山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

日本の内閣交代、ポータルサイトは特集サイトで淡々と紹介 ほか
2010年5月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

日本の内閣交代、ポータルサイトは特集サイトで淡々と紹介

 鳩山内閣が総辞職、菅新首相が誕生し、中国の各ポータルサイトは前述の日中間のオンラインショッピングサイトが開くニュース以上に大きくこのニュースを取り扱った。ここ数年、毎年日本の首相が替わるたびに各ポータルサイトは大きくニュースで取り上げているが、以前の首相交代のニュースに比べ、新首相の対中国のスタンスについて考察する記事は減少。以前と比べて淡々と報じている。

菅総理誕生のニュース特設サイト

Yahoo!チャイナモールがスタート、提携先の淘宝網も淘日本をスタート

 6月1日、中国最大のオンラインショッピングサイト「淘宝網(Taobao)」の商品が日本から購入可能な「Yahoo!チャイナモール」がスタートした。また同日、淘宝網でも日本のYahoo!ショッピングでの商品が購入できる「淘日本」がスタートした。

 一部のポータルサイトでは特集サイトも設けて、中国でトップシェアのオンラインショッピングサイトである淘宝網を利用して、日本の製品が購入できるようになること、淘宝網が海外に進出する第一歩として日本市場に進出することを大きく報じた。

 特設サイトの「淘宝網の日本進出は成功するか」というアンケートには、半数以上が「成功する」と回答したが、「百度日本はいまいち浸透していない」という慎重な意見も一部見られた。

 中国メディアは早速、淘日本のレビュー記事を掲載したが、レビューではまず第一に「日本での代理購入サービスよりも安い」という点を挙げるものが多かった。一方で、「国際宅配料金が高く、小さな物は買いづらい」というレビューもあり、やはり海外からの買い物では送料が大きなポイントになるようだ。

Yahoo!Japanと淘宝網の提携の発表についての特集サイトYahoo!チャイナモール淘宝網でも日本のYahoo!ショッピングでの商品が購入できる「淘日本」がスタート

ネットカフェの価格競争も限界? 一斉値上げに動く地域も

 現状のネットカフェの料金体制に限界が来たのではないか、5月はネットカフェの経営に関する話題が数多く登場した。省都クラスの都市では、1時間2、3元(約27~41円)という料金システムが数年にわたりキープされてきた。それも様々な要因により、値上げを余儀なくされそうである。実際、5月には重慶市内のインターネットカフェの値段が一斉に若干ではあるが値上がりした。

 原因として、上がり続ける物価や人件費、また政府による違法ネットカフェ締め出し対策が挙げられる。それ以上に、近年高まる動画コンテンツの正規版への圧力により値上げを迫られているのではないか、というニュースが多かった。

 中国国内では、映画やテレビドラマなどの動画コンテンツの正規版化の動きがインターネット業界で盛り上がっている。そんな中で4月21日に中国電影著作権協会が、インターネットカフェや長距離バス運営会社に対し“中国国内コンテンツ”に対して支払うべき著作権料を決定。その料金をPC1台1日利用につき一律0.15元(1角5分)とした。

 なお、インターネット上の動画コンテンツの正規版化について、メディアの論調は賛成派が多数であり、著作権料を支払わない中小サイトにサイトに対しては厳しい論調となっている。

 一方で、マイクロソフトがインターネットカフェに正規版を促すニュースも話題となったが、メディアは「値段が世界と同一価格であり高すぎる」という同情論が圧倒的だ(実際は他国よりも安く販売している)。

 2009年9月に広東省東莞市のネットカフェ運営企業を相手に、マイクロソフトが158万元の損害賠償請求を起こしたが、その審議が5月12日に開廷したのがひとつのきっかけだ。このニュースをきっかけに「正規版を買ってはインターネットカフェの運営が不可能だ」と業界が悲鳴をあげた。

 この件については、マイクロソフトが突然対策に本腰を入れたというわけではなく、2009年4月東莞市のインターネットカフェ協会の代表者2名に対し、同社製品を35%引きで販売することを提示している。

 音楽や映画コンテンツに加え、ソフトウェアの正規版化の圧力をインターネットカフェ業界はどう改善していくか注目される。

人気上昇中の「ギャザリングサイト」にパクリ疑惑

 中国で、購入者が増えれば増えるほど安くなるギャザリング(共同購入)サイトの人気が上昇している。各サイトは中国の各省各大都市をベースにサービスを提供、既にそのサイト数は150を超えるとも言われている。

 これらのギャザリングサイトは、どうやら2008年末にスタートした米国のサイト「GroupOn」をモデルにしたと思われる。というのも、コンセプトどころかデザインまでGroupOn、そのまんまであるからだ。ちなみに、GroupOnもどきのサイトを中国に持ち込んだのは、過去に中国でFacebookにそっくりなサイト「校内網」や、twitterにそっくりなサイト「飯否網」などを立ち上げた王興氏。

ギャザリングサイト「GroupOn」中国のGroupOn似のギャザリングサイト。ここは名前まで同じ
ギャザリングサイトの人気が急上昇し、GroupOnに似たサイトが増殖している

江蘇省江蘇省で、光ファイバーを導入し回線速度が改善、10Mbps超えに

2Mから4Mへの移行を促す中国電信の広告

 固定電話キャリアで最もシェアの高い中国電信(チャイナテレコム)の江蘇省を担当する子会社「江蘇電信」は、13の都市に光ファイバーを基礎としたインターネット網が開発したことを発表。各ビジネスビルやマンションや団地に光ファイバーを敷設、インターネット利用者平均で10Mbps以上の回線速度を目指す。江蘇省は上海市の北に位置する沿岸部にある。

 ちなみに、2009年まで数年の間はADSLの2Mbpsプランが最速だった。現在は江蘇省をはじめ各省で、2Mbpsから4Mbpsへ無料でサービス移行できるキャンペーンを実施している。


インドで報道された中国政府発表を中国メディアが誤翻訳し騒ぎに

 4月29日、国務院は「インターネット管理を強化すべく、ニュース感想掲示板をはじめとした各種掲示板サイトでの実名性をはじめとした、インターネット身分証システムの可能性を模索中」と発表した。

 この発表をインドのメディアが5月6日に翻訳し、掲載した。さらに、そのインドの報道記事を、中国メディアが誤翻訳して、「国務院がインターネット管理を強化すべく、インターネット身分証システムを“開発中”と発表とインドメディアが報道した」と掲載した。つまり、「可能性を模索」という話が、中印間を行き来する中で「開発中」となってしまった。

 中国のメディアのルールは「引用元さえ明記すれば全文丸ごとコピーも可能」であるため、ネットユーザーを引き寄せそうなこの記事は、瞬く間に無数のニュースサイトに転載され、若きインターネット利用者による「そんなシステム冗談ではない」との書き込みが、このニュースの感想掲示板に多く書き込まれた。

 数日後誤報であると多くのニュースサイトが該当のニュースを削除した。この誤報を中国メディアがこぞって伝えた顛末から、中国メディアは他国メディア発の中国政府の発表でさえ、裏付けを取らずに我先にと掲載していることがわかってしまった形になった。

中国サイトオーナーのフォーラム開幕、4割のオーナーは無収入

 「2010年第5回中国サイトオーナーフォーラム(2010年第五届中国互聯網站長年会)」が北京で開催され、1200名強が参加した。中国メディアや中国政府関係者からも注目を浴びた今回のフォーラムでは「健全なコンテンツ・サービスで発展するサイト」がテーマのひとつ。フォーラムの講演の中で、流行りつつあるtwitterもどきのミニブログのサイトへの実装については、「今はまだ控えた方がよい」という意見もあった。

 調査会社のDCCI(DATA CENTER OF CHINA INTERNET)の主任「胡延平」氏の講演で、サイトオーナーの収入の現状について紹介。サイトオーナー全体の42.2%が無収入で、2500元(約3万5000円)以下の収入のサイトオーナーは80.5%を占める。なお、2500元という収入はは、都市のサラリーマンでも高収入とされている。2009年では2500元を切るユーザーはおよそ60%だったため、約2割増となっている。収益を得る方法としては、広告・eコマース・有料ゲームが一般的だという。

企業同士がミニブログで舌戦

 セキュリティソフトをリリースするキングソフト(金山軟件)と奇虎360の間でトラブルが起きている。人気の無料ユーティリティソフトをリリースする奇虎360は、同社のセキュリティソフトをプッシュすべく、奇虎360のユーティリティソフトの最新版は、キングソフト製の無料ファイアウォールがインストールされていると、それをアンインストールする仕様にした。

 キングソフトはそれに抗議したが、奇虎360は「キングソフトのソフトの性能が悪いから」と自社の行いを正当化。両社のCEOがそれぞれポータルサイトの新浪(Sina)のミニブログサービスで、自社の訴えと相手の悪口を書く一方、お互いがフォローし合わないという展開に。その後、キングソフトは奇虎360に対し名誉毀損で損害賠償を求めて提訴した。

 ちなみに、中国ではtwitterは使えないが、国産ミニブログサービスにより、ミニブログは注目を浴びつつある。企業同士の抗議合戦にミニブログが使われる例ははじめてだが、5月には広東省の公安局がミニブログを開始するニュースが報じられるなど、官公庁で情報をオープンにすべく、ミニブログが採用される例はいくつも見られるようになった。

広東省の公安局のミニブログ奇虎360対キングソフトの舌戦は「新浪ミニブログ大戦」と呼ばれた

電子メールの利用者は2億1800万人、アクティブなIDは5億超

 中国のリサーチ会社「iResearch」は13日、中国メール市場についての調査報告を発表。09年末でのメール利用者は2億1800万人(前年比4800万人増)、アクティブなメールアカウント数は5億3100万。

 ひとりあたりが持つメールアカウントは「2アカウント(44.8%)」「3アカウント(23.6%)」「1アカウント(20.3%)」「5アカウント以上(6.3%)」「4アカウント(5.0%)」。

 中国では電子メールよりもQQをはじめとするチャットサービスの方が利用率が高く、メール利用者はインターネット利用者の62.4%と6割を超える程度だが、メールの利用者では複数アカウントを持つことが普通となっているようだ。ベンダー別シェアは、「網易(NetEase、40.0%)」が首位、以下「騰訊(Tencent、23.7%)」「ヤフー中国(9.1%)」「新浪(7.8%)」の順となっている。

 有料メールサービスの市場規模は前年比6.7%増の9500万元(約13億円)。

2008~2013年の中国メール利用者(単位:億人。緑線:増加率 青線:インターネット利用者全体に占めるメール利用者の割合)2008~2013年中国アクティブメールアカウント数の推移メールサービスベンダー別シェア

関連情報

2010/6/7 12:38


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。