特別企画

初めての確定申告 第1回・基礎編

確定申告をするために知っておきたい基礎知識

 確定申告の時期が近づいている。起業して初めて行う確定申告に不安を感じる人は多い。何を用意したらよいのか、何から始めたらよいのか、そもそも確定申告は何をするのかと不安はつきない。また、すでに1~2度の確定申告を行ったがイマイチよく分からないという人もいるだろう。

 今回は確定申告の概略から複式簿記による記帳方法、実際に青色申告ソフトを使用して決算書や確定申告書を作成するところまでを、連載でお届けしたい。確定申告初心者や初級者の個人事業主、これから独立を考えているサラリーマンは参考にしていただけると幸いだ。

 筆者は2006年の12月に起業した。起業に際しいろいろ調べていると、開業届は事業を開始してから1カ月以内に提出しなければならないことが分かった。「1月に開業届を出せば確定申告を1年先延ばしできる?」と悪だくみを思い付き、税務署に相談に行くと、職員の方は親切にアドバイスをしてくれた。アドバイスと言うより背中を押してくれたと言った方が正しいかもしれない。

 当時の筆者は税金の知識は皆無。未知のものである確定申告を避けたい。避けられないなら先延ばししたいと考えていた。税務署で詳しく説明を受け「サラリーマン時代に原稿を書いているなら、さかのぼってそれもこれも経費にしていいですから、さっさと開業した方が税金は少なくなりますよ」と背中を押され、その場で開業届と青色申告承認申請書を書いた。年が明け、税金の本を読み、青色申告ソフトを購入し、手探りで確定申告を行った。

 おそらく筆者のように、よく分からないという理由で確定申告に恐怖を感じたり、避けて通りたいと思ったりしている人がいるだろう。筆者は間もなく10回目の確定申告を迎える。過去に自分自身が理解しづらかったことや、間違っていたこと、知人から相談を受けたことを思い出しながら、初心者でも自力で確定申告ができるように説明をしていきたい。

確定申告とは

 「そもそも確定申告とは」から説明しよう。個人事業主は個人の部分と事業主の部分が一緒になっている。事業の部分はその年に売り上げがいくらあり、事業を営むために経費などがいくらかかったかを知る必要がある。経費に関して言えば、交通費、家賃、電気代、電話代、備品代、飲食代など事業に必要な費用を科目ごとに集計して合算したものが経費となる。売り上げから経費を差し引くと、事業で稼いだ所得が確定する。

 個人の部分はサラリーマンと同様な考え方で、奥さんがいると配偶者控除、子どもや親を扶養していると扶養控除、生命保険に加入していると生命保険料控除、年金や健康保険は社会保険料控除といった控除を所得から差し引くことができる。

 1年間の売り上げ、経費、控除などを集計して納税額を確定し、申告を行うのが確定申告だ。サラリーマン時代は多くの人が会社任せだが、独立すると自分で頑張るか、税理士に頼むか、いずれにせよ自分の責任で行わなければならないということだ。

決算書と確定申告書

 実際に確定申告で提出する書類を見てみよう。青色申告をするフリーランスが提出するものは所得税青色申告決算書と確定申告書Bの2つ。事業の部分を表す決算書は4ページで構成され、1~3ページ目は損益計算書、4ページ目は貸借対照表となっている。チラッと様式と記入例を見てみよう。

 左列上半分の①が売り上げ。左列の下半分と中央列が経費。経費は水道光熱費、通信費、消耗品費……と科目に分けて記入しそれらの合計額が②となる。中央列の最下段③は売り上げから経費を引いた金額だ。右列の下線が青色申告特別控除の65万円。③から青色申告特別控除の65万円を引いた④が所得金額となる。

損益計算書1ページ目

 2、3ページ目には月別の売り上げと仕入れ、従業員への給料の内訳、固定資産の減価償却、家賃などの記入欄がある。

 4ページ目は貸借対照表。簿記などの知識があって貸借対照表がスラスラと書ける人は手書きや表計算ソフトで青色申告ができると思われるが、貸借対照表を見ても意味が分からない人は青色申告ソフトか税理士先生の力を借りて決算書を作成することになる。言い方を変えると、青色申告ソフトがあれば、貸借対照表が分からなくても、複式簿記の記帳ができなくても、所得税の税率を知らなくても青色申告は可能だ。まさに独立直後の筆者はその1人だった。

4ページ目は貸借対照表

 個人の部分を記入するのが確定申告書だ。確定申告書は第一表、第二表で構成されている。第二表から見てみよう。代表的なところだけ説明すると左上の⑤が源泉徴収された税額。原稿料などは振込の段階ですでに税金が引かれているが、この納税済みの金額を記入する。

確定申告書の第二表

 右上の⑥が国民年金や国民健康保険などの社会保険料。その下の⑦が生命保険。この例では旧制度の生命保険料に11万2000円、新制度の介護医療保険に8万4000円を掛けている。計算後の控除額は記載されていないが、それぞれの控除額は5万円と4万円で合計9万円の控除となる。

 ⑧の配偶者控除は奥さんで⑨は子や親などの扶養控除の欄となっている。奥さんが配偶者控除の対象となっているので控除額は38万円。子どもは年齢が特定扶養親族に該当するので63万円の控除となっている。

 確定申告書の第一表は第二表と損益計算書を集計するイメージだ。ここに最終的な納税額を記入することになる。左上の①は損益計算書の売り上げ、左中段は損益計算書の④が転記されている。左下段は第二表から⑥の社会保険料控除、⑦の生命保険料控除、⑧の配偶者控除、⑨の扶養控除が転記され、その下が基礎控除となっている。これらの控除額を合計したのが⑩で、各種所得控除の額となる。

確定申告書の第一表

 ④の所得から⑩の各種所得控除を引いたのが右上の⑪で、課税所得と呼ばれるものだ。⑪に税率を掛けると所得税額を算出することができる。⑫の復興特別税は、所得税額に2.1%を掛けたもので、所得税額と復興特別税額を足したものが最終的な所得税の納税額となる。この例では第二表の⑤の源泉徴収額が納税額を上回っているので、⑬に記載された約40万円が還付される。

 これらの書式を見て、なるほどと思った人は確定申告は楽勝だろう。「ええ、なんで生命保険の控除額が9万円になるの、特定扶養親族って何だ」と思った方も大丈夫。サラリーマン時代の筆者と同じレベルなので、青色申告ソフトに助けてもらえば自力で確定申告は可能だ。

 「青色申告ソフトを使えば複式簿記を知らなくても大丈夫。確定申告書も損益計算書も貸借対照表も作成できる」のは事実だが、筆者は「複式簿記とか控除とか税率とか知らなくても大丈夫?」と聞かれたら、「大丈夫だけど、知っていた方がいいんじゃね」と答える。多少は税金の知識があった方が確定申告は楽になる。それ以上に、経営判断をする際にも、健全な経営を続けるためにも、最低限の税金の知識は必要だと思われる。

 所得税の算出方法など個人事業主の税金に関する初歩的な説明は、先日掲載した「個人事業主必見、今からできる年末の節税対策」を参照していだくとして、ここでは青色申告に直結する複式簿記による記帳や按分などをほんの触り程度に説明しておこう。

複式簿記って何をするの

 青色申告をしようと思った人に立ちはだかるのが複式簿記だ。言葉は聞いたことがあるが、何をしたらよいのかサッパリ分からないという人は多いだろう。結論から言えば青色申告ソフトを使えば何とかなるのだが、基礎的な知識があると実際に入力(記帳)する際の作業効率は高くなる。理解する必要はないと思うが、雰囲気だけはつかんでいただきたい。

 お金を管理・記録する行為としてなじみがあるのは、お小遣い帳と家計簿だ。複式簿記による記帳もそれらの延長線上にあり、より詳しくなったものと考えてよいだろう。お小遣い帳に記録するなら日付、内容、金額を書けば十分だろう。

 これが家計簿になると食費、学費、公共料金などと分類をし、それぞれの合計額を見て「食費はもう下げられないから、だんなの小遣いを減らそう」と分析をしたりする。

 では複式簿記で記帳するとどうなるか。

 このようにいきなり複雑な内容となる。簿記の本などに書かれている一般的な説明をすると、貸方を右手として、右手で162円の現金を渡し(貸し)、左手(借方)で消耗品(ボールペン)を受け取った(借りた)というイメージだ。電気代が銀行口座から引き落とされたときの記帳は、

となる。お小遣い帳や家計簿よりお金の動きが明確になったことにお気づきだろうか。ボールペンは財布から現金で支払ったこと、電気代はA銀行のB支店の普通預金から支払われたことが明記されている。

 少し複雑な記帳をしてみよう。5月に原稿料1万円(+消費税800円)の原稿を書き、5月末に出版社に1万800円の請求書を送り、6月末に銀行振込があった場合の記帳だ。売り上げが発生したのは5月末、入金があったのは6月末、そのため5月末と6月末それぞれで記帳を行うことになる。原稿料は源泉徴収分が差し引かれるので、復興特別税を加えた1021円(10.21%)が差し引かれて振り込まれる。

 ザックリと説明してみよう。5月末に「今月は1万円の原稿を書いたので税込み1万800円を請求しますよ」と、右手で請求書(売上高)を渡す。何も受け取りはしないが、左手では「はい、来月末に払いますよ」と約束(売掛金)を受け取る。6月末、右手で「今月末に振り込む約束ですよね」と売掛金を渡し、左手に持ったA銀行B支店の預金通帳に9779円が振り込まれる、といった感じだ。1万円の10.21%の1021円は源泉徴収分として差し引かれ、C出版が代行して納税をする。

 もう1つ複雑な記帳を紹介しよう。現金、普通預金とともに多いのがクレジットカードによる支払いだ。クレジットカードを使用することが多いネット通販で消耗品などを購入した場合、購入時点ではまだ支払いをしていない。クレジット会社が銀行口座から引き落としをするのは翌々月5日とか10日とか1~2カ月先となるので、厳密に記帳をすると購入時と引き落とし時の2段階で記帳する必要がある。

 このようにクレジットカード払いは、購入時は未払金で消耗品を受け取り、口座引落の際に未払金と普通預金で精算する2段階の記帳となる。それが1件、2件なら大したことはないが、100件、200件になるとかなり面倒な記帳作業だ。

 個人事業主の記帳では「事業主借」という科目を使うことがある。クレジットカードの支払いを未払金ではなく事業主借で記帳すれば、2段階の記帳は不要となる。お勧めとは言えないが、面倒な2重作業を軽減できるので紹介しておこう。

事業主借で記帳作業を軽減

 個人事業主の帳簿には「事業主借」「事業主貸」という勘定科目がひんぱんに出てくる。個人のお金で仕事に必要な支払いをした際は「事業主借」。生活費など事業以外の費用を事業用の現金・預金から支払ったときは「事業主貸」となる。例えば事業用の口座から生活費を出金した場合は以下のように記帳する。

 複式簿記の記帳例で事業用の財布(現金)から支払った場合は貸方(右側)は現金、事業用の口座から引き落とされた場合は貸方が普通預金とした。これを個人の財布、個人の口座からの事業のための出金をした場合はすべて事業主借となる。

 具体的には事業専用の預金口座に売掛金(売り上げ)が入金されたらそれを「事業主貸」として個人の口座に移動する。個人の口座に入れてしまえば記帳の必要がなくなので、個人の財布でボールペンを購入したときも、個人の口座から電気代が引き落とされたときも、個人のクレジットカードでPCパーツを買ったときも、すべて事業主借にすることができる。

 この方法を使えばクレジットカードの2段階記帳を行う必要はなくなる。事業用の現金を持たないので現金出納帳もなくすことができる。普段使用している私的な預金口座の入出金も記帳する必要はなくなる。個人的にはお金の動きを明確化する複式簿記の精神には反すると思うが、記帳作業の大幅な軽減ができるのでメリットは大きい。

事前に知っておきたい「按分」という概念

 個人事業主の記帳には按分という考え方がある。これを知らずに記帳作業を進めると、後から「あちゃ~」となることもあるので、事前に按分について少し理解をしておきたい。

 経費の中には事業使用と個人(家事)使用が混在するものがいくつもある。事業形態によって事情は異なるが、自宅で仕事をする場合は「仕事で使用する電気」と「個人で使用する電気」が混在することになる。電力会社に支払った電気代のうち、経費にできるのは仕事で使用した分だけだ。事業使用と個人使用が混在している場合、任意の比率で事業分だけ経費にすることを按分という。

 自宅を仕事場にすると電気、ガス、水道、ネット回線、固定電話、家賃、管理費など、数多くの経費で按分を必要とすることが多い。これ以外にもスマートフォン、クルマなども按分の対象となりやすい。

 クルマに関する費用はクルマ自体の購入費、諸費用、ガソリン代、車検代、自動車保険、自動車税、重量税、月極駐車場などは按分の対象となるが、高速代、コインパーキングなどは按分の必要はない。

 もう少し実務的な話をすると電気代、ガス代、上下水道代は水道光熱費という勘定科目となる。もしサラリーマンを辞めて自宅で原稿を書くような仕事をすると、電気代は激増するがガス代、水道代はそれほど増えない。この場合、電気代は70%が事業使用、ガスと水道は10%が事業使用といったように按分することになる。

 このことを考慮して記帳するなら、水道光熱費という勘定科目の下に補助科目として電気、ガス、水道を用意しておきたい。そうしておけば決算のときに補助科目ごとに按分する比率を変えることが容易となる。ガソリン代なども旅費交通費にしてしまうと、按分する必要のない電車賃などと同じ科目となってしまい、決算で按分しようとしたときに「あちゃ~」と困ることになる。車両費という勘定科目を作成し、按分が必要な経費は車両費として記帳するか、旅費交通費の下に補助科目として車両費を作成するなど、記帳作業を始める前に按分することを考慮していただきたい。

 複式簿記の雰囲気と按分という考え方は、多くの個人事業主が知っておくべきだと思われる。事業形態や事業規模によって消費税の簡易課税、本則課税などの知識が必要になることもあるなど、税金は奥が深い。INTERNET Watchの読者なら、個々の事情で疑問が発生してもネット上から回答を見つけられることも多いだろう。また、実際に入力を始めて「この経費はどうやって記帳するんだ」と迷った場合は、青色申告ソフトが助けてくれることもある。インターネットと青色申告ソフトがなかった時代は、税金の知識がない人が自力で青色申告を行うのは不可能だったと思われるが、今は「何とかなる」ので、1カ月ほど先から迫った確定申告に向けて準備を始めていただきたい。

初心者向けの青色申告ソフトは

 次回の記事から青色申告ソフトを使用して、実践的に初期設定、記帳作業、最終的な決算書、確定申告書の作成を紹介する予定だ。そこで使用する「やよいの青色申告 16」について紹介しておこう。

 INTERNET Watchの読者なら、クラウド型の青色申告サービスが急進していることをご存じかもしれない。クラウド型会計ソフトに関する調査結果を見ると、会計ソフト利用事業者のうちクラウド型会計ソフトの利用者は、2014年11月の4.8%から2015年5月には10%へと増えている。

 筆者は、クラウド型会計ソフトは2種類に分けられると思っている。1つは銀行口座、クレジットカードなどの取引データを取り込むことができる、アグリゲーション機能に対応したもの。もう1つは動作環境はクラウドをベースとしているが、アグリゲーション機能に対応していないもの。

 アグリゲーション機能は、確定申告の記帳作業を大幅に減らす効果がある。これから青色申告ソフト/サービスを選ぶならアグリゲーション機能に対応したものを選択したい。freee、弥生(やよいの青色申告オンライン、やよいの白色申告オンライン)、マネーフォワード(MFクラウド)はアグリゲーション機能に対応している。

 急進しているクラウド型の青色申告サービスだが、現状で主流派と言えるのはパッケージ型の青色申告ソフトだ。そのパッケージ型の青色申告ソフトで6割を超える圧倒的なシェアを獲得しているのが「やよいの青色申告 16」。まさに青色申告ソフトのデファクトスタンダード的な存在だ。前バージョンの「やよいの青色申告 15」でアグリゲーション機能に対応。最新版の「やよいの青色申告 16」では、取り込みの難しい法人口座にも対応した。

やよいの青色申告 16。前バージョンの15よりパッケージサイズが小さくなった

 インストール型のアプリケーションソフトでクラウドの機能を利用する点は、スマホアプリに近いイメージだろうか。一方で、クラウド型の青色申告サービスはブラウザベースのサービスといった感じだ。

 「やよいの青色申告 16」の特徴の1つは、税金の知識に乏しい確定申告初心者をサポートする機能が豊富なこと。例えば、冒頭で紹介した確定申告書の第二表で生命保険の支払額を入力すると、控除額を自動で計算してくれる。子どもの誕生日を入力し19歳以上23歳未満なら特定扶養親族と判定し、正しい控除額を記入してくれるのだ。それ以外にも、初期設定や決算書作成で間違ったところがあるとアラートで知らせてくれるので、確定申告初心者に優しい製品と言えよう。

 筆者は独立直後の2007年に「やよいの青色申告07」を購入して確定申告を行った。以来10年、インストール型の「やよいの青色申告」を使い続けている。こうして税金に関する記事を執筆しているので、いくつもの青色申告ソフト/サービスを試用してきた。

 パッケージ型の青色申告ソフト、クラウド型の青色申告サービス、フリーソフトなどいくつもの製品を使ってきたが、今のところ自分自身の確定申告は、インストール型の「やよいの青色申告」を使い続けている。長年にわたり高いシェアを獲得しているので、ネット上にも情報は多い。困ったときに自己解決できる可能性が高いこともINTERNET Watchの読者には合っていると思われる。

 次回は初めて確定申告をする人を想定し、「やよいの青色申告 16」を初期設定からジックリ紹介していきたい。

(協力:弥生株式会社)