清水理史の「イニシャルB」

相場を一気に引き下げた脅威のコスパ 2167+1000Mbps対応の無線LANルーター TP-Link「Archer C3150」

 海外で圧倒的なシェアを持つTP-Linkがついに国内市場にも本腰を入れ始めた。中でも2167+1000Mbpsに対応したArcher C3150は、ハイエンドクラスの性能を手の届く価格で提供する注目の製品だ。その実力を検証してみた。

「たまったものではない」

 これまで国内で無線LANルーターを展開してきたいくつかのメーカーにとっては、今回のTP-Linkの国内市場参入は、はっきり言って脅威だろう。

 「いいものを高く売る」という考え方は、メーカーがハイエンド製品を製造するモチベーションの一つであったわけだが、今回のTP-Linkの参入は、このモデルを崩壊させるきっかけになりかねない。

2167+1000Mbpsの無線LANルーター、TP-Link Archer C3150

 実際、TP-Linkから登場したArcher C3150の実売価格は、ヨドバシ・ドット・コムで2万1990円(2016年11月現在)。サイトによっては2万円以下の場合もある非常にリーズナブルな設定となっている。

 「2万円? まだまだ高い……」と思う人もいるかもしれないが、ほぼ同等の無線スペックを持つASUSのRT-AC88Uの価格は、2016年11月現在、同じヨドバシ・ドット・コムで3万7390円となっている。

表1:スペック比較
Archer C3150RT-AC88U
TP-LinkASUS
実売価格2万1990円3万7390円
CPU1.4GHz デュアルコア1.4GHz デュアルコア
メモリ256MB512MB
5GHz2167Mbps2167Mbps
2.4GHz1000Mbps1000Mbps
WAN1000Mbps×11000Mbps×1
LAN1000Mbps×41000Mbps×4
USB3.0×1、2.0×13.0×1、2.0×1
ファイル共有
メディア共有
VPNサーバーPPTP/OpenVPNPPTP/OpenVPN
ペアレンタルコントロール
デュアルWAN×
LINKアグリゲーション
悪質サイトブロック/webフィルタ

 ハードウェアスペックはほぼ同等で、海外の分解記事などを参照すると、どうやら採用されているSoCもほぼ同じで、メモリ容量だけが異なる結果となっている。

 もちろん、機能面での違いがあり、ASUSの製品はデュアルWANに対応しているほか、Archer C3150には、現時点ではトレンドマイクロのデータベースを使った悪質サイトブロック、Webフィルタリングなどが搭載されていない(今後アップデート予定があるらしい)。

 このため、Archer C3150の方が安くなるのは当然と考えたとしても、現時点での価格差があまりにも大きすぎる。

 一般的な製品展開であれば、先行して販売されている製品に価格を合わせるか、それより若干低めに設定される場合が多かったが、ここまでドカンと下げられると、たまったものではない。

 ちなみに、2万円前後という実売価格は、国内メーカーの製品であればNECプラットフォームズのAterm WG2600HP2、バッファローのWXR-2533DHP2と同じレンジになる。いずれも最大速度は5GHzが1733Mbpsで2.4GHzが800Mbps。

 これまでの海外製無線LANルーターは、スペックも高いが価格も高いという認識だったため、国内メーカーの製品とある程度住みわけができていたが、それも今後はわからない状況だ。

 ハイエンドやゲーマー向けという付加価値が受け入れられるのか、それとも単純に通信機器としての価値が問われるのか? また国内メーカーにどう影響を与えるのか? 今後の展開が楽しみだ。

ゴツくない

 それでは、実際の製品を見ていこう。

 本体は黒を基調としたシンプルなデザインで、海外製ルーターでありがちな「ゴツ」さは感じられない。サイズは幅263.8×奥行197.8×高さ37.3mmと、4本のアンテナが搭載されているわりに、さほど大きくはない。たびたび比較して恐縮だが、ASUS RT-AC88Uのサイズが300×188×60.5mmなので、幅と高さがひとまわり小さい印象だ。

正面
側面
背面

 インターフェイスは、側面にUSB 2.0とUSB 3.0、Wi-Fi On/Offボタン、Resetボタン、WPSボタンが配置されている。

 以前、本コラムでArcher C7をレビューした際に、WPSボタンとResetボタンが兼用になっている点を指摘したが、本製品ではきちんと分けられており、Resetボタンは間違えて押さないように奥に配置されている。

 背面は、4本のアンテナの間を縫うように、LANポート×4、WANポート×1に、電源ポートとメインの電源スイッチが搭載される。

 特徴的なのはLANポートで、設定画面で選択した任意のポートの組み合わせでリンクアグリゲーションを構成可能となっている。これにより、たとえばNASなどを2ポート使って接続し、トラフィックを分散させるといった使い方が可能となっている。

 設定画面の「リンク集約」という訳が一般的とは思えないが、小規模なオフィスで使うと便利な機能なので、ホームユーザー以外にもその価値を訴求できそうだ。

側面と背面のインターフェイス
LANポートはリンクアグリゲーションに対応

きちんと作り込まれた

 正直、TP-Linkの製品は、以前に試したArcher C7のファームの完成度が今一つでいい印象がなかったのだが(現状ではだいぶ修正されたらしい)、今回の製品は、そんなイメージを払拭する出来になっている。

 同社のコーポレートカラーとロゴが配置された新デザインのUIが採用されており、ネットワークマップなどで表示される機器のアイコンもシンプルで好印象。日本語訳もほぼ問題ないうえ、フォントも簡体字のない読みやすいものとなっている。

Archer C3150の設定画面。シンプルで見やすいUI

 初期設定は、PCから「http://tplinkwifi.net」にアクセスして実行する。初回のウィザード設定で、管理者アカウントとパスワードを任意のものに変更する画面が表示されるなど、最低限のセキュリティ対策も自然にできるようになっている。

 国内メーカーの製品でも、未だにadmin/adminで変更すら強制しない製品もあるが、もうそんな時代でないことは、本製品を見ても明らかだ。

 ただ、アカウント/パスワード変更画面は、スマートフォン用のアプリ「TP-Link Tether」からアクセスした際には表示されない。最近では、スマートフォンから設定するユーザーも多いため、パスワード変更と初期設定用ウィザードは、スマートフォンからアクセスした際も自動的に開始されるべきだろう。

初期設定でアカウントを変更。ユーザー名もきちんと変更できるのはありがたい

 設定画面は、「基本」と「詳細設定」のタブで表示される項目が分かれており、初心者でも迷わず設定できるように工夫されている。

 ただ、そうした工夫によって、特徴的な機能も隠されてしまうのも事実で、2.4GHzと5GHzで同じSSIDを利用し最適なネットワークを自動的に選択できるようにする「スマートコネクト」、複数の無線LAN端末のそれぞれに均等に時間を割り当てることで、低速なデバイスに電波を占有されないようにする「エアタイムフェアネス」といった機能は、残念ながら埋没しやすい。これらの機能を使いたい場合は「詳細設定」に切り替える必要があることを覚えておくといいだろう。

2.4GHz/5GHzで同じSSIDを利用するスマートコネクト
電波の占有時間をクライアントで均等にするエアタイムフェアネス

 国内メーカーの無線LANルーターでは省かれがちなVPNサーバー機能(PPTP/OpenVPN)も搭載されており、DynamicDNS(DynDNSとNO-IP)と組み合わせることで、外出先からのアクセスにも対応できる。

 面倒なOpenVPNの設定も簡単で、機能を有効化した後、画面上のボタンを押して証明書を作成したり、クライアントに配布するコンフィグレーションファイルを手軽にダウンロードしたりできる。これなら、誰でも使ってみることができるだろう。

 このほか、MACアドレスフィルタリングなどで接続中の端末を一覧表示して選択できるようになっていたり(MACアドレスの手動入力が不要)、保護者による制限機能で接続を許可する時間帯をスケジュール表のドラッグで設定できるなど、使いやすさもかなり配慮されている。海外製品でありがちだった不親切さはほとんど見られない印象だ。

VPNサーバーはPPTPとOpenVPNに対応
接続中のクライアントを一覧表示してMACアドレスフィルタや保護者による制限機能で参照可能
スケジュールはドラッグで設定できる

5GHz帯はW52のみ

 肝心の無線LANの性能も良好だ。

 以下は、木造3階建ての筆者宅にて、1階にArcher C3150を設置し、各フロアでiPerfによる速度を計測した結果だ。

1F2F3F3F端
Archer C3150EA-AC87(1734Mbps)681598304262
MacBook Air(866Mbps)31219911119.4

 手元に最大速度の2167Mbpsを達成できるクライアントが存在しなかったことから、最大1734Mbps対応のASUS「EA-AC87」を利用したため、本来の実力をフルに発揮できているわけではないが、1階で681Mbps、3階でも262Mbpsと優秀な結果が出ている。

 これなら性能に不満を感じることもないはずだ

 ただ、個人的に残念だったのは、5GHz帯の対応がW52のみとなっている点だ。

 無線LANのチャンネルは、標準では「自動」に設定されているが、手動選択で表示されるのは36/40/44/48chのみで、W53やW56のチャンネルは選択できない。

 DFSの影響を考えると、実質的に使いやすいのはW52であることは事実だが、最近では11ac対応の無線LANルーターが町中に増えてきたこともあり、チャンネルの選択肢は多い方が助かる。

 このあたりは、今後の改善を望みたいところだ。

5GHz帯で使えるチャンネルはW52のみ

USBファイル共有も高速

 また、USB接続のストレージの共有も高速だ。以下は、Archer C3150のUSB 3.0ポートにUSB接続のSSD(ADATA 250GB)を接続し、ネットワーク上のPCからCrystalDiskMark 5.1.2を実行した際の結果だ。

 有線LAN接続で100MB/sを超えているので、2ベイクラスのNASと比べても遜色ないどころか、機種によってはそれを凌ぐ性能をそなえていると言える。DLNAサーバー機能により、メディア共有も可能なので、家庭内のファイル共有程度なら、これで十分という印象だ。

USB 3.0接続のSSDへのアクセス速度。左が無線LAN接続時(1300Mbps)、右が有線LAN接続時

 ただし、ユーザーが1名しか作れない(管理者アカウントか別途新規作成)。家族なら問題ないが、小規模なオフィスでの利用を考えると、ユーザーくらいは作成できるようになっているとうれしいところだ。

 なお、筆者の環境(Windows 10 Insider Build 14971)では、あらかじめ資格情報でユーザーとパスワードを登録しておかないと、共有フォルダーにアクセスできなかったことも付け加えておく。

USBファイル共有では管理者アカウント、または新たに作成した1ユーザーのみ利用可能

スマートフォンから設定も可能

 最後にスマートフォン向けのアプリについて触れておこう。AndroidやiOS向けに「TP-Link Tether」を利用することで、以下のような機能を利用可能だ。

・接続端末の一覧表示
・特定端末の接続ブロック
・2.4GHz/5GHzの無線LANのオン/オフ
・インターネット接続設定
・ゲストネットワーク管理
・共有パスワード
・保護者による制限

 意外に使えそうなのは「共有パスワード」だ。あらかじめゲストネットワークを有効にしておく必要があるが(しなくても可能だが本番パスワードが通知される)、LINEなどを使って接続用のSSIDとパスワードを簡単に通知できる。

 友人などが自宅を訪れたときなど、ゲストネットワークへの接続を開放したいときに活用するといいだろう。

スマートフォン用のアプリ「TP-Link Tether」
各種設定や無線LAN端末のブロック、保護者機能などを利用可能
共有パスワードで選択したSSIDとパスワードをメールやLINEなどで通知可能

見直した

 以上、TP-LinkのArcher C3150を実際に使ってみたが、いい意味で予想を裏切られた印象だ。当初は、価格が抑えられているうえ、以前にレビューしたArcher C7のファームのイメージがあったので、あまり期待していなかったのだが、思った以上に快適に利用できる。

 もちろん、前述したように、W52のみの無線やユーザーが1名のみのUSB共有などは、さらなる改善を望みたいが、無線LANでPCやスマートフォンをつないでインターネットを利用するという基本については、ほとんど不満を感じない。

 それどころか、本体前面のボタンでLEDを簡単に消灯できる(時間設定も可能)など、使いやすさが思った以上に考慮されている点を見直した印象だ。

 保護者機能でWebサイトのカテゴリごとに自動的にブロックしたいとか、アプリやゲームに合わせて自動的にQoSを設定したいとか、WANポートを2系統使って障害に備えたいといった使い方をしようとすると、機能に不足を感じる可能性もあるが、そういったユーザーは少数派だろう。

 本当に必要な機能だけに絞り込むことで、値段がぐっと安くなっていることを考えると、お買い得感は相当に高い製品と言ってよさそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。