地図と位置情報
バスロケの“文明開化”目指し、動的データの標準化を――「バスロケ世直し隊」決起集会、愛知県豊田市で開催
2018年8月2日 06:00
バスの位置情報をリアルタイムに配信する「バスロケーションシステム(バスロケ)」は全国各地のさまざまなバス路線で提供されているが、このバスロケに今、大きな変化が起きようとしている。
これまでバス会社ごとにさまざまなシステムで提供していた動的情報のデータフォーマットを世界標準に共通化することにより、利用者の使い勝手の向上や、さまざまな経路情報サービスへのデータ提供、ビッグデータを基にした交通改善などを図ろうとする動きが高まりつつあるのだ。
データの共通化・オープン化が遅れているバスロケに、このような“文明開化”をもたらすことを目指しているのは、株式会社トラフィックブレインの代表取締役を務める太田恒平氏。同社は公共交通に関するデータ分析やコンサルティングを提供するベンチャー企業で、これまで全国各地でバスロケシステムの構築に携わってきた。その太田氏が今回、既存のバス業界が抱えるさまざまな課題の解決をするため、新たなプロジェクト「バスロケ世直し隊」を立ち上げ、その決起集会を7月28日に愛知県豊田市にて開催した。
この集会は、公共交通をテーマとしたイベント「日本モビリティ・マネジメント会議(JCOMM)」の開催に合わせて企画したもので、全国各地のバス事業者やバスロケシステムの提供会社、経路検索サービスを提供するコンテンツプロバイダー、公共交通に関わるエンジニアや学術研究者など62名が参加した。
静的データは「GTFS」準拠のファーマットがすでに標準化、「Google 乗換案内」でも活用
太田氏は冒頭のあいさつで、現在のバスロケが抱える課題として、同じ市内なのにバス会社ごとに機能や使い勝手が統一されておらず、機能や品質にも差が大きいため、利用者が欲しいときに欲しい情報を得るのが難しいことを挙げた。また、本来であれば、バスロケによって得られた動的データを解析することで、運行ダイヤを見直し、遅延対策などを図れるはずなのに、ほとんどのバス事業者がバスロケのデータを十分に生かすことができていないことも課題だという。
このような状況にもかかわらず、バスロケの導入には国や自治体の補助金が使われており、複雑なシステム運用は、バス会社にとってコスト面だけでなく手間の面でも大きな負担となっている。太田氏は、このような状況を解決するには「動的データの標準化・オープンデータ化を図るしかない」と語る。
公共交通の静的データの標準化については、「Google 乗換案内」で採用している公共交通機関の時刻表と地理的情報に関するオープンフォーマット「GTFS(General Transit Feed Specification)」に準拠した「標準的なバス情報フォーマット」が、国土交通省によって2017年3月に標準に制定された。
これにより、これまで岡山市や神戸市、佐賀県、富山県、大分県など全国26カ所でこれらのフォーマットに準拠したオーブンデータが続々と公開され、Google 乗換案内ではこれらの運行情報に基づいた経路検索が可能となっている。
動的データも「GTFSリアルタイム」をベースに、標準化・オープンデータ化を目指す
公共交通オープンデータの世界的なデファクトスタンダードであるGTFSは、リアルタイムな運行データを扱うためのオープンフォーマット「GTFSリアルタイム」を用いることでバスロケとも連携可能だ。この形式でバスの動的情報をオープンデータとして公開することにより、Google 乗換案内などのGTFSリアルタイムに対応したサービスにおいて、遅延情報を加味した経路検索や、複数のバス会社の情報を一覧できるバスロケマップの構築などが可能となる。
太田氏は、バス情報の動的データを、GTFSリアルタイムをベースに標準化するとともに、標準フォーマットとして公開されたオープンデータを既存サービスで取り込む仕組みを、自治体やバス事業者が負担するのではなく、バスロケシステムの提供会社が標準で提供していく流れが必要であり、こうした機能を備えていることを補助金の要件にすればバスロケシステム提供会社の動機付けになると語った。
太田氏は、国交省が設置した「バス情報の効率的な収集・共有に向けた検討会」の座長を務め、「標準的なバス情報フォーマット」の普及に取り組んでいる東京大学生産技術研究所の伊藤昌毅氏とともに、今年7月、データに基づくバス事業の“近代化”に向けて国交省にも提言。動的データの標準化およびオープンデータ化の推進と、バスロケ補助金要件に標準的オープンデータの提供を追加するよう働き掛けを行っている。
「バスロケデータの標準化とオープンデータ化は、これから自動運転などの時代を迎えるにあたって、次世代のバス事業へ向かう前の“地ならし”なので、行政やバス事業者、バスロケ提供会社などがそれぞれの立場でがんばり、さっさと早く終わらせましょう! その上で、全国のバス事業の関係者と一緒に、楽しく、ITで交通を世界レベルで良くしていきたいと思います。」(太田氏)
「標準的なバス情報フォーマット」が制定されたことで各地でバス情報のオープンデータ化が進みつつある今、動的情報についても同じような状況を作り出そうと、太田氏は関係者に“決起”を呼び掛けた。
GTFSに対応した商用バスロケシステムも登場、「駅すぱあと」アプリでのバスロケ機能も
決起集会には、神戸市、バスロケ提供会社の株式会社リオス、バス会社でありバスロケシステムの提供も行っている国際興業株式会社、経路検索サービス提供会社の株式会社ヴァル研究所、前述した東京大学の伊藤氏など、さまざまな人が登壇し、それぞれの取り組みを紹介した。
例えばリオスは、同社が提供するバスロケシステム「Bus-Vision@バスロケ」が7月27日にGTFSに対応したことを発表した。商用のバスロケシステムがGTFSおよびオープンデータに対応したのはこれが初めてだという。今後は遅延の予測時間の精度向上やshapes.txt(路線の形状)ファイルへの対応などを図るとともに、コンテンツプロバイダーと連携してGTFS/GTFSリアルタイムによる情報提供も行っていく予定だ。
また、国際興業もジョルダン株式会社と連携し、国際興業が変換したバスロケデータを、ジョルダンが提供するバス事業者向けソリューション「MovEasy RT」を通して配信し、「ジョルダン乗換案内」および「Google マップ」で検索可能とすることで合意したことを7月26日に発表している。MovEasy RTは、既存のバス事業者向けソリューション「MovEasy」に、時刻表機能や経路検索機能、接近情報機能を配信するサーバー「J MaaS-RT」を活用して機能追加したもので、GTFS形式でのデータ書き出し機能を搭載している。
さらにヴァル研究所も動的情報への取り組みとして、バスロケシステム「BUS CATCH」を提供するグループ会社のVISH株式会社と共同で、「駅すぱあと」アプリ上でバスの現在地や到着予想時間、遅延時分などを確認できる「バスロケ機能」を開発。4月に富山県射水市のコミュニティバス「きときとバス」に対応した。
一方、同社は岐阜県中津川市でもバスロケの実証実験を行っており、コミュニティバスに搭載されたドライブレコーダーが取得した位置情報と、中津川市が制作した「標準的なバス情報フォーマット」形式のデータを、ヴァル研究所のロケーションサービス「SkyBrain」で取り込むことにより、GTFSリアルタイム形式のデータが出力できる新たな機能を構築した。同社は今後、BUS CATCHとSkyBrainを組み合わせてGTFSリアルタイム対応のバスロケサービスを提供する予定で、他社製のバスロケシステムや位置情報収集機器との連携も可能だという。
今回の決起集会には、このようなバスの課題解決や発展に取り組むさまざまな関係者が全国から訪れて、会場では参加者同士で活発な交流が行われた。彼らの結び付きの中から今後、どのような成果が生まれるのか注目される。
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本連載「地図と位置情報」では、INTERNET Watchの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」からの派生シリーズとして、暮らしやビジネスあるいは災害対策をはじめとした公共サービスなどにおけるGISや位置情報技術の利活用事例、それらを支えるGPS/GNSSやビーコン、Wi-Fi、音波や地磁気による測位技術の最新動向など、「地図と位置情報」をテーマにした記事を不定期掲載でお届けしています。