清水理史の「イニシャルB」
コンセント直挿しのWi-Fi中継機に意外な差! 日本の家に最適なバッファロー「WEX-1800AX4」は何がすごい?
ほかの口の邪魔をしない! 中継帯域が選べる! SSIDも「メッシュ的」「手動」の両対応
2021年3月22日 06:00
バッファローからWi-Fi 6に対応した中継機「WEX-1800AX4」が発売された。2.4GHz帯、5GHz帯ともにWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)に対応している点も注目だが、各所に日本のユーザーを意識した徹底した作り込みがなされているのが特徴だ。
中継機としての「お手本」とも言っていい本製品の使い心地について、実際に検証してみた。
今までのWi-Fi中継機の不満点を見事に解消
筆者もそうだが、Wi-Fi 6対応の中継機を日常的に使っているユーザーにとって、現在市場に出回っている中継機は、どれも完璧とは言い難かった。
ざっと挙げても、こうした不満がある。
- 大きくて壁から出っ張る
- コンセントのほかの口が使いにくい
- アンテナの可動範囲が狭く電波の方向が調整しにくい
- 初期設定は楽だが設定変更が難解
- どの帯域が使われているかが見えない
このうちのいくつかは解消されている場合があるので、サイズなのか、電波なのか、使いやすさなのか、カスタマイズ性の高さなのか、どの部分を優先し、どの部分を妥協するかで、製品を選ぶことになる。
だが、全ての不満を解消する製品というのは、なかなか存在しなかった。そんな中でバッファローから登場したのが、今回取り上げるWEX-1800AX4だ。
Wi-Fi 6に対応した中継機で、最大通信速度は5GHz帯が1201Mbps、2.4GHz帯が573Mbpsとなっており、いずれもWi-Fi 6対応である点が特徴だが、個人的に感心したのは、本製品の作り込みの良さだ。
ラインアップにしろ、薄さにしろ、外付けモデルのアンテナにしろ、設定にしろ、非常によく考えて作られている。
先に挙げた既存中継機の不満が解消されている製品で、日本のモノづくりの緻密さを実感させられる製品と言ってもいいだろう。
アンテナ内蔵と外付けの2ラインアップを用意
まず、ラインアップから見ていこう。
Wi-Fi 6対応のAirStation中継機として今回新たにリリースされた製品は、アンテナ内蔵タイプの「WEX-1800AX4」と、アンテナ外付けタイプの「WEX-1800AX4EA」の2製品がある。
先行して店頭に並ぶのは、アンテナ内蔵タイプのWEX-1800AX4で、今回のレビュー対象もこちらの製品だ。
一方、アンテナ外付けタイプのWEX-1800AX4EAは、可動域の広いアンテナが特徴だ。2~3階建ての住宅などで、上下方向に電波の向きを調整したい場合でも、アンテナを壁に沿って横向きに倒すことが可能となっている。
海外などの水平方向に広い住宅をターゲットに開発された製品には、上下方向の電波の調整があまり考慮されておらず、アンテナの調整角度に制限があるものも少なくないが、さすが日本メーカーらしく、縦方向にも使われることがある日本の住宅事情を考慮した設計がなされている。
また、WEX-1800AX4EAには専用の台座も付属しており、電源タップなどを使って接続する際に本体を台座で自立させることができる。設置したい場所にコンセントがなくても置き場所に困らないのもメリットだ。
木造3階建ての筆者宅も、実際に購入するなら外付けアンテナタイプを選びたいところではあるが、本稿執筆時点では製品が発売されていないため、内蔵タイプを使って検証していくことにする。
究極の薄さで全く邪魔にならない
それでは、アンテナ内蔵タイプの「WEX-1800AX4」を見ていこう。
本製品で注目すべきなのは、何と言っても、その薄さだ。
本体サイズは、85×141×33mmとなっており、約3cmほどの薄さしかない。実物を見ると、そのスリムさが際立つ印象で、壁のコンセントへ直に挿した状態でも全く邪魔にならない。
奥行きが大きい中継機であれば、壁際から飛び出す部分が多く、生活シーンの中での主張というか、存在感が大きい。さすがにつまづくことはないが、近くを通るときに引っ掛けないよう気にかけることはある。
一方、本製品は、壁際にぴったり貼り付いているような印象で、全く気にならない。
それだけではない。今やコンセント直結型の中継機は、2口コンセントの下側に接続しても上側の口を塞がないのは当たり前だが、そうは言っても、下の口に中継機が装着されている状態で、上の口にほかの家電製品をつなぐのはそれなりに気を遣う。
しかし、本製品は本体が薄いため、上の口にほかの家電製品をつなぐ場合でも中継機が邪魔になることがない。
このため、掃除機など抜き差しを頻繁にするような機器に上の口を使う場合などは、本製品の薄さが生きてくる。
また、本体背面、壁に接する部分にゴム足が取り付けられており、本体がコンセントだけで固定されることなく、グラつかない設計になっている。これによって本体が安定するほか、上の口を利用する際に、WEX-1800AX4に多少触れても外れにくい設計になっている。
単体利用時だけでなく、ほかの機器と組み合わせて利用するときでも、コンセントの使いやすさが損なわれないのは秀逸だ。
ヒートシンクとシリコンシートで熱対策も万全
もちろん、薄くするということは、熱対策との戦いでもある。
本製品では、熱対策にも工夫がなされており、ヒートシンクがいわゆる剣山のような形状になっており、上下左右、どの方向からの向きの風でも効率的に冷却できるように工夫されている。
また、表面温度を抑えるためにケースの内側に放熱のためのシートが貼り付けられているのだが、これも一般的な銅製ではなく、シリコン製となっている。
アンテナ内蔵タイプの場合、内部アンテナの近くに金属シートがあると通信に影響を与えてしまうため、性能を損なうことなく、効率的に放熱するためにシリコンシートを採用しているわけだ。
薄くする、小さくするというのは、我々消費者には想像できないほどの開発の苦労があるはずだが、本製品は、それをしっかりと成し遂げている点に感心する。
ちなみに、本製品は縦方向のサイズが141mmとそこそこあるが、これもきちんと計算されたサイズとなっている。日本の住宅の平均的なコンセントから床までの長さを調査して、本体サイズを決定したというのだから頭が下がる。
接続先SSIDはおまかせでOK、手動で帯域を選ぶことも簡単
設定も簡単だ。
中継機というと設定が難しいのではないか? と心配する人もいるかもしれないが、この中継機は全くそんなことはない。
具体的には、ボタン設定を使って、今使っているアクセスポイントとつなぐだけでいい。
これで、今まで使っていたアクセスポイントから既存のSSIDとパスワードが継承されるため、PCやスマートフォンなどをつなぎ直すことなく、そのままWi-Fiのエリアを拡張できる。
移動しながらの利用もスムーズで、例えば1Fに親機となるアクセスポイント、3Fに中継機を設置した場合に、1Fから3Fへと移動しても通信が途切れることなく、シームレスに親機から中継機へと接続先が変更される。
こういった点は、中継機でありながら、メッシュ的な手軽さも兼ね備えていると言えるだろう。
もちろん、自動設定でユーザーの介入する余地がないメッシュと違って、中継機ならではの設定の自由度の高さも備えている。
具体的には、自動的に引き継いだ親機のSSIDのほかに、標準で2.4GHz帯用の「Extender-G-xxxx」と5GHz帯用の「Extender-A-xxxx」(さらに「Extender-G-xxxx-WPA3」と「Extender-A-xxxx-WPA3」も)と、それぞれの帯域用の中継機用のSSIDも同時に利用することができる。
つまり、あまり速度を要求しない機器は2.4GHz帯へ、高い速度を出したい機器は5GHz帯へといったように、接続先を手動で選択して使い分けることもできるわけだ。
何も意識せずそのまま親機のSSIDで使い続けてもいいし、帯域ごとにつなぐ機器を分けたいならSSIDを使い分けてもいいと、さまざまなニーズに対応できるようになっているのは大きな魅力だ。
筆者宅などは、まさにこの機能の恩恵を大きく受けたのだが、本体側面にある中継に使う帯域をスイッチで簡単に切り替えられるようになっている。
標準では、親機と中継機の間をつなぐ中継用の帯域は、2.4GHz帯と5GHz帯のいずれか電波状況のいい方が自動的に選択される。
しかし、筆者宅がそうだったのだが、2.4GHz帯の方が遠くまで届きやすい一方、周囲の家屋でも多く使われていて、混雑で速度が極端に低下する場合があるケースでは、中継に2.4GHz帯が使われてしまうと全体の速度が低下する場合がある。
このため、中継用には5GHz帯を使いたいのだがが、一般的な中継機では、こうした中継用帯域の設定は複雑で、設定画面にアクセスして詳細設定画面から切り替えなければならないことがほとんどだった。
本製品であれば、こうした手間がスイッチ一発で済む。
本体側面のスイッチを「AUTO」から「5GHz」に切り替えれば、中継帯域を5GHz帯に切り替えられるのだ。
要するに、本製品はユーザーの環境に合わせて設定も簡単に「選べる」中継機になっているのだ。
おまかせで何も考えずに使っても構わないし、自分の環境に合わせてSSIDや中継帯域を選んでもいいと、手軽ながら自由度の高い製品となっているわけだ。
筆者宅は5GHz帯中継で快適化
それでは、実際の実力を検証してみよう。
今回の製品は、Wi-Fi 6中継機となるため、親機側もWi-Fi 6に対応したWSR-1800AX4を用意した。2.4GHz帯が最大573Mbpsで、5GHz帯最大1201Mbpsと、中継機であるWEX-1800AX4と同じ無線スペックの製品だ。
この親機は、普及価格帯の製品ながら性能が高く、筆者宅でのテストでも単体でかなりいい性能が出ている。これを1Fに設置した場合にも、最も遠い3F端で下り194Mbps(グラフ参照)と、十分な性能が得られる。
本来この状況なら中継機を使うまでもないのだが、3F端でも上りは49Mbpsと低いため、WEX-1800AX4を3Fに設置し、親機であるWSR-1800AX4と併用することで、この改善を目指したい。
まずは、全て自動設定でWEX-1800AX4を接続した場合の結果から見ていこう。前述したように、中継機の設定をAUTOのままにした場合、筆者宅では2.4GHz帯の中継が選択された。
また、計測にはWi-Fi子機としてiPhone 11を用いているが、1Fと2Fの計測結果は、中継機のWEX-1800AX4を経由せず、親機のWSR-1800AX4へ直接接続されたものとなる。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
単体 | 上り | 535 | 267 | 151 | 49 |
下り | 694 | 499 | 282 | 194 | |
AUTO(2.4GHz中継) | 上り | 534 | 263 | 71 | 72 |
下り | 701 | 476 | 110 | 103 |
筆者宅の周囲には、2.4GHz帯のWi-Fiを居住者に提供する集合住宅があり、ほとんどのチャネルが干渉する2.4GHz帯は壊滅的な状況にある。
このため、中継機のセットアップ時に2.4GHz帯の方が届きやすいと判断されたとしても、実際に周囲で利用者が増えると、実効速度が低下する状況にある。
実際、この状態での通信状況をWEX-1800AX4の設定画面(中継機設置ガイド)で確認してみると、3FのWEX-1800AX4とiPhone 11が1201Mbpsでつながれているものの、その先の親機とWEX-1800AX4が229Mbps(2.4GHz帯)でつながれているため、中継の2.4GHz帯がボトルネックになっていることが分かる。
こういった状況の場合、中継で利用する帯域が選べない、もしくは選べるが設定が複雑だと詰んでしまうことも多いが、本製品の場合は、スイッチ一発で中継帯域を5GHz帯に切り替えられる。
そこで、さまざまな組み合わせでテストした結果が以下の通りだ(3Fの結果のみ比較)。
3F入口 | 3F窓際 | ||
単体(5GHz) | 上り | 151 | 49 |
下り | 282 | 194 | |
AUTO(2.4GHz-5GHz) | 上り | 71 | 72 |
下り | 110 | 103 | |
5GHz中継(5GHz-5GHz) | 上り | 198 | 179 |
下り | 202 | 208 | |
手動接続(5GHz-2.4GHz) | 上り | 92 | 71 |
下り | 121 | 86 |
結果を見ると、上から2番目のグラフ(5GHz中継)の部分のバランスがいいことが分かる。
特に最も遠い3F端は、ルーター単体時の下り194Mbps、上り49Mbpsに対し、5GHz帯の中継でWEX-1800AX4を組み合わせた場合は下り208Mbps、上り179Mbpsとなった。上りが49Mbpsから179Mbpsへと大幅にアップしたことになる。
上りの帯域は今まであまり重視されることはなかったが、テレワークの普及でビデオ会議の機会が増えてきたり、映像や音声を使ったSNSを利用するケースが増えてきたことで、十分な帯域が必要とされるケースが増えてきた。
こうしたことを考えると、3F端という最も遠い場所でも十分な上り帯域が確保できるようになったのは大きな進歩だ。
実際、中継機設置ガイドで確認できる通信速度も良好だ。1階の親機と中継機が576Mbps(5GHz帯)で中継されるため、先の2.4GHz帯での中継よりも明らかに高速だ。
回線事業者が提供するホームゲートウェイなどにもWi-Fi 6に対応した製品があるが、こうした製品は採用されているWi-Fiチップのバージョンが古い場合があり、Wi-Fi 6対応と言っても、あまり性能が高くない場合がある。
現状、こうした製品で、電波が届かない場所があったり、長距離での速度が極端に低くなったりする場合は、さらにWEX-1800AX4による中継のメリットが生きてくるはずだ。
作り込みの良さを評価する世代に
以上、バッファローのWi-Fi 6対応中継機WEX-1800AX4を実際に試してみたが、非常に完成度の高い製品と言えそうだ。
スマートフォン向けアプリ「StationRadar」や設定画面の「中継機設置ガイド」も使いやすい。
Wi-Fi 6も製品の登場から数年が経過し、性能的にも価格的にも落ち着いてきた印象がある。当初は、チップの性能を生かした力業で製品が成立していた印象だが、そろそろ無線性能だけでない全体的な製品のバランスの良さや完成度が問われる時代になってきた。
本製品は、その薄さや選択できる設定の幅の広さなど、日本メーカーらしいモノづくりの発想で、細部に至るまで製品の完成度を磨き上げた製品と言える。
正直、この薄さだけでも買って損はないと言えるが、想像以上に使いやすい点に感心させられた製品だ。
(制作協力:株式会社バッファロー)