中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2023/12/14~12/20]

興味深い議論に注目「デジタル遺品を考えるシンポジウム」レポート ほか

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1. 興味深い議論に注目「デジタル遺品を考えるシンポジウム」レポート

 12月7日に「第5回 デジタル遺品を考えるシンポジウム」(主催:デジタル遺品を考える会)が開催された。下記ニュースソースには、そのレポートをセッションごとに4本紹介する。

 このシンポジウムは「亡くなった方がこの世に残すデジタルデータやサブスクリプションの契約などのデジタル遺品をめぐるさまざまな問題について話し合うこと」を目的としている。高齢化する社会で、しかもデジタルサービスを使う人が増えるなかで、こうした問題は見過ごされがちだ。近親者や知人などが亡くなった後、残された者たちが途方に暮れることや、サービスを提供する事業者側がこうした事態を想定していないと実感した人も少なくないはずだ。

 まだまだ広く、社会的な課題としての認知には至っていないようにも思うが、これからますます正面から向き合わなければならない課題になるのではないか。また、事業者もこうした想定をして、カスタマーサービスの対応にあたるべきだろう。

ニュースソース

  • 第5回 デジタル遺品を考えるシンポジウム:70歳以上のネット利用が2年で217万人増――今のままデジタルが遺品になると何が起こるのか?[INTERNET Watch
  • 第5回 デジタル遺品を考えるシンポジウム:デジタル資産について7割超が「万が一に備えていない」――デジタル遺言プラットフォーム「lastmessage」(ラストメッセージ)の狙い[INTERNET Watch
  • 第5回 デジタル遺品を考えるシンポジウム:「デジタル遺品」を直接規定する法律はない――相続制度から考えるデジタル遺品[INTERNET Watch
  • 第5回 デジタル遺品を考えるシンポジウム:社会や法律より、先立つべきは個々人の変化――パネルディスカッション[INTERNET Watch

2. 生成AIへの法的な議論が進む文化審議会著作権分科会

 朝日新聞デジタルの記事によれば、文化審議会著作権分科会の法制度小委員会が開いた12月20日の会合で、生成AIが著作物を学習するうえでの法解釈の素案が議論されたようだ(朝日新聞デジタル朝日新聞デジタル)。

 これまで、生成AIは「学習」と「生成」に分けて考えられ、学習は許諾なく行うことが可能だとされてきた。一方、生成はその中に他の著作権者の権利を侵害しないように留意する必要があるとされていた。今回の素案では「生成AIに著作物を学習させる際でも、既存の著作物の一部を出力させる目的がある場合などは、許諾が必要となる」と指摘している。

 これまで、日本新聞協会などが、著作物を生成AIによって学習されることについての懸念が示されてきたが、今回の素案は従来よりも踏み込んで解釈を明確化しようとしているようだ。

 他国でも生成AIへの一定の規制をする動きがあり、そうした動きも意識する必要も出てきている。

 来年以降、AIと著作権については、さらなる議論が進むことになるのではないだろうか。

ニュースソース

  • AIのコンテンツ学習、著作権侵害の場合も 文化庁が法解釈の素案[朝日新聞デジタル
  • 生成AIのコンテンツ学習、違法のケースも 文化庁が「考え方」素案[朝日新聞デジタル

3. 「第17回JEPA電子出版アワード」大賞には「YourEyes」(スプリューム)

 一般社団法人日本電子出版協会は、日本の電子出版物の育成と普及を目的とした第17回「JEPA電子出版アワード」の各賞と大賞を発表した(日本電子出版協会)。

  • 大賞/チャレンジ・マインド賞:YourEyes(スプリューム)
  • デジタル・インフラ賞:Bingチャット(日本マイクロソフト)
  • スーパー・コンテンツ賞:小学館世界J文学館(小学館)
  • エクセレント・サービス賞:コミチ+(コミチ)
  • エキサイティング・ツール賞:Adobe Firefly(アドビ)

 また、選考委員特別賞が次の2名と1組織の業績に対して贈られた。

  • 萩野正昭氏(30年間、日本のデジタル出版をけん引した強い意志に対して)
  • 高見真也氏(W3CでのEPUB仕様の更なる改良と日本語組版のプレゼンス向上に対して)
  • HON.jp News Blog(電子出版唯一のメディアとして、10年間の積極的な普及活動に対して)

 電子出版分野でもAIに関する関心が高く、その活用が模索されていること、そしてアクセシビリティへの関心が高まっていることを反映している。

ニュースソース

  • 電子出版アワード2023は「Bingチャット」「世界J文学館」「コミチ+」「YourEyes」「Firefly」[日本電子出版協会

4. グーグルが「Bard」に拡張機能を追加

 グーグルが生成AI「Bard」日本語版に、グーグルのアプリやサービスと連携できる拡張機能を追加した(INTERNET Watch)。この機能は、GmailやGoogleドキュメント、Googleドライブ、Googleマップ、YouTubeといったユーザーが利用しているサービスと連携して結果を表示する。

 特に、GmailのメールボックスやGoogleドライブと関連付けることで、その内容を探索して、情報を探し出すことなどもできる。例えば、メールマガジンとして配信され、メールボックスに蓄積された情報を探索し、特定の話題について、数カ月分をまとめるように使える。

 Googleマップでは、旅行計画やルートを作成し、移動時間なども加味して地図上に表示するなど、使い方のコツがつかめれば手放せなくなりそうだ。

 生成AIが話題になっておよそ1年でここまで進化したというのは驚きであるとともに、今後の進化が楽しみでもある。使いこなすためには新たなスキルの蓄積が求められる。

ニュースソース

  • Googleの生成AI「Bard」日本語版に新機能、GmailやYouTubeなどのサービスと連携可能に[INTERNET Watch
  • グーグルのチャットAI「Bard」、日本語でもGmailやGoogleマップなどと連携可能に、キーパーソンに聞く[ケータイWatch

5. フィッシングに新たな手法が出現

 日々、巧妙化するフィッシングで新たな手法が報告されている。

 なんと、三井住友カードや三井住友銀行を名乗るメールに、S/MIME電子署名ファイルを添付したものだという(INTERNET Watch)。ただし、「なりすまし元とは異なる、ほかのメールで作成されたS/MIME電子署名ファイルが添付されていた」ということで、「S/MIME電子署名対応メールアプリを利用している同行の利用者は、なりすましのメールだと判別できる」が、「S/MIME電子署名に非対応のメールアプリを使用していると、S/MIME電子署名ファイルが添付されていることは分かるものの、それが正規のものか、なりすましかは判別できない」というものだ。決して、技術的な観点で電子署名の信頼性が下がるような事案ではないのだが、ユーザーが気を抜くと引っかかる可能性は否定できない手法だ。

 また、東京都水道局を名乗るメールなども報告されていて、見慣れた発信元を名乗るメールには重々注意をすべきだ(INTERNET Watch)。

 これから年末年始を迎え、さらに新たな手法が編み出されることにも注意しなければならない。

ニュースソース

  • S/MIME電子署名ファイルが添付されたフィッシング、件名「<重要>【三井住友銀行】パスワードの変更が完了しました」などの不審なメールに注意 三井住友カードや三井住友銀行をかたり、カード情報などを詐取[INTERNET Watch
  • 東京都水道局をかたるフィッシング、件名「水道料金の未納通知です」などの不審なメールに注意 偽サイトに誘導し、口座番号や個人情報を詐取[INTERNET Watch
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。