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「標準的なバス情報フォーマット広め隊」結成、各地で始まる「GTFS」公共交通データ整備
「公共交通オープンデータ最前線 in インターナショナルオープンデータデイ2018」講演レポート<1>
2018年3月8日 06:00
オープンデータ関連のイベントが世界中の都市で同日開催される「インターナショナルオープンデーデイ」の3月3日、公共交通オープンデータをテーマとしたイベント「公共交通オープンデータ最前線 in インターナショナルオープンデータデイ2018」が、東京・駒場の東京大学生産技術研究所コンベンションホールにて開催された。その中からいくつかの講演の内容を、2回に分けてレポートする。
講演レポート目次:
- 『「標準的なバス情報フォーマット広め隊」結成、各地で始まる「GTFS」公共交通データ整備』
- 『ダイヤ編成システム「その筋屋」を使ってバス情報オープンデータを作る方法』
このイベントは、東京大学の瀬崎研究室および「標準的なバス情報フォーマット広め隊」が主催するもので、公共交通データのオープンデータ化への取り組みに関心のあるエンジニアや研究者、交通事業者、自治体職員などさまざまな業種の人が集まった。主催者の1人である東京大学生産技術研究所の伊藤昌毅氏は、過去に“公共交通×IT”をテーマにしたイベント「交通ジオメディアサミット」[*1]を開催してきたが、今回のイベントは、公共交通分野におけるオープンデータというテーマに絞ったかたちとなる。
[*1]……過去の「交通ジオメディアサミット」については、下記関連記事を参照してほしい。
「GTFS」による公共交通データのオープンデータ化が進む海外、一方で日本は……
伊藤氏は冒頭、あいさつに続いて、「公共交通オープンデータ この1年を振り返る」と題した講演を行った。同氏は、まず海外の状況について説明。欧米では路線図や時刻表、リアルタイム車両位置情報などをオープンデータとして公開するのが当たり前になりつつあり、それらのデータを使って企業や個人がさまざまなアプリを開発していると語った。
これらのオープンデータは、ライセンス表記が簡単で分かりやすく、データのフォーマットは世界的に交通データのデファクトスタンダードとなっている「GTFS(General Transit Feed Specification)形式」を採用し、開発者が使いやすいように配慮されている。さらに、データを広めるためのカタログサイトも増えており、世界中のGTFSデータが集約されている。また、交通事業者とソフトウェア開発者とが交流を深めるため、ハッカソンイベントなども頻繁に行われているという。
「交通事業者とITとではカルチャーが全く違うので、それらがコミュニケーションする場を作ることはとても大事です。もちろんイベントを通して良いアプリを作ることも大切ですが、違った業種がお互いに異なる考え方を取り入れる機会があるというのは良いことだと思います。」(伊藤氏)
一方、日本の状況としては、2015年9月に東洋大学の坂村健教授が会長を務める「公共交通オープンデータ協議会」が発足した。同協議会には、JR東日本や首都圏の私鉄各線、IT企業などが加盟しており、現在、都内の鉄道会社が提供する時刻表やリアルタイムの車両位置情報などのデータを活用した「東京公共交通オープンデータチャレンジ」というアプリ開発コンテストを開催している。ただし、提供されているデータはコンテスト期間中に限って公開されており、無期限で公開されているものではない。
これとは別に、地方自治体による公共交通オープンデータの公開も2012年ごろから始まっており、コミュニティバス時刻表のオープンデータ化などが進んでいる。ただし、これらのデータは、内容やフォーマット、ライセンスが不ぞろいのため、一括処理が困難であることが課題となっている。
依然として日本の乗換検索サービスはバスを含めた検索が不完全であり、これは、電車の場合は時刻表を提供する会社が全国の鉄道会社を取りまとめて情報を提供しているのに対して、バスデータは集約して販売する事業者がないことが理由として挙げられる。最近はようやく、株式会社ナビタイムなど乗換案内サービス事業者がバスデータを収集し始めているが、コミュニティバスは未対応である場合が多い。
日本のバス事情に合わせて「GTFS」をアレンジした「標準的なバス情報フォーマット」
伊藤氏は、このような日本の状況を説明した上で、国土交通省が設置した「バス情報の効率的な収集・共有に向けた検討会」について紹介した。
この検討会では伊藤氏が自ら座長を務め、バスデータフォーマットに関するワーキンググループを発足。各社のエンジニアがデータ項目について議論を重ねた上で、2017年3月に「標準的なバス情報フォーマット」を公開した。同フォーマットは、GTFSが拡張可能である利点を生かして、日本のバスで使いやすいようにアレンジして、一部に日本独自の情報を加えた。具体的には、バスの営業所情報や時刻表に付与する記号情報などを独自情報としている。
さらに伊藤氏は、同フォーマットをより良くするための勉強会を開催したほか、同フォーマットに基づいた公共交通データの整備を推進する取り組みとして、「標準的なバス情報フォーマット広め隊」を結成した。このような活動が功を奏し、現在、全国各地でGTFSによる公共交通データ公開の取り組みが始まっている。
伊藤氏は公共交通をオープンデータ化するメリットとして、「Google Mapss」「駅すぱあと」「Yahoo!乗換案内」などオープンデータを採用しているさまざまな乗換案内サービスで検索可能になることを挙げている。イスラエルのベンチャー企業が提供する「Moovit」や、世界の公共交通データを集めた「TRAVIC」など、海外のサービスに利用されるケースも増えているという。
また、会津若松で行われているスマートバス停の実証実験においてGTFSの採用を検討したり、オープンデータをもとに交通分析を手がけるベンチャー企業が登場したりするなど、乗換案内サービス以外で使われるケースも見られるようになってきた。さらに、佐賀県で交通情報のオープンデータ化構想が2017年度に事業として実施されるなど、都道府県単位で公共交通利用促進事業の一環でオープンデータを集約する動きも始まっているという。
「標準的なバス情報フォーマットを使った地方発のオープンデータ化の動きが出てきたのが非常に注目されます。」(伊藤氏)
“高コスト・高品質”ではなく“低コスト・中品質”なサービスを
交通データに関するコンサルティングや解析サービスなど提供している株式会社トラフィックブレインの太田恒平氏は、オープンデータの公開が進んでいる岡山県のバス会社事情などを紹介した上で、オープンデータを活用する上で大切なポイントを紹介した。
「オープンデータを整備すると、1つのソースでさまざまな使い方ができるようになります。1つの目的のためだけにデータを作成するのではなく、いろいろな使い方ができるようなフォーマットでデータを整備することが大事で、だからこそ、GTFSというスタンダードなフォーマットを使うことに意義があります。そして、ITのメリットを発揮するために、情報を見せるときに利用者が必要としている情報に絞ることも大切です。従来のような、大きくて複雑な一枚絵のバスマップや複雑や時刻表から脱皮して、発着地の情報に絞るなど、シンプルで分かりやすく、臨機応変なサービスを提供することが大事です。」(太田氏)
太田氏はさらに、オープンデータが公開されることで、その利用を考えるために新たな開発者のコミュニティが生まれ、そこから新しいサービスが自然発生することをメリットとして挙げた。その一例が、利用者に合わせた情報のパーソナライズ化だ。
「公共交通オープンデータの公開が進むことで交通手段の選択肢が増えるため、より使う人の行動や状況に合わせた情報を提供することが可能となります。ITの特徴は柔軟なサービスを提供できる点なので、そこを生かしていくことが大事です。発着地を決めたり、そこへ行くための交通手段を考えたりするときに、さまざまな選択肢を提示することで、移動をガイドするだけでなく、プロモーションすることも可能となります。」(太田氏)
このような柔軟で使いやすいサービスを実現・継続するためには、高コストで高品質なシステムではなく、品質は中程度ではあるが低コストなシステムを作ることが大事だと太田氏は語る。
「低コストで中品質なシステムを作るには技術が必要です。その技術を持った人が気の利いたシステムを作ることで成功事例を作り、標準化した上でビジネス化させることができれば、サービスを継続させることが可能となります。」(太田氏)
講演レポート目次:
- 『「標準的なバス情報フォーマット広め隊」結成、各地で始まる「GTFS」公共交通データ整備』
- 『ダイヤ編成システム「その筋屋」を使ってバス情報オープンデータを作る方法』
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