地図と位置情報

自動運転に必要な地図“ダイナミックマップ”とは? KDDI・ゼンリン・富士通が配信技術の実証実験を開始

2020年に向けて高速道路の高精度3次元地図データを整備

 自動車メーカー各社が2020年に実用化を計画している高速道路・自動車専用道路の自動運転。この自動運転で重要とされている技術が“ダイナミックマップ”と言われる地図だ。静的な高精度3次元地図に、渋滞情報や事故による通行規制などの動的な位置情報を組み合わせたデジタル地図のことで、人間が見るためではなく、自動車が自動走行を行うために使用される。

静的な高精度3次元地図に動的情報を付加(画像提供:ダイナミックマップ基盤株式会社)

 自動運転システムでは、自動車にミリ波レーダーや超音波センサー、光学式カメラなどが搭載されるが、ダイナミックマップを利用することにより、センサー情報と照合して正確な位置情報を推定しながら自動走行を行える。

 ダイナミックマップの高精度3次元地図には、車道の中心線や道路と道路のつながり、横断歩道、停止線、交通標識、看板などさまざまな情報をベクトルデータとして格納。車載センサーが認識すべきこれら地物のデータをあらかじめ車両がデータベースとして保持することで、認識処理の負荷を低減するとともに、車載センサーでは判別できない遠くの道路状況を先読みすることもできる。さらに、悪天候のためセンサーによる検知が難しい場合でも安定した自動運転が可能となる。

地物データベースをあらかじめ車両が保持することで負荷を低減(画像提供:ダイナミックマップ基盤株式会社)

 この静的な高精度3次元地図を整備しているのが、トヨタや日産など自動車メーカー各社やゼンリン、インクリメントP、パスコなどの地図・測量会社、三菱電機などの電機メーカーが出資して設立したダイナミックマップ基盤株式会社だ。

 ダイナミックマップ基盤は現在、2020年の高速道路・自動車専用道路の自動運転化に向けて、日本全国の高速道路・自動車専用道路の高精度な3次元地図を整備中だ。動的な情報を付加する上でのベースとなる静的な地図データは、自動車メーカーがそれぞれ個別に作るのではなく、“協調領域”として共通のものを作成したほうがコストが安くなるし、地図ごとに道路中心線や交差点の位置情報にズレが生じる恐れもなくなる。

 この静的な地図データは、レーザーレーダー(LiDAR)や光学カメラ、GNSS受信機、加速度センサーなどを搭載したMMS(モービルマッピングシステム)車両を走らせて映像や3次元の点群データを収集し、それをもとにベクトルデータが作成される。このベクトルデータには、レーン中心線や区画線、路肩線、道路標識、停止線、分岐点、看板などさまざまな要素が含まれる。

点群データを収集(画像提供:ダイナミックマップ基盤株式会社)
ベクトルデータ(画像提供:ダイナミックマップ基盤株式会社)

 こうして作成された地図データは、一度作成しただけで終わりではなく、新規道路の開通や通行止め、規制などさまざまな変化が起きるたびに随時、更新していく必要がある。そのため、ダイナミックマップ基盤は道路変化の差分抽出技術や自動図化技術の開発を進めるとともに、道路管理者と連携して工事計画書を入手したり、物流会社と連携して定期運行車両から道路の変化の情報を入手したりするなど、効率的に地図を更新する仕組み作りも進めている。

データベース更新のための自動図化技術(画像提供:ダイナミックマップ基盤株式会社)

 ダイナミックマップ基盤は昨年11月、愛知県幸田町と、自動走行システムを活用した交流拠点アクセスおよびまちづくりの実現に向けた協定を結んだ。この協定は高速道路・自動車専用道路の自動運転化の次を見据えた取り組みで、ダイナミックマップの高精度3次元地図データを災害調査や施設管理などさまざまな用途に利用することも検討している。また、同社は日本だけでなく、海外の道路についても高精度3次元地図を整備することを検討中だ。

動的情報の生成・配信技術の実証実験も開始

 このように、静的な3次元地図の準備が整いつつある一方で、動的データを組み合わせる取り組みについても動きが見え始めた。その一例が、KDDI、ゼンリン、富士通の3社が今年1月より開始している、ダイナミックマップの生成・配信技術に関する実証実験だ。

 この実験では、走行中に遠方の道路状況をリアルタイムにフィードバックするシステムの構築を目指して、ダイナミックマップの生成に必要なデータ収集やデータ分析・加工、データ配信技術の実証を行っている。

実証実験の概要

 各社の役割としては、ゼンリンは、動的情報との連携や逐次・差分更新を可能とする高精度地図データの提供および提供プラットフォーム「ZGM Auto」の検証を行う。

 富士通は、コネクテッドカーから得られるプローブデータなど大量の動的情報を収集し、高精度地図と動的情報の紐付けや車両へのリアルタイムデータ配信などを行うダイナミックマップ管理機能を提供する。富士通の広報IR室によると、収集した動的情報を加工し、静的な地図データに紐付ける作業は自動的に行われるという。

 富士通は今後、自動運転のセンター側機能として、同社の「Mobility IoTプラットフォーム」を活用して実現することを目指している。今回のような実証実験を重ねることで機能および非機能面で拡充を図り、国内・海外で広く展開していく方針だ。

 KDDIは、一定間隔で生成される車載カメラやセンサーのデータを確実かつ効率的にアップロードするための車載通信モジュールとネットワークの検証を行う。逐次アップデートが必要な動的情報や、静的な地図データの差分情報などを提供するための、対象車両に確実かつセキュアに配信する方式と最適なネットワークを検証する。

 KDDI広報部によると、静的な地図データに組み合わせる動的情報は、実験車両に搭載されている車載カメラやセンサーで検知した地物の情報や周辺車両の情報などで、これらを収集してデータのアップロードや配信するためのネットワークは5Gおよび4G LTE双方で評価する計画だという。

 実証実験はすでにスタートしており、今後は自動運転の実現にあたって、通信事業者として4G/5G/DSRCといったさまざまな無線技術の融合を図るほか、センサーやカメラなどが検出した地物情報の分析技術やセキュリティ技術、プライバシー保護技術などの解決にも取り組む方針とのこと。

 自動運転を実現する上で重要な技術であるダイナミックマップ。その基盤となる静的な高精度3次元地図データの整備だけでなく、動的情報を組み合わせるための収集・配信の実証実験もいよいよ動き始めた。高精度な3次元地図に、さまざまな動的情報がリアルタイムに付加されることで、安心・安全な自動運転が実現することが期待される。

本連載「地図と位置情報」では、INTERNET Watchの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」からの派生シリーズとして、暮らしやビジネスあるいは災害対策をはじめとした公共サービスなどにおけるGISや位置情報技術の利活用事例、それらを支えるGPS/GNSSやビーコン、Wi-Fi、音波や地磁気による測位技術の最新動向など、「地図と位置情報」をテーマにした記事を不定期掲載でお届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。