俺たちのIoT

第7回

IoT向きの通信規格だが……LTEに対応するIoT機器がそれほど多くない理由

 第5回のBLE第6回の無線LANは、IoTの世界ではどちらも一長一短、メリットもデメリットもある通信手段でしたが、実はどちらも共通しているのは「機器そのものがいつでもどこでもインターネットに接続できるわけではない」という点です。

 BLEはスマートフォンを介して間接的にインターネットへ接続できるものの、基本的にインターネットへ接続する機能は備えていません。無線LANは、ルーターやアクセスポイントなどの無線LAN環境がある場所であればインターネットに接続できますが、宅外や社外などで自分が利用できる無線LAN環境がなければ、こちらもインターネットに接続することができません。

 いつでもどこでも常にインターネットにつながることができるという点で、究極の「Internet of Things」向き通信とも言えるのが、スマートフォンに搭載されている「LTE」です。LTEは「Long Term Evolution」を略した携帯電話の通信規格で、これまで使われていた第3世代の規格「3G」よりも高速な通信が可能になっており、NTTドコモは2017年中に下り最大682Mbpsのサービスを開始する予定です。

 なお、もともとLTEは携帯電話の通信規格において「第3.9世代」であり、4Gと区別されているケースもありましたが、最近では第3.9世代はほぼ第4世代であるという位置付けのもと、LTEという呼び方ではなく「4G」という表記が主流となっており、NTTドコモも最近の機種では「LTE」という表記を「4G」に変更しています。ただし、4Gや3.9Gといった表記は、WiMAXなど他の技術も含んだ呼称のため、本記事では「LTE」について言及します。

いつでもどこでも、機器が直接インターネット接続

 LTEの特徴は繰り返しとはなりますが、屋内や屋外を問わず、いつでもどこでも機器が直接インターネットに接続できるということです。もちろん、LTEも電波が届かないエリアなどはもちろんありますが、現在はLTEだけでなく1つ前の世代である3G回線も含めて世界各国で電波が整備されており、ほぼ「いつでもどこでも」といって差し支えない状況にあるといっていいでしょう。

 屋内で特定の場所だけで利用する機器であれば、無線LANでも問題はありませんが、複数の場所で利用するために持ち歩いたり、屋外でも使いたいという時は、無線LANだけではインターネットに接続できません。LTEであれば屋外はもちろん、電波さえ届けば地下や海の上でも利用することができる、というのは普段からスマートフォンをお使いの方であれば改めて説明することもないでしょう。

 LTEの隠れたメリットとして、インターネットに接続するための設定が不要という点も挙げられます。もちろん、実際には利用するプロバイダーのAPN設定などが必要ではあるものの、利用するプロバイダーが決まっている場合は設定をプリインストールしておくことで、電源を入れるだけですぐにインターネットに接続することができます。ペアリングするだけで設定が完了するBLEよりもさらに分かりやすく、電子機器に不慣れな人でも簡単に使いこなせるでしょう。

IoT機器にとっての課題は、運用・開発のコスト

 いつでもどこでもインターネットに接続でき、複雑な設定も必要ないと、IoT機器にとって非常にメリットの多いLTEですが、現在のところLTE対応のIoT機器というのはさほど多くはありません。その理由は、LTE機器の開発や運用のためのコストという課題があるためです。

 BLEは、機器間で行う通信に料金は必要ありません。無線LANも、実際には接続しているインターネット回線の料金が発生してはいるものの、無線LANそのものの通信で料金が発生することはありません。料金も定額制で、月にいくらかの料金さえ払えば好きなだけ通信することができます。インターネット回線も最近では通信量に制限をかけているプロバイダーもありますが、その場合も1日に30GBという大容量の場合のみ制限されるため、一般的な利用ではほぼ無制限といっていいでしょう。

 しかし、LTEの場合は利用する回線ごとに月額料金が必要になります。無線LANであれば、自宅やオフィスにすでに環境さえあれば追加で料金を負担する必要はなく、実質無料として運用することができますが、LTEの場合は機器ごとに料金が発生するため、機器が増えれば増えるほど回線のコストを負担することになります。

 また、料金だけでなく通信量に制限があることも、BLEや無線LANとは異なる点です。NTTドコモやau、ソフトバンクなどの大手キャリアは月に利用できるデータ通信量が制限されており、制限を超えると通信速度が数百kbps程度に抑えられてしまいます。格安スマホとして最近人気のMVNOも基本的には月ごとの通信量制限があり、一部で提供されている無制限プランも、ぷららのように通信速度が3Mbpsに抑えられているか、U-mobileのように「実効速度が著しく遅くなる」と但し書きが記載されるなど、通常よりも速度が抑えられているケースがほとんどです。

LTEモジュールの価格は無線LANと桁違い、国内利用には認証コストも

 コスト面では、LTEをIoT機器に搭載するためのコストも現状では課題の1つです。例えば無線LANの場合、Cerevoでも取り扱っている「ESP8266」という無線LANモジュールは、500円程度の価格で購入することができます。これは一般向けの販売価格ですので、ハードウェア開発のために大量購入する場合であればもっと大幅に低い価格で入手することもできます。また、国内での無線LAN利用が認められている、いわゆる「技適マーク」もありますので、製品開発の際に追加で発生するコストもありません。

Cerevoでも取り扱っている無線LANモジュール「ESP8266」

 一方、LTEモジュールは海外で販売されている安いものでも数十ドル程度、日本円で数千円程度の価格となり、無線LANと比べて文字通り桁が違います。また、こうした海外製のモジュールは日本での利用が認められていないため、国内の利用に関してJATEやTELECといった認証を取得するための費用が安くとも数百万円は必要となるため、実際の製品開発コストはさらに大きなものとなります。

参考:海外で販売されているSierra Wireless製・Huawei製のLTEモジュールの例(画像は、中国アリババのショッピングモールサイト「AliExpress」の販売ページ)

 スマートフォンのように大量生産され、かつ高額な製品であればこうしたコストもさほど負担にはなりませんが、会社の規模的に大量生産が難しいハードウェアスタートアップにとっては、こうした部品1つ1つのコストが大きな負担となります。現状、LTE対応のIoT製品が少ないのはこうしたコスト面の影響が大きいと言えるでしょう。

IoTブームで、下がりつつあるLTE導入のハードル

 一方、最近のIoTブームによって、コストも含むLTE導入のハードルは下がりつつあります。IoTプラットフォームを提供するSORACOMは、1日10円、データ通信量は1MB0.2円からというIoT向けのデータ通信プラン「SORACOM Air」を提供しています。また、さくらインターネットは、同社のLTEモジュールを購入した場合、データ通信料を含み月額100円から利用できる「さくらのIoT Platform」の提供を予定しており、現在はベータ版として月額料金も無料で利用できます。MVNOやMVNEの大手として知られるIIJも、「IIJモバイルM2Mアクセスサービス」というサービスを提供しており、機器ごとの月額費用は数百円程度で運用することができます。

 IoT機器の場合、人間が使うよりもデータ通信料が少なくて済むというのも特徴の1つです。スマートフォンで月に10MBしか使えないプランはほとんど意味がないかもしれませんが、1日に1回、数KB程度のログを送信できればいいというIoT機器であれば、10MBという容量はほぼ無尽蔵と言えます。こうした低容量向けのプランが登場すれば、月額料金もより低廉化されることでしょうか。

 LTEモジュールの価格も、スマートフォンやパソコンはもちろん、IoT機器の普及によって、さらなる低廉化が期待されています。2017年はLTEを活用したIoT機器がいくつも登場してくることでしょう。

※次回掲載は、1月31日の予定です。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」