清水理史の「イニシャルB」【特別編】

Wi-Fi 7が変わる! たった2万円ちょっとで10GbE対応! 縦置き! の新世代Wi-Fi 7ルーター「Archer BE450」

「デュアルバンド対応」の割り切りで普及を狙う?

TP-LinkのArcher BE450

 TP-Linkから登場したArcher BE450は、Wi-Fi 7はこうでなきゃという既成概念を打ち破る新世代のWi-Fi 7ルーターだ。特徴的なのは、そのデザインや価格、5764Mbps+1376Mbpsという無線スペックだ。手に取りやすいだけでなく、実用的な性能も併せ持ったArcher BE450を実際に試してみた。

6GHz帯が使えないWi-Fi 7なんてアリ?

 Wi-Fi 7と言えば、「6GHz帯」「320MHz幅」。

 確かにそれは魅力だが、果たして、誰にでも本当に必要なものなのだろうか?

 こうした疑問を根本から問い直したWi-FiルーターがTP-Linkから2モデル登場した。それが「Archer BE450」と「Archer BE220」で、前者は5764Mbps+1376Mbps、後者は2882Mbps+688Mbpsの通信速度に対応。使用可能な帯域は、両者とも5GHz帯と2.4GHz帯のみと、あえて6GHz帯に対応しない「デュアルバンド対応」のWi-Fi 7ルーターとなっている。

 これまでWi-Fi 7ルーターは、いわゆるハイエンド製品が中心で、3~5万円の価格が設定されており、正直、誰もが買いやすい価格設定ではなかった。

 これに対して、Archer BE450は実売2万800円、Archer BE220は約1万2800円(!)と、手に取りやすい価格設定がなされており、少し予算を足してでも、Wi-Fi 6ルーターではなく、こちらを買おうという気にさせる価格になっている。

 もちろん、6GHz帯は利用できないが、現状、スマートフォンやPC、ゲーム機などのWi-Fiは2.4GHz帯か5GHz帯の対応が中心となる。また、iPhone 16シリーズやPixel 9シリーズ、Copilot+ PC製品群、PS 5 ProなどのWi-Fi 7対応製品であっても、2.4GHz帯と5GHz帯のWi-Fi 7で接続できるだけでなく、Wi-Fi 7ならではのMLOで2.4GHz帯と5GHz帯を組み合わせた構成でも接続できる。

 距離が遠く、遮蔽物も多い環境では、6GHz帯は不利で、2.4GHz帯や5GHz帯が実質的に多く使われることを考えると、理にかなった構成と考えることもできる。価格のために性能を削ったというよりは、必要十分な性能を適正な価格で提供する製品と言えそうだ。

ArcherBE450
価格2万800円
CPU-
メモリ-
無線LANチップ(5GHz帯)-
対応規格IEEE802.11be/ax/ac/n/a/g/b
バンド数2
320MHz対応×
最大速度(2.4GHz帯)1376Mbps
最大速度(5GHz帯)5764Mbps
最大速度(6GHz帯)-
チャネル(2.4GHz帯)1-13ch
チャネル(5GHz帯)W52/W53/W56
チャネル(6GHz帯)-
ストリーム数(2.4GHz帯)2
ストリーム数(5GHz帯)2
ストリーム数(6GHz帯)-
アンテナ内蔵
WPA3
メッシュ
IPv6
IPv6 over IPv4(DS-Lite)
IPv6 over IPv4(MAP-E)
有線WAN(10Gbps)1
有線LAN(1Gbps)3
有線LAN(2.5Gbps)1
有線(LAG)-
USBUSB3.2(Gen1)
セキュリティ
USBディスク共有
VPNサーバー〇(OpenVPN、PPTP、L2TP、WireGuard)
動作モードRT/AP
ファーム自動更新
LEDコントロール
サイズ(mm)230×163×60

日本市場を狙い打ち? コンパクトでどこにでも置けるやさしいデザイン

 それではArcher BE450の外観をチェックしていこう。

 TP-Linkは、Archer AX80などのWi-Fi 6の後期モデルから、日本を中心とした一部の地域向けに、縦置きかつアンテナ内蔵デザインの筐体を積極的に採用するようになった。

 今回のArcher BE450も、こうした流れを汲んだデザインを採用しているが、従来モデルに比べてデザインがより洗練された印象がある。従来の左右非対称の個性的な形状ではなくなり、湾曲した前後のパネルを組み合わせたシンプルな形状となった。

正面
側面
背面

 従来のTP-Link製品は、どちらかというと力強さを感じさせるデザインだったが、今回の製品は、やさしさが感じられるデザインで、ロゴも小さく控えめで、万人に受け入れられやすいものとなっている。

 しかも、この筐体が秀逸なのは、縦置き、横置き、壁掛けの柔軟な設置方法に対応している点だ。縦置きの製品の中には、放熱の関係で横置きが推奨されていないケースもあるが、本製品は場所に応じてさまざまな形態で設置できる。

 本製品はEasyMeshにも対応しており、同じくEasyMeshに対応した同社製にと複数台の組み合わせで使うことも想定される(接続もWPSボタンで簡単に設定できる)。家庭内のさまざまな場所に設置することを考えると、縦でも横でも壁掛けでも使える点は、地味に優秀なポイントだ。見た目だけでなく、実用性も高いデザインということになる。

横置きにも対応
EasyMeshにも対応

 ちなみに、同社のグローバルサイトを見ると、デュアルバンドのWi-Fi 7ルーターとしてラインアップする製品は、横置きかつ長いアンテナが4~6本伸びているデザインのみとなっており、今回のArcher BE450のようなデザインの製品は見当たらない。

 今回の新シリーズが、いかに日本市場を重視しているかが分かるだろう。

 同様に、日本市場を強く意識している点は、有線LANの構成からもうかがえる。本製品の背面には、WAN/LAN対応の10Gbpsポートが1つ、同じくWAN/LANとして使える2.5Gbpsポートが1つ、さらに1Gbpsポートが3つ搭載されている。

 10Gbps対応が増えつつある国内のインターネット接続サービスに対応できるうえ、2.5GbpsでゲーミングPCなどを低遅延で接続できる構成となっている。

 2.4GHz帯+5GHz帯の無線は離れた場所で使う汎用的な端末、10Gbpsと2.5Gbpsの有線は高い速度と低遅延が要求される回線とPCと、実用性を見据えた構成と言えそうだ。

2.5Gbps×1、10Gbps×1を搭載。いずれもWAN/LAN対応
同梱のLANケーブル(Cat6a)のコネクタが金属製で豪華

海外メーカーだけど使いやすさに死角なし

 セットアップなどの使いやすさに関しても問題ない。

 紙の接続ガイドが同梱されるうえ、Tetherアプリを利用して画面を見ながら接続や設定を実行することも可能になっており、設定に迷うことはない。

紙の接続ガイドも同梱

 もちろん、IPv6 IPoEにも対応しており、IPv4もMAP-E、DS-Liteのどちらでも利用できる。今回、筆者の環境は、ASAHIネットのDS-LiteだったためAFTRの情報を手動入力する必要があったが、問題なく接続できることを確認できた。設定回りに関しては、海外メーカー製とは思えない使いやすさを実現できている。

アプリでも設定が簡単
IPv6環境にも対応

 なお、無線に関しては、MLOネットワークが標準で無効に設定されている。MLOに関しては、現状、接続するデバイス側によって対応状況が異なっており、どのモードが使われるかが組み合わせ次第だったり、どの帯域で通信されるかが無線の状況次第だったりする。

 MLOの特性や動作を理解したうえで有効にするのであれば問題ないが、そうでない場合、単純なベンチマークテストなどで通信速度が遅くなるケースもあり、万人におすすめできる機能とは言えないという判断だろう。

 必要性を判断して、自分で有効化するといいだろう。

MLOやOFDMA、MU-MIMOなどの機能は標準ではオフになっている

 このほか、USB3.2 Gen1(旧USB 3.0)ポートも搭載されており、USBストレージを接続してファイルを共有したり、メディアを共有したりできる。ファイル共有は書き込み可能な「admin」と読み取り専用の「visit」という2つのアカウントが利用可能な簡易的なものだが、「安全な共有」としてアクセス制御もできる。家族で写真や文書などを共有するには十分だろう。

ファイル共有が可能。簡易的だがユーザーによるアクセス制御もできる

 また、メディア共有機能として、写真、音楽、動画などをネットワーク経由で共有できるメディア共有機能も搭載される。DLNAに対応したクライアントは減りつつあるが、まだWindows 11でも「Windows Media Player Legacy」を起動することができる。家族写真やホームビデオを共有するのに活用するのもいいだろう。

メディア共有機能。懐かしのWindows Medi Player Legacyで再生できる

近くなら2G超え! BE450の4ストリームがメッシュで生きる

 性能に関しても問題ない。というか、やはり長距離は5GHz帯が扱いやすい印象がある。今回は検証用に2台のArcher BE450をお借りしたので、単体のルーターとしての計測と、メッシュを構築した場合での計測を行なった。

 単体での計測は、木造3階建ての筆者宅の1階にArcher BE450を設置した状態、メッシュ構成は、1階に加えて3階にもう1台のArcher BE450をサテライトとして設置し、無線バックホールによるメッシュを構築した。クライアントとなるPCはWi-Fi 7に対応したモデルで、単体、メッシュともにルーターとはWi-Fiで接続し、iPerf3による速度を計測した。

1台構成と2台メッシュのMLO接続によるテスト
1F2F3F入口3F窓際
単体 上り2030773338241
単体 下り24001560942673
2台メッシュ 上り2120706730637
2台メッシュ 下り22901480891780

※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2
※1Fのみクライアントを電源接続

 前述したように、本製品は5764Mbps+1376Mbpsに対応しているが、いずれも4ストリーム時の速度となっている。一般的なスマートフォンやPCは、2ストリーム対応なので、スマートフォンやPCの理論上の最大速度はWi-Fi 7時で2882Mbpsとなる。

 とはいえ、1階で2Gbpsオーバーの速度が実現できているため、性能はなかなか高い。見た目のやさしい感じとは相反する実力の高さだ。

 単体構成の長距離も3階入口で942Mbpsと1Gbps近い速度が出ているうえ、最も遠い窓際でも673Mbpsなので、不満は全くない印象だ。6GHz帯よりも5GHz帯の方が長距離に強いので、むしろ2.4GHz帯+5GHz帯という割り切った構成が生きている印象だ。

 メッシュ構成での結果も似たような感じだ。ただし、通常、デュアルバンド構成のメッシュ場合、クライアント接続とバックホールで時分割の通信となるため、速度が半減しがちだが、本製品はデュアルバンド特有のネガティブな速度低下がみられない。前述したように本製品は2.4GHz帯も5GHz帯も4ストリーム対応となっており、複数台の同時接続時に帯域に余裕がある。このメリットがメッシュ構成で生きている印象だ。

 2ストリーム対応のArcher BE220ではなく、4ストリーム対応のArcher BE450を選ぶメリットは、こうした複数台接続時の処理能力の高さにある。接続する機器の台数が多い場合だけでなく、メッシュ構成で使う予定がある場合も、Archer BE450を選ぶといいだろう。

 また、単体構成では長距離で上りが遅い傾向がみられたが、これもメッシュ構成では解消されている。単体構成で上りが遅いのは、クライアント(PC)の特性で、PCがバッテリー駆動の時には、Wi-Fiの送信出力を抑えている影響だと考えられる。

 しかしながら、メッシュ構成にすると、3階以上の長距離であっても、2台目のメッシュサテライトが近くに存在するため、この送信出力の弱さがカバーされ、上りでも高速な通信が可能になる。もちろん、メッシュ構成の場合、効果的な設置場所の計画が必要だが、効果的に2台目を配置できれば、全体的な安定性が向上すると考えてよさそうだ。

そろそろWi-Fiルーター買い替え時の選択肢に

 以上、TP-LinkのArcherBE450を実際に試してみたが、価格を抑えた製品にもかかわらず、デザインも優秀だし、性能も十分だし、使いやすさも問題ないし、非常に汎用性の高い製品と言える。

 何がなんでも320MHz幅でつなぎたいとか、メッシュはドライバンドに限るとか、筆者のように妙なコダワリが強い人でない限りは、十分に満足できる製品と言える。いや、むしろ一般的な人には、本製品の方がコスパも含めて満足度は高いと感じられるだろう。

 なお、11月29日から始まる(先行セールは11月27日、28日)Amazonブラックフライデーでもセール価格で販売される予定とのこと。

 Wi-Fi 7時代が本格的に到来したことで、そろそろWi-Fiルーターの買い替えを検討している人も少なくないと思われるが、ぜひ候補として検討したい1台と言える。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。