甲斐祐樹の Work From ____
第6回:株式会社デジタルキューブ
創業時から15年間「徹底したリモートワーク」を追求する企業の取り組み、コミュニケーションの要は「Backlog」
2021年4月2日 08:00
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、働き方が大きく見直され始める中で、さまざまな会社がリモートワークの導入や運用を試行錯誤している。そんな中、創業から15年に渡ってリモートワークを続けているのが、神戸に本社を置く株式会社デジタルキューブだ。
3人の創業時からリモートワークを継続
デジタルキューブは、世界でシェアトップと言われるCMS「WordPress」を利用したサイトの制作からホスティング、保守までのコンサルティングをワンストップで提供する企業だ。WordPressをベースとしたホスティングサービス「AMIMOTO」「Shifter」といった独自サービスも運営している。
リモートワークを始めたのは2006年の創業時から。当時3人いた社員の居住地はそれぞれ、神戸、埼玉、西東京とバラバラ。物理的な制約からも、リモートワークという業務形態は必然だった。
一方、3人ともWordPressのオンラインコミュニティやイベントを通じて創業前から親交があり、オンラインコミュニケーションにも精通していたため、リモートワークでの業務も支障はなかったという。
現在では国内外で20人近い社員数となったデジタルキューブだが、いまも業務はリモートワーク中心。神戸、仙台、東京、新潟、福岡など全国に拠点はあるものの、オフィスへの出社は必須ではなく、近隣に住んでいる社員でも出社しないなど、出勤は自由。家では集中できない、子どもがいるのでビデオ会議が難しい、といった理由があるときの場所としてオフィスが活用されている。
「人」と「人以外」で「Slack」と「Typetalk」を使い分け
リモートワークにおいてコミュニケーションの要となるチャットサービスは、「Slack」と「Typetalk」という2つのサービスを併用。また、タスク管理ツールとして「Backlog」を活用している。
SlackとTypetalkの使い分けは「人か人でないか」。具体的にはSlackはサーバーエラーなどのログが投稿されるようになっており、社員同士のコミュニケーションはTypetalk、という住み分けだ。
社外とのやり取りなどで相手がSlackを利用している場合は、環境に合わせてSlackを使うこともあるが、コミュニケーションの主体はあくまでTypetalkのみ。Slackで流れる情報は技術的な内容のため、ディレクター業務を行う社員は一切、Slackを見ることもないほどだ。
対面のやり取りに比べて、テキストチャットは誤解や行き違いも生じやすい。そのためチャットで重要視するのは「正しく具体的な発言をする」ことだ。
普段は雑談などカジュアルな会話もチャット上で行われるが、業務で重要な提案や判断が必要な場合は、「5W1Hができているか」を重視。社内でチャットのやり取りが分かりにくかったときなどは、日を改めた上で「こういう表現のほうが分かりやすい」といったフィードバックを適宜行っているという。
ビデオ会議も「社内」と「社外」で使い分け
ビデオ会議は、社内ミーティングに「Google Meet」を活用。「Google カレンダー」と連携しているためスケジュール調整から一元管理できるのがメリットだ。
社外のやり取りには「Zoom」を利用。これは社外でZoomが使われていることが多いということに加え、ビデオ会議サービスが1つだと同時に2つ立ち上げることができない、という理由もある。
2つのサービスを使い分ける隠れたポイントとして「画面共有のミスを防ぐ」役割もあるという。ビデオ会議の画面共有は非常に便利な機能だが、どの画面が相手に見えているかが分かりにくかったり、共有を停止するのを忘れて本来見せるべきではない画面が相手に見えてしまう、というトラブルも起きやすい。そのため「社外はZoom、社内はGoogle Meet」とサービスごと明確に区分することで対処している。
業務コミュニケーションの要は「タスク管理」
こうした業務コミュニケーションの要となっているのが、タスク管理サービスのBacklogだ。デジタルキューブでは業務に関するタスクは全てBacklogに記録することになっており、Backlogに登録されていないタスクは「検討に値しない」として議題に上がることもない徹底ぶり。そのため、必然的に社員がチケットに登録するようになったという。
また、会議の際にも事前にBacklogにタスクを登録しておき、会議後にはその内容をBacklogにフィードバックすることで、事前にアジェンダを用意するという手間も省いている。
新入社員は対面でサポート。社員の交流はイベントで
コミュニケーションの主体はオンラインだが、オフラインでのコミュニケーションも重視。新しいメンバーが入社した際は、新メンバーが所属するチームメンバーでデジタルキューブの拠点がある地域に集まり、今後の業務に向けたサポートを対面で行っている。
また、WordPressに関するイベントやコミュニティには積極的に参加するよう奨励しているほか、デジタルキューブも自社サービスのイベントを定期的に開催しており、会社の集まりではなくても社員同士が会う頻度は高いという。
一方で全社のメンバーが集まるような機会は「この10年近く行っていない」(デジタルキューブ代表取締役社長の小賀浩通氏)。異なるチームに所属していると、入社以来、一度も実際に会ったことがない、という社員もいるほどで、オンラインの全社ミーティングですら「年末にオンライン納会を1~2時間行う程度」という徹底ぶりだ。
イベントやコミュニティへ積極的に足を運ぶ社員でなければ対面でのコミュニケーションがほとんど取れないことになるが、「そもそもコミュニティに出てこない人は採用していない」(小賀氏)。現在の社員も、イベントやコミュニティで何度も話をしている、共同でイベントを運営したことがあるなど、お互いを理解した上で採用するというリファラル的な仕組みのため、社員コミュニケーションにおいて問題は起きていないという。
社外とのやり取りもリモートワークを徹底。ポイントは「タスク管理の可視化」
社内のリモートワークは創業当初から順調だった一方、課題だったのは社外とのやり取りだ。創業当時は「リモートワーク」という言葉も一般に普及してはおらず、オンラインのサービスも今ほどは充実していない時代に、どのようにリモートワークを展開していたのだろうか。
その答えはシンプルで、「オンラインでプロジェクトを進められない会社とは最初から付き合わない」。初回のキックオフは実際に対面で会うものの、その後のやり取りはオンラインへ移行。定期的に会って打ち合わせする定例などは行わず、電話でのコミュニケーションも、そもそも電話がないため必然的にオンラインになるという。
社外とのリモートワークにも活躍するのがBacklogだ。企業によってはチャットの利用が禁止されている企業でも、Backlogは利用できるケースが多く、初回のミーティングでBacklogを説明すると、そのまま利用してくれることが多いという。「タスク管理が可視化されるため、意外と『この方が進めやすいね』と言われることも多い」(小賀氏)。
新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが普及したことも追い風になった。最近ではほとんどの企業でビデオ会議が可能になっており、リモートワークの障壁が格段に下がったという。
一方、コロナ禍の影響でイベントの多くが中止やオンラインへの移行を余儀なくされており、デジタルキューブの社員同士が実際に会って話す機会は失われつつある。小賀氏は「どの会社も悩んでいることだと思うが、われわれも課題として捉えている」とし、新たなコミュニケーションの手法を模索していると語った。
リモートワークにこだわり続けた企業の今後の働き方に期待
流行を超えて着実に普及しつつあるリモートワークという働き方は、コロナ禍において多くのメリットをもたらした一方、社員のコミュニケーションやITリテラシーという面で課題も浮き上がりつつある。企業規模の大小はあれど、リモートワークを完全に使いこなせている、と胸を張って言える会社はさほど多くはないだろう。
そんな中、創業から一貫してリモートワークにこだわり続けてきたデジタルキューブの手法は、今後のリモートワークの在り方について多くのヒントをもらえるのではないだろうか。同社が直近の課題として捉えているコミュニケーションの在り方についても、今後どのような手法を採っていくのか期待したい。
ビジネスパーソンが仕事をする/できる場所が多様化しています。従来からの企業の自社オフィスやシェアオフィス/コワーキングスペースはもとより、コロナ禍で広まった在宅勤務(Work From Home)、ホテルやカラオケボックスのテレワークプラン、さらにはお寺や銭湯まで(!?)。この連載では、そうしたざまざまな「Work From ○○」の事例や、実際にそこで仕事をしている人・企業の取り組みなどを、フリーランスライター・甲斐祐樹がレポートします。