期待のネット新技術

「800GBASE-DR4/-DR4-2」「800GBASE-FR4」など複数の仕様策定を目指す「IEEE P802.3dj」の動向

 前回は、800G/1.6Tbpsを実現する「IEEE P802.3df」の動向と、そこから「IEEE P802.3dj」が分離したことを紹介した。今回は、その分離した新しい方であるIEEE P802.3djの動向を、詳しく取り上げる。

 2023年1月のIEEE P802.3dfのミーティングにて、200Gbps/Laneの規格はIEEE 802.3djのTask Forceに移管することが決定されたことまで、前回紹介した。そこから、あらためてObjectiveをまとめておこう。下の図1、2のような感じである。

図1:1レーンあたり200Gbpsを基本にしているが、SMFの500mと2km以外に、1mの範囲の銅配線(同軸ケーブル)辺りまでは普通だが、Die-to-Die Connectionが追加されているのが目新しい
図2:800Gbpsでは4 pair以外にMUX/DeMUXを介した4波長のWDMも追加されている。あと何気に10kmの規格も入っているが、これらはそのうち別の標準に分離されそうな気もする

 こうしてみるとすさまじい数であるが、基本は200Gbps/LaneのOpticalと、同軸及びDie-to-DieのElectricの4種類で、これを1/2/4/8 Pairにすることで200/400/800/1600Gbpsの転送を行うというかたちだ。

 800Gbpsのみ、WDMを利用して4 Pairを1本のSMFで送る規格が追加されているが、これは現状400Gbpsの普及が本格的に始まっており、現状利用されている構成のまま800Gbpsに移行することを考慮してのことと思われる。ちなみにこの中に、"over 1 wavelength over single SMF in each direction"とか"over a single SMF in each direction with lengths up to at least 40 km"いう、ほかと互換性のない規格が含まれているが、これは後程。

 そのようなわけで、基本は4種類(SMF 500m、SMF 2km、Copper 1m、Die-to-Die)の仕様を策定し、あとはこれを2/4/8 Pairにする格好になる。

2022年に出された800GBASE-DR4、-DR4-2、800GBASE-FR4のProposal

 さてその最初の4種類であるが、SMFの500mと2kmに関しては2022年6月、つまりまだIEEE P802.3dfの時代に、"Baseline proposals for 800GBASE-DR4, -DR4-2, and 800GBASE-FR4"として、最初のたたき台が出ている。

 このProposalでは、100Gbpsのもの(つまり400GBASE-DR4とか200GBASE-DR2)をベースに、それをそのまま200Gbpsにスピードアップしたらどうなるか、を簡単に考察したうえで、BERの観点から実現可能性を検討している。何も対策をせずに100Gbps(つまり53GT/sec PAM4)を200Gbps(106GT/sec PAM4)にスピードアップした場合、BERは2.5 decades(100GbpsのBERが10E-13だとすると、200GbpsのBERは10E-10を上回る)程度まで悪化するが、FFE(Feed Forward Equalizer)やDFE(Decision Feedback Equalizer)の利用、RIN(Relative Intensity Noise)への対策などを施すことによって、BERの差は0.5 decades未満(つまり10E-13→3×10E-12程度)に収められる、というものだ。

 なので、BERに関しては若干の配慮は必要ながら、その程度で済むとしたうえで、Transmitter(図3)とReceiver(図4)のSpecのProposalが示された。

図3:送信側は出力を1dB強化して、BER悪化に対応する格好。RINも-136dB/Hzから-139dB/Hzになっている
図4:送信側と同様に、受信感度も1dB強化する

 ちなみに、この200GBASE-DR1は到達距離500m、「-DR1-2」のように、後ろに「-2」が付くものは到達距離2km、そして800GBASE-FR4は到達距離10kmのものである。800GのみFR4が追加される格好だが基本はどれも同じで、若干スペックに違いがある程度である。

 この500mと2kmという距離が実際に可能か? という点は、まだ話題になっていない。ただ、特にTransmitterの方がVCSELのままで行けるかどうかについては今後の検討課題になることが暗黙の了解になっている。またFECのスペックが決まっていないため、Signaling rateが106.25~112.5GT/sec(表ではGBd:G Baud)のPAM4というかたちになっているが、この辺は今後の検討の中で定める格好だ。

Coherent標準化をめざす動き

 次が、先程ちょっと触れた"over 1 wavelength over single SMF in each direction"。これは2022年6月8日にChina MobileのHaojie Wang氏らによる"Considerations on 800Gb/s coherent solution for 10km"として説明されている。要するにCoherentである。

 800GbpsのCoherentといえばOIFが仕様を策定中の800ZRがまず思い浮かぶ。2021年公開の記事「800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ」でもちょっと触れたが、800ZRはまだ策定中の規格であって、ECOC 2022におけるOIF Updateの資料によれば、速度を400ZRの2倍にする(図5)ことを目標とし、またBaselineはDP-QAM16をそのまま使う(図6)としている。ただ、ここからの進展があまりない。

図5:400ZRの後継なので、到達距離は80kmと長距離向けであり、このあたりがP802.3djに流用するにはちょっとOver-specではある
図6:この辺の構造は基本的に400ZRと同じで、ただし伝送速度が倍になる格好

 2023年3月のOFCにおける800ZRのUpdateでもあまり新しい話はないし、現時点でもOIFで特にニュースなども掲載されていない。まだ標準化作業の最中といった感じで、あるいは2024年3月に開催予定のOFC 2024ではもう少しProgress Reportが示されるかもしれないが、現状は不明なままである。

 まぁ、こんな状況であるから、800ZRをIEEE P802.3djの方で取り込むのはちょっと無理がある。なので独自にCoherentな規格を定めたいという動機は理解できる。

 ではChina Mobileは何でCoherentを提案したか? というのが下図だ(図7)。

図7:右グラフは現在の構成。ポートあたり100Gbpsで構成され、それを何対束ねてるかをまとめている。まぁこれはChina Mobileの事情であって、すべてのDCでこれが通用するわけではないのだが

 Data CenterのBackboneというかMetro NetworkのBackboneを800Gbps化したいが、当然ながら800GbpsのLinkが1本ではなく複数本で構成されることになる。こうなると4 Pairでは帯域が確保できない(Fiberの本数が制約条件になる)から、1 Pairで800GbpsのLinkが欲しい。なので普通に考えるとWDMが候補になるわけだが、ここでのChina Mobileの主張は、次の3点となっている。

  • CoherentにすることでLaser Sourceを1つに減らせるし、Mux/DeMuxが不要になる
  • 800GbpsにおけるIMDD(Intensity Modulation, Direct detection:強度変調・直接検波)とCoherentでのbitあたりのエネルギー量は400Gbpsのときよりもずっと差が小さくなっている
  • CMOSプロセスの進展により、800Gbps・10kmをCoherentで構成するコストはリーズナブルなものに収まる

 「リーズナブル」なだけで、WDMよりも安価になるとは言っていないあたりがポイントではあるのだが、Coherentが高価な理由の1つは余り普及していないから、ということもあるわけで、ある程度以上の数が出れば長期的にはWDMより安価になることもあり得る。そのあたりを訴求ポイントとしたかったわけだ。

 このCoherentについては、続く7月のミーティングでCienaのEric Maniloff氏らによる"Analysis of a coherent solution for the 800Gb/s single SMF 10 km objective"というプレゼンテーションが行われ、到達距離10kmであれば十分現実的であることが報告されている(図8)。

図8:詳しくはリンク先の資料に当たってほしいが、送受信プロファイルの分析、Power Budget、消費電力の比較、FECの試算などを行った結果として、このレベルで言えば妥当であると結論付けられている。

400GBase-LR4-6互換性が特長のOptical PMDも有力

 ちなみに、ではCoherentで決まりか?というとそういうわけでもない。2022年6月9日のミーティングでは、Aloe SemiconductorのChris Doerr氏らによる"Proposal for 800G-LR4 Optical PMD Based on DP-PAM4"も示されている。こちらは名前から判るようにDP(Dual Polarized) PAM4(図9)を使った方式である。

図9:2次元変調を行うのはCoherentもDPも同じであり、その合成/分離と検出方法が異なるだけである。

 こちらの場合、X/Y軸それぞれPAM-4で2bitとなるので、信号そのものは従来の53GBdで間に合う。もっともこれだと1 Pairでは200Gbpsの転送になるため、Mux/Demuxを組み合わせて4対の信号を1 PairのSMFに通すかたちになるため、コスト面ではMux/Demuxが必要とかLaser Sourceが4つ必要などCoherentに比べてやや劣る「可能性がある」。

 ただ、Laser Sourceは既存の53GBdに対応したもので済むし、電力効率も改善する。なにより既存の400GBase-LR4-6と互換性があるといった点をアピールポイントにしている。400GBase-LR4-6は以前400G-FR4/400G-LR4-10の解説で言及したが、元々は100G Lambda MSAが定めた400G-LR-10をベースとしつつ、100G Lambda MSAでは10kmが可能としていたのに、IEEE 802.3cu-2021ではCWDMのままだと10kmはキツいと判断されて6kmに距離が短縮されたものである(400GBase-LR4-10はDWDMになった)。

 この400GBase-LR4-6というか、400G-LR-10のインフラ(これは最大10kmを1対のSMFで伝送できる)をそのまま利用して、800Gbpsの伝送が可能なので安価になる、というわけだ。

ちなみにこちらはAlibabaが協賛しており、同じ中国の中でも異なる規格に与する勢力が居るというあたりも興味深い
大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/