週刊Slack情報局
リクルートが「乱立Slack」の社内統一へ、「Enterprise Grid」に移行中
「ボトムアップ文化」でワークスペースが1000以上、異なるルール・文化の調整で苦戦も?
2020年7月29日 08:00
Slackによる働き方改革をテーマにしたカンファレンス「Slack Workstyle Innovation Day Online」が6月下旬にオンラインで開催された。今回は、「組織のニューノーマルとは? 先進企業が実践するカルチャー変革」と題した3社によるユーザー事例セッションの中から、株式会社リクルートの植田裕介氏(ICT統括室コーポレートITユニットグループマネージャー)の講演を紹介する。植田氏は、リクルートグループのボトムアップの文化のもとで部門ごとにバラバラに導入されてきたSlackを、全体で統一していくプロジェクトについて語った。
「ボトムアップ文化」で乱立するSlackのワークスペース、その課題と限界
まず植田氏は、リクルートグループの組織について説明した。リクルートグループは、メディア&ソリューション事業、人材派遣事業、HRテクノロジー事業の3分野に分かれてグループ企業がある。株式会社リクルートはメディア&ソリューション事業の事業統括会社で、2021年4月には同事業の各社が株式会社リクルートに統合される予定だ。
リクルートグループの特徴として「ボトムアップ文化」を植田氏は紹介した。ボトムアップ文化の例としては新規事業提案制度「Ring」があり、「ゼクシィ」「R25」「スタディサプリ」などがRingから生まれた。
このボトムアップ文化により、ICTツールも、セキュリティなどの社内規則を満たせば現場主導で導入可能だという。Slackも、エンジニアを中心に、各社・各部門ごとに導入が進んでいる。そして、横連携には共有チャンネルが使われている。
ここで、メディア&ソリューション事業の1社であるリクルートライフスタイルの例を植田氏は紹介した。リクルートライフスタイルでは、職種に応じて異なるツールを導入している。営業はLINE WORKSを、エンジニアはカスタマイズできるSlackを、スタッフ部門はOffice 365を使っているのでTeamsを採用。「組織を跨ぐ場合は2つ持ちするなどして解消している」と植田氏。
このようなボトムアップでのSlack導入により、課題も出てきた。1つめはワークスペースの乱立だ。1000ワークスペース以上があり、セキュリティ規則が遵守されているかなどのガバナンス観点で問題だという。
2つめは、共有チャンネル中心の横断的なコミュニケーションの限界。共有チャンネルは2つのワークスペースまでであり、組織横断を阻害しているのではないかという。
3つめは、当初はエンジニア組織を中心に導入されてきたのが、エンジニア組織以外へもSlackが広がっていること。これにより、投資コストや情報開示ルールの整備が困難になっているという。
【お詫びと訂正 2020年7月30日 11:55】
記事初出時、発言内容を誤って記述しておりました。お詫びして訂正いたします。
誤:「ただし『2つ持ちするな』と言っている」
正:「組織を跨ぐ場合は2つ持ちするなどして解消している」
Slackを「Enterprise Grid」契約に移行、9000ユーザーを一元管理
Slackを含めた、ボトムアップによるICT導入によってバラバラになっている課題を解決するためのプロジェクトが「ICT標準化プロジェクト」だ。レイヤーごとにレベルを分けて、全社で統一するものと個別に運営するものを決めて、ガバナンス強化と利便性向上を狙う。
特にマネジメントシステムでは、IDを中央で一元管理するID統合と、さまざまなASPを統合的に管理するSaaS管理基盤を導入する。
Slackでは、契約をまとめて大企業向けプランの「Enterprise Grid」に移行する。Enterprise Gridにより、ドメイン申請でワークスペース乱立を防ぎ、Slackの約9000ユーザーを一元管理し、マルチワークスペースチャンネルで共有での限界を補い、監査ログの強化によりCASBとの連携による可視化などの制御をする。
Enterprise Gridへの移行は、6月13日に第1弾が完了し、9月末までに有償ワークスペースを全て移行する予定。ただし、ルールや文化の調整で苦戦しているところだという。
最後に植田氏は、成熟したころに改めてナレッジを共有したいと語った。
一般企業でも利用が広がっているビジネスコミュニケーションツール「Slack」。Slack Technologiesの日本法人であるSlack Japanはこのツールのことを“ビジネスコラボレーションハブ”と表現しており、あらゆるコミュニケーションやツールを一元化するものと位置付けている。本連載「週刊Slack情報局」では、その新機能やアップデート内容、企業における導入事例、イベントレポートなど、Slackに関する情報をお届けする。