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「IEEE P802.3dj」標準化完了は2026年ごろか? 議論が収束せず、スケジュールに遅れ

 引き続き、IEEE P802.3djについて紹介する。前々回「800G/1.6Tbpsを実現する『IEEE P802.3df』の進捗と、『IEEE P802.3dj』の分離」、前回「『800GBASE-DR4/-DR4-2』『800GBASE-FR4』など複数の仕様策定を目指す「IEEE P802.3dj』の動向」までで、IEEE P802.3dfから分離したIEEE P802.3djの、2022年中頃までの動向、Coherent標準化に関する動きなどを紹介してきた。

 このあとも、さまざまなプレゼンテーションが延々と行われてはいるのだが、2022年はまだ、IEEE 802.3dfについて先にまとめてしまえ、といった雰囲気が強かった。

 何しろ2022年9月のミーティングで、IEEE P802.3djのPARに関するProposalが提案され、Motionで賛成多数でやっと可決したという状況である。

 ちなみに可決したといっても、これはTask Forceの中で「このPARをIEEE SAに提案する」ことを決めたというレベルの話で、先は長い。9月末~10月のミーティングでは、"FEC Performance for 200 Gb/s per Lane Electrical PHY and Interoperating"とか"200 Gb/s per lane AUI"、"Measurement Evaluation of PCB Electrical Performance 200 Gb/s PAM 4"などが示されてはいるものの、まだ仕様策定向けの議論というよりは、Study Groupにおける技術検討といった趣である。

 また、この時点での検討はControllerからPCBを経由してトランシーバモジュールまでの配線がメインであって、まだその先の電気なり光モジュールでどう通信するか、といった話に関しては先送りされている。

2022年11月の段階でも議論はたたき台レベルで、プレゼンテーションが多い

 2022年11月のミーティングでは、PARの変更やCSDの提案がMotionで可決されたほか、PMDに関しても"Proposal of Inner Code for 200 Gb/s per Lambda IM-DD Optical PMD"とか"Generic Overview of various FEC Architectures for 200Gb/s per Lane PMD"などPMD周りのプレゼンテーションも出てき始めているが、まだ提案というよりはそれ以前のレベルのたたき台に近い内容である。

 何というか、IEEE P802.3dj Task ForceはIEEE P802.3dfから分離したということもあってStudy GroupなししでいきなりTask Force結成になってしまっているが、やっぱり事前にStudy Groupを設けてたたき台を作った方が良かったのではないか? と思わなくもない。

 ちなみに、この2022年11月の段階でのTimelineが、以下の図01だ。1年ほどでDraft 1.0が完成する、という前提に立ってのものである。その11月のミーティングではIEEE P802.3dj関連だけで33ものプレゼンテーションが示されており、目を通すだけでも一苦労といった状況。ミーティングそのものも8日、13日、17日、21日、22日、30日と、6日も費やすほどのものになっていた。もっともこれに続く2022年12月の方は、純粋にIEEE P802.3dfのみのミーティングとなったので、その辺りも加味して少し前倒しでプレゼンテーションが行われた可能性がある。

図01:あくまでも"Potential"であって、まだ正式なものではない。実際この後ずれている

2023年1月にTask Force結成、プレゼンテーションは増え続ける

 さて、明けて2023年1月は、正式にIEEE P802.3dj Task Forceが結成された。といってもTask ForceのメンバーはP802.3df Task Forceと重なっていることもあり、1月のミーティングは両Task ForceのJoint Sessionというかたちになった。

 この1月のミーティングについては、前々回の記事でもちょっと触れたが、IEEE P802.3dfに関してはITU-T/OIFにDraftを送付したという報告だけだったし、同時に行われたIEEE P802.3cwの方も、OIF及びITUから返事が来たという報告だけで、残りは全部IEEE P802.3djの話であった。具体的には、次の28のプレゼンテーションが行われている。

(1)IEEE P802.3dj Task Force Formation

(2)Towards a 200G/lane Backplane Objective

(3)1.6TAUI-16 C2M and C2C Baseline Thoughts

(4)Baseline Proposal for 200G/L Medium Loss C2M

(5)Baseline Proposal for 200G/L High Loss C2M

(6)CMIS-LT Providing Flexible Link Training and Diagnostics for C2M

(7)A Path toward Incorporating Advanced Signal Processing in Electrical Channel Performance Assessment - 1st Update

(8)200G/lane PAM4: Error Profile, Propagation and Correction considerations

(9)Bottom Up analysis of Medium and High Loss AUI Channel Loss

(10)212 Gb/s PAM4 per Lane C2M Channels A Via Length Performance Study Supplement

(11)224 Gbps-PAM4 Chip-to-Module Link Simulation and Analysis with a High-Loss 92 Ohm Impedance Channel

(12)A 224 Gbps-PAM4 High-Loss Chip-to-Module Channel with 92 Ohm Impedance and Its Characteristics

(13)1.6TbE PCS/FEC Baseline Proposal

(14)Consideration on Symbol Multiplexing for 200G/L

(15)Symbol-muxing PMA architecture proposal

(16)Concatenated FEC baseline proposal for 200Gb/s per Lane IM-DD Optical PMD

(17)Concatenated FEC Proposal for 200 Gbps per Lane IMDD Optical PMD

(18)Observation of Inner Code for 200 Gb/s per Lambda IM-DD Optical PMD

(19)Concatenated FEC Codes for 800GE and 1.6TE

(20)Interleaver Design for Concatenated Code with the (144,136) Code

(21)Bypass Options for Concatenated FEC

(22)Consideration on 200G per lane 500m and 2km objectives

(23)Baseline proposals for 200G/L PMD specifications for single wavelength 500m and 2km standards

(24)FWM and zero dispersion wavelength analysis for 800G LR4

(25)Time-dependence of FWM Outage Probability in 800G-LR4 PMD

(26)Numerical Simulation of Polarization Multiplexing for Suppressing FWM

(27)Coherent solutions for 10&40km 800Gb/s objectives in 802.3dj

(28)Alignment of 800GBASE-LR1 and 800GBASE-ER1with OIF800ZR Implementations- a baseline proposal

 (1)以外は、すべて具体的な提案である。ただ流石に議論が発散しすぎと感じられたのか、議長のJohn D’Ambrosia氏より"Leadership Observation"として、Baseline proposalの出し方が改めて指導された(図02)。

図02:baseline proposalは実装仕様ではない(さまざまな実装が可能な標準規格である)ことの念押しと、proposalを出す前にChief Editor役となったMatt Brown氏にレビューを依頼することも念押ししている

 また、Logic&Architecture、Electrical、Opticsという3つのTrackを用意し、それぞれのTrack別にまとめ役(CiscoのMark Gustlin氏、IntelのKent Lusted氏、CiscoのMark Nowell氏)が就いて議論を取りまとめることが発表された。上のリストを見ると分かるが、さまざまなproposalと技術的な検討報告が混在していて、議論が錯綜しそうなのは明白だったからだ。

 ただ、そう言われても簡単に提案は減らないわけで、2023年3月のミーティングではまたしても、次のように29(+枝番3)のプレゼンテーションが行われた。

(1)Towards a 200G/lane Backplane Objective – An Update

(1a)200 Gb/s PAM4 Channel sweeps for "Near Package Connector (NPC) KR Cabled Backplane" and "C2C with 1 connector" Topologies

(1b)212Gb/s Per Lane KR Cable Backplane Channels

(1c)Supporting Channel Analysis for a Backplane Objective

(2)200GAUI-1/400GAUI-2/800GAUI-4/1.6TAUI-8 AUI C2M Interfaces: Link Training or Not?

(3)Further Details and Progress on CMIS-LT

(4)CRU Bandwidth Recommendation for 200G Interfaces

(5)Achievable IL under Different 802.3dj C2M Candidates

(6)Further on the COM Analysis for 200G/L AUI C2M–TP1a Simulation

(7)Baseline Proposal for 1.6TbE PCS Lane Formation and AM Insertion

(8)Baseline proposal for PMAs with 200G per lane signaling

(9)AUI Types vs. FEC Partitioning (Update)

(10)PHY/FEC Architecture considerations V2

(11)End-to-end FEC for 200G per lane applications in Data Center

(12)200G/lane PAM4: Error Profile, Propagation and Correction considerations: Part2 -Effects of precoding and Inner FEC code

(13)200G/lane PAM4: Error Profile, Propagation and Correction considerations: Part3 -Multi part links cases - FEC strategies and their solution space

(14)The Case for Concatenated Codes

(15)Architectural Considerations for Type 2 PHY/FEC Scheme (Concatenated FEC) for 200G per Lane IMDD

(16)Consideration on Concatenated FEC Proposal for 200 Gbps per Lane IMDD Optical PMD

(17)Impact of burst errors on concatenated FEC scheme

(18)Reliability Analysis of In-Band Signaling Message Fields for 200G proposal with inner code

(19)FEC options for 200G/lane DRn, DRn-2 and FR1

(20)FEC baseline proposal for 200Gb/s per Lane IM-DD Optical PMD

(22)Proposal for an additional optical objective: 400GBASE-DR2-2

(23)Baseline proposals for 200G/L PMD specifications for single wavelength 500m and 2km standards

(24)Baseline proposal for 200G/L PMD specification for 4 wavelengths over a single SMF in each direction with lengths up to at least 2km

(25)Rigorous 800G-LR4 FWM Suppression Analysis using Actual Fiber Cable Segmentation

(26)10km Duplex SMF Objectives Proposal

(27)Towards an 800G-LR4 IMDD Specification Consensus - March 2023 update

(28)Baseline proposal for 10 & 40km 800Gb/s objectives in 802.3dj

(29)Update to oFEC-based single lambda baseline for 10km and 40km objectives

 さすがに、筆者もこのあたりで議論を追いきれなくなった。

 ちなみに、5月のミーティングではその数が40に、7月のミーティングでは41に増えている。毎回ミーティングの際にMotionも行われ、いくつかのbaseline proposalは採択されているのだが、プレゼンテーション全体の採択の場合もあれば、ある一部分のみの採択もあって、非常に分かりづらい。

 まず、Logic&Architectureに関する2023年9月におけるまとめによれば、まだClause 4/90(図03)やClause 93A/118/170/171(図04)の作業が終わっていない。

図03:緑が完了あるいは変更がないもの、赤が作業未了のものである
図04:こちらも同じく

 一方、Electricalの方であるが、2024年2月29日付の"P802.3dj TF Electrical Track Progress Update – Looking to the March Plenary"によれば、2024年1月までに終わっているべき作業(図05)がいくつか終わっておらず、2024年3月に向けてのToDo Listも示されている(図06)が、3月にこれが全部そろうのかはちょっと謎である。一番まとまっていないのがOpticsで、いくつかのBaseline proposalは採択されているものの、全部はまだそろっていない。

図05:黄色は作業中だがまだ完了していない内容。さすにEQ Parameterまで決めるのは無理があった気がする
図06:AUI Specificationはともかくmeasurement methodはちょっと大変そうな気が……

 ただ、だからと言っていつまでも揃うのを待っていると遅くなると判断したのだろう。2024年3月のPlenary Meetingで、"Proposed Detailed Near Term Schedule"として示されたのが、図07だ。

図07:通常Draft 1.0のReviewは30日が充てられるが、これを21日に短縮して何とか6月にDraft 1.0を間に合わせようとしている

Draft 1.0の予定を後ろ倒し。標準化完了は2026年9〜10月か?

 もともと、2023年11月28日付のAdopted Timelineでは、2024年3月にDraft 1.0が出てくる予定だったが、現状それは望めない。そこで、3月18日の週から3週間ちょいでDraft 1.0を完成させ、速攻でReview。5月13日のInterim Meetingで提示し、2週間のResponse期間を置いて6月にDraft 1.0を完成させる、という超特急スケジュールが示されている。

 まだこのスケジュールの可否は掲載されていないのだが、恐らくはこれに則るかたちで進行してゆくものと考えられる。

 多分Draft 1.0が出るころには、ある程度Opticsの側のbaselineも明確になるとは思う。そんなわけで、まだIEEE P802.3djの標準化には時間が掛かりそうである。ちなみにこの特急スケジュールを利用した場合、標準化完了時期は2026年9月か10月頃になりそうだ。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/