甲斐祐樹の Work From ____

第7回:WordCamp Japan 2021実行委員会

「オンラインイベントのあり方」を追求する「WordCamp Japan 2021」、運営も参加者も全員がリモート参加

「WordCamp Japan 2021」

 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、働き方の見直しが求められているのは企業だけではない。大人数が一堂に集うイベントもコロナ禍で開催に制限を受けるとともに、リモートワーク時代におけるイベントはどうあるべきか、さまざまなイベントが試行錯誤している。

 こうしたリモートワーク時代ならではのイベントのあり方を追求しているイベントの1つが、6月20日から開催される「WordCamp Japan 2021」だ。これまでのオフライン開催形態からオンラインへ移行するとともに、地域ごとに開催されていた範囲を日本全国へと移行、地域の垣根を超えた運営に舵を切っている。

 実行委員長の戸田秀成氏と、副実行委員長の高野直子氏に、WordCamp Japan 2021の概要や運営の詳細について話を聞いた。

WordCamp Japan 2021実行委員長の戸田秀成氏
WordCamp Japan 2021副実行委員長の高野直子氏

「Japan」を冠して日本全国を対象にした初のWordCampをオンライン開催

 WordCampは、世界No.1のシェアを誇るオープンソースのCMSソフトウェア「WordPress」のユーザーと開発者が一堂に会するイベント。WordPress創始者であるMatt Mullenweg(マット・マレンウェッグ)が設立した非営利法人「WordPress Foundation」の公式サポートのもと、世界各国で開催されている。

 WordPressは、誰でも無料で利用できるオープンソースのCMS(コンテンツ管理システム)として高い人気を誇っており、2021年4月現在では世界中のサイトのうち41.1%がWordPressを使用、さらにCMSシェアでは世界で64.7%、日本国内のCMSでは83.1%のシェアを占めるという。

世界No.1のシェアを誇るWordPress

 オープンソースで無料という特徴に加えて、豊富なプラグインやテーマで柔軟なカスタマイズが可能なほか、ユーザー数が多く、書籍やブログといった解説情報も充実しているのがWordPressの魅力。国内では東京大学やDeNA、松屋フーズといった企業や団体がWordPressでサイトを構築している。

WordPress採用サイトの事例

 オープンソースで提供されているWordPressは、新機能や脆弱性対策、各言語の翻訳といったアップデートにも多くのユーザーがボランティアで協力している。WordCampは、これらWordPress関係者やユーザーが一堂に会する場として、世界65カ国372都市で開催されている世界的なイベント。日本では2008年の第1回以降、各地で開催されており、今回のWordCamp Japan 2021は記念すべき30回目となる。

 WordPressと同様、WordCampもボランティアによって運営されているのが特徴の1つ。開催の決定や実行委員の選出も全てがボランティアで、実行委員も毎年のように参加する経験豊富なメンバーや、WordPressに触れたばかりという初心者など、その顔ぶれも毎回異なる。筆者もWordPressを10年以上愛用しており、WordCampも何度か実行委員として参加したことがあるが、今回は完全オンラインで開催される点に興味を覚えて、実行委員の1名として参加している。

 国内のWordCampで最も開催回数が多く、規模も大きいのが東京開催の「WordCamp Tokyo」だ。しかしコロナ禍で大人数が集まるイベントの開催が難しい現状を踏まえ、2021年は全面的なオンラインでの開催を決定。場所を問わず参加できるオンラインのメリットを生かし、地域を絞ることなく「Japan」とした。オンライン開催は、2020年に開催された「WordCamp Ogijima 2020」があるが、日本全国を対象としたWordCampは今回が初となる。

実行委員はボランティアで参加、ミーティングは全てオンライン

 WordCamp Japan 2021は、前述のWordCamp Ogijima 2020が開催のきっかけ。香川県の離島であり、物理的なアクセスも難しい男木島がオンラインでWordCampを開催し、日本全国や海外からも多数の参加があったことで、「オンラインでWordCamp Japanを開催してみてはどうか」という話が上がったのだという。

「WordCamp Ogijima 2020」

 これを受けて東京のコミュニティ「Tokyo WordPress Meetup」の運営者の1人である戸田氏が実行委員長として立候補し、「Japan」としての初開催を申請。その後、実行委員をオンラインで募集し、60名以上の実行委員が集まった。

 実行委員は初回のキックオフで、「広報班」「当日班」などのチームに所属。それぞれのチームでは班長を置き、班と班の間での調整は班長に一任、班のメンバーは自分の所属した班のタスクをこなすことを基本とする。

 実行委員は全国各地におり、実際に会うのは難しいため、ミーティングは全てオンライン。月に1回のペースで全体ミーティングを開催し、それ以外に班ごとのミーティングを必要なタイミングで都度行うなど、こちらも自主的に進められている。

Slack、Zoom、Backlogなど、ITサービスを駆使してリモートで運営

 オンラインコミュニケーションのメインとなるチャットツールは、実行委員内でも利用率の高かった「Slack」を採用。Slackを使ったWordPressコミュニティ「WordSlack」が運用されているなど、WordPress関係者になじみが深いのも理由の1つだ。

Slackを活用したWordPressのコミュニティ「WordSlack」

 一方でSlackに使い慣れていないメンバーもいるため、Facebookやメールなど各人が使いやすいツールを使ってフォローしている。

 オンラインミーティングにはZoomを利用。全体ミーティングは人数も多く、日程によっては参加できないメンバーもいるため、参加しなかったメンバーもあとで見返せる録画機能や、テーマごとにルームを分けられるブレイクアウトルームの機能も魅力だという。

 タスク管理は、長きにわたってWordCampをスポンサードしている「Backlog」を利用。Slackは参加人数も多く、話題が流れていきやすいため、タスクを定期的に確認できるBacklogが重要だという。こちらも使い慣れていない人がいる場合、Slackの内容を気が付いた人がBacklogへ転記するなど、周りの人がサポートする形で運用されている。

 Backlogのほかに「P2」も活用。これはWordPressをチーム内情報共有の場として活用できるテンプレートを利用したサービスだ。実行委員が最も使い慣れているWordPressを使えるというメリットに加えて、タスク管理を見落としがちな人に向けて、今の状況を手軽に検索して確認できる場所として、主にミーティングの議事録を残す場所として使われている。

WordPressのテーマ「P2」も活用

「オフィスアワー」で実行委員間のコミュニケーションを促進

 実行委員は何らかのかたちでWordPressに関わる人が多く、オンラインのコミュニケーションには慣れている人が多い。とはいえ、初対面の人が集まるメンバーでは、やり取りがうまく進まないこともある。地域コミュニティで実際に会うことができる従来のWordCampと比べて、オンラインで日本全国からメンバーが集まり、実際に会うことが難しい今回であればなおさらだ。

 実際、実行委員会も最初のうちはコミュニケーションがうまくいかなかったり、タスクの進め方で意思疎通がうまく図れなかったりといった課題を少なからず感じていたという。「面識がある人とそうでない人とではどうしてもコミュニケーションに差が生まれる。当初は班長を決めてあとはお任せ、という放任主義なところがあったが、班の中でもう少しアイスブレイク的なコミュニケーションは早めに取っておいたほうがよかった」(高野氏)。

 こうした実行委員間の交流を深める場として実施したのが「オフィスアワー」という企画。これは特に目的を設定せずオンラインミーティングの場を設け、気になっていることや雑談などを行なう場だ。時間帯も夜間や平日の日中など、メンバーそれぞれが参加できる時間帯で自由に開催されている。

 運営当初からオフィスアワーは実施していたが、開催に向けて具体的なタスクが明確化したタイミングで、オフィスアワーの開催頻度を高めるとともに、Slackでも定期的に参加を募った。異なる班のメンバーも気軽に参加できる環境を設けたことで距離を縮められたメンバーがいたり、雑談から生まれたアイデアも出てきたという。

ミーティングの模様

 「オフラインのイベントであれば、廊下で立ち話をしたりといった偶発的な会話が生まれる環境があったが、オンラインではなかなか難しい。オフィスアワーのようなコミュニケーションの場を作るのはとても重要なことだと感じている。」(戸田氏)

 WordCampの運営はあくまでボランティアで、日中は仕事をしていたり、業務時間外も育児や家事などで自由に時間が取れるわけではない人も多い。ただ、これはWordPressのオープンソース活動自体と同じで、心構えとしては似ているという。

 オープンソース活動も基本的にはボランティアで、空いた時間にやっている人がほとんどという点で「WordCamp自体がWordPressみたいなもの」と語る高野氏。「みんなとても限られたリソース内で活動しており、時間もバラバラ。WordCampのイベント運営を通して、オープンソース活動がどのように進められているかの理解も深まっていく」。

イベントはYouTubeで配信、セッションは内容に応じて録画とライブを使い分け

 WordCampでのイベント動画配信は、無料で機能も充実しており、専用アカウント不要で手軽に見られるYouTubeを採用。配信ツールにはYouTubeなどの配信サービスに映像を送ることができるオンライン配信ツール「StreamYard」を使用する。

ウェブベースで利用できる配信ツール「SteamYard」

 WordCamp Ogijima 2020では配信ツールとして無料で人気のPCソフトウェア「OBS」を利用したが、担当それぞれがPCに張り付く必要があるなど、運用面で負荷が高かったという。その反省から今回はオンラインで配信設定が可能であり、メンバーに配信経験もあるStreamYardにすることで、配信スタッフの運用負荷の軽減を図った。機能面でも、ユーザーのコメントをリアルタイムに画面に表示するなど自由度が高かったのも魅力だという。

 さらに配信のバックアップとして、有料のライブ配信サービス「Amazon Interactive Video Service」も契約。万が一、StreamYardやYouTubeに障害が起きるなどの理由で視聴できなくなった場合でもイベントを実施できるような冗長化を図っている。

 当日のセッションは、リアルタイムに行うライブ配信と、あらかじめ撮影した録画の2通り。こちらも登壇者のリクエストを踏まえたうえで、時差のある海外スピーカーは録画、複数人が登壇する座談会はリアルタイムというように、セッション内容に合わせて方式を変えている。

 ライブ配信の場合は、当日の機材トラブルなども起きないよう、当事者を対象としたリハーサルを事前に実施。当日の配信に向けたチェックリストを確認しながらトラブルの予防を行う。StreamYardではZoomのようなバーチャル背景が使えないなど細かい違いもあるため、事前のリハーサルはとても重要だという。

「oVice」で参加者が自由にコミュニケーションできる場も提供

 オンラインイベントならではの課題がコミュニケーションだ。WordCampはさまざまなセッションに参加して知識を得ることはもちろん、登壇者や参加者間での交流も重要な目的の1つだが、オンラインのイベントでは不特定多数でのコミュニケーションが難しい。

 実行委員がミーティングに使っているZoomのようなビデオ会議サービスは、1つのテーマについて話し合う場合には便利な一方、誰かが話している間はほかの人が話しにくい仕組みのため、話していない参加者が待ちの状況になってしまい、コミュニケーションが生まれにくい。

 参加者が好きなタイミングで自由にやりとりできるようなツールを探した結果、今回採用したのがオンラインイベントサービスの「oVice」だ。oViceは、現実空間のコミュニケーションをオンラインで再現することを目的としたサービスで、画面上の好きな位置に移動し、近くにいる人とだけ会話が可能。複数のユーザーがoVice内で同時にいくつもの会話を繰り広げることができる。

任意の場所で同時多発的にコミュニケーションできる「oVice」

 7日間のWordCamp会期中は毎日、oViceを開いておき、セッション参加後はもちろん、セッションに参加していない間もコミュニケーションが取れる場とする。また、会期中はTwitterでイベントの内容やフォロー情報などもリアルタイムに投稿し、oViceに参加しなくてもWordCampの情報に触れられるような体制を整えている。

 アクセシビリティの面からイベントの字幕もサポート。録画セッションはYouTubeの動画へ事前に字幕を設定しておき、視聴する際に字幕を選択できる。ライブセッションについては「UDトーク」を導入し、音声認識と自動翻訳機能を使ってリアルタイムに字幕を表示。録画セッション、ライブセッションともに日本語と英語両方の字幕に対応し、聴覚障害を持つ人はもちろん、海外からの登壇者や、逆に海外での視聴でも楽しめるよう図っている。

「コントリビューターデイズ」でWordPressへ気軽に貢献

 物理的な会場が不要というオンラインのメリットを生かし、WordCamp Japan 2021では会期を1週間に設定。セッションは初日と最終日の2日間で、その間の5日間はWordPressの開発に貢献できる「コントリビューターデイズ」に設定した。

 コントリビューターデイとは、WordPressやプラグイン、翻訳といった開発から、ユーザーマニュアルの作成、動画の字幕、WordPressのキャラクター「わぷー」のイラストを描くなど、さまざまなかたちでWordPressに貢献するイベントだ。

WordCamp Tokyo 2019の「コントリビューターデイ」

 これまでWordCampでは、セッションが1日、コントリビューターデイが1日の計2日間で構成されることが多かったが、1日のコントリビューターデイは時間も限られてしまい、希望のテーマで参加できないという課題もあったという。

 今回はオンラインで5日間の開催とすることで参加できる時間帯を大幅に増やし、リモートワークの合間など時間の空いたタイミングで参加が可能だ。開催期間も1週間に渡るため、SNSなどで参加した感想を目にして、興味を持ったらすぐに参加できる、という効果もあるという。

 コントリビュートはぜひ気軽に参加して欲しい、と語る戸田氏。「今回は『なんでもない日に少しの特別(コントリビュート)を』というテーマを掲げているが、コントリビュートをやっているから偉いということではなくて、誰でもができること。今回はオンラインで好きな時間に参加できるのでで、コントリビュートにも気軽に参加してほしい」。

 6月20日の開催に向けて、参加k申し込し数も500を超え、登壇者のセッション録画も始まるなど準備も佳境に入っている。初の全国開催であり、オンラインでの大規模開催など新しい試みも多いが、「この開催はリモートワークの時代だからこそできると思っている。参加できる時間を見つけて、楽しんで欲しい」(戸田氏)。「参加してくれる人がいてこそのWordCampなので、見るだけでなくもう一歩踏み込んで参加してもらえたらうれしい」(高野氏)。

この連載について

ビジネスパーソンが仕事をする/できる場所が多様化しています。従来からの企業の自社オフィスやシェアオフィス/コワーキングスペースはもとより、コロナ禍で広まった在宅勤務(Work From Home)、ホテルやカラオケボックスのテレワークプラン、さらにはお寺や銭湯まで(!?)。この連載では、そうしたざまざまな「Work From ○○」の事例や、実際にそこで仕事をしている人・企業の取り組みなどを、フリーランスライター・甲斐祐樹がレポートします。

甲斐 祐樹

フリーランスライター。Impress Watch記者時代にネットワーク関連を担当していたこともあり、動画配信サービスやスマートスピーカーなどが興味分野。家電ベンチャー「Shiftall」を退職して現在は人生二度目のフリーランス生活。個人ブログは「カイ士伝」