ワーケーション百景
第7回
「別府温泉のワーケーション」は医学的な効果があるのか? 健康開発財団らによる計測結果を発表
2022年6月2日 06:55
一般社団法人別府市産業連携・協働プラットフォーム B-biz LINK、ビッグローブ株式会社(BIGLOBE)、一般財団法人日本健康開発財団の3者が、大分県別府市で行った福利厚生型ワーケーションのトライアルプログラムの検証結果を発表した。温泉、運動やヨガ、食事によって、体とメンタル面において、医科学的知見に基づく分析で効果が見られたとしている。
トライアルプログラムは、観光庁の「新たな旅のスタイル促進事業」にモデル事業として採択されたことで実施されたもの。BIGLOBEの従業員17人を対象に2021年11月~2022年1月、別府温泉内の北浜・鉄輪・明礬の3カ所でワーケーションを行いながら、温泉に入浴し、免疫力を高める食事をとるとともに、運動などを行った。
温泉やサウナを利用すると、末梢血液循環が改善
温泉の最大の効能は、血管の拡張や血流の増加で体全体の末梢血管に酸素を運び、二酸化炭素と老廃物を排出することとされている。滞在中に温泉やサウナに繰り返し入ったところ、末梢血管健康度が滞在前は72.8だったが、滞在後は77.6に上昇。年間老化速度は1.2から1.0に下がり、血管年齢は44.1から42.4に若返った。
アクティブ状態とリラックス状態のバランスが良くなる
自律神経には、アクティブな活動を導く「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」がある。そのため、交感神経と副交感神経がバランスよく活動することが理想だ。滞在中、交感神経の活動は5.0で変化はなかった。一方、副交感神経は滞在前に4.0だったが、滞在後は4.7に上昇した。滞在前よりもリラックスできたことになる。「免疫機能の向上にも寄与したことが考えられる」としている。
この副交感神経の活動の上昇は、温泉はもとより、滞在中に行ったヨガや自然の中のトレッキング体験が影響していると考えられる。
食物繊維や発酵食品で、腸内環境に良い影響
トライアルプログラムでは、消化器の症状改善を目的に、食物繊維や発酵食品を盛り込んだ食事が提供された。その結果、GSRS(消化器症状評価)検査において、「痛み」の項目は滞在前に1.4だったが1.2に、「消化不良」は1.8が1.4に、「便秘」は1.8が1.2に、「下痢」は2.0が1.1にそれぞれ減少し、いずれの症状も改善したという。
また、運動機能と柔軟性の向上も、結果が数字となって見えた。歩行機能の目安として行われる2歩でどれだけ遠くまで移動できるか測定する「最大2歩幅」は、滞在前は238.5cmだったが、滞在後は251.1cmに伸びた。体の柔軟性を測定する長座位前屈は、滞在前は3.3cmだったが、滞在後は6.9cmに向上している。温泉への入浴はコラーゲンを軟化し、関節の可動域が拡がることが知られているが、運動アクティビティも組み合わせることで歩行機能と柔軟性の向上につながったことが考えられるとしている。
自己評価では、体だけではなく、メンタル面も改善
健康関連自己評価である「VAS評価」では、12項目のうち11項目に改善が見られた。特に「健康状態」「幸福度」「リラックス」「リフレッシュ」については、ワーケーションで行ったさまざまな取り組みが相乗効果として現れているとしている。また、これらに加えて、「疲れ」「肩こり」「腰痛」「目の疲れ」「睡眠の質」の改善は、特に温泉への入浴の効果があったと考えられるという。
体だけではなく、感情や気分といったメンタル面でも高い評価が得られた。メンタル面は、国際的に用いられている「POMS」で評価した。
その結果、ネガティブな感情や気分である「混乱・当惑」「疲労・無気力」「抑うつ・落ち込み」「怒り・敵意」「緊張・不安」は軽減され、「活気・活力」「友好」は改善が見られた。これは、温泉の入浴だけではなく、地域の人との交流プログラムや、ワーケーションによる仕事仲間とのチームワークの深まりが作用していると推測されるとしている。
3者では、「サンプル数から個々のプログラム比較は困難」としながらも、「『温』『動』『休』『食』はいずれも免疫と強く関与している」とし、今後も3者は「温泉地におけるワーケーションにより、仕事の質を上げる、コミュニケーションを活性化しチームビルディングに貢献するなど、企業における新しい働き方の可能性を提案していく」としている。