趣味のインターネット地図ウォッチ

G-SHOCK史上初のGPSロガー機能搭載、ソーラーアシストで長時間駆動も実現した「RANGEMAN GPR-B1000」発売

 耐衝撃ウォッチ「G-SHOCK」の新製品「GPR-B1000」をカシオ計算機株式会社が発売した。サバイバルタフネスをコンセプトとした「RANGEMAN(レンジマン)」シリーズの新製品で、過酷な状況で働くさまざまな分野のプロフェッショナルの使用に耐えるモデルとして開発された。価格は10万円(税別)。

GPSナビゲーションの画面

 GPR-B1000の最大の特徴は、長いG-SHOCKの歴史の中で初めて、GPSによる軌跡ログの記録機能を搭載したこと。これまでG-SHOCKシリーズでは、GPSを活用して時刻合わせを行う機能を搭載した製品はあったものの、軌跡ログを記録できる製品はなかった。GPR-B1000では、GPS衛星からの電波により位置情報を取得して軌跡ログを記録できるほか、ルート上の現在地を確認したり、目的地の方向を表示したりすることができる。

 カシオ広報部によると、新しいRANGEMANの開発にあたってレスキュー隊に勤める人たちにインタビューをしたところ、GPS内蔵の要望がとても多かったことから、この製品の企画がスタートしたとのこと。なお、この機能についてカシオは「GPSナビゲーション機能」と呼んでいるが、地図を表示して行く先を案内するような、いわゆるカーナビのような機能ではない。ルートや軌跡の線が画面上に表示されて、目的地までの方向や距離を指し示すだけだ。

 他にはない特徴として、GPR-B1000は専用のUSB接続のワイヤレス充電器に取り付けて充電できるだけでなく、ソーラー充電も可能となっている。GPSは消費電力が高いため、大きさに制約のある腕時計型リストデバイスでは連続使用時間が短くなりがちだが、GPR-B1000ではGPS機能を使用できないバッテリーレベルになったとしても、ソーラー充電を使って一定時間、再駆動が可能となっている。カシオによると、これは世界初の技術とのことだ。

 なお、時刻表示についてはソーラー充電で駆動しているため、GPS機能の使用状況に関係なく時刻表示を継続できる。もちろん、GPS衛星電波の受信と合わせて時刻を補正する機能も搭載している。

裏蓋にセラミック素材を採用することで、GPS電波の受信感度を向上

 GPR-B1000を目にして最初に感じたのは、そのボリューム感のあるサイズだ。大きさは60.3×57.7×20.2mm、重量は約142gで、G-SHOCKの中でも大きめ・重めの部類に入る。特に厚さについては2cmを超えており、かなりの存在感だ。ただし、実際に腕に装着してみると、不思議なものであまり大きさと重さが気にならなかった。

 大きいのは本体だけでなく、サイドに付いているボタンも同様だ。四隅にA、B、C、Dの4つのボタンを装備するほか、右側中央にはさらに大きいロータリースイッチも付いている。メニューを選ぶ場合は、このロータリースイッチを回転させて選択する。ボタンはシルバーの金属製で中央が凹んでいるので押しやすい。

 カシオによると、このロータリースイッチには、ボタンとベゼルケースの隙間にシリコンが詰められており、これがクッションの役割を果たしている。ロータリースイッチ以外の4つのボタンについてはメタルパイプの中にシリコンの緩衝材を入れることで、押し込む操作に対して動きの幅を確保しながら泥の侵入を防いでいる。

厚みのあるベゼルケースに大型ボタンを搭載
右側にはボタン2つとロータリースイッチを搭載
大きさの比較。左から、「Apple Watch(Series 2)」「GPR-B1000」「Fenix 5」

 G-SHOCKシリーズの伝統である中空構造と、全方向への耐衝撃性、落下衝撃を和らげる本体とバンドの一体構造など、おなじみの堅牢性はそのままに、このモデルではシリーズとして初めて、厚さ2.3mmのセラミック素材の裏蓋を採用している。

 裏蓋の素材にセラミックを採用したのは、ワイヤレス充電の実現と、GPS電波の受信感度を高めるためだという。

セラミック製の裏蓋を初めて採用

 GPSアンテナは、受信部である「電極」、「誘電体」、「グランド」の3つの部品で構成されており、GPR-B1000では、電極がベゼル、誘電体がケース、グランドは回路基板に形成されている。また、特徴的な大きなボタンもアンテナの特性に影響を与えており、このボタンが金属のベゼルと近いため、電極の役割を担って感度を上げている。

 もし裏蓋を金属にしてしまうと、裏蓋がグランドの役割を果たすことになり、電極の役割であるボタンと裏蓋が近づきすぎるため、アンテナの基本構造が崩れてしまう。そのために、絶縁体である非金属のセラミックを裏蓋に採用することで、アンテナの基本構造を保った。

 さらに、ガラスや一般的な樹脂に比べて誘電率の高いセラミックはケースの一部として誘電体の役割も果たしており、結果的に、ベゼルおよびボタンが受信部として大きな容積を保つことができたため、GPSの感度が向上した。

 充電する際には、この裏蓋にワイヤレス充電器を取り付ける。ワイヤレス充電器にはUSBケーブルを使って給電できるので、モバイルバッテリーを使って出先で充電することも可能だ。

ワイヤレス充電器を装着
USB接続で給電できる

 カラーは2色で、バンドがブラック系(型番:GPR-B1000-1JR)とグリーン系(型番:GPR-B1000-1BJR)から選べる。どちらもベゼル色は同じで、ブラックモデルについてはネジ周りがレッド、グリーンモデルについてはイエローがアクセントとして使われている。今回カシオから届いた貸出機はグリーンのほうで、グリーンとイエローの組み合わせは迷彩色を思わせる。

 バンドには、カーボンファイバーがインサートされた素材を採用しており、高い引っ張り強度を実現している。本体と一体構造でカーブ形状のバンドは適度な柔らかさで装着感に優れている。バンドの裏面にはカーボンパターンが透けて見えるデザインとなっている。バンドのバックルとループは金属製で、同じく金属製のボタンとマッチして高級感がある。

GPR-B1000-1JR
GPR-B1000-1BJR
グリーンのバンドには、細かい部分にイエローがアクセントとして使われている
カーボンファイバー入りのバンドを採用
バンドのバックルとループは金属製

軌跡ログの記録時間は、1分おきの受信で最大24時間

 時計はデジタル表示で、日付と曜日、そしてバッテリー残量が常に表示されている。時刻表示は強い日差しでも見やすい。このほか、方位、気圧/高度、温度の3つのセンサーも備えている。また、Bluetoothにも対応しており、スマートフォンとワイヤレスで連携できる。

 この時計の最大の売りであるGPSのロガー機能については、メニューの「NAVIGATION」を選んでから、ロータリースイッチを押すとGPS測位がスタートする。測位中は移動した軌跡が表示される。ナビゲーションの途中で通った道を引き返してスタート地点に戻ることができる「バックトラック」機能も搭載している。

GPSナビゲーションのルート表示画面

 軌跡ログの記録中は、上部にメモリの使用状況が表示される。GPS電波の受信間隔は、1分ごとに取得する「NORMAL」と、数秒ごとに位置情報を取得する「HIGH RATE」の2種類ある。ログデータ1つ分のメモリ容量の上限は、「NORMAL」の場合は連続で24時間まで、「HIGH RATE」の場合は連続で4~5時間まで。長時間連続で軌跡を保存する場合は「NORMAL」を選択する必要がある。なお、ログデータは計20個分まで記録することが可能だ。

 なお、軌跡ログを記録する際のバッテリー持続時間は、満充電状態から複数回に分けてナビゲーションを行う場合、「NORMAL」では合計で最大33時間、「HIGH RATE」では最大20時間だ。

GPSナビゲーション以外の機能として、方位計測(この写真)、高度計測、気圧/温度計測、日の出/日の入り時刻の確認、潮の干満/月齢、ストップウォッチ、タイマー、ワールドタイムといったさまざまな機能がある
高度表示
気圧/温度表示
日の出/日の入り時刻表示
潮の干満/月齢表示

スマホの3D地図上で、軌跡ログをアニメーション表示

 Android/iOS用の無料アプリ「G-SHOCK Connected」を使って事前にルートを作成し、時計側に転送することも可能だ。読み込んだルートは細線で、実際に通った軌跡は太線で表示される。軌跡の表示画面と時計表示を同時に表示させることも可能だ。

「G-SHOCK Connected」
読み込んだログを参考にルートを作成
時計にルートを転送
通り過ぎた軌跡が太線で表示される

 アプリ上でルートを作成する場合は、既存のGPX形式のログファイルを読み込んで、その軌跡を参考にルートを作成することもできる。ただし、ログファイルの上に沿って順に経路をタップしていく必要があり、この作業は少し面倒だった。できればログファイルから自動的にルートを作成する機能を搭載してほしかった。

 なお、GPXファイルを端末に読み込ませる場合、メールにGPXファイルを添付して送付し、AndroidスマートフォンやiPhone上で添付ファイルをタップして、「G-SHOCK Connected」アプリを選ぶと、アプリ上からGPXファイルを読み込めるようになる。

 ナビゲーション画面の縮尺は小さい方から順に「40km」「2km」「1km」の3段階から選択できる。試しに高尾山のログ(往路はびわ滝コース、復路は稲荷山コースを通行)を読み込ませたところ、最大縮尺の「1km」の状態で、全画面の半分以下の大きさに表示された。正直、これでは少し表示が小さいと思った。さらにもう1段階大きな縮尺が用意されていれば、高尾山のログを画面一杯に表示させることができたので、この点は少し残念だ。

 このほか、ナビゲーション中にロータリースイッチを約1秒間押し続けることにより、現在地を登録することもできる。登録の際には、さまざまな種類のアイコンを指定して登録することが可能だ。登録地点は後から呼び出してゴール地点に設定することもできる。

目的地の方向を確認できる
休憩所や水場の位置などを登録できる
地点登録の画面
多彩なアイコンから選べる

 記録したログはスマートフォンに転送して、アプリの地図上で軌跡を確認できる。軌跡上には、スタート地点やゴール地点のほか、地点登録を行った箇所に指定したアイコンが表示されており、分かりやすい。

 地図は地形の起伏が分かりやすい通常地図のほか、衛星写真に切り替えることも可能。また、地図の下には標高断面図も表示され、ここにも登録地点がアイコンで表示される。また、「3D MAP」をタップすると、3Dの地図上で軌跡を見ることができる。3D MAPではスタート地点からゴール地点まで移動するアニメーションが表示されるので見ていて面白い。なお、2D地図と3D地図いずれも、ESRI社の地図データを採用している。

 このほか、スタートからゴールまでの通過地点をまとめたタイムラインも表示される。このアプリは操作方法が分かりやすく使いやすいが、記録したログを出力する機能が搭載されていないのは残念だ。この点については、アプリのアップデートでぜひ検討してほしいと思う。

記録したログをスマートフォンに転送
3D MAP

低消費電力化とソーラー充電の組み合わせで、長時間の測位を可能に

 前述したように、GPR-B1000はGPSによる測位機能を搭載していながらもソーラー充電が可能となっている。GPSナビゲーション機能は、ワイヤレス充電によって約5時間かけて満充電にすることで約33時間使用できる。GPSナビゲーションを使用中も腕に太陽光が当たればバッテリー持続時間が延びることが期待できるし、もし、バッテリー切れを起こしたとしても、高照度の太陽光が得られれば、再度GPSが使える状態にまで復活できる可能性がある。これは、長期間、山に入る人などは重宝するのではないだろうか。

 カシオへの取材によれば、GPR-B1000では低消費電力を実現するために、これまでにないさまざまな工夫が懲らされているという。G-SHOCKは時計である以上、GPSの使用によって電池が無くなったからといって時刻表示を消すわけにはいかない。一方、ナビゲーション表示を可能にするフルドットLCDは、従来G-SHOCKに採用されていたLCDに比べて、消費電力が増えてしまった。

 そのためにGPS非使用時は時計表示を低電力で駆動させる必要がある。LCD自体の低消費電力化を図るとともに、LCDの駆動の消費電力を下げるために、メインマイコンとは別に時計用のマイコンをもう1つ搭載し、さらにLCDを制御するためのソフトウェアを開発することで、ソーラー駆動できるほどの低消費電力なフルドットLCD駆動を実現したという。

ソーラー発電によりGPS使用時のロングライフ化を実現

G-SHOCKのタフネス性能と高感度GPSアンテナの両立には苦労も

 今回、G-SHOCKシリーズとしては初めてGPSによって軌跡ログを記録する機能が搭載されたわけだが、G-SHOCKのタフネス性能とGPSの測位機能を両立するにあたっては、さまざまな苦労があったという。

 G-SHOCKは、数種類の機構部品や電子部品などさまざまなパーツを組み合わせた複雑な構造体だ。それらの各パーツはGPSアンテナの特性に影響を与えてしまうため、パーツの位置や形状、さらには素材に至るまで厳選することにより、高感度アンテナを実現した。

 パーツの選定に際しては、まず、各部品のアンテナ特性に与える影響を確認するため、3Dモデルでシミュレーションを行い、その後、試作機で評価を行った。開発者としては、G-SHOCKの特徴的なデザインを崩すことは極力避けたかったため、このシミュレーションと実機評価は何回も繰り返し行われ、その結果、高感度のGPSアンテナとG-SHOCKのタフネスなデザインの両立が可能となったとのことだ。

 前述したように、ナビゲーション時の画面の縮尺レベルが限られている点や、ルート作成の操作が面倒な点、アプリからGPSのログファイルをエクスポートすることができないといった不満点はあるものの、GPSのログを記録できるリストデバイスとして、かつてないほどの耐衝撃性と堅牢性を実現したこの製品は、G-SHOCKのファンだけでなく、GPS機器が好きな人にも要注目の製品と言えるだろう。

G-SHOCKならではの耐衝撃性と堅牢性が魅力
Amazon.co.jpで購入

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。