フリーWi-Fi活用再入門

暗号化なしのフリーWi-Fiを安全に使えるVPNって?

フリーWi-Fiにつなぐメリットとデメリット、安心・安全な使い方を紹介

フリーWi-Fiのリスクを軽減する方法

 フリーWi-Fiは、不特定多数の人が一緒に使うネットワークです。このため、利用する際は、「電波が傍受される恐れがある」ということを常に意識しておく必要があります。

 もちろん、電波が傍受されても、それが即セキュリティ被害につながるわけではありません。多くのフリーWi-Fiでは、アクセスポイントと端末の間の通信が暗号化されるようになっているため、万が一、電波を傍受されても、そこから通信内容を解読することは困難だからです。

 しかし、コンビニエンスストアや交通機関、観光地などのフリーWi-Fiスポットの中には、この暗号化がなされていないものがあります。

 前回、こうした暗号化されていないフリーWi-Fiを利用する際に注意する対策として、「httpsによる暗号化を確認すること」「VPNサービスを利用すること」を説明しました。

 今回は、このうちのVPNサービスについて、掘り下げていくことにしましょう。

VPNって何だろう?

 VPNは、Virtual Private Networkの略で、もともとは、企業の拠点間接続やリモートアクセスのために使われてきた機能です。不特定多数が利用するインターネット上で、企業の安全なデータをやりとりするために、暗号化によって保護された仮想的な専用回線を構築できます。

 前述したように、通信が「暗号化されていない」ことが、フリーWi-Fiを利用するリスクの大きな要因なのですから、VPNの技術を使って自分で通信を暗号化してしまえば、「万が一、盗聴されても内容が解読されずに済む」ということになります。

 そのVPNの利用方法には、大きく分けて2通りあります。

VPNサービスの利用

 1つは、事業者によって提供されているVPNサービスを利用するものです。現在、一般的に使われているのはこちらの方法で、次のように、通信事業者やセキュリティ対策ベンダーなどがサービスを提供しています。

VPNサービスを用いた場合の接続イメージ

 VPNサービスのメリットは、その手軽さです。VPN接続に必要なサーバーやアプリが事業者によって提供されるため、利用者はアプリをダウンロードして接続するだけで、通信を暗号化することができます。VPNサービスには、通信時に広告が表示される無料のものと、アプリを購入したり、毎月の利用料を支払う以下のような有料のものがあります。

 ただし、VPNサービスの注意点は、通信データが必ずVPN事業者を経由するということです。

 もちろん、ほとんどのVPNサービス事業者は、ユーザーのプライバシーを保護する声明を出しており、通信内容がのぞかれたり、マーケティングなどに利用されることはないとしています。VPNサービスを利用する際は、信頼できる事業者を選ぶことが、最大のポイントです。

メリット :特別な機器や面倒な設定や準備が必要なく手軽に利用できる

デメリット:毎月の費用がかかる。プライバシーの保護が事業者次第

自分でVPNサーバーを用意する

 もう1つの方法は、自分でVPNサーバーを用意することです。もちろん、Linuxサーバーを用意することもできますが、面倒な作業が待っています。それに、そこまでしなくとも、VPNサーバーは手軽に用意できるのです。

 それが、Wi-FiルーターのVPNサーバー機能を活用することです。光ファイバーなど自宅の固定ネット回線に接続したWi-FiルーターをVPNサーバーとして稼働させることで、自宅をVPNサービスの接続先として利用することができます。

Wi-FiルーターのVPNサーバー機能を活用した場合の接続イメージ

 設置や設定に多少の手間はかかりますが、自前でサーバーを構築するほどではありません。さらに無料で使える上、接続先が自宅となるため、プライバシーを心配する必要もありません。

 ただし、VPNサーバー機能については、アイ・オー・データ機器とバッファローが対応モデルをラインアップはしているものの、国内メーカーのルーターでは対応製品があまり多くないため、NETGEARやASUS、Synologyといった海外メーカーのWi-Fiルーターを使う方が設定しやすいでしょう。

ネットギアジャパンのメッシュWi-Fiシステム「Orbi」のVPNサーバー設定画面。OpenVPNを利用できる

 また、利用している回線によっては、VPNサーバーの運用が難しい場合もあります。v6プラスやtransixなどのサービスでは、自宅のネットワークに外部から接続することが難しい(利用できるポートが限られていたり、NATが事業者側で実施されているため設定できない)場合があります。こうした環境では、VPNサービスの利用を検討した方がいいでしょう。

メリット :無料で利用できる。プライバシーの心配がない

デメリット:構築や設定に手間がかかる

 このように、VPNによる暗号化を利用することで、暗号化されていないフリーWi-Fiを安全に使えるようになりますが、VPNを使うデメリットもあります。

 VPNは通信を暗号化するため、暗号化されていない通常の通信に比べて、転送速度は低下します。どれくらい低下するかは、利用するVPNのプロトコルやサーバーの処理能力に依存するため、一概には言えません。また、フリーWi-Fiサービスは、もともと速度が出にくいため、VPNによる低下があまり気にならない場合もあります。

 暗号化されていないフリーWi-Fiへの対策として注目が高まっているVPNですが、メリットだけでなく、そのデメリットもきちんと把握した上で使うことが重要です。

 なお、2月1日付弊誌記事『公衆無線LANを利用するリスクとは? 総務省がセキュリティ対策講座を開講』の通り、総務省では「これだけは知っておきたい公衆無線LANセキュリティ対策」講座を3月末まで開講しています。

「これだけは知っておきたい公衆無線LANセキュリティ対策」講座一覧


    第1回 もっとつながる・使える公衆無線LAN <Wi-Fiの技術>
    第2回 とっても危険! 「野良Wi-Fi」
    第3回 そのWi-Fi、本物ですか?
    第4回 さまざまな公衆無線LANサービスを知ろう
    第5回 Wi-Fiの接続と暗号化の仕組み
    第6回 安全なWeb利用の方法
    第7回 自分で重要な通信内容を守る
    第8回 より安全・安心にWi-Fiを使うために

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。