INTERNET Watch 30周年記念インタビュー
AIで「便利さ」だけでなく、「豊かさ」も提供できるサービスでありたい~LINEヤフー
進化を続ける「Agent i」で目指す新しい体験
2026年7月15日 06:30
「Yahoo! JAPAN」は1996年4月にサービスを開始し、今年で30周年。「LINE」は2011年6月提供開始で、今年15周年を迎えた。2023年10月より「LINEヤフー株式会社」となった同社は、日本における代表的なインターネットサービス事業者として、時代の変化に対応した多くのサービスを手がけてきた。
その同社が2026年4月に打ち出したのが、AIエージェント「Agent i」(エージェント・アイ)だ。今回は同社でこの事業を統括する葭沢光伸氏(上級執行役員 メディア・検索ドメイン AI Agent統括SBU リード)に、これまでと、この先30年についてお話を伺った(聞き手:本誌編集長 山田貞幸 写真・構成:村上俊一)。
INTERNET Watchは、2026年2月に30周年を迎えた。激しい変化が続き「今」を追いかけるだけで精一杯となりがちなインターネット業界周辺だが、本企画では主要プレイヤー各社に「これまでの最大の転機」と「今後30年先までの見通しや想像するイメージ、あるいは夢」を伺いながら、読者の皆さんとインターネットの未来像を共有することを目指す。
AIエージェントで新しい体験が「加わる」
——Yahoo! JAPANもLINEも多くの環境変化を乗り越えてきたと思いますが、これまでの中で「最大の転機」を挙げるとすると、何になるでしょうか?
葭沢氏:さまざまな転機はありましたが、最大と言えるのは数年前、2022年頃からの「生成AIの登場」ですね。
インターネットが広がっていく中で、情報収集や買い物体験などが便利になりましたが、このインターネットを超える存在として、AIがユーザーの体験にインパクトを与えています。
これまでは、ニュースサイトの情報などの量や種類が増えたり、使うデバイスが変わったりはしましたが、探したい情報はいつも「取りに行く」ものでした。それがAI時代にはユーザーの手元で「情報そのものを作り上げる」ことができるようになり、従来のインターネットから、ユーザー体験が刷新されたと感じます。
——これまでLINEヤフーのサービスは、一貫して「インターネットの入口」の役割を担ってきた、と言えるのではないかと思います。検索エンジンやポータルはもちろん、LINEは多くの子どもにとって、スマートフォンを使ってのインターネット体験の入口になっているのではないかなと。
そうした、「インターネットの入口」のような役割も、AIで変わるでしょうか?
葭沢氏:本当にありがたいことに、LINEとYahoo! JAPANのサービスは多くの皆さんから支持をいただいています。AIによる変化は、現在皆さんにお使いいただいているものが失われて新しいものに置き換わるというよりは、AIの登場により、従来にない新しい情報とのタッチポイントが加わるイメージでいます。
当社ではAIエージェントの新ブランド「Agent i」(エージェント・アイ)を2026年4月に立ち上げましたが、多くの方が、インターネットを始める時にYahoo! JAPANアプリにアクセスして初めての検索を体験したり、初めての自分のスマートフォンでLINEに触れたり、といった体験はこれからも残るはずです。
その上で、検索やメッセージのやり取りだけでない、これまでにはなかった新しい体験が、「Agent i」によって広がっていく感じですね。例えば、Yahoo! JAPANにアクセスし、検索窓の近くにあるアイコンからAgent iを呼び出せば、自然文で疑問や悩みを相談することもできます。
LINEヤフーが2026年4月に発表したAIエージェントの新ブランド。LINEの「LINE AI」とYahoo! JAPANの「AIアシスタント」を統合したもので、「毎日のそばに、だれでも使えるAIを。」をコンセプトとする。ユーザーのさまざまなニーズに応える特化型AIエージェントを「領域エージェント」と呼んでおり、「Agent i」が多数の領域エージェントを束ねている。
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——Agent iは登場したばかりのサービスで、これから本格的に展開していくことになると思いますので、次の質問に移らせてください。直近の、1~3年先ぐらいまでに予定されていることについて、お聞かせいただけますか。
葭沢氏:Agent iはここから1~2年で大きく進化させ、より便利なサービスにしていきます。
日常生活の中でAIをエージェントのように活用されている方は、まだまだ少ない状況です。AIが自律的に動いていくということが、これまでのサービスにはない、大きな特徴ですので、これを分かりやすく、簡単に日常生活の中で使っていただけるように進化させたいと考えています。
4月発表のプロトタイプから、これまで(インタビューは6月中旬に実施)にも、各領域エージェントを機能強化しています。この後ですと、6月末には、冷蔵庫内の写真を撮ると、そこにある食材で作れるレシピをAIが提案してくれる新機能を予定しています。このように、人の代わりにAIがさまざまなことをしてくれるサービスを開発中です。
この機能は、「レシピ」エージェントの新機能として取材後に発表された。
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そもそもLINEヤフーが考える「AIエージェント」って?
——ちなみに、LINEヤフーが定義する「AIエージェント」とは、どのようなものでしょうか? ユーザーが指示しなくても自律的に動作するAIを指して「AIエージェント」と呼ぶのが一般的かと思いますが、ユーザーの後ろに控えて、意を汲んで仕事をしてくれるイメージなのか、それとも、ユーザーを先導するような存在なのか。そのようなユーザーとの関係性や役割のイメージを伺いたいです。
葭沢氏:私たちは「自律的にユーザーの目的達成までを支援していくサービス」をエージェントと定義したうえで、サービスを構築しています。
AIエージェントの面白いところに、ユーザーそれぞれにとって気持ちのいいパートナーとしての関係性を、一緒に作っていけることがあります。おっしゃるように代理人や秘書のような存在にもなりますし、自分の予定をチェックして先に予定の提示や手段の提案をしてくれるマネージャーのようにもなります。口調だって丁寧にも、友達のようなカジュアルな感じにもできます。
——なるほど。自律的に、目的達成を支援する、という機能のもと、ユーザーから見てどんな存在になるかは自在ということですね。
葭沢氏:ユーザー自身のことを理解したうえで、忘れっぽい方には丁寧にリマインドしたり、自分でどんどん動きたいタイプの方にはケアレスミスがないかフォローしたりと、ひとりひとりにとって最も心地のいいパートナーとして、AIエージェントは役割を果たせると考えています。
「アイちゃん、おはよう」と呼び掛けるユーザーも
——ChatGPTが「チャッピー」と愛称で呼ばれたりもしていますが、Agent iも、そうしたキャラクター的な存在になっていくのでしょうか。
葭沢氏:すでに「アイちゃん、おはよう!」と毎朝声をかけるなどして、そのような接し方をされているユーザーさんのエピソードも伺っています。
現在Agent iは、LINEのトーク画面やYahoo! JAPANのサービス内に組み込まれていて、キャラクターとしての具体的な姿が定義された存在ではありません。それをユーザーの皆さんがどう捉えて、どのように接してくださるのか、これからの様子を見て、もしかしたら「コニー」や「ブラウン」、あるいは「けんさく」と「えんじん」のようなキャラクターになったりするかもしれません。
これまでと同様、負の側面にも目を配り責任を持って対策
——ところで、AIに関しては、ネガティブな声も聞かれます。例えば若者がAIに頼りすぎることで、自分で考えなくなってしまわないか、とか。そうした声に対する意見や、こういう風に使ったらいいのではないかという提案などはありますか?
葭沢氏:これは一般論ですが、AIは便利に使えていつも何かしら応えてくれますが、100%正確なわけではなく、不正確な情報を返すこともあります。すべてをAIに任せて頼り切るのではなく、思考を手伝ってくれるパートナーと捉えて、助言や提案はもらいながらも、最後の判断や意思決定は自分で行うことが、AIエージェントと心地よい環境を築く上で重要ではないかと思います。
PCやインターネットが一般家庭に普及していった時代は、Yahoo! JAPANが頑張っており、その後、スマートフォンが誕生してからはLINEが登場し、コミュニケーションの可能性を広げていきました。LINEヤフーには、ユーザーのストレスやペインポイントをテクノロジーの力を使って便利にし、課題を解消していきたい、ということが根底にあります。この部分は、当社のフィロソフィーだと言っていいでしょう。
ただ、こうして活動してきた過程においては、さまざまな弊害や負の側面もあったと思います。検索ひとつで答えが出てしまっていいのか? と言われたこともありましたし、コンテンツをパーソナライズすることにはフィルターバブル現象のようなことも指摘されています。
AIが世の中に受け入れられていく過程でも、何らかの負の側面は浮かび上がってきて、その一例が、まさに先ほどおっしゃったような、思考の全てをAIに任せ切ってしまうようなことだと思います。そのような問題については、予測できるものには事前に対策を用意し、予測できず公開後にご指摘いただいたものについても、責任を持って対策を考えながら、サービスを進化させていく必要があると考えています。
5~10年後には街の中にもAIが入り、今ある課題が解決していく
——続いての質問として、5~10年後に予想される環境の変化と、それへの対応についてお聞かせいただけますか。
葭沢氏:(Agent iを立ち上げていた)この3年ほどの変化が激しかったので、具体的に何が起きるかを予測しきれているわけではないのですが、インターネットがインフラとして広がったように、AIもあらゆるサービスやソリューションに、情報処理の基本システムとして組み込まれていくでしょう。
そして、いわゆるフィジカルAIとして、都市や街そのものにもAIが入っていくことによって、これまで不可能だったこと、解決が難しかった課題が解決できるようになっていくと思います。
おそらくAIの進歩が止まることはなく、5年後には今想像が及ぶ範囲以上に進化しているでしょう。そういう時代の中において、皆さんの日常生活が、もっと便利に豊かになれるようなソリューションであったり、サービスとは何だろうかと、当社としても考え続けてリリースしていきたいところです。
30年後も多くの人が最初に触れるサービスでありたい
——最後の質問となります。30年後の2056年頃に、インターネットあるいは世界はどのように変わり、そのときにユーザーとどのような関係を築いていたいと考えられますか?
葭沢氏:今から30年前に、インターネットの普及とともにYahoo! JAPANが誕生しました。その頃から、今の状態が想像できていたかというと、無理だったと思います。
なので、30年後にどうなっているかは想像もつかないなというのが、正直なところではあります。ただし、その後スマートフォンが登場して、LINEが始まりコミュニケーションの自由度を広げた後の今なので、ここから30年間の間にも、とてつもない大きな変化が起きることは確実でしょうね。
理想像という意味では、変化した30年後も、多くの方にインターネットやAI、または日常を便利にするサービスとして、最初に使っていただけるのが、LINEヤフーが提供するサービスでありたいと願っています。具体的にどのようなものかというと、今の段階では想像もつかないのですが。
「便利さ」の向こうにある「豊かさ」も届けたい
葭沢氏:と、その一方で、個人的な考えとしては、AIエージェントがユーザーの代わりにより多くのことをしてくれるようになっても、身体性といいますか、ユーザー自身の意思や思いがそこに存在していると感じられるサービスを作っていきたいと思っています。自分にぴったりな答えを見つけるまでに少し寄り道をしてしまったり、あてどなく情報の中を漂ったりとか、そういった時間も組み込まれていてほしいなと。
「人生で大きな影響を受けた」と言える本や音楽との出会いって、多くの場合、ストレートにそれを求めて手に入れるものではないと思います。私にも、そうしたものとの思い出深い偶然の出会いがあるのですが、生活のあらゆる場面が便利になっていくことで、そのような機会が失われることにはならないか……と思うと、少し怖くも思いますね。
——私も、そうした点にはとても関心があります。私たちはもっと回り道を味わうべきで、ひょっとしたら「便利」に抗い、もっと不便を尊重する必要があるのではないかと。とはいえ、そんな心配は余計なお世話で、人間はそこまで効率的にはなり切れないものかもしれない、とも思うのですが。
葭沢氏:LINEヤフーとしては「便利」なサービスを提供し続け、ユーザーの皆さんのストレスやペインポイントを取り除いていきます。ですが、そこに何らかの形で、偶然の発見とか、求めていた答えそのものではないけど面白い別のアイデアが生まれるとか、そういった機会がないと、人類のイノベーションもなくなってしまうのでは、という気がしています。
だとすると、少しストレスが残る可能性はあっても、セレンディピティやサプライズのようなものがあった方がいいのかもしれません。これも具体的なアイデアが今あるわけではないのですが、30年後のユーザーの皆さんにとって、そういった偶然のきっかけが生まれる場でもありたいと思います。
——差し支えなければ、「人生で大きな影響を受けた」出会いのエピソードをお聞かせいただけますか。
葭沢氏:そうですね……。ある時、好きなテレビドラマの主題歌のCDを買おうとして、当時はまだ街のあちこちにあったレコードショップに行き、目的とは全然違う、ザ・ブルーハーツのCDを買って帰ってきたことがありました。それまでは特別ザ・ブルーハーツに興味を持ったことはなく、いわゆるジャケ買いだったのですが、あらためて聴いて、かっこいいなと感じました。
その後、彼らのことをもっと知りたくなって音楽雑誌のインタビューを読み、彼らが名前を挙げていた米国のブルースシンガーのアナログレコードを探しに行って、また、まったく違うアーティストをジャケ買いしたり(笑)。こうしたものは、「おすすめ」などでサービスから紹介されたらそれでいいというものでもなくて、自分の中に出会いの物語が作られることにも意味があるのだろうなと思いますね。
——伺っていて、自己啓発などで言われる「コンフォートゾーンを出る」という言葉が浮かびました。自分にとって何も不満・不安がなく居心地のいい領域(コンフォートゾーン)を出て冒険することで、そういった偶然の出会いの機会が得られる、という感覚です。AIがコンフォートゾーンを作ってくれることで、そこを出ていくことも気軽にできる、みたいな未来像もあるかもしれません。
葭沢氏:本でいえば、「ライ麦畑でつかまえて」を、なぜか恋愛小説だと思って手に取ったことがあります(笑)。実際にはまったく違う内容でしたが、結果的にはこれも、人生で大きな影響を受けた出会いとなりました。あえて不便や情報不足の状況に身を置くことが、予想外の結果を引き寄せることになるのかもしれませんね。
なんと言えばいいでしょうか。「便利さ」の向こうに「豊かさ」があるとして、それも提供できるサービスでありたい、といったところでしょうか。
——「豊かさ」という言い方はいいですね。さまざまな価値が複雑に入り組んでいるものをイメージしました。ありがとうございました。








