清水理史の「イニシャルB」【特別編】

日本の住宅にちょうどいいWi-Fi 7ルーター登場、「中距離」で6GHzが強い「Archer GE800」

TP-LinkのArcher GE800。実は、このかたちに意味がある

日本に最適な「中距離」で高いパフォーマンスを発揮するゲーミングルーター

 TP-Linkから、新型のWi-Fi 7ルーター「Archer GE800」が登場した。

 ゲーミングルーターと位置付けられた製品だが、ゲーマーだけのものにするにはもったいない、高いポテンシャルを秘めている。

 全体のフォルムにしろ、固定式のアンテナにしろ、全てがパフォーマンスのために設計されていて、その結果、日本の住環境に最適な「中距離」の6GHz帯で高いパフォーマンスを実現。見た目だけでは判断できない本製品の意外な本質に迫ってみた。

ゲーマー以外にも推せる全方位ハイパフォーマンス設計

 TP-Linkから登場した「Archer GE800」は、トライバンドに対応したWi-Fi 7ルーターだ。

 無線性能は、11528Mbps(6GHz)+5764Mbps(5GHz)+1376Mbps(2.4GHz)の合計19Gbpsで、有線も10Gbps×2(1つはSPF+/RJ45コンボ)+2.5Gbps×4と豪華な構成となっており、家庭用Wi-Fiルーターとしてはかなりパフォーマンスを意識した設計となっている。

Archer GE800 主なスペック
価格7万8800円
CPU-
メモリ-
無線LANチップ(5GHz)-
対応規格IEEE 802.11be/ax/ac/n/a/g/b
バンド数3
320MHz対応
最大速度(2.4GHz)1376Mbps
最大速度(5GHz-1)5764Mbps
最大速度(5GHz-2)-
最大速度(6GHz)11528Mps
チャネル(2.4GHz)1-13ch
チャネル(5GHz-1)W52/W53/W56
チャネル(5GHz-2)-
チャネル(6GHz)1-93ch
ストリーム数(2.4GHz)4
ストリーム数(5GHz-1)4
ストリーム数(5GHz-2)-
ストリーム数(6GHz)4
アンテナ内蔵8本
WPA3
メッシュ
IPv6
IPv6 over IPv4(DS-Lite)
IPv6 over IPv4(MAP-E)
有線(LAN)2.5Gbps×4
有線(WAN/LAN)10Gbps×1、10Gbps SFP+/RJ45×1
有線(LAG)
USBUSB 3.2(Gen1)×1
高度なセキュリティ(HomeShield)
USBディスク共有
VPNサーバーOpenVPN/PPTP/L2TP/WireGuard
動作モードRT/AP
ファーム自動更新
LEDコントロール
ゲーミング機能QoS/WTFast/デバイス優先度/ゲーミングポート/ゲーム機検知/ブーストボタン
サイズ(mm)292×207×224

 現状、通信機器で高いパフォーマンスが要求されるのは、主にゲームの世界となっており、特にWi-Fi 7は5Gbpsや10Gbpsを超える高い転送速度や、複数帯域を同時利用できるMLOによる低遅延などがゲーム環境に適していると言われている。それがゆえに本製品も「ゲーミングルーター」というカテゴリの製品となっている。

 実際、本製品には以下のような数々のゲーム向け機能が搭載されており、ゲームを快適にプレイできるように工夫されている。

  • ゲームブーストボタン:前面のボタンを押すだけでゲームモードをオンにできる
  • ゲーミングポート:2.5Gbpsの左上のポートのPCやゲーム機の通信を優先処理
  • ゲームセンター:ゲーミング設定用の専用画面を設定画面に用意
  • ゲームパネル:ネットワーク速度やCPU負荷などの情報を表示
  • QoS:ゲームの通信を自動的に検知して優先処理
  • ゲームサーバー:WTFastによるゲームサーバーアクセスの高速化
  • Gearアクセラレーション:ゲーム機などの特定のデバイスの通信を優先処理
  • ゲームポート転送:ゲームを選択するだけで対戦などに必要なポートを解放
  • Game Statistics:プレイしたゲームの統計を表示
  • ゲーム検知器:有名ゲームのサーバーのリアルタイムPing計測
  • ゲーム診断:任意のサイトへのPing計測
各種ゲームミング機能を搭載

 ベースとなるWi-Fi 7性能の高さと、これらの機能を組み合わせることで、ゲームを快適にプレイできるというのが、本製品の魅力の一側面となる。

 「ゲームはあまりプレイしないんだよなぁ」。と思った人も、少し待って欲しい。

 本製品のWi-Fi 7の性能、特に6GHz帯の中距離性能の高さは、用途を問わず、あらゆるシーンで生きてくる上、前述したゲーミングの機能の一部は一般的な利用にも活用できるように工夫されている。

 たとえば、前述した「ゲームアクセラレーション」の機能は、標準設定が「ゲーム」を優先する設定になっているだけで、優先する通信のカテゴリーで動画配信向けの「ストリーミング&メディア」や「オンライン会議」を選択することもできる。

 また、「ゲーミングポート」や「Geaアクセラレーション」も同じで、つなぐ機器や優先するデバイスとして、ゲーム機だけでなく、仕事用のPCなどを選択してもかまわない。つまり、ゲーミングの機能をビジネスなどの別のシーンでもうまく活用することができることになる。

QoSではゲーミングだけでなく、オンライン会議などを優先することも可能。意外に汎用性が高い
プレイしたゲームを検知して統計を表示することなどもできる

 ゲーミングルーターと聞くだけで、「自分とは関係ない」と思ってしまうのは、もったいないことだ。特に本製品は、ゲームをプレイするユーザー環境を想定したチューニングが、意図してか、せずにか、日本の家庭環境に多い、中距離でのパフォーマンス向上に寄与するというテスト結果が後述のベンチ結果から見えてくる。

 意外に多目的に使える、ハイパフォーマンスなWi-Fi 7ルーターとして見ると、違った価値が見えてきそうな製品だ。

高速な6GHzが遠くまで届く! その秘密とは?

 それでは、実機を見ていこう。本製品は、ゲーミングルーターということで、デザインはなかなか個性的だ。

正面
側面
背面
優先は2.5Gbpsと10Gbpsに対応。10GbpsはSFP+/RJ45コンボポートも備える

 同社サイトの説明によると「最適なアンテナ配置とロケットの発射台をイメージした」とされており、有名SF映画に出てきそうな宇宙戦闘機のようにも見える。

 しかし、このデザインは、実はよく考えられている。

 一般的なWi-Fiルーターは、設置面積を小さくするために縦置きが採用されるのが一般的だ。このため、基盤も内部に縦置きに配置される。

 一方で、本製品の場合、本体部分は横置きで、ウィング状のアンテナが両脇に縦に配置される構成になっている。つまり基盤は横、アンテナは縦に配置される。これらは、パフォーマンスを考慮した結果、この配置が選択されている。

製品情報ページに記載されている内部構造。基盤が横置きで、アンテナがウィング状に配置される

 基盤やアンテナを無理に詰め込む必要がないため、性能を優先した基盤上のチップレイアウトを採用でき、しかも放熱用のヒートシンクもケースの制約から解放された十分なサイズと高さで実装できる。両脇のアンテナも、ノイズ源の基盤から十分な距離を取ることが可能で、かつアンテナ同士の間隔も十分に確保でき、設計上最適な位置に固定できるようになっている。

 要するに、パフォーマンスを最優先するためにやるべきことが、ほぼ実現されていることになる。

 これは、言わば設計上の「ワガママ」だ。通常は、マーケティング的な視点やコストの問題から、開発者が諦めざるを得ないパフォーマンスのための設計が、押し通されている。競合他社の開発者はうらやましいと感じるかもしれない。

 アンテナ形状の理由も興味深い。同社の技術部門に質問したところ、あえて動かないように固定している理由を教えてくれた。

 従来のゲーミングルーターは、可動式の外付けアンテナが採用されるケースが多かったが、可動式のアンテナは、その配置がユーザーの手にゆだねられるため、必ずしも電波状況を考慮した最適な位置で固定されるとは限らなかった。本製品は、あえてアンテナの自由度をなくすことで、設計上、もっともパフォーマンスが出る配置で固定することに成功しているわけだ。

 つまり、本製品は、従来の家庭向けのWi-Fiルーターとは異なる発想で設計されていることになる。優先されたのは、目立たないデザインや置きやすさではなく、あくまでもパフォーマンスに全力で振り切った製品ということになる。

 また、本製品には、Wi-Fiルーターには珍しく内部に冷却用のファンも搭載されている。観察していると、通信が多くなると回転するようだが、顔を近づけると音は聞こえるが、少し離れればほとんど動作音が気になることはない。両側のアンテナがちょうど煙突のような構造も兼ねているため、効率よく冷却できるようにも工夫されている。発熱を理由にパフォーマンスを下げるのを避けられるのも本製品のパフォーマンスへのコダワリと言えるだろう。

 初見は、奇抜なデザインくらいにしか思わなかったが、それぞれにきちんと理由があるうえ、後述する実際のパフォーマンス向上にもつながっていることを知ると、見え方も変わってくる。

 ちなみに、アンテナ部分はLEDも内蔵されており、設定画面から光り方を調整することができる。もちろん、オフにすることもできるので、好みで選択するといいだろう。オフにすることで、多少だが消費電力も抑えることができる。

LEDの光る様子
LEDのパターンを設定できる。もちろんオフにもできる

日本の戸建てにちょうどいい「中距離」性能の優秀さ

 本製品でもっとも感心したのは、実際のパフォーマンスだ。以下は、木造3階建ての筆者宅の1階に本製品を設置し、各階でiPerf3による速度を測定した結果となる。

1F2F3F入口3F窓際
Archer GE800@6GHz(上り)20101240594168
Archer GE800@6GHz(下り)30501630911235
Archer GE800@2.4/5GHz(上り)192075137739.3
Archer GE800@2.4/5GHz(下り)190081151542.4

※通信速度の単位はMbps
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2
※1Fのみクライアントを電源接続

 注目は、6GHz帯の中距離の優秀さだ。2階の上りで1.24Gbps、下りで1.63Gbpsはかなり優秀で、これまでに計測した製品でも、6GHz帯利用時に2階でここまで速度が高い製品は見たことがない。

 また、3階の入り口にも注目で、ここでも上り594Mbps、下り911Mbpsとなっている。上りが遅いのは、PC側の出力の影響(おそらく省電力)なので、下りに注目して欲しいが10m前後の距離で、床を2枚隔てて、900Mbpsというのは圧巻の速さだ。

 筆者がこれまでテストしてきたWi-Fi 6EやWi-Fi 7対応のルーターは、6GHz帯利用時に2階や3階の速度が5GHz帯より低くなるのが一般的だったが、それに対して、本製品は電波の特性的に不利なはずの6GHz帯が高速な結果となっている。

 海外のレビューでも中距離が優秀という評価を見たことがあるが、日本の住宅事情を考えると海外の中距離=長距離なので、住宅全体をカバーする範囲の6GHz帯の性能が非常に高い印象だ。

 前述したように、本製品は独特のデザインを持っているが、そのおかげで、基板設計やアンテナ設計、熱対策に余裕が生まれ、こうした6GHz帯の優秀な通信結果につながっていると言える。見た目だけで判断してはダメだと実感させられる結果だ。

価格は高め、だがその価値はある優秀なWi-Fi 7ルーター

 以上、TP-LinkのArcher GE800を試してみたが、かなり実用性高いパフォーマンスを備えた製品と言える。ゲームを楽しみたい人はもちろんだが、6GHz帯のベンチ結果を見ると、日本の住宅なら万能と言える性能を持った製品に思える。

 価格も実売で7万8800円ほどとなるが、本製品は、パフォーマンスのための設計やデザインに価値を見出せる人向けと言える。実際、6GHz帯で、ここまで高い性能を発揮できる製品は、現状、珍しいので、空いている6GHz帯を全速力で堪能するための費用と考えれば、高くはなさそうだ。

 筆者はゲームをほどんとプレイしなくなったので、ゲーミング機能のメリットについての効果は実証できないが、少なくともWi-Fiルーターとしては優秀で、従来製品とは一味違う個性を前面に押し出した製品と言ってよさそうだ。

清水理史の「イニシャルB」チャンネル――8万円の最強ゲーミングWi-Fiルーター TP-Link Archer GE800は本当に最強だったんだけど…

Wi-Fi 7の6GHzが遠くでも速いTP-Link Archer GE800!! では速度以外はどうなんだ? 清水理史が10のポイントを○×で評価する。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中