得税
228万円×10%-9万7500円=13万500円

これに復興特別税(所得税額×2.1%)の2741円を足した金額が納税額となる。

 2つ目の例は、45歳で専業主婦の奥さんと高校生の子供がいて、売り上げ630万円、経費180万円、社会保険料78万円(国民年金+国民健康保険)、旧生命保険料10万円、小規模企業共済の掛け金が年額60万円の場合だ。

売り上げ-経費=所得
630万円-180万円=450万円

 各種所得控除は基礎控除38万円、配偶者控除38万円、扶養控除38万円、社会保険料控除78万円、生命保険料控除5万円、小規模企業共済等掛金控除60万円の合計257万円。

所得-各種所得控除=課税所得
450万円-257万円=193万円

課税所得×税率=所得税
193万円×5%=9万6500円

 これに復興特別税(所得税額×2.1%)の2027円を足した金額が納税額となる。

 このように売り上げ、経費、控除を集計できれば所得税の計算は難しくない。開業時、資金にゆとりがあると税理士に丸投げしがちだが、税金を理解することは長年にわたり経営を安定させることにつながるので、この機会にジックリ税金と向き合っていただきたい。

 次回は青色申告と白色申告の違いや青色申告の特典について説明しよう。

奥川浩彦@ アイピーアール