清水理史の「イニシャルB」【特別編】

高速バックホールで安定性抜群! 高コスパのWi-Fi 7対応メッシュシステムTP-Link Deco BE75レビュー

実測で無線でも6Gbps超え! 有線も10GbE!! これで「2台8万円」は実は安い?

TP-LinkのWi-Fi 7対応メッシュシステム「Deco BE75」

 TP-Linkから、メッシュWi-Fiルーターの新モデル「Deco BE75」が登場した。Wi-Fi 7対応、メッシュ、10GbEの有線ポート搭載ながら、2台セットで価格を約8万円(しかも記事掲載日である7月16日から開催中のAmazonプライムデーでは6万円台!!)に抑えたモデルだ。Wi-Fi 7に加え独自機能を活用し、有線でも無線でも10Gbpsクラスの通信を実現できるのが特徴だ。その実力を検証してみた。

「ちょっと贅沢」なネットワークをリーズナブルに実現

 TP-Linkから登場した「Deco BE75」は、「そろそろ10Gbps回線を検討したい」「NASなどの10Gbps対応機器に興味がある」といった「ちょっと贅沢」なネットワーク環境を視野に入れている人に適した1台だ。

 テレワーク、動画視聴、オンラインゲーム、AI、実況配信などと、ネットワークを利用するシーンが増えてきたことで、10Gbps回線への期待が高まりつつあるが、それを支える家庭内ネットワーク環境の10G化は、まだハードルが高い。ルーター、スイッチ、ケーブル、Wi-Fiとほとんどの機器を入れ替えるとなれば、手間も費用も増えてしまうだろう。

 そんな家庭の10G化を、もっと手軽に、そしてなるべく安く、実現してしまおうというのが、このDeco BE75だ。

 10GbE有線ポート、複数バンドを併用するバックホールなどを駆使したメッシュネットワークを構成することで、家庭内のトラフィックが集中する重要なポイント、すなわち「回線」「バックホール」「10GbE対応機器」をピンポイントで10Gクラスにアップグレードできる。

家庭内の重要な部分を手軽に高速化できるDeco BE75

 しかも、このDeco BE75。価格が魅力的だ。

 10万円を超えるようなモデルもあるWi-Fi 7対応のハイエンド製品に対して、本製品の実売価格は約8万円。しかも、2台セットで8万円となる。

 もちろん、通信機器として考えると安くはないが、Deco BE75だけで、前述した家庭内ネットワークの重要なポイントを10G化できるうえ、今後増えてくるWi-Fi 7対応のPCを利用すればMLOで複数帯域を活用した高速、安定のネットワークも構築できる。

 今後のWi-Fi 7時代を考えると、トータルの投資としてはコスパが良く、Wi-Fi 7製品の中でも、注目の1台と言えそうだ。

10Gbps RJ45/SFP+コンボ×1 + 2.5Gbpsポート×3を搭載

 Deco BE75は、国内では11520Mbps(6GHz、320MHz幅、4ストリーム)+ 2880Mbps(5GHz、160MHz幅、2ストリーム)+ 688Mbps(2.4GHz、40MHz幅、2ストリーム)の通信速度に対応したトライバンド対応のWi-Fi 7メッシュルーターだ。

正面
背面

 有線ポートは、10Gbps RJ45/SFP+コンボ×1 + 2.5Gbpsポート×3となっており、脱1Gbpsが実現されている。

 2.5Gbps×3で、ゲーミングPCなどの2.5Gbps対応PCを1Gbps以上で有線接続できるのもメリットだが、注目は10Gbps対応ポートだろう。

10Gbpsポートを搭載

 10Gbps RJ45/SFP+コンボ×1は、あまり見かけないポートだ。SFP+は、法人向けのスイッチなどで採用されており、ケーブルの先端に取り付けられたモジュールごとポートに差し込む方式となる。光ケーブルなどを接続する際に利用されるが、Deco BE75では、一般的なLANケーブル向けのRJ45とコンボになっており、どちらか一方のみを排他的に利用する方式となっている。

 もちろん、家庭でSFP+を使うことはあまりないのでRJ45を利用することになるが、これにより10Gbps対応のインターネット回線サービスと、10Gbpsのまま接続することが可能になる。

 なお、上位モデルとなるDeco BE85では、無線のスペックが高いだけでなく、10Gbps対応ポートが2ポート用意される(10Gbps RJ45/SFP+コンボ×1、10Gbps RJ45×1)。Deco BE75では、スペックを現実的なレベルに抑えることで価格を抑えているわけだ。

Deco BE75
価格8万5800円
CPU-
メモリ-
無線LANチップ-
対応規格IEEE 802.11be/ax/ac/n/a/g/b
バンド数3
320MHz対応
最大速度(2.4GHz)688Mbps
最大速度(5GHz)2880Mbps
最大速度(6GHz)11529Mbps
チャネル(2.4GHz)自動選択
チャネル(5GHz)自動選択
チャネル(6GHz)自動選択
ストリーム数(2.4GHz)2
ストリーム数(5GHz)2
ストリーム数(6GHz)4
アンテナ内蔵
WPA3
メッシュ
IPv6
IPv6 over IPv4(DS-Lite)
IPv6 over IPv4(MAP-E)
有線(2.5Gbps)3
有線(10Gbps)1(RJ45/SFP+)
有線(LAG)-
USB1
セキュリティ〇(HomeShield)
USBディスク共有
VPNサーバー〇(OpenVPN、PPTP、L2TP/IPSec)
動作モードRT
ファーム自動更新
LEDコントロール
サイズ(mm)128×128×236

複数帯域で高速な通信を実現する無線バックホール

 Deco BE75のもうひとつの魅力は、セットモデルで販売されていることだ。

 セットモデルのメリットと言うと、あとから2台目を買う手間が省けること、セットアップや管理が簡単といったものを思い浮かべるかもしれないが、通信が最適化されている点も注目となる。

  Wi-Fi 7ルーターの中には、EasyMeshなどのメッシュ機能に対応することで後からWi-Fiルーターを追加できる製品も少なくないが、本製品は、設計段階から複数台で連携することが前提となっており、TP-Linkならではの最適化やチューニングが施された、より高い完成度の「メッシュシステム」となっている。

 その代表的な例が、TP-Linkの独自技術「Backhaul Aggregation」だ。

 Backhaul Aggregationは、2.4/5/6GHzのそれぞれの帯域を組み合わせて高速な通信を実現する技術だ。Deco BE75であれば、理論上は、11520Mbps(6GHz)+ 2880Mbps(5GHz)+ 688Mbps(2.4GHz)=約15Gbpsの通信ができることになる。

最適化されたバックホールを自動的に構成

 Backhaul Aggregationは対応機器同士でないと利用できないが、Deco BE75はセットモデルとなっているため、何も設定せず、互換性も気にすることなく、Deco BE75同士の通信(バックホール)に利用できる。これにより、有線だけでなく、無線バックホールも10Gbpsクラスの通信にアップグレードできるわけだ。

 現状、Wi-Fi 7対応のPCやスマートフォンを持っていない場合でも、Wi-Fi 7ならではの320MHz幅接続をバックホールとして活用できるメリットは大きいだろう。

 後々、Wi-Fi 7対応のMLO対応PCを購入した際も、豊富なバックホールの帯域を生かして、2.4GHz、5GHz、6GHzの帯域を組み合わせた快適な通信が可能になる。

 なお、Deco BE75をセットで利用した場合はもちろんのこと、従来のWi-Fi 6対応のDecoシリーズともBackhaul Aggregationを活用した高速なバックホール構成が可能となっている。

近場なら実測6Gbps、1階~3階間でも実測2Gbpsバックホールを最適化して安定性を重視

 では、このようなDeco BE75で、実際にどれくらいのパフォーマンスが出るのかを検証してみよう。

 まずは、バックホールの性能を検証するために、以下のような構成で速度を検証した。PC1とPC2は、有線-無線-有線という形でつながれているが、いずれの経路も10Gbpsクラスの通信が可能になっている。

テスト方法

 結果を見ると、なかなか優秀だ。iPerf3の結果は6Gbps越えも実現しており、無線ながら、一般的な1Gbps有線はもちろんのこと、2.5Gbps有線よりも高速な結果が実現できている。

有線クライアントテスト
1F3F
上り62502160
下り53202230

※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 Pro
※クライアント:Core i3/RAM32GB/1TB NVMeSSD/ASUS XC-C100/Windows 11 Pro

 この強力な無線バックホールの効果は、実際の家庭環境では、「安定性」という形で現れる。

 以下は、一般的な利用環境を想定したテストだ。木造3階建ての筆者宅で、1階と3階にDeco BE75を設置し、速度を計測した結果だ。Deco BE75は、1階から3階へと続く階段近くに設置しており、階段の空間をうまく活用して、バックホールの無線通信のパフォーマンスが最大化できるように設置場所を工夫してある。

 なお、クライアントを6GHzと5GHzで接続した場合の両方を計測したが、いずれも160MHz幅の2882Mbps接続時での結果となる。Wi-Fi 7は6GHz帯で320MHz幅での接続が可能だが、今回の検証環境では320MHz接続できるPCが手元になく、160MHz幅での接続となっている。

無線クライアントテスト
1F2F3F3F端
6GHz上り1470644825755
下り1350622853795
5GHz上り1560113012201010
下り1540111012401030

※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 Pro
※クライアント:Core i7 155H/RAM32GB/1TB NVMeSSD/Intel BE200D2W/Windows 11 Home

 全体の結果としては5GHzで接続した方が良好な結果となった。家中のどこでも1Gbpsオーバーでつながる印象で、まるで見えない有線でつながっているかのような安定感がある。

 6GHz接続よりも5GHz接続の方が速いのは、6GHz帯がバックホールに専念した結果と考えられる。クライアントを6GHz帯で接続してしまうと、6GHz帯がクライアント接続とバックホールの両方の役割で使われるため、帯域が食い合ってしまう。これをうまく避けられた結果だ。

 前述したようにセット構成のDecoは賢いメッシュシステムなので、こうした帯域の割り振りなども「よきにはからってくれる」のが特徴となる。帯域をうまく活用して、全体的に通信を最適化できるのが本製品の魅力だ。

HomeShieldでセキュリティも確保

 以上、TP-Linkから登場したDeco BE75を検証してみたが、そもそも使い勝手がいいDecoシリーズが、10GbEとBackhaul Aggregationによってパワーアップされており、完成度の高い製品だと感じた。

 ハイエンドモデルのDeco BE85までは必要ないが、10Gbps環境を体験してみたいという人にうってつけの製品で、価格も2台で約8万円(現在はプライムデーでさらに安く)と、スペックを考えるとリーズナブルだ。10Gbps対応ルーター+スイッチ+ケーブルなどと、いろいろな費用をかけることなく、本製品への投資だけで重要な基幹部分のネットワークを強化できるのはお得と言える。

 このほか、今回は詳しく触れられなかったが、TP-Link製品ならではの機能として、セキュリティ対策機能の「TP-Link Home Shield」にも対応している。

自己診断機能で弱点を確認したり
ペアレンタルコントロールも可能

 昨今、話題になっているWi-Fiルーターの脆弱性に対して、自己診断を実施することで対策不足の部分を警告してくれたり、保護者による制限やIoT機器の保護を利用したりできる(一部機能は有料プランへの加入が必要)。

 本稿掲載日の7月16日から17日には、Amazon.co.jpでのプライムデーも実施されていて、通常の18%オフとなる6万9990円で購入できる。自宅のネットワークを手軽にワンランク上にアップグレードできるので、この機会に導入を検討してみると良いだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。